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コモディティ価格に対する欧州の当局介入

EU当局が天然ガス市場についての介入を強めている。あらゆる分析ペーパーを見てみても、かなり力を入れて分析している様が伺われる。世界中のリスクマネージャーも日々TTF/JKM/HHの価格を確認していることだろうが、これがかなりのマージンコールの混乱を引き起こしている。適格担保を広げるとか価格キャップを設けるといった話が議論されているが、今回は欧州の代表的価格指標であるTTFから別の指標にシフトするという話がEU当局から出ている。

LIBORからの移行ができたということは、当局の後押しがあれば市場をシフトさせることは可能なのだろうが、現状ではこれに変わる指標が見つからない。現状は欧州、アジア、米国のマーケットが結構独立して動いている。今はまだ時期尚早であるが、アジアにおける天然ガスの需要が年々高まっていることを考えると、今度はJKMが代表的指標として使われるようになるかもしれない。しかし、最近はJKMもかなり変動が激しくなっている。

他国では、天然ガスの輸入業者に対して政府保証をつけて市場の安定性を確保しようとしているという話も報道されていたが、これは日本にとっても重要な問題だと思う。欧州のようなコモディティデリバティブに関して提言を行うのは日本では経産省になるのだろうか。日本の場合は金融機関といよりは商社が重要な役割を果たしており、信用力が高く、エンドユーザーも大企業が多いので、それほど大きな問題にはなっていないのかもしれない。特にCCPの利用が少なく、相対取引が多いために、欧州のような当初証拠金の問題は少ないだろう。

とは言え、天然ガスが電力やガスの価格に影響を与えていることを考えると、ヘッジニーズが増えてくる可能性がある。今度何か危機があったときに、欧州は準備万端だが日本が混乱に陥らないよう、デリバティブ市場についての分析、提言をする機能を拡充していくべきなのかもしれない。ロシアの影響が軽微だからということなのだろうが、海外と日本の天然ガスへの関心度の違いが顕著なので気になるところである。

CCPのポーティングは現実的か

CPMI/IOSCOからクライアントクリアリングのポジション移管についてのペーパーが出ている。クライアントクリアリングサービスを提供するCCSP(Client Clearing Service Provider)がデフォルトした場合、その下にぶらさがっている顧客は、別のCCSPにポジションを移すことになる。そうすれば顧客としてはCCSPである銀行のリスクにさらされることなく、ポジションを維持することができる。これはこの仕組みを作った当初からそう思っていたのだが、現実には若干無理のある仕組みである。参加者デフォルト時に、各ディーラーがトレーダーをCCPに派遣してポジションクローズをする仕組みもそうだが、いざというときに、それがうまく機能するのかは定かでない。

このレポートでは、顧客の同意なしにポジション移管ができれば、ポーティングと言われるポジション移管が成功する確率が高まると述べている。またマージンの取り方についてもGross Marginの方がポーティングが容易だとしている。Gross Marginとは、各顧客のマージンを別々に管理するもので、全体としての効率は下がるが、顧客ごとに十分なマージンが確保されることになる。これに対してNet Marginでは、CCSPの自己ポジションとその顧客ポジションのすべてをComingle、つまりまとめて管理する。

CCPはすべてのポジションが見えているので、破綻参加者の傘下のポジションを受け入れやすいCCSPを探すこともできるし、顧客の同意なしにすぐにそれが移せれば、マーケットの混乱を抑えることができるという理論である。

ここで一つ抜け落ちているのが、クライアントクリアリングサービスを提供する銀行の立場である。もしクライアントクリアリングが収益性の高いビジネスで、皆が喜んで顧客ポジションを受け入れたいというのなら、ここで提案されているプランは成り立つのかもしれない。ただ、現状の規制のもとでは、資本コストが大きくかかり、いざというときのContingent Liquidityを提供したり、清算基金を拠出したりしなければならないので、銀行としては、ごく一部の優良顧客だけに提供したいサービスとなっている節もあり、喜んでポジション移管を受け入れる銀行は少ないのではないだろうか。

特にCCSPがデフォルトするということは、そこそこの大手の銀行が破綻しているということであり、その破綻直後に大きなポジションを引き受けることは非常に困難だと思われる。CCPとしては、混乱を抑えるためにPortingについて2日以内(長くて5日)といった期限を設けていることが多い。移管するポジションのサイズにもよるが、資本や流動性に対するインパクトを計算して社内承認を取るには、そもそも2日では不可能に近い。なにしろ同じことが複数のCCPで起きていることが想定されるので、各CCPのポジション移管リクエストにてんやわんやになるだろう。

レバレッジ比率規制やポジションリミットの一部免除でもない限り、おそらくポーティングは単なる理想論に終わってしまう可能性が高い。実際は、破綻懸念が大きくなる前にポジション移管の交渉を行って徐々にポジションをシフトするというのが一般的だと思うが、これが一気にデフォルトに陥ってしまった場合は大混乱になる。

ここまで取引清算の重要性が増している以上、資本規制や流動性規制も見直す時期が来ているように思う。クリアリングブローカーも10年前はこれが一つのビジネスの柱になると思っていたのだが、蓋を開けてみるとあまりにコストがかかり、結局Payしないビジネスということが明らかになり、CCSPから撤退する金融機関も増えた。サービスの差別化も難しいので、常に手数料引き下げの圧力もかかる。結局顧客のリスクを取っているという整理で資本規制が作られており、アルケゴス以降こうした大きなポジションに対するリスク管理が厳しくなっていることが予想される。CCPを金融取引のメインに据えるのであれば、もう少し全体としてのインセンティブメカニズムを見直すべきではないかと思う。

