「金融」カテゴリーアーカイブ

米国レポ市場の安定性強化策

米国金融安定理事会(FSB)が、ストレス状況下での流動性アクセスの回復力を向上させるための政策をまとめた。予想通り、CCPや取引所のような多数の参加者が直接取引できるようなプラットフォームの活用が謳われている。マージンコールによって年金ファンドが資産売却を迫られたり、投資家の解約請求を受けたりすることが多くなる一方、銀行がバランスシート制約のため取引を受けられなくなっているため、米国債市場が幾度も混乱してきた。少なくともCCPで清算すればバランスシート制約からは一定程度解放されることになる。

FSBは、過去10年間に起きた国債市場の変化によって、ストレス下において流動性が極端に低下するようになったと認めている。そしてそういった状況において流動性を提供すべき金融機関が満足に仲介機能を果たせなかったと結論づけている。結局は銀行がその役割を果たせなかったので、中央銀行がそれを補完した形になっているというのは、個人的な感覚にも合う。

当然のことながら、かといって銀行規制を緩める方向に動く訳ではなく、今回はノンバンクによる仲介機能の拡充を訴えている。ノンバンクが参加してくるとなると、同時に市場監視、モニタリングなどを強化する必要がある。銀行に対するモニタリングはかなり厳格になったが、ノンバンクやその他のレポ市場への参加者に対しても同等の透明性を求めていく必要がある。

米国や英国では、過去10年間に債務債務が約2倍に膨らんでおり、英国でも1.5倍になっている。当然国債市場も大きくなるので、この透明性、流動性向上は急務となっている。そこで今回のCCP案が出てきた訳だが、CCPによる清算は参加者のコスト増から、清算集中義務を掛けない限りは取引が増えない可能性にも触れている。とはいえ、国債現物取引とレポに対して清算義務を課すのはおそらく現実的ではない。だが、個人的には資本規制を考えると銀行にとってはCCP清算にも一定のメリットがあると思っている。ノンバンクによるAll to Allプラットフォームについては、考え方としては正しいのだろうが、これが市場の主流になるにはかなりの労力と時間が必要だ。

それにしても、こうした市場の機能安定化のための検討が真剣に議論されているというのは称賛に値する。政府債務、国債市場の規模を考えると、日本でももっとこうした検討がなされても良いと思う。もちろん、日本でも有識者を集めた会議や検討は多数行われているが、CCP、新たなプラットフォーム、取引報告など、FSBが議論している詳細というよりは、もっと日本の国債マーケットはどうあるべきかといった大所高所にたった意見が中心であり、かなりハイレベルな印象がある。検討会に参加している委員の役職が高すぎて現場から離れているのからなのだろうか。もっと日々実務に携わる専門家が細かいところまで議論をする場があっても良いかもしれない。

銀行とIT

海外で銀行とFintechの提携が急増している。米国通貨当局(OCC)のMichael Hsu氏が先週コメントを出しているが、銀行とFintechの連携について懸念を表明している。指数関数的にこの連携が広がっているため、事務フローが複雑化しすぎており、このままのペースでいけば、何か大きなトラブルが発生するというのが主な懸念だ。ここまで複雑に責任分担が細分化してくると、ガバナンスや責任の所在が不明瞭になり、トラブル発生時にも責任の押し付け合いが発生するかもしれない。

銀行に対しては様々な規制がかけられているが、Fintechとの役割分担を前提とした規制にはなっていない。どの当局が何をカバーすべきかも明確になっていない。最近では銀行が出資するFintechがかなり多くなっている。Upsideを取るために何でもかんでも投資しているような印象すら受ける。

日本では、一部IT企業との連携がニュースに出るくらいで、海外のようなスタートアップ的なFintechとの連携はあまり聞かれないので問題になっていないが、逆に海外との差がどんどん拡大しているように思える。

確かに今後の金融業はFintechとの共同なしにはやっていけない。金融機関内部のIT部門では、自社に必要なテクノロジーの開発には熱心だが、業界全体のプラットフォームを作ろうという話にはならない。日本でこのようなプラットフォームを立ち上げようというFintech企業が出てこないのは淋しい限りである。こうした企業はほとんどが大手銀行を飛び出した人材によってつくられている。終身雇用のもとでは、なかなかこういった技術革新は起きにくいのかもしれない。また立ち上げたとしても、人を採用するのに苦労し、解雇すらできないので海外で起業した方が格段に楽である。

