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MVAとは

MVAはMargin Valuation Adjustmentの略で、IMを拠出するコストを反映するものである。CVAやFVAのように取引時価の一部として会計計上しているところは少ないが、プライシングに含める銀行が多くなっている。清算取引と相対取引の両方に適用される。

CCPでは、VMの金利とIMの金利が異なったり、IMの金利にはマイナス金利を適用しないという条件になっている場合もあるので、厳密な計算は複雑になる。VMを受け取れば、それを他のカウンターパーティーに対する担保に使えるが、IMは証拠金規制によって分別管理を求められるので、担保の再利用ができない。ただし、証拠金規制の対象となっていないカウンターパーティーとの取引では、再利用が可能な場合もあるので、この辺りの計算も複雑だ。IMとして流動性のない仕組債などを拠出できる契約もあるので、その場合は当初証拠金拠出コストが低くなる。

また、CCPに対するIMが偏りやすいので、相対取引であったとしても、CCPと行う反対ヘッジにかかるMVAが大きくなることが多い。これは、特にLCHとCMEにIMが偏るドルスワップにおいて影響が大きくなっている。つまり相対取引そのものにかかるMVAのほかに、ヘッジ取引にかかるMVAも考慮しなければならないということだ。

ヘッジ会計適用スワップなどは、その取引が満期まで解約されないという前提でMVAを計算すればよいが、途中で解約される可能性の高いスワップの場合は満期までのコストをMVAに含める必要はない。スワップションなどでは、権利行使時にCCPに移るため、相対のIMがCCPに対するIMに変わる。このようなVelocityについても一定の前提をおいてMVAの計算をする必要がある。最近では、コンプレッションベンダーが当初証拠金の最適化サービスも影響し始めているので、MVAを減らせる可能性もでてきた。

以上のように、MVAの計算は非常に複雑であり、厳密にこれという数字が計算される訳ではない。マーケットでも、一定のMVAを取る慣行はあるが、ディーラーの既存ポジションにもよってMVAも異なるため、その他のXVAに比べると厳密な計算手法が確立しているとはいえないように思う。一方で、このコストがかなり大きくなることもあるので、完全に無視するわけにはいかない。また、IMを多くとると、CVAやFVAが減るうえ、資本の計算手法に資本コストを削減できることもある。資本規制、ポストトレード処理、適格担保の拡大など、今後更なる発展が見込まれる分野である。

Dirty CSAのニーズが高まっている

証拠金規制が定着しCSAの条件も標準化されてきたが、ここへきて現金以外の資産を適格担保に含めるいわゆるDirty CSAが増えているという報道があった。市場変動が激しくなり、必要なVMが大きくなってきたため、現金が足りなくなるバイサイドが増えたとのことだ。

通常はレポやストックローンなどのSFTによって、債券や株式を現金に換えて担保拠出をするのだが、昨今のバランスシート規制の強化により、レポのコストが著しく上がっている。ここまでコストがかかるのなら、少しくらいプライスが悪くなったとしても、CSAの適格担保に現金以外の担保を入れた方が良いのではないかということだ。ここでプライスが悪くなると言ったのは、社債などの非現金担保を受け入れてしまうと、レバレッジ比率規制上、エクスポージャーと担保をオフセットできないため、銀行のROEが低下してしまうからだ。他にもNSFRを悪化させるという効果もあるため、銀行サイドとしてはできるだけClearn CSAを入れておきたいニーズがある。

特にポートフォリオが大きい場合は、このCSA変更のコストはかなり大きくなる。銀行サイドとしては、将来にわたって資本コストが上昇するのでKVAをチャージすることになるが、これが思ったより大きくなることが多い。とはいえ、どうしても担保がないという場合には、現金以外であったとしてももらっておいた方が得策である。特に市場変動が激しく担保がいくら必要になるかわからないようなケースでは、現金に固執してカウンターパーティーリスクを取ってしまっては元も子もない。

一部では、こうした場合に1か月から3か月だけ一時的に担保条件を緩めるということが行われている。CSAの適格担保には通常Catch All条項が入っていることが多いので、おそらくそれを使っているのだろうと思われる。Catch all条項とは、適格担保に「その他両者が合意した担保」といった形でいざというときに何でも取れるようにしておく条項だ。この条項は、あまり頻繁に使うと適格担保の意味がなくなってしまうので、デフォルトの危険性が高いとき、極度な市場変動が起きた時に限定的に使われるべきものである。

PRAのSIMMレビュー

英国当局のPRAから、SIMMについて出されたレターが話題になっている。PRAとしては、コロナショック、ロシアのウクライナ侵攻、アルケゴス破綻などを考えるとSIMMベースのIMが不十分ではなかったかということなのだが、これらのリスクをすべてSIMMでカバーしようとすると、かなりのIMが必要になる。

アルケゴスレベルのリスクをカバーするためには元本の40%程度のIMが必要だったとも言われているが、全てにおいてそこまでのIMを取る必要があるかどうかはよく分からない。そもそもアルケゴスは証拠金規制対象外であり、SIMMに基づいて担保を取っているところはなかった。また、IMを40%取っていたわけでもないのに、アルケゴス破綻に際して損失を被らなかった銀行もあった。これをもってSIMMが機能しなかったと結論づけるのは早急とRisk.netでも指摘されている。