天然ガス価格が国家レベルの問題になってきた

欧州天然ガス市場の混乱を受けてEU当局が対応策を真剣に検討している。通常天然ガスの価格については、欧州のTTF(Title Transfer Facility)、アジアのJKM(Japan Korea Marker)、米国のHH(Henry Hub)を見るが、中でもTTFの動きが特に激しい。おそらく銀行のリスク管理者であれば、これが巨額のマージンコールを引き起こしているため、日々モニタリングしていることだろう。

TTFとJKMのスプレッド取引なども良く行われる取引だが、TTFをICE、相対でJKMのように取引していると巨額のマージンコールがかかる。もはや天然ガスは有担保で取引するのが不可能なくらいに市場変動が激しくなっている。欧州では当局と取引所の経営陣との間で盛んにミーティングが開かれているようである。3日前の9/7には、急増するマージンコールに焦点をあて、天然ガス市場の安定策が話し合われたようだ。

あまりの価格変動が生じているため、市場を閉鎖すべきとか、取引可能な価格帯を制限するといった意見まで聞かれるようになってきた。市場を閉鎖すればマージンコールの問題はなくなるだろうが、ヘッジ取引ができなくなる。どうしてこのような案が真剣に検討されているのかよく分からないが、せいぜいサーキットブレーカーのような価格制限をかけるくらいしかできないと思う。

効果が期待できそうな策としては、CCPの適格担保に銀行保証を加えるという案である。これであれば、実際に現金担保が必要なくなり、銀行が信用供与をする形になるため、流動性は悪化しない。EMIR上銀行保証であるLCは既に担保として使えるが、現金担保に裏付けられていなければならないとされている。したがって、結局現金が必要になるので、あまり意味がない。この制限を緩めれば銀行が信用供与をすることで、マージンコールの負担を和らげることができる。

銀行が融資をしてその資金を担保に出すのなら、銀行が信用状をCCPに出しても、信用リスクという観点からはあまり差はない。現金が入ってこないので、その資金を使いまわしたりすることはできないので、ファンディング上は不利だが、昨今のマーケットをみると、これが最も実効性があり、かつ容易に実施できる施策なのだと思う。

高騰する電力価格が一般消費者の生活を脅かしているため、天然ガスの確保はもはや国レベルの問題になりつつある。政府が保証状を出しているケースもあるとまで報道されている。ロシアの動向が天然ガス市場に大きく影響を及ぼしているが、国レベルで補助金を出すとか、エネルギーの節約を求めるほかに、デリバティブ取引にかかるマージンコールを保証するというのも、有効な政策の一つになりうるかもしれない。

レバレッジ比率の計算から国債が除かれる日は近い?

前FED副議長のRandal Quarlesが、米国債市場の流動性改善のため、米国のレバレッジ比率であるSLRの規制緩和を主張している。感染拡大期にSLRの分母から米国債と連邦準備預金を除いた一時的免除を、恒久措置とすべきという主張だ。このところ各政府高官からSLRの改訂についてのコメントが多く出ていることから考えても、そろそろ何らかの緩和措置が発表されるのではないだろうか。

2020年には大規模金融緩和が行われ、米国債市場は極度に膨張した。銀行が保有する米国債も大きく増えたが、あまりに大きなポジションを抱え続けるとSLRが悪化してしまう。そこで先ほどの一時的免除措置が行われたわけだが、市場の期待も空しく1年後に期限が切れた後は、それが延長されることはなかった。その代わり、今後米国債市場を支えるために様々な見直し作業を行っているとう発表もあり、市場は将来の規制緩和を予想した。

一時的免除措置が有効だった時期には大手米銀のSLRは約1%程度改善していた。SLRが最大の制約となっている銀行もあることから、これはかなりのインパクトだ。もしこの緩和が行われると、米銀としては、積極的に国債の取引をすることができるようになる。ポジションを持てるのであれば、価格急落時には逆を取りに行くこともできるだろうし、マーケットメイク能力が拡大する。結果的に流動性が上がり、顧客サイドも売りたいときに売る、買いたいときに買うということできるようになる。

これでリスクが増えるかというと、銀行としてはリスクの高い債券の保有が増える訳ではなく、それでも信用力と流動性の高い米国債の保有が増えるだけである。なぜ直ちに緩和しないのかわからないくらいである。

Randal Quarles氏の後任のMichael Barr氏も、銀行の資本水準については懸念していないといったコメントもみられることから、おそらくQuarles氏と同じような考えを持っているものと思われる。ここで重要なのは、日本や他の国が歩調を合わせるかということである。グローバル銀行は、米国SLRだけが緩和されれば、まずはバランスシートを米国債に割り当てる。日本国債を持つよりは米国債を持つ方が資本対比の利益が大きくなるからだ。ひょっとしたら米国債の流動性が上がる一方、日本国債の流動性が下がってしまうかもしれない。