もう一つHsu氏の指摘で面白いのは、各当局があまりにもCryptoに注目しすぎて他の重要な規制がおろそかになっているというものだ。はやりではあるし、人目を惹きやすいからなのだろうが、確かに欧米の規制ではCryptoをどうするかという話が良く聞かれるが、銀行内部の人間からすると、どこか関係のない世界のように思えてくる。確かに将来的に極めて重要なテーマにはなってくるのだろうが、それにここまで時間を使うよりは、喫緊の課題に対処すべく、時間を使った方が良いというのは正しい指摘なのだろう。

Dirty CSAは主流になるか

先週も書いたが、英国債の価格変動を受けてDirty CSAがにわかにマーケットで話題になり始めた。FTなど各種メディアで報道されているからか、問い合わせも増えてきている。適格担保に現金以外の社債等を含めるDirty CSAを使うと、CTDVA等の評価調整が必要となり、取引の時価に影響を与えることから、通常であれば望ましくない。ただ、今回の財政支出に端を発する市場変動に備えるため、適格担保を広げたいというニーズが急速に高まった。

ただし、既存の契約を完全に変更してしまうというよりは、緊急避難的に英国債や社債を一時的に適格とするといった、時限措置を取るところが多そうだ。ニッケルや天然ガスでも見られたことだが、コモディティの世界では、あまりDirty CSAを気にせず、適格担保を広げたり、CCPから相対に移したり、無担保取引を増やしたりという動きがみられたのだが、金利の世界では、極力プライシングをSharpにするために、あくまでも一時的措置という位置づけになっているのが興味深い。それでも1年から5年の時限措置と報じているところもあり、思ったより長い期間にわたる措置といった印象だ。おそらくこの期間に応じてかなりの手数料を支払っているのだろう。銀行にとってもこれを簡単に受け入れてしまうと、ROE低下につながるので対価が必要んになる。

今回は、急速な金利上昇により年金基金が苦境に陥り、何とかしてほしいという声を受けて国債買い入れに踏み切った印象だが、これを永遠に続けることはできない。結局金利変動が激しくなってしまっている。問題は担保にある訳だから、本来であれば、中銀がレポファシリティを設けるといった措置を取ることはできなかったのだろうか。あるいは、レバレッジ比率規制やNSFRといったバランスシート規制を緩めて、銀行がCollateral Transformation Serivceをやりやすくするといった方法も考えられる。そうすれば、Dirty CSAなどを使わなくても、手持ちの債券を現金に変換することができる。

また、そもそもDirty CSAであってもレバレッジ比率やNSFRといった指標に影響しないので、銀行もDirty CSAを受け入れやすくなる。あとは、前回も提案したマージンコール向け融資(またはLC)を銀行が提供するという方法もある。

やはり、金利やインフレーションが変動するたびに、マージンコールに応えるために資産売却が起きると、市場変動をさらに加速させてしまう。そもそもマージンコールはカウンターパーティーリスクを減らすためのものなので、何らかの解決策が求められる。

例えばこうした年金ファンドが銀行やCCPに固定金利を払って、Dirty CSAのカウンターパーティーから固定を受けるBack to Back取引を行っておけば、金利上昇時には銀行やCCPから現金担保を受け取れる。そして反対再度のDirty CSAのカウンターパーティーに債券を担保として拠出すればよい。こうしておけば、金利上昇時に現金を得るというオプション取引が完成する。もちろん金利低下時には逆のことが起きるが、逆に金利低下時には所要担保は減っているはずなので問題ないはずである。または単純に銀行と金利キャップやスワップションの取引を行っておき、金利上昇時に現金担保を受け取れるようにしても良い。

いずれにしても、考えれば色々なことができると思う。こうした動きが出てこないのは、トレーディング部門と担保管理部門が完全に分断されてしまっているからなのだろうか。それともカウンターパーティーリスクやバランスシート規制の制約なのかもしれない。しかし、一時的Dirty CSAを使って多額のFeeを払うよりは、ましな取引もあるように思う。