PRAのレビューを読んでみると、いくつかのカウンターパーティーに対しては、SIMMが当局が求める99% VaRのリスクをカバーするのには不十分であり、特にフェーズ6で証拠金規制の対象となるファンド等はリスクプロファイルが若干これまでの大手市場参加者と異なることから、SIMMの見直しが必要とされている。

また、SIMMのモデルガバナンスにはいわゆる「3+1バックテスト」が使われている。これは直近3年と1年のストレス期間をベースにストレステストをするという手法である。これだとサンプルデータに偏りがあり、モデル化できないリスクファクターを考慮できないということが問題視されている。

現場では、SIMMというよりは、当局が設定した標準法であるグリッドの扱いに苦慮しているという声もよく聞かれる。SIMMで計算されたIMとグリッドのIMだと、本来グリッドを使った方が保守的になるべきなのだが、SIMMを厳格化すると、グリッドを使いたいというファンドが増えてくる。特にグリッドは40年などの長期の取引になると、IM所要額がSIMMよりかなり小さくなる。アルケゴスで問題になったトータルリターンスワップでも、グリッドのIMは元本の15% にしかならない。

ウクライナ侵攻を受けたコモディティ取引の市場変動も、VaRなどでは測れるものではなく、極地理論でも援用しないとカバーできないリスクである。これをすべてSIMMで解決しようというのには無理があるのではないだろうか。むしろ担保だけ取っていれば大丈夫というよりは、どの程度のポジションまでを許容するのかという視点が、近年のカウンターパーティーリスク管理には重要なのではないかと思う。

海外当局が報告データの精査を始めた?

米国で取引報告義務違反で罰金が科されるケースが相次いでいる。同様の罰金はこれまでも発生していたが、最近のケースは必ずしも悪質とはいえず、単純ミスや、法の解釈ミスによるものである点が注目されている。過去5年間の間のミスなど、長期にわたって行われてきたものに対する罰金も含まれている。これは裏を返せば当局が集めたデータを精査しているということなのかもしれない。

カウンターパーティーが誤ってNon US Personに分類されていたものもあるが、これはかなり複雑だ。規制によっては米国人と判定されるケースとそうでないケースがあるうえ、親会社保証がついている場合は米国人と判断されるなど、非常に細かい分類となっている。おそらく、これをすべて把握しているセールスは少ないだろう。これもシステム的に判断するしかないので、昨今ではこうした分類もテクノロジーの力を借りて判定するのが一般的になっている。

コモディティ取引を誤って株式関連取引としてレポートしていた件なども摘発されている。簡単なようだが、コモディティリンクのエクイティスワップなど、デリバティブ取引には様々なものがある。長期のクーポンスワップなどについても、為替のフォワードストリップなのか、通貨スワップなのか迷うケースもある。トムネの為替などはスポットとほぼ同じ感覚なのだが、今回はこのレポートミスも摘発対象になっている。

明らかに海外当局は取引データを何らかの目的で利用し始めているように見える。そうでもない限りこうした過誤に突然気づくのは不思議だ。アルケゴスのポジション拡大を取引報告データによって検証したり、LMEのニッケル暴騰と取引報告の関連性などを調べたりしている。今後はISDAのCDMや取引報告のシステム化が急務になる。というよりは、海外ではこれが急速に進んでいる。日本でCDMといってもあまり通じないのが少し気がかりだ。

店頭デリバティブ取引のリスク削減要件

店頭デリバティブ取引に関しては、可能な限りCCPで清算し、それが不可能な店頭デリバティブ取引に関しては証拠金規制をかけるというのが基本方針だ。しかし、証拠金規制だけでカバーできないリスクもあることから、別途IOSCOからガイダンスが出ている。これは、Legal Certainty、つまり取引の法的有効性を確保し、カウンターパーティーリスク管理を容易にし、金融システム全体を安定化するために導入された。米国、欧州、香港、シンガポールなどでは、規制やガイダンスが出されている。

Valuationなど日本でも似たようなガイダンスは出ているが、日本ではあまり注目されていない。オペレーションの高度化とか、システム化、自動化、効率化という日本が最も不得意とする部分のように思える。ポートフォリオ照合、Disuputeの管理、コンプレッションの努力など、オペレーションが面倒だという理由からか、海外ほどこれらを推進しようという動きも見られない。規制で厳しく求められたり資本コストが上がるわけでもないので、システム投資をしようというインセンティブがない。人権費が安いからシステム投資をしようというインセンティブがないという理由もあるかもしれないが、ここ10年くらいの間に日本のテクノロジー化がかなり遅れてしまったように思う。

Trading Relationship Documentation

取引に際して契約を締結し、取引の法的有効性を確保する。店頭デリバティブ取引の実行前(または実行と同時)に、契約を締結する方針や手続きを準備し、その通り実施しなければならない。今となっては当然のことではあるが、以前はISDAなどのマスター契約を締結することなく取引を行ったがために、トラブルにつながることもあった。