米国が金融引き締めを行えば円安が加速するのと同じで、海外の規制は日本にも及ぶ。すべてはバランスが問題だからだ。リーマンショック後は海外に比べ日本の金融緩和が遅れたために、急速な円高を招き企業倒産も増えた。レバレッジ比率の見直しなどについても、国際的な流れを見ながら機動的に動けるようにしておくことが望まれる。

証拠金規制最終フェーズGo Live

証拠金規制の最終フェーズであるフェーズ6が始まった。これで、2016年から段階的に導入が行われてきた証拠金規制がすべて導入されたこととなる。ほぼ同時期に中国のネッティングに関しても法改正が行われ、中国の市場参加者証拠金規制の対象となっている(欧州規制に関しては6か月の猶予期間があるが)。

これで、ますます担保コストを意識した取引が行われることになるだろうし、担保が入ることによって取引が難しくなるものも出てきている。しかも、当初証拠金の計算に使われるSIMMモデルのパラメータ更新が毎年行われるため、昨今の市場変動を考えると、将来の担保拠出コストが非常に重要になってくるのは間違いない。

SIMMのパラメータは毎年12月に見直されるが、IMは過去4年とストレス期1年のデータから計算されるため、どの期間を使ってCalibrateするかによってIM所要額が変わってくる。Arcadiaによると、2021年12月にSIMMのパラメータ改訂(SIMM2.4)では、必要担保額が17%から33%増え、平均的には29%の増加と推計している。昨今の金利上昇を考えると担保額が増えるとともに担保拠出コストも上がっていることは想像に難くない。これを考慮すると全体的に1.5倍になっていてもおかしくないとのことだ。

一応IM Thresholdがあるので、計算したIM所要額が$50mmに満たない場合はカストディアンのセットアップをする必要はないが、常にIMを計算してモニタリングしていく必要がある。こうしたモデルのパラメーター変更によってIM所要額が上昇すれば、$50mmを上回る可能性も出てくる。突然これを上回ると2か月以内といった短期間の間に契約締結から分別管理のオペレーションを準備しなければならない。

コロナショックが始まった2020年、ロシアのウクライナ侵攻の影響を受けた最近のデータが今後入ってくると、特にコモディティや株式について、IMがかなり増える可能性がある。米金利の上昇もあるので、金利についてもIMが一定程度増えてもおかしくない。SIMMのパラメータ更新には1年のラグがあるため、最近のコモディティの市場変動の影響が出てくるのは2年後くらいになる可能性もある。

一部のExchange Marginは既に引き上げられているため、SIMMのパラメータ変更が遅れると、一時的とは言え取引所取引から相対取引にシフトさせたいという市場参加者が出てきてもおかしくない。各市場の相互関連性が強まっていることを考えると、こうしたArbitrageが起こらないように歩調を合わせていくことも重要だろう。

米国債の流動性低下が問題になっている

世界一の国債マーケットともいえる米国債の流動性低下が著しい。今年の6月からFEDが金融引き締めを始めたことによる影響が日々の取引に表れ始めている。米国債を取引するバイサイドによると$50mmを超えるようなサイズの取引の場合は、小分けにして取引をするようになっているという。しかも流動性の低いオフザランを避ける投資家が多くなっている。リーマンショックの時期を除くと過去20年で最低の流動性とも言われている。

取引量自体は月間$630bnとのこのことなので、そこそこの水準を保ってはいるが、取引しているトレーダーの感覚としては非常にやりにくいとのことだ。$100mm単位の取引の場合ヘッジが難しくなるので、$25mmとか$50mmに分けて取引しないとマーケットが動いてしまう。20年国債などはあまりの流動性のなさから取引を敬遠するディーラーさえいるとのことだ。

コロナショック来に資産買い入れを拡大し、マーケットに溢れた債券を急速に吸収しようとしているため、その反動がきている。銀行のトレーダーにとってみると、バランスシート規制があるために多くの在庫が抱えられない。価格が飛ぶので大きなサイズの取引に対してプライスを出すのがためらわれる。

しかし、日本からすると、米国債でここまで大騒ぎになっているのが不思議なくらいである。JGBとレーダーからしたら何を甘ったれたことをという感じだろう。日本国債はそもそももっと問題が深刻であり、流動性は比較にならないほど低い。回号が異なるだけで価格の動きが変わり、突然プライスが飛ぶことも多い。金利が動かないためトレーダーの数も減っており、今や収益のためというよりは、日本の市場を支えるためにボランティア活動をしているような錯覚にすら陥る時がある。

米国に必要なのは銀行のマーケットメイク機能の拡大であり、日本に必要なのは、金利の市場機能の回復なのだろう。

米国当局が取引データの分析に本腰を入れ始めた?