Level Playing Fieldは達成不可能なのか

米国SA-CCRでは、事業会社向け取引が有利だが、欧州は金融機関向け取引に有利になりそうだ。各国の差については、Risk.netにまとめられている。今回フォーカスになっているのはいわゆるAlpha Factorだが、これは、計算された結果を保守的にするために加えられる掛け目であり、通常1.4である。

米国では、事業会社向け取引について、リスクベースの資本計算、レバレッジ比率、Large Exposureの計算において、1.4ではなく1を使うことが認められている。

欧州では、資本アウトプットフロアを計算する際に、事業会社だけでなく全ての取引に1を使うことができる。アウトプットフロアの適用は2025年からだが、内部モデル方式で計算された所要資本について、標準法×72.5%が下限となる。米国はCollins Floorがあるので標準法×100%だが、オペレーショナルリスクやカウンターパーティーリスク資本については除外されているので一概に比較はできない。そもそも欧州はCVA資本賦課の対象から事業会社を除いている。

オーストラリアなどは内部モデルが使えないため、アウトプットフロアは無意味となる。資本計算が各国で大きく異なるものになってきているため、Level Playing Fieldが空しい掛け声となってしまっている。日本はすべて1.4のAlphaを使うことになっている。いつも思うのだが、どうしてBaselで共通の指標を作ったのに、わざわざすべての国が異なるパラメーターを使うのだろうか。国の金融市場の特徴に併せて微調整をするというのならわかるが、特にローカルマーケットの特徴に併せて調整しているように思えないケースも多々ある。更にこうした規制の適用開始時期も国によって異なる。

各国の状況をみながら極端に触れず中道を行く日本が最もバランスが取れているようにも見えるが、もう少し日本が世界の議論を引っ張っていけるようになればと思う。

マージンコールを中銀が支える構造になってきた

英国のペンションファンドが、10/14の英国の緊急国債買い入れプログラム終了に備えて、2%-3% もの金利上昇に備えて担保資産を増やしていると報道されている。これまで1%~1.5%くらいの金利上昇に備えていたものがほぼ倍になった格好だ。そのために、多額の現金を保有しておく必要があり、そのための資産売却も加速している。金利上昇時に資産を売却して現金比率を高めるオペレーションを行うと、更なる金利上昇を招くことになるので、プロシクリカリティを助長する。

マージン規制導入前にはそれほど意識されなかったことかもしれないが、昨今の規制強化によって、これが新たなリスクとして浮上してきた。以前であれば、レポによって資金調達をすることができたが、こちらは銀行に対する資本規制のために、困難になっている。

英国の30年国債金利は5%近くまで約1%急上昇した後、英国中銀のサポートによって一気に戻った。しかしその後は更に金利上昇圧力がかかり、4.3%程度にまで上昇してきている。金利急上昇時には多くの年金ファンドがマージンコールに充てるために、多くの資産を売却したことが予想される。これは年金基金のリターンが悪化する方向に働く。

これを防ぐには、CSAの適格担保を広げるか、レポによって資産を現金化するしかない。ここ10年程度の間にCSAをできるだけ標準化し、いわゆるDirty CSAを減らそうという試みが続けられてきた。これによってプライシングの透明性が増し、取引コストが下がるというメリットもあった。これを完全に元に戻すということは得策ではないと思うのだが、生命保険会社と同じように年金基金も適格担保拡大に動く可能性は高い。適格担保を広げて追加担保に応えられるようにするメリットが、Dirty CSAのもとでプライシングが悪化するデメリットを上回りつつあるようだ。

本来はマーケットのボラティリティを落ち着かせるのが一番で、資本規制を最適化して銀行が流動性を提供できるようにするのが二番目に望ましい。ただし、市場変動を抑えるのは不可能で、規制緩和も難しいだろうから、結局は中銀が流動性をサポートするしかない。こうなったら中銀がレポファシリティを提供してマージンコールのための現金を市場に放出する他ないのかもしれない。あるいは商業銀行がマージンコール向け融資プログラムを拡大するという流れも出てくるだろう。

ちなみに、英国でこのような金利の混乱が発生したことを受けて、次はどうこかという議論が大きくなってきている。海外からすると最初のターゲットとしてみられるのは当然日本ということになる。おそらく様々な金融機関で円金利が1%上昇したらというシナリオ分析をしているものと思われる。