Trade Confirmation

マスター契約を締結した後に、個々の取引の内容を規定したコンファメーションを取引直後に交わす必要がある。取引を執行したら、直ちにコンファメーションを送付し、当事者同士で取引内容を確認しなければならない。以前は、このコンファメーションの送付と確認に数日かかったりすることもあったが、国によっては、これに期限を設けるようになった。

Valuation and Counterparties

マージンコールに使われる時価評価手法を確立しておかなければならない。取引の実行から終了、満期、失効といったいかなる際にも、その価値を決定するプロセスを合意し、それにしたがって時価評価が行われなければならない。時価評価自体に合意できないと、マージンコールが行えず、金融システム全体の不安定化につながってしまう。日本においてもValuationに関しては注意深くモニタリングすることが求められるようになっている。

Reconciliation

取引相手との間で、取引の内容や時価評価に相違が発生すると、前項同様金融システム全体のリスクになる。したがって、取引を行った後も、定期的に取引の照合作業を行うべきである。

Portfolio Compression

オフセットする取引を減らすべく、コンプレッションを定期的に行わなければならない。TriOptimaやQuantileといったベンダーのサービスを使った複数社間のMultilateralコンプレッションと、相対で個別に行うコンプレッションがある。コンプレッションを行えば想定元本ベースの取引量が減るため、レバレッジ比率を向上させたり、G-SIBスコアを下げたりすることができる。

Dispute Resolution

取引時価にDisputeが発生すると、担保授受が行われなくなる。それをそのまま放置しておくと、担保の効果が損なわれてしまう。したがって、Disputeの解決プロセスを決め、タイムリーに担保授受が行われるようにしないと、証拠金規制自体の効果に問題が発生する。また、米国や欧州では、一定のDisputeが継続して発生した場合は、資本賦課が上がるため、これを放置しておくと収益圧迫要因になる。

このような店頭デリバティブ取引に関する規制強化については、国ごとの進捗がFSBによって報告されている[2]。IOSCOのガイダンスにもあるように、デリバティブ取引はクロスボーダーで取引されており、現地法人などを通じてブッキング拠点を移すことも可能である。こうしたなか、規制アービトラージが起きないよう、当局同士が密接に連携することにより、国による違いが大きくならないようにしなければならない。FSBのレポートにも示されているように、日本の規制はほぼグローバル並みの基準を達成している。

しかし、細かい規制を比較していくと、たとえば執行した取引を即時に公開するリアルタイムレポーティング、取引を電子的にブックする電子取引規制、約定から決済に至るプロセスを人手を介さずに行うSTPガイダンスなど、システム化、標準化、オートメーション化においてスタンスが異なっている。電子取引などはETPによって規制は整備されているものの、米国のSEFなどと比べると対象取引範囲がかなり狭い。グローバルな金融業界は、自らの効率化努力と規制からのシステム化要請によってIT産業化しているのに比べると、日本のIT予算は各段に少ない。アジアの金融機関が急速にキャッチアップしているなか、日本の金融が世界から取り残されないよう、テクノロジーや金融インフラの高度化努力を推進すべきだろう。

日本の金利マーケットの将来

米国では、ARRCがCMEのターム物SOFRを正式承認し、取引量が増えている。ディーラー間での取引禁止の解除を求める声も大きくなっており、徐々にターム物SOFRの利用が本格化しつつある。6月に再開したARRCのターム物タスクフォースで隔週の議論が続けられているようだが、まだPublicに出てきている情報はなさそうだ。あれほど銀行の信用力にリンクしないリスクフリーレートで貸し出しをするのは問題だという意見があったのだが、ふたを開けてみるとターム物SOFRのローンがかなり増えているようだ。当然AmeriborやBSBYのようなCredit Sensitiveなレートのローンも増えてはいるが、全体の割合はきわめて小さい。

SOFR先物も取引量が急増したというニュースが先ほどBloomberでも出ており、こちらも順調に取引量が伸びている。オプションに関するSOFR Firstの効果もあるようだ。

日本のターム物であるTORFは1年以上公開されているが、マーケットで幅広く使われているという話は聞かない。TONA先物に関しても話は出ているようだが、こちらも今後の展開次第だ。現状の市場の温度感を見るとTORFもTONA先物もあまり盛り上がるという兆しがない。BSBYがCCPでクリアリングされたり、ターム物や先物の取引量が増えている米国とは大きく異なる。

TOFR先物が増えたのはLIBORからの移行というのもあるが、米国金利上昇に備えたヘッジとも報道されている。金利が変動しない日本においては、金利先物はあまり意味がないのかもしれない。そう考えるとTORFもあまり広がっていくとは思えなくなってくる。単に先決め金利という意味ではTIBORも残っているので、ターム物に対するニーズがどれほどあるのか疑わしい。TFXのユーロ円金先の取引もほとんど見られない。