米国SECとCFTCが共同でヘッジファンドやファミリーオフィスの取引報告の厳格化を進めようとしている。10月11日までパブリックコメントを募集しているが、賛否両論となっている。

とはいえ、金融危機以降、金融市場の資金が銀行からファンドに移っており、もはや銀行のデータだけ見ていても全体像がつかめなくなっているのは確かだ。プライベートファンドの総資産は金融危機の初期には2兆ドル程度だったのが昨年末には10倍の20兆ドルに膨らんでいる。ここで対象となるのは、5億ドル以上の資産を有するファンドという提案になっている。日本だとデリバティブ想定元本3000億円を閾値としているので、米国の方が多くのファンドを網にかける形になっている。

報告内容はビットコインの保有額を含めた総エクスポージャー、借入、ファイナンス関連の契約となっている。これによって当局がポートフォリオの集中度合い、レバレッジなどを把握できるようになる。最近こうした取引報告の厳格化のニュースが良くみられるが、これは当局がこうしたデータの分析をかなり進めていることの裏返しなのだろう。これまでは、とりあえずデータを集めておこうということだったのだが、昨今の流れをみると、データ分析に本腰を入れ始めたように感じる。

当局同士のつながりも深くなっているので、おそらくこれが他の国でもスタンダードになっていくと思われる。その意味では日本では信託銀行にデータが集まっているため、海外より楽にデータが集められるのかもしれない。あとは集めたデータをどのように分析し、それを規制や金融政策に活かしていくかということになるのだろう。

デジタルレポ

レポ取引と言えば通常オーバーナイトだったり、期間が定められているが、それが日中の何時に決済されるかは決まっていない。これが技術進歩によって可能になれば、例えば3時間レポとか6時間レポというものが可能になる。レポ金利もオーバーナイト金利ではなく3時間分の金利を計算することができる。東京時間終了後からNY時間開始までといった短期間の資金ニーズもあるだろうから、それなりに意味があると思う。

JPMとBroadbridgeが既に、ブロックチェーン技術を使いこうしたサービス提供を開始している。こうした技術により、決済時間を分刻みで設定できれば、証券のフェイルがなくなり、効率性と流動性が上がる。

膨大な証券ポートフォリオを持っている投資家などが、こうした契約に入っていれば、分単位で使っていない証券を貸し出し資金を得ることができる。JPMのプラットフォームではJPMコインを使わなければならないが、通常の現金でこれを可能にするプラットフォームも存在している。

こうした技術革新を使えば常にドル調達のニーズがある日本でも、JGBなどの資産によって、より安価にドルを確保することができるかもしれない。たまにはこうした金融の革新も日本から生まれてほしいものである。

マーケットメイクからブローキングへ

銀行の社債保有額が過去最低レベルに落ち込み、市場の流動性が枯渇している。フェイルの件数も過去10年で最高レベルに増えており、担保不足も発生している。バランスシート規制の強化から、ディーラーサイドには常に在庫を減らす要請がある。ポジションを抱えていると、それだけで財務部門に日々コストを払う仕組みになっているため、トレーダーはなるべく在庫を最小限にしようとする。そしてAged Positionと言われる、長期にわたって保有する債券に関しては保有期間に関するリミットが設けられ、極力ポジションを回転させることが求められる。つまり、顧客の債券売りニーズがあったとしても、それがすぐに外せないリスクの場合は、顧客取引を躊躇してしまう。

そして、夏休み期間には、こうしたポジションを外せないため、必然的に社債を保有したいという銀行は少なくなる。当然債券価格は少しの取引でも乱高下しやすくなり、実際の取引がなくても気配値だけで値が飛んでしまう。特に戦争やインフレなどの不確実性リスクが高い時はなおさらである。実取引に基づかないレートは市場操作の可能性があるということでLIBOR改革が行われたのだが、社債市場に関しては、皮肉にも規制強化によって、価格の透明性が低下しているように思う。現場の感覚だと、マーケットメイクという業務が難しくなり、単なるブローカー業務がメインになってきたように感じる。

規制緩和はかなり困難であることが予想されるため、今後はバイサイド同士で取引をする仕組みや、上場物のように売り手と買い手を結び付ける場を拡充していくしかないのだろう。

MVAとは

MVAはMargin Valuation Adjustmentの略で、IMを拠出するコストを反映するものである。CVAやFVAのように取引時価の一部として会計計上しているところは少ないが、プライシングに含める銀行が多くなっている。清算取引と相対取引の両方に適用される。

CCPでは、VMの金利とIMの金利が異なったり、IMの金利にはマイナス金利を適用しないという条件になっている場合もあるので、厳密な計算は複雑になる。VMを受け取れば、それを他のカウンターパーティーに対する担保に使えるが、IMは証拠金規制によって分別管理を求められるので、担保の再利用ができない。ただし、証拠金規制の対象となっていないカウンターパーティーとの取引では、再利用が可能な場合もあるので、この辺りの計算も複雑だ。IMとして流動性のない仕組債などを拠出できる契約もあるので、その場合は当初証拠金拠出コストが低くなる。

また、CCPに対するIMが偏りやすいので、相対取引であったとしても、CCPと行う反対ヘッジにかかるMVAが大きくなることが多い。これは、特にLCHとCMEにIMが偏るドルスワップにおいて影響が大きくなっている。つまり相対取引そのものにかかるMVAのほかに、ヘッジ取引にかかるMVAも考慮しなければならないということだ。

ヘッジ会計適用スワップなどは、その取引が満期まで解約されないという前提でMVAを計算すればよいが、途中で解約される可能性の高いスワップの場合は満期までのコストをMVAに含める必要はない。スワップションなどでは、権利行使時にCCPに移るため、相対のIMがCCPに対するIMに変わる。このようなVelocityについても一定の前提をおいてMVAの計算をする必要がある。最近では、コンプレッションベンダーが当初証拠金の最適化サービスも影響し始めているので、MVAを減らせる可能性もでてきた。