今回ばかりはそんなことは起きないと、海外からの懸念を突っぱねることはできないような雰囲気になっている。日本人と海外の認識のギャップも大きくなっており、市場も神経質な動きが続くだろう。国債と先物、CCPベーシスなど、国内と海外のViewの違いによって動く市場が壊れないかという懸念もつきまとう。あと半年の間に、日本の市場にも大きな混乱が生じるかもしれない。

CSがクリアリングビジネスを急速に縮小

CSのクライアントクリアリングサービス部門が、急速に業務を縮小しているようだ。通常は顧客のためにクリアリングした場合に、その顧客分の証拠金によってクリアリングビジネスの規模を測ることが多いが、このクライアントマージンが$25mmにまで縮小したと報道されている。$25mmというとほぼ撤退に近い水準だ。

昨年であればスワップで$14bn、先物オプションで$9bnあったクライアントマージンが$0.025bnになったというのだから驚きだ。アルケゴス、グリーンシル等の問題があったのは確かだが、こうした事例を見ていると、一つのミスが銀行全体の屋台骨を揺るがしてしまうということが明らかになってきている。

いくら他のビジネスで収益が上がっていても、こうしたリスク管理の失敗に対する当局や世間の目は非常に厳しくなっている。せっかく収益を上げても、こうした事件はその影響を一気に吹き飛ばしてしまう。こうなってくると、セールスアンドトレーディングとともにリスクマネジャーの重要性が高まる。また、セールスアンドトレーディングのヘッドにもリスク管理感覚が求められるようになってきている。

マージンコールが市場の最大の関心事になってきた

英金利が100bp乱高下し、マージンコールで混乱が生じた。さすがに1%を超える金利上昇が起きると、昨今の証拠金規制下では、巨額のマージンコールが起きる。変動証拠金のみならず当初証拠金も増えるので、その影響は以前にもまして大きくなる。英国の年金基金などは、金利上昇時に一部ヘッジを閉じなければならなかったようだ。実際マージンコールに応えられなくなるところが続出したために、英国当局が国債を購入し混乱を抑えにかかったという報道もある。

金利が急上昇してヘッジを外し、その後金利が急低下して下にもどったため、ヘッジされていないポジションから損失が発生しているところもあるようだ。日本の当局が良く使う「急速な市場変動は望ましくない」という言葉はある意味正しいのかもしれない。

今年はニッケル、天然ガスなど急速な市場変動が多かったが、その時にいつも問題になるのはマージンコールである。CCPや相対のカウンターパーティーに拠出するVM/IMが巨額になり、金融の安定を揺るがしている。そもそも清算集中規制や証拠金規制が市場の安定のために導入されたのだが、それが逆に市場変動を生み出しているという皮肉な状況に陥っている。こうなると、当然円金利も突然100bpとか動くのではないかという意見が海外では急速に強くなる。そのうち銀行がマージンコール向けの貸出にフォーカスし出すかもしれない。また、政府系金融機関が融資プログラムである政策科目の一項目にマージンコールを入れたりするかもしれない。

取引所取引の場合はサーキットブレーカーを発動させたり、日中の変動幅を制限することができるが、為替や金利となると、介入や資産購入が行われることになる。為替市場のように、多数の参加者があり流動性が高い市場においては、マーケットが行き過ぎれば逆をとる動きが出てくるので、G10通貨についてはある程度の抑えは効く。ただし、金利になると、バランスシート規制や資本規制のおかげで、反対方向を取れる市場参加者が限られてくるため、結局政府が何とかするしかない。

おそらく今後は、流動性を高める方向に注力し、それができないマーケットについては、サーキットブレーカーのような価格制限に頼るという方向性になっていくのかもしれない。

資本コストの上昇がマーケットを変え始めている

最近Citigroupが資本コスト削減のためあらゆるビジネスから手を引き始めているというニュースが出ているが、今回はSubscription-lineファイナンスの大幅削減というニュースがFTに出ている。

Subscription-line ファイナンスとはクレジットファシリティともいわれるが、プライベートエクイティファンドのようなクローズエンド型のファンドに対するブリッジローンの一形態である。このローンは実際投資される資産によって担保されているわけではなく、投資家からの資金を当てにして行われるローンである。通常30-90日の短期のファンディングであり、金利も低く設定される。したがって、銀行としては収益性が低いが、顧客関係を構築し、将来的に他のビジネスで補うことを目的に行われるローンである。