当然金利が動かいないのでヘッジのニーズも少なく、Buy and Holdの投資家も多いので、金利のトレーダーも業界からどんどん少なくなっている。何とか日本の金融市場を発展させようと様々な努力が続けられているのだが、金利が動くまでは難しいかもしれない。

債券取引の即時報告が1分以内に

以前から話は出ていたが、債券取引の報告が取引執行後15分から1分以内に変更するとSECのゲンスラー委員長がコメントしている。債券市場の透明性を高めるための方策だが、米国では店頭デリバティブ取引についてもリアルタイムレポーティングが存在しており、取引後直ちにそれを明らかにするという方向がますます進んでいる。

ゲンスラー委員長の言い分では、テクノロジーの進化に併せて情報開示も進化すべきということだ。欧州でも即時報告についての意識は高い。確かに取引執行後にシステムにブックすれば、それがすぐにSTPで流れていくので、システム整備が終わっている銀行にとっては、それほど手間ということはない。こうした当局からの要請がテクノロジーの進歩と、自動化、標準化、効率化を推し進めているように思う。

なぜか日本ではこうした要請は聞かれないが、手作業が多いので技術的に難しいという事情もあるのかもしれない。ただ、海外の著しいテクノロジーの進歩と巨額のIT投資額をみると、日本と海外の差が急速に広がっているような気がしてならない。

銀行が旅行会社になる?

日本ではオーバーバンキングにより、様々なビジネス機会への進出が検討されてきた。どちらかというと積極的な進出というよりは、既存の銀行業のパイが少なくなるといった懸念からだ。米国では銀行トップのJPMが旅行業への進出を着々と進めているようだ。

Wall Street Journalの記事によると、JPMは旅行予約システム、レストランのレビューを取り扱う食べログのような会社、高級旅行会社を次々と買収し、空港に高級ラウンジを建設したりしているようだ。確かに以前から独自のクレジットカード会社を持ち、旅行代金の決済等、何らかの関わり旅行業界とはを持ってきた。

旅行の予約の取り扱いを増やすプランを立てており、実現すれば2025年には米国3位の旅行取扱件数になる。当然Booking.comのような予約サイトには遠く及ばない件数ではあるものの、予約のみならず、様々なサービスを組み合わせることができるうえ、富裕層の支持を得ることは間違いない。旅行の次は自動車と住宅だという話も紹介されている。

確かに銀行は既に航空会社やホテルなどと深いつながりを持っており、うまくすれば旅行のあらゆる側面で関われることになる。アメリカンエクスプレスが第6位の旅行会社と言われることからも、金融と旅行にはある程度の親和性があるのかもしれない。金融で得た自動化、システム化を利用すれば、旅行のプロセスをより簡素化し、スムーズなものにできる可能性はある。

それにしても、JPMといえば銀行業において極めて成功している企業の一つである。そういった組織でリスクを取って新しいことが次々とトライされるというのが驚きだ。日々業務を担当している職員が何かを思いついて上に上げるという方法だとこうは動けないように思う。やはり今後の経営を考える経営トップの力なのだろうか。米国だと、このような動きに加えて、多くのスタートアップが参入してくるので、経済全体に活力が生まれる。

日本だと、同業他社が何をやっているかを調べてそれに追随するというケースは多いが、全く新しいことをやろうとするところが少ない気がする。何か新しいことをするときは、既存ビジネスが儲からなくなり仕方なく別のところに活路を求めるというのが一般的だ。日本にも、既存の銀行業務を守り続けるだけでなく、銀行業の将来像を常に考えられる経営トップが必要なのだろう。

通貨スワップの取引量が増えている

EURUSDとGBPUSDの通貨スワップの取引量が過去最高となったとClarusのブログで紹介されている。SDRに報告されたデータとのことなので基本的にはUS Personの報告データとなる。SDRの場合想定元本がそのまま報告されているわけではなく、$250mm超のように一定の水準以上という報告の仕方になる。あまりに大きな取引がリアルタイムレポーティングとして報告されると、誰が取引したかが特定されてしまったり、マーケットへのインパクトが大きくなってしまうからだ。

興味深いことに、巨額の取引が増えているという訳ではなく、細かいトレードが増えているようだ。つまり、あまり大きなサイズで取引をすることができないので、細かくトレードをしているという可能性がある。市場のボラティリティが大きくなり、SACCRへの移行もあったため、大手銀行がサイズの大きな取引を敬遠した可能性がある。

ただし、ドル円の通貨スワップについては特に取引量が増えていないようだ。ドル債の発行が少ないので、関連する通貨スワップが出ていないというのもあるが、それほど大きなインパクトがあるとは思えない。円安のため、ドル資産に投資するために通貨スワップを使う投資家が少ないのかもしれない。その割に最近のドル円ベーシスの動きは激しい。全体としては取引量が少ないが、たまに大きなスワップが行われるためにマーケットが動いているのだろうか。しばらくデータをモニタリングしてみたい。

証拠金規制IMビックバン

証拠金規制のIMビックバンであるフェーズ6の9/1が近づいてきた。コロナショックやウクライナ情勢による市場変動から、フェーズ6対象となる会社数が増えているようだ。中国のネッティングと担保が有効になりそうということも、対象会社の増加につながっている。中国についてはまだオピニオンが出ておらず、ネッティングは問題ないものの、担保のEnforcabilityについては未だ不透明という見方がある。