以上のように、MVAの計算は非常に複雑であり、厳密にこれという数字が計算される訳ではない。マーケットでも、一定のMVAを取る慣行はあるが、ディーラーの既存ポジションにもよってMVAも異なるため、その他のXVAに比べると厳密な計算手法が確立しているとはいえないように思う。一方で、このコストがかなり大きくなることもあるので、完全に無視するわけにはいかない。また、IMを多くとると、CVAやFVAが減るうえ、資本の計算手法に資本コストを削減できることもある。資本規制、ポストトレード処理、適格担保の拡大など、今後更なる発展が見込まれる分野である。

Dirty CSAのニーズが高まっている

証拠金規制が定着しCSAの条件も標準化されてきたが、ここへきて現金以外の資産を適格担保に含めるいわゆるDirty CSAが増えているという報道があった。市場変動が激しくなり、必要なVMが大きくなってきたため、現金が足りなくなるバイサイドが増えたとのことだ。

通常はレポやストックローンなどのSFTによって、債券や株式を現金に換えて担保拠出をするのだが、昨今のバランスシート規制の強化により、レポのコストが著しく上がっている。ここまでコストがかかるのなら、少しくらいプライスが悪くなったとしても、CSAの適格担保に現金以外の担保を入れた方が良いのではないかということだ。ここでプライスが悪くなると言ったのは、社債などの非現金担保を受け入れてしまうと、レバレッジ比率規制上、エクスポージャーと担保をオフセットできないため、銀行のROEが低下してしまうからだ。他にもNSFRを悪化させるという効果もあるため、銀行サイドとしてはできるだけClearn CSAを入れておきたいニーズがある。

特にポートフォリオが大きい場合は、このCSA変更のコストはかなり大きくなる。銀行サイドとしては、将来にわたって資本コストが上昇するのでKVAをチャージすることになるが、これが思ったより大きくなることが多い。とはいえ、どうしても担保がないという場合には、現金以外であったとしてももらっておいた方が得策である。特に市場変動が激しく担保がいくら必要になるかわからないようなケースでは、現金に固執してカウンターパーティーリスクを取ってしまっては元も子もない。

一部では、こうした場合に1か月から3か月だけ一時的に担保条件を緩めるということが行われている。CSAの適格担保には通常Catch All条項が入っていることが多いので、おそらくそれを使っているのだろうと思われる。Catch all条項とは、適格担保に「その他両者が合意した担保」といった形でいざというときに何でも取れるようにしておく条項だ。この条項は、あまり頻繁に使うと適格担保の意味がなくなってしまうので、デフォルトの危険性が高いとき、極度な市場変動が起きた時に限定的に使われるべきものである。

PRAのSIMMレビュー

英国当局のPRAから、SIMMについて出されたレターが話題になっている。PRAとしては、コロナショック、ロシアのウクライナ侵攻、アルケゴス破綻などを考えるとSIMMベースのIMが不十分ではなかったかということなのだが、これらのリスクをすべてSIMMでカバーしようとすると、かなりのIMが必要になる。

アルケゴスレベルのリスクをカバーするためには元本の40%程度のIMが必要だったとも言われているが、全てにおいてそこまでのIMを取る必要があるかどうかはよく分からない。そもそもアルケゴスは証拠金規制対象外であり、SIMMに基づいて担保を取っているところはなかった。また、IMを40%取っていたわけでもないのに、アルケゴス破綻に際して損失を被らなかった銀行もあった。これをもってSIMMが機能しなかったと結論づけるのは早急とRisk.netでも指摘されている。

PRAのレビューを読んでみると、いくつかのカウンターパーティーに対しては、SIMMが当局が求める99% VaRのリスクをカバーするのには不十分であり、特にフェーズ6で証拠金規制の対象となるファンド等はリスクプロファイルが若干これまでの大手市場参加者と異なることから、SIMMの見直しが必要とされている。

また、SIMMのモデルガバナンスにはいわゆる「3+1バックテスト」が使われている。これは直近3年と1年のストレス期間をベースにストレステストをするという手法である。これだとサンプルデータに偏りがあり、モデル化できないリスクファクターを考慮できないということが問題視されている。

現場では、SIMMというよりは、当局が設定した標準法であるグリッドの扱いに苦慮しているという声もよく聞かれる。SIMMで計算されたIMとグリッドのIMだと、本来グリッドを使った方が保守的になるべきなのだが、SIMMを厳格化すると、グリッドを使いたいというファンドが増えてくる。特にグリッドは40年などの長期の取引になると、IM所要額がSIMMよりかなり小さくなる。アルケゴスで問題になったトータルリターンスワップでも、グリッドのIMは元本の15% にしかならない。

ウクライナ侵攻を受けたコモディティ取引の市場変動も、VaRなどでは測れるものではなく、極地理論でも援用しないとカバーできないリスクである。これをすべてSIMMで解決しようというのには無理があるのではないだろうか。むしろ担保だけ取っていれば大丈夫というよりは、どの程度のポジションまでを許容するのかという視点が、近年のカウンターパーティーリスク管理には重要なのではないかと思う。

海外当局が報告データの精査を始めた?

米国で取引報告義務違反で罰金が科されるケースが相次いでいる。同様の罰金はこれまでも発生していたが、最近のケースは必ずしも悪質とはいえず、単純ミスや、法の解釈ミスによるものである点が注目されている。過去5年間の間のミスなど、長期にわたって行われてきたものに対する罰金も含まれている。これは裏を返せば当局が集めたデータを精査しているということなのかもしれない。

カウンターパーティーが誤ってNon US Personに分類されていたものもあるが、これはかなり複雑だ。規制によっては米国人と判定されるケースとそうでないケースがあるうえ、親会社保証がついている場合は米国人と判断されるなど、非常に細かい分類となっている。おそらく、これをすべて把握しているセールスは少ないだろう。これもシステム的に判断するしかないので、昨今ではこうした分類もテクノロジーの力を借りて判定するのが一般的になっている。

コモディティ取引を誤って株式関連取引としてレポートしていた件なども摘発されている。簡単なようだが、コモディティリンクのエクイティスワップなど、デリバティブ取引には様々なものがある。長期のクーポンスワップなどについても、為替のフォワードストリップなのか、通貨スワップなのか迷うケースもある。トムネの為替などはスポットとほぼ同じ感覚なのだが、今回はこのレポートミスも摘発対象になっている。

明らかに海外当局は取引データを何らかの目的で利用し始めているように見える。そうでもない限りこうした過誤に突然気づくのは不思議だ。アルケゴスのポジション拡大を取引報告データによって検証したり、LMEのニッケル暴騰と取引報告の関連性などを調べたりしている。今後はISDAのCDMや取引報告のシステム化が急務になる。というよりは、海外ではこれが急速に進んでいる。日本でCDMといってもあまり通じないのが少し気がかりだ。

店頭デリバティブ取引のリスク削減要件

店頭デリバティブ取引に関しては、可能な限りCCPで清算し、それが不可能な店頭デリバティブ取引に関しては証拠金規制をかけるというのが基本方針だ。しかし、証拠金規制だけでカバーできないリスクもあることから、別途IOSCOからガイダンスが出ている。これは、Legal Certainty、つまり取引の法的有効性を確保し、カウンターパーティーリスク管理を容易にし、金融システム全体を安定化するために導入された。米国、欧州、香港、シンガポールなどでは、規制やガイダンスが出されている。

Valuationなど日本でも似たようなガイダンスは出ているが、日本ではあまり注目されていない。オペレーションの高度化とか、システム化、自動化、効率化という日本が最も不得意とする部分のように思える。ポートフォリオ照合、Disuputeの管理、コンプレッションの努力など、オペレーションが面倒だという理由からか、海外ほどこれらを推進しようという動きも見られない。規制で厳しく求められたり資本コストが上がるわけでもないので、システム投資をしようというインセンティブがない。人権費が安いからシステム投資をしようというインセンティブがないという理由もあるかもしれないが、ここ10年くらいの間に日本のテクノロジー化がかなり遅れてしまったように思う。

Trading Relationship Documentation

取引に際して契約を締結し、取引の法的有効性を確保する。店頭デリバティブ取引の実行前(または実行と同時)に、契約を締結する方針や手続きを準備し、その通り実施しなければならない。今となっては当然のことではあるが、以前はISDAなどのマスター契約を締結することなく取引を行ったがために、トラブルにつながることもあった。

Trade Confirmation

マスター契約を締結した後に、個々の取引の内容を規定したコンファメーションを取引直後に交わす必要がある。取引を執行したら、直ちにコンファメーションを送付し、当事者同士で取引内容を確認しなければならない。以前は、このコンファメーションの送付と確認に数日かかったりすることもあったが、国によっては、これに期限を設けるようになった。

Valuation and Counterparties

マージンコールに使われる時価評価手法を確立しておかなければならない。取引の実行から終了、満期、失効といったいかなる際にも、その価値を決定するプロセスを合意し、それにしたがって時価評価が行われなければならない。時価評価自体に合意できないと、マージンコールが行えず、金融システム全体の不安定化につながってしまう。日本においてもValuationに関しては注意深くモニタリングすることが求められるようになっている。

Reconciliation

取引相手との間で、取引の内容や時価評価に相違が発生すると、前項同様金融システム全体のリスクになる。したがって、取引を行った後も、定期的に取引の照合作業を行うべきである。

Portfolio Compression

オフセットする取引を減らすべく、コンプレッションを定期的に行わなければならない。TriOptimaやQuantileといったベンダーのサービスを使った複数社間のMultilateralコンプレッションと、相対で個別に行うコンプレッションがある。コンプレッションを行えば想定元本ベースの取引量が減るため、レバレッジ比率を向上させたり、G-SIBスコアを下げたりすることができる。

Dispute Resolution

取引時価にDisputeが発生すると、担保授受が行われなくなる。それをそのまま放置しておくと、担保の効果が損なわれてしまう。したがって、Disputeの解決プロセスを決め、タイムリーに担保授受が行われるようにしないと、証拠金規制自体の効果に問題が発生する。また、米国や欧州では、一定のDisputeが継続して発生した場合は、資本賦課が上がるため、これを放置しておくと収益圧迫要因になる。

このような店頭デリバティブ取引に関する規制強化については、国ごとの進捗がFSBによって報告されている[2]。IOSCOのガイダンスにもあるように、デリバティブ取引はクロスボーダーで取引されており、現地法人などを通じてブッキング拠点を移すことも可能である。こうしたなか、規制アービトラージが起きないよう、当局同士が密接に連携することにより、国による違いが大きくならないようにしなければならない。FSBのレポートにも示されているように、日本の規制はほぼグローバル並みの基準を達成している。