IMの金額が$50mmを超えない場合はIM規制から免除されるが、それが本当に$50mmを超えないよう日々モニタリングをしていかなければならない。急速な市場変動によってボラティリティが上がれば、これが$50mmを超えてしまう可能性がある。ISDAの予想ではフェーズ5の300社に対し、フェーズ6の対象会社は775社とのことだ。

日本の証拠金規制は前々年の4月から前年の3月までの店頭デリバティブ取引の想定元本を見るが、米国規制などでは5月末に3か月平均でみる。米国利上げベースの加速や、コモディティ価格の急変同、急激な円安もあり、デリバティブの取引量は増加している。市場急変によって急にIM Thresholdを超えてしまう可能性もある。カストディアンのセットアップやIM授受のオペレーションを急に準備するのは難しいので、ある程度早めに対応を検討しておく必要があろう。

内部モデルの終焉

銀行の市場リスクに関する資本計算について、米国では既に内部モデル(IMA)から標準法やストレス資本バッファへとシフトしているが、欧州でも同様に内部モデルをあきらめる動きが目立ってきた。

欧州では、2020年2月に公表されたECBの調査結果において、内部モデルの採用をあきらめる金融機関が最低40%程度はいるだろうとされていた。それから1年半ほど経ったが、状況はかなり加速しているようである。当該サーベイでは、20%の金融機関がすべてのトレーディングデスクについて内部モデル承認を申請するだろうとされていたが、それより少ないとなると、ほとんどすべての銀行が標準法へ移行したとしても不思議ではない。一部のトレーディングデスクのみ内部モデルというところもあるだろうが、モデル承認やそのメンテナンスを考えると、内部モデルは終焉を迎えつつあるといっても良いのではないだろうか。

再度遅れる可能性はあるものの、欧州のFRTBの導入は2025年1月となっているが、その頃には内部モデルは過去の産物になっているかもしれない。内部モデル承認を得るには、十分なデータをもとにバックテストなどを行わなければならない。このために多くの人材を採用し、様々な分析を行ってきたが、72.5%のOutput Floorや申請の煩雑さを考えると、完全に標準法に移行してしまった方が得策だろう。本来リスク管理のあり方としては、各金融機関でリスクモデルを充実させるというのは望ましいことなのだが、ここまで当局の内部モデルに対する信頼性が失われてくると、あきらめざるを得ないだろう。

日本では、海外に比べるとモデルやリスク管理に優秀な人材が集まるのだが、こうして海外がすべて内部モデルから離れていくなか、日本だけがこれにリソースを投入し続けていると、非効率になってしまうかもしれない。少なくとも標準法やストレステストの充実は進めておいたほうがよいだろう。

デリバティブ取引量の増加

2022年も半年が過ぎたが、デリバティブ取引自体は活況のようだ。昨年の前半もそこそこ取引が多かったと思うのだが、ISDAのSwapInfoによると、昨年より金利関連デリバティブ取引の元本は約30%増となっている。そのうち約75%がクリアリングされたスワップとのことで、この割合は近年安定している。スワップション等クリアリングされない取引が1/4程度存在している。

CDSの取引量はほぼ倍増している。クレジットスプレッドの拡大に併せて取引量が拡大したようだ。クリアリング取引の割合は、こちらは80%を超えている。日本においてもCDSの取引は30%増となっているが、昨年6月に取引が異常に増えたインパクトを除くとかなりの増加になっている。

JSCCの統計データで確認すると、日本円金利スワップの取引量も28%増となっているので全体と同じような増加となっている。ただし、日本の場合はLIBOR改革で取引が手控えられたこともあり、2021年の取引量がかなり減っているので、どちらかというと元に戻った感じだ。とはいえ、今年前半の取引量は過去から比べるとかなり多くなっている。

昨年増えたTIBOR取引も、LIBOR改革の関係かと思っていたのだが、今年も一定程度の取引量となっており、一昨年よりは取引量が多い。全体の6%程度をTIBORスワップが占めている。10%に近づいた昨年は例外としても以前3%未満だったことを考えるとLIBOR改革によって一定程度がTIBORにシフトしているように見える。また、ZTIBORからDTIBORへの移行が進んでいる様子もうかがわれる。

LIBOR改革でTIBORの動向にも注目が集まっていたが、結局TIBORは存続する方向になりそうである。

TONA Swapに対する欧州清算集中規制

ESMAから清算集中規制についての市中協議案が出ており、円のOISスワップの集中義務が含まれている。コメント期限は2022年9月30日だ。同時にUSD SOFRスワップの清算集中規制の対象満期が拡大される。

Clearing Obligationの他にDerivatives Trading Obligation(DTO)も含まれており、ESTRスワップについて、EUのOTF、MTF、或いは免除が認めらているSEFなどによる取引の義務付けも含まれている。

TONAスワップは、日本の規制では既に清算集中の対象になっているので、あまり大きなインパクトはないだろうが、逆にいうと、今まで欧州ではクリアリング規制の対象ではなかったことに驚く。それほどまでTONAスワップへのシフトが完全に進んだということなのだろう。もうLIBOR改革は遠い過去のことのように思える。ドルについては完全に移行が終わっていないので来年6月に向けて各社準備を進めているのだろうが、一時のような盛り上がりに欠ける。

これで、金融危機以降の主な規制強化はほぼ完成に近づいた。新しい規制の話はそれほどなく、Cryptoや排出権という新しい話はあるものの、当局や金融機関の関心はカウンターパーティーリスクや市場急変に対する対応、資本規制に移っている。今後は金融機関の行動を制限しようという動きがあるときは、資本規制を微調整していくことになるものと思われる。

米銀の米国債レポが復活?

米国レポ市場で米銀のプレゼンスが上がってきた。レポといえばSLRなど規制の影響で米銀のプレゼンスが金融危機以降小さくなっており、BNPやCSなど欧州系やカナダ、日本の銀行の独壇場だった。しかし、欧州当局も四半期末のみにポジションを落として規制比率を良く見せようという動きをWindow Dressingとして批判し始めたことから、米国規制のように期中平均を使うような方向へとシフトしてきた。

日本国債の取引は邦銀のシェアが高いというのと同じように、米国債なのだから米銀のシェアが高いという、通常の状態に戻ってきたように思う。規制のLevel Playing Filedが達成されつつあるのかもしれない。OFRのデータを見てみても、今年の1月からの米銀の躍進が目立つのが確認できる。

Risk.netは別のデータソースを使って、レポのヘアカットについて興味深い分析をしている。このヘアカットは、OTCデリバティブ取引の独立担保額やInitial Marginのように、市場変動に備えて多めに担保を取るために使われる。資産の価格変動が激しければ、このヘアカットが大きくなる。通常はヘアカットが5%であれば価値が100の国債に対して5のヘアカットを引いた95が貸し出されるのだが、Risk.netの記事はこの95をヘアカットと呼んでいるようだ。

ファニーメイやフレディマックが発行する住宅ローン担保証券のレポに対して、JPMが平均(実際はメジアン)53%の「ヘアカット」を取っていると試算している。これは米国債で一般的に使われる102%よりは低いとのことだが、若干理解しにくい。おそらく100の担保に対して53を貸すということなのだろう。同じレポに対してBoAは102%のヘアカットを使っているとのことで、これは米国債で一般的に使われるヘアカットと同じで、102の担保で100貸付をするということものである。

ヘアカットの分析については興味深い示唆が含まれていると思われるが、データの特質をもう少し理解してみたい。いずれにしても米系がレポのシェアを取り戻しているのは興味深い。最近ではSLRからストレス資本へと重要性がシフトしており、SA-CCRの導入も行われた。これによってレポビジネスの資本賦課が下がっているのかもしれない。あるいは欧州銀に対する資本規制が厳しくなってきたという側面もあろう。しばらくこの流れに注目してみたい。

取引報告義務違反による罰金

JPMが為替取引の報告漏れでCFTCに罰金を払った。FX Swapは報告対象外と理解していたところ、実際は報告対象となっていたとのことで2015年9月以降の報告漏れを修正している。FX Swapの中でもトムネ(Tommorow-next)についての報告漏れのようだが、こうした解釈はなかなか難しい。確かにトムネの場合はSpotとFowardの組み合わせとはいえ、スポットと同じくらいに短期である。Spotのように対象外と判断してしまったのも無理はない。

証拠金規制や清算集中規制からは FX Swapは外れているが、取引報告の対象ではある。CFTCとしては、こうした悪質でない報告漏れについても断固とした態度を示したということなのだろう。ただし、$850,000の罰金ということなので、他のケースに比べると破格の安さである。

こうした取引報告にかかる手間を考えると、集めたデータが有効活用されることが望まれる。昨今では、取引報告をするシステムが動かないというだけで取引が止まることもあるため、その負担は小さくないからだ。とはいえ、アルケゴスのリスク集中が当局報告データに表れていたという分析もあるので、正しいデータを提出していくのは重要である。

とはいえ、デリバティブ取引の場合さまざまなVariationがあるので、たとえばExotic Derivativesの想定元本をどう報告するか、為替のストリップを通貨スワップとして報告すべきか、その場合の金利は何%になるのかといった細かい疑問はいくらでもある。罰金を取られるということになると、一つ一つ確認をする方が無難なのだろう。いちいち質問に答える方も大変だ。デリバティブの知識がないと、妥当な判断が難しいものもある。

実はこのような様々な規制が導入されたことが、新規参入の障壁になっているような気がする。新しく銀行を作りたいと思っても、こうしたルールにすべて従うには、専門家を雇ってシステム開発もしなくてはならない。金融の役割からすると仕方がないのかもしれないが、新規参入がなくても技術革新に後れないよう、金融機関同士が切磋琢磨していくしかないのだろう。