しかし、細かい規制を比較していくと、たとえば執行した取引を即時に公開するリアルタイムレポーティング、取引を電子的にブックする電子取引規制、約定から決済に至るプロセスを人手を介さずに行うSTPガイダンスなど、システム化、標準化、オートメーション化においてスタンスが異なっている。電子取引などはETPによって規制は整備されているものの、米国のSEFなどと比べると対象取引範囲がかなり狭い。グローバルな金融業界は、自らの効率化努力と規制からのシステム化要請によってIT産業化しているのに比べると、日本のIT予算は各段に少ない。アジアの金融機関が急速にキャッチアップしているなか、日本の金融が世界から取り残されないよう、テクノロジーや金融インフラの高度化努力を推進すべきだろう。

日本の金利マーケットの将来

米国では、ARRCがCMEのターム物SOFRを正式承認し、取引量が増えている。ディーラー間での取引禁止の解除を求める声も大きくなっており、徐々にターム物SOFRの利用が本格化しつつある。6月に再開したARRCのターム物タスクフォースで隔週の議論が続けられているようだが、まだPublicに出てきている情報はなさそうだ。あれほど銀行の信用力にリンクしないリスクフリーレートで貸し出しをするのは問題だという意見があったのだが、ふたを開けてみるとターム物SOFRのローンがかなり増えているようだ。当然AmeriborやBSBYのようなCredit Sensitiveなレートのローンも増えてはいるが、全体の割合はきわめて小さい。

SOFR先物も取引量が急増したというニュースが先ほどBloomberでも出ており、こちらも順調に取引量が伸びている。オプションに関するSOFR Firstの効果もあるようだ。

日本のターム物であるTORFは1年以上公開されているが、マーケットで幅広く使われているという話は聞かない。TONA先物に関しても話は出ているようだが、こちらも今後の展開次第だ。現状の市場の温度感を見るとTORFもTONA先物もあまり盛り上がるという兆しがない。BSBYがCCPでクリアリングされたり、ターム物や先物の取引量が増えている米国とは大きく異なる。

TOFR先物が増えたのはLIBORからの移行というのもあるが、米国金利上昇に備えたヘッジとも報道されている。金利が変動しない日本においては、金利先物はあまり意味がないのかもしれない。そう考えるとTORFもあまり広がっていくとは思えなくなってくる。単に先決め金利という意味ではTIBORも残っているので、ターム物に対するニーズがどれほどあるのか疑わしい。TFXのユーロ円金先の取引もほとんど見られない。

当然金利が動かいないのでヘッジのニーズも少なく、Buy and Holdの投資家も多いので、金利のトレーダーも業界からどんどん少なくなっている。何とか日本の金融市場を発展させようと様々な努力が続けられているのだが、金利が動くまでは難しいかもしれない。

債券取引の即時報告が1分以内に

以前から話は出ていたが、債券取引の報告が取引執行後15分から1分以内に変更するとSECのゲンスラー委員長がコメントしている。債券市場の透明性を高めるための方策だが、米国では店頭デリバティブ取引についてもリアルタイムレポーティングが存在しており、取引後直ちにそれを明らかにするという方向がますます進んでいる。

ゲンスラー委員長の言い分では、テクノロジーの進化に併せて情報開示も進化すべきということだ。欧州でも即時報告についての意識は高い。確かに取引執行後にシステムにブックすれば、それがすぐにSTPで流れていくので、システム整備が終わっている銀行にとっては、それほど手間ということはない。こうした当局からの要請がテクノロジーの進歩と、自動化、標準化、効率化を推し進めているように思う。

なぜか日本ではこうした要請は聞かれないが、手作業が多いので技術的に難しいという事情もあるのかもしれない。ただ、海外の著しいテクノロジーの進歩と巨額のIT投資額をみると、日本と海外の差が急速に広がっているような気がしてならない。

銀行が旅行会社になる?

日本ではオーバーバンキングにより、様々なビジネス機会への進出が検討されてきた。どちらかというと積極的な進出というよりは、既存の銀行業のパイが少なくなるといった懸念からだ。米国では銀行トップのJPMが旅行業への進出を着々と進めているようだ。

Wall Street Journalの記事によると、JPMは旅行予約システム、レストランのレビューを取り扱う食べログのような会社、高級旅行会社を次々と買収し、空港に高級ラウンジを建設したりしているようだ。確かに以前から独自のクレジットカード会社を持ち、旅行代金の決済等、何らかの関わり旅行業界とはを持ってきた。

旅行の予約の取り扱いを増やすプランを立てており、実現すれば2025年には米国3位の旅行取扱件数になる。当然Booking.comのような予約サイトには遠く及ばない件数ではあるものの、予約のみならず、様々なサービスを組み合わせることができるうえ、富裕層の支持を得ることは間違いない。旅行の次は自動車と住宅だという話も紹介されている。

確かに銀行は既に航空会社やホテルなどと深いつながりを持っており、うまくすれば旅行のあらゆる側面で関われることになる。アメリカンエクスプレスが第6位の旅行会社と言われることからも、金融と旅行にはある程度の親和性があるのかもしれない。金融で得た自動化、システム化を利用すれば、旅行のプロセスをより簡素化し、スムーズなものにできる可能性はある。