HVAとは

2020年のコロナショック時にXVAデスクのヘッジコストが上昇したときに、HVA(Heading Valuation Adjustment)というものがマーケットで一時期話題になった。当然デリバティブ取引を行うと、それを満期または解約されるまで、継続的にヘッジしていかなければならない。マーケットの変動が大きく、ビッドオファーが広がった時にヘッジをすると、そのヘッジコストが想定を超えてしまうことがある。CVAの初期の頃から認識されていたコストであり、おそらく何らかの形でプライシングに含める銀行が多かったものと思われる。XVAトレーダーの間ではFriction Costとも呼ばれ、CVAの数パーセントを追加するといった簡単な方法を使っていたところもあっただろう。

基本的には将来かかってくるであろうヘッジコストを見積もるものであるが、参照デリバティブ取引の価格変動が大きかったり、クロスガンマが大きい場合にはそれなりのコストになり得る。計算手法については、Burnett(2021)[1]などがあるが、本書執筆時点ではCVAと別途にHVAの詳細なモデルを持っているところは少ないものと思われる。また、バランスの取れたポートフォリオを持っていて、内部でリスク相殺をすることができればHVAは少なくなるかもしれない。また、XVAトレーダーとしても、リスクが発生すれば直ちにヘッジを調整しているわけではなく、取引コストを見ながらある程度タイミングをはかってヘッジをしている。したがって、銀行の規模、トレーディングポートフォリオの質、ヘッジポリシーによってHVAが変わってくる。

XVAチャージにはヘッジコストを織り込む必要があるのは間違いないが、CVAのように標準的な手法で計算されるようになるかは今のところ不明である。また、会計上リザーブとして計上するにもハードルが高い。ただし、トレーディングデスクで解約時に備えてビッドオファーVAを取っていたり、ポジションが集中してる場合にConcentration VAを取ったりするケースもあるだろうから、特に目新しいコンセプトというわけではない。IFRSなどの会計上こうしたリザーブが認められるにはまだ時間がかかるだろうから、HVAがCVAやFVAのように確立された価格調整となっていくかどうかは、現時点ではわからない。ただし、コストが存在しているのは確かなので、プライシング上、何らかの形で考慮され続けるのだろう。


[1] Benedict Burnett, “Hedging valuation adjustment: fact and friction”, Risk.net, Feb 2021

コモディティの証拠金

ニッケルや欧州の天然ガスなど、市場変動があまりにも激しい取引がコモディティには多い。生産者や商社にとっては価格ヘッジをすることは重要なのだが、本来ヘッジしているはずでも証拠金の額が膨大になり、破綻の危機に瀕するという可能性がある。取引所取引の場合は、証拠金をなくすことができないので、相対で無担保取引をしたいというところが増えてきても不思議ではない。

とはいえ、ヘッジ取引を提供する銀行の方も無担保で取引をすると突然大きなリスクを抱えることになってしまう。当然リスク管理部門からは、市場変動が激しいのだから当初証拠金(IM)の水準を上げるよう指示が入ったり、無担保取引を有担保にしたいというニーズがある。

銀行の信用枠を使うというのが一つの解決策だが、あとはポジションを減らすしかない。だが、それにはコモディティ取引を行える金融機関が絶対的に足りない。資本規制上もあまり有利な商品ではないので資本コストもかかる。

昨今では、急激な市場変化を受けてVaRが大きくなる傾向があり、VaRベースで計算しているIMの水準も大きく跳ね上がっている。特にコロナショックやロシアのウクライナ侵攻を受けたコモディティ価格の乱高下など、VaRで管理しきれない市場変動が頻発している。2022年のLMEのニッケル価格のような変動に備えてIMを設定すれば、取引自体が不可能になってしまう。

そして、単に保守的なIM金額を設定してしまうと、市場変動が生じた時のIMとVMの合計額がカウンターパーティーの純資産を大きく超えていたということにもなりかねない。複数のディーラーと取引をしているカウンターパーティーの場合は、全体の取引量とIMの量を見積もり、それが会社の担保拠出能力の範囲内に収まるのかどうかを確認する必要がある。

コモディティ取引の場合は、スポット価格が大きく動く一方、フォワードの価格はそれほど動かないということが多い。何らかの供給不安があれば短いところの価格は大きく動くが、1年先や2年先のフォワード価格については、生産能力や輸送能力を調整することができるので、比較的穏やかな動きになる。したがって、一度に100万トンの取引をするのではなく、毎月10万トンを10か月のようにタイミングを分散させるのも重要である。つまり全体の金額というよりは1か月にどのくらいの取引をするかというのが重要になってくる。

CCPや取引所においても、こうした時間軸で取引量を絞るということが必要なのかもしれない。

市場流動性低下が深刻になってきた

G30(金融問題に関して様々な調査を行う国際的団体)のWebinarで、前米財務官のガイトナー氏が米国債市場の流動性問題に言及している。本人のコメントはYutubeでも公開されている。この中で、米国債の流動性低下を懸念しており、米国レバレッジ比率であるSLRを見直すべきと述べている。

Covid-19による市場混乱期には米国債と連邦準備預金をSLRの分母から一時的に外したが、昨年2021年3月にその期限が切れている。その際にSLRの見直し作業に着手するという発表があって、市場の期待が膨らんだが、その後特に具体策は出てきていない。今年2022年中には、バーゼルIIIの最終化に向けて市中協議を行うことになっているが、来年以降にずれ込むのではないかという意見が多い。そうすると2025年くらいまでは実際の施行には至らないということになる。

最近発表されたCCARの結果によれば、SLRが以前のような最大制約にはなっていないように見えるが、それでも大手銀行にとっては無視できないほどのインパクトがある。

今回はCiti、BoA、JPMのストレス資本バッファ―(SCB)が大きくなり、さらなるRWA削減が必要になっているが、これによって確かに市場流動性に問題が生じているように思う。もちろんその他の要因もあるだろうが、RWA制約がそれに拍車をかけているのは間違いない。これは米国債に止まらず、短期の為替取引などでも顕著である。

日本市場の流動性も直近極端に低下した。これは日銀の政策変更に対するSpeculationの方が大きいと思われるが、銀行のリスクテイク能力が下がっているという点では同じような問題なのかもしれない。この流動性だと、頑張って顧客のフローをつけた方が損をするという状況になってしまう。この間の先物 vs CTDショックのような市場変動が起きるとトレーダーも怖くて取引ができなくなる。

たとえ10年の金利は抑えられたとしても、抑えきれない部分については同様の波乱が起き続けるのだろう。そしてトレーダーが退場を余儀なくされ、更に流動性が低下し、ビッドオファーが開くことになる。それでも節約志向の強い日本では海外ほどにビッドオファーが開かず、それが更なるトレーダーの退出を招くという悪循環にならないか心配だ。YCC下の市場に慣れ切った平均回帰を狙うトレーダーが多くなっていると思うので、市場のダイナミクスが変化しつつある今、トレーディングデスクは、非常に難しい舵取りを迫られている。

Term SOFRのニーズが高まってきた

LIBOR改革でUSDについては、来年6月の公表停止に向けて、LIBORからSOFRへの移行が進行中であるが、OvernightのSOFRに加えTerm物のSOFRの取引が増えているようだ。LIBORのように3か月LIBOR、6か月LIBORのようなTermのついたSOFRなのだが、Overnight物の流動性を高めるためにTerm SOFRの利用が制限されてきた。

特にローン市場においてTerm SOFRが使われているので、米地銀を中心にこれをヘッジしたいとうニーズが出てきている。しかし、インターバンクではTerm SOFRを使ってはいけないということになっているので、エンドユーザーのみに流動性が限られている。ディーラーサイドとしては、地銀などのエンドユーザーとはTerm SOFRが使えても、それをディーラー間でヘッジすることができず、ベーシスリスクを抱えることになってしまっている。

したがって、ローンヘッジの方向となる固定払いのニーズだけが増えて、その割合は8:1と偏っているという意見もある。そのため、Term SOFRの固定金利は通常のSOFRに比べて金利が高くなっており、エンドユーザーにとってもコスト高ということになる。Term SOFRのローンが$1.2tnを超えたという統計もあり、SOFRの流動性は充分に高まってきたので、そろそろインターバンクのTerm物の利用も解禁しても良い時期に来ているのだろう。そうすると金利キャップやスワップションなど、その他のプロダクトにも広がっていくことになる。

そういえば日本のTerm物の議論はどうなったのだろう。TORFが開示されて1年が経ち、ライセンス契約をした金融機関も多いはずだが、マーケットではあまり話を聞かない。確かに先物vs現物すらヘッジしにくくなった現状では、これ以上のベーシスリスクが増えるのは勘弁してほしいところだが、マーケットが落ち着けば取引が増えるのだろうか。

米国ストレス結果発表

FRBの年次ストレステストの結果が公表された。最悪のシナリオでも自己資本比率が9.7%となり、最低資本要件を満たせるということで、特に大きな波乱はなかった。今年のシナリオは失業率10%まで上昇し、商業用不動産価格が40%の下落、住宅価格が28.5%下落、株価が55.5%下落というものだった。

しかし、個別に詳しくみていくと各行ともさらなるRWAの削減が必要であり、今後のマーケットの流動性に影響がありそうだ。特にCitiの結果が思ったより悪い。SCB(ストレス資本バッファ―)が3.6%となり、CET1比率のターゲットが11.5%から12%に上がりそうだ。Q1の比率が1.4%だったことを考えると、引き続き自社株買いに制限がかかる可能性が高い。

CitiはSA-CCRに移行した後にRWAを削減する必要に迫られ、為替取引などで急速に取引を減らしているとRisk.netなどに報道されていたが、これで更にリスク削減の動きに拍車がかかりそうだ。CitiのSCBは2020年が2.5%、2021年が2.7%だったため、これが3.6%になったというのは結構な上昇だ。詳細はSeeking Alphaにて紹介されている。

そのほかJPMとバンカメもSCBが0.8%から1%上昇し、株価を下げた。これを見ると、銀行は引き続きRWA削減を継続しなければならず、引き続き市場流動性に対する影響は発生しそうだ。