それにしても、JPMといえば銀行業において極めて成功している企業の一つである。そういった組織でリスクを取って新しいことが次々とトライされるというのが驚きだ。日々業務を担当している職員が何かを思いついて上に上げるという方法だとこうは動けないように思う。やはり今後の経営を考える経営トップの力なのだろうか。米国だと、このような動きに加えて、多くのスタートアップが参入してくるので、経済全体に活力が生まれる。

日本だと、同業他社が何をやっているかを調べてそれに追随するというケースは多いが、全く新しいことをやろうとするところが少ない気がする。何か新しいことをするときは、既存ビジネスが儲からなくなり仕方なく別のところに活路を求めるというのが一般的だ。日本にも、既存の銀行業務を守り続けるだけでなく、銀行業の将来像を常に考えられる経営トップが必要なのだろう。

通貨スワップの取引量が増えている

EURUSDとGBPUSDの通貨スワップの取引量が過去最高となったとClarusのブログで紹介されている。SDRに報告されたデータとのことなので基本的にはUS Personの報告データとなる。SDRの場合想定元本がそのまま報告されているわけではなく、$250mm超のように一定の水準以上という報告の仕方になる。あまりに大きな取引がリアルタイムレポーティングとして報告されると、誰が取引したかが特定されてしまったり、マーケットへのインパクトが大きくなってしまうからだ。

興味深いことに、巨額の取引が増えているという訳ではなく、細かいトレードが増えているようだ。つまり、あまり大きなサイズで取引をすることができないので、細かくトレードをしているという可能性がある。市場のボラティリティが大きくなり、SACCRへの移行もあったため、大手銀行がサイズの大きな取引を敬遠した可能性がある。

ただし、ドル円の通貨スワップについては特に取引量が増えていないようだ。ドル債の発行が少ないので、関連する通貨スワップが出ていないというのもあるが、それほど大きなインパクトがあるとは思えない。円安のため、ドル資産に投資するために通貨スワップを使う投資家が少ないのかもしれない。その割に最近のドル円ベーシスの動きは激しい。全体としては取引量が少ないが、たまに大きなスワップが行われるためにマーケットが動いているのだろうか。しばらくデータをモニタリングしてみたい。

証拠金規制IMビックバン

証拠金規制のIMビックバンであるフェーズ6の9/1が近づいてきた。コロナショックやウクライナ情勢による市場変動から、フェーズ6対象となる会社数が増えているようだ。中国のネッティングと担保が有効になりそうということも、対象会社の増加につながっている。中国についてはまだオピニオンが出ておらず、ネッティングは問題ないものの、担保のEnforcabilityについては未だ不透明という見方がある。

IMの金額が$50mmを超えない場合はIM規制から免除されるが、それが本当に$50mmを超えないよう日々モニタリングをしていかなければならない。急速な市場変動によってボラティリティが上がれば、これが$50mmを超えてしまう可能性がある。ISDAの予想ではフェーズ5の300社に対し、フェーズ6の対象会社は775社とのことだ。

日本の証拠金規制は前々年の4月から前年の3月までの店頭デリバティブ取引の想定元本を見るが、米国規制などでは5月末に3か月平均でみる。米国利上げベースの加速や、コモディティ価格の急変同、急激な円安もあり、デリバティブの取引量は増加している。市場急変によって急にIM Thresholdを超えてしまう可能性もある。カストディアンのセットアップやIM授受のオペレーションを急に準備するのは難しいので、ある程度早めに対応を検討しておく必要があろう。

内部モデルの終焉

銀行の市場リスクに関する資本計算について、米国では既に内部モデル(IMA)から標準法やストレス資本バッファへとシフトしているが、欧州でも同様に内部モデルをあきらめる動きが目立ってきた。

欧州では、2020年2月に公表されたECBの調査結果において、内部モデルの採用をあきらめる金融機関が最低40%程度はいるだろうとされていた。それから1年半ほど経ったが、状況はかなり加速しているようである。当該サーベイでは、20%の金融機関がすべてのトレーディングデスクについて内部モデル承認を申請するだろうとされていたが、それより少ないとなると、ほとんどすべての銀行が標準法へ移行したとしても不思議ではない。一部のトレーディングデスクのみ内部モデルというところもあるだろうが、モデル承認やそのメンテナンスを考えると、内部モデルは終焉を迎えつつあるといっても良いのではないだろうか。

再度遅れる可能性はあるものの、欧州のFRTBの導入は2025年1月となっているが、その頃には内部モデルは過去の産物になっているかもしれない。内部モデル承認を得るには、十分なデータをもとにバックテストなどを行わなければならない。このために多くの人材を採用し、様々な分析を行ってきたが、72.5%のOutput Floorや申請の煩雑さを考えると、完全に標準法に移行してしまった方が得策だろう。本来リスク管理のあり方としては、各金融機関でリスクモデルを充実させるというのは望ましいことなのだが、ここまで当局の内部モデルに対する信頼性が失われてくると、あきらめざるを得ないだろう。

日本では、海外に比べるとモデルやリスク管理に優秀な人材が集まるのだが、こうして海外がすべて内部モデルから離れていくなか、日本だけがこれにリソースを投入し続けていると、非効率になってしまうかもしれない。少なくとも標準法やストレステストの充実は進めておいたほうがよいだろう。