今後数か月のうちに$65bnの残高を$20bnまで減らすとのことなのでかなりの削減だ。Citiがこの分野でトップ3のシェアを占めていることを考えるとマーケットに与える影響もあるだろう。FTの記事の内容から推測するにG-SIBバッファが大きな制約となっているようだ。

日本では、銀行はある意味公な立場にあると考えるバンカーが多いためか、ROEが低いからといって経済を支えるビジネスから撤退することを嫌う傾向がある。しかし、海外ではそれによってROEが低下してしまうと、配当政策等に制限がかかる。今年に入って行われているビジネスモデルの見直しは、ROEなどの資本効率を重視する米銀としては当然の行動かもしれないが、規制がそこまで足かせになっていることの裏返しなのだろう。

バランスシート制約がきつくなると、流動性が低下し年末の市場変動が激しくなる傾向があるため、本年末も予断を許さない動きになりそうだ。資本コストという点を考えると、ローンの他、国債取引、レポ、通貨スワップなどが難しくなるが、今年からはSA-CCRと激しい市場変動から、短期の為替取引やコモディティ取引にも影響が出るかもしれない。レポに関してはこれまで寛大な態度をとってきた欧州系の銀行の態度にも変化がみられるため、あとは市場を支えるのが邦銀と中国の銀行くらいになるのだろうか。

決済短縮化とポストトレード処理の重要性

米国では決済期間のT+1化が進められているが、欧州でも検討が始まっている。欧州金融市場協会(AFME)から、T+1を推進する際の潜在的な利点と課題というホワイトペーパーが出ている。既に多くの国でT+1化が進められているので、グローバルな慣行と整合的というメリットはある。

決済期間が短縮化されるということは、決済リスクが小さいくなるということで、必要な証拠金、資本、流動資産の削減につながる可能性がある。

デメリットとしては、T+1に移行すると当然オペレーションにかけられる時間が少なくなり、ミスも許されなくなるので、人海戦術では対応しにくくなる。所謂ポストトレード処理に負荷がかかるようになる。期限内に決済ができないフェイルが増える可能性もある。特に時差がある場合は、こうしたリスクが多くなる。

全般的なトーンとしては米国より若干慎重な印象を受けるが、様々な国が参加しており、決済システムも複雑な欧州ならではの視点も含まれている。時差という意味では大きな影響を受けるアジアも同じだろう。特にあらゆる国の資産を含むETFが対応に苦慮するという点が最大の問題点とされている。日本でも信託がこれに対応できるかどうかがカギを握るだろうから、その意味では同じ問題を抱えているといえる。

ただし、方向性としては、面倒なのでT+2のままで良いという方向性ではなく、様々な課題はあるものの、早めに準備を始め、T+1に向けて検討をすべきという結論のように読める。特にT+1化には様々なシステムかと自動化が必要である。

業界のタスクフォース設立が最終的な結論の一つとなっているが、日本においてもポストトレード処理の高度化については、早急に検討に着手する必要があると感じた。

ターム物RFRを巡る混乱

USのターム物SOFRがインターバンクで取引できないことが問題となって久しい。6月くらいから、ARRCのタスクフォースで定期的に議論は続けられているようなのだが、未だに公式見解は出ていない。裏付けとなる取引がないままにターム物の取引量が増えてしまうと、LIBORの二の舞になるという懸念が未だ強いようだ。

もともとは確か昨年夏ごろに出たARRCのベストプラクティスガイダンスにおいて、エンドユーザーのキャッシュ商品のヘッジのみとされたのがきっかけだと思うが、CMEのライセンスの問題もあるようだ。ディーラーとしてはエンドユーザーの取引を受けると、とりあえず後決め複利のSOFRスワップでヘッジするしかないのだが、ターム物と通常のSOFRとのベーシスが数ベーシス動く環境の中では、日々のPLが出てしまう。

特にこれが7-8ベーシス動くとなると、そもそも取引をしてよいかという問題になる。何かの拍子で10bpを超えるような動きが発生すれば、取引が止まるほどのインパクトになるかもしれない。そもそもブローカースクリーンの存在しないターム物SOFRが正しくMarkされているかどうかと問題もある。ターム物SOFRリンクの社債を銀行が発行するという方法もあるが、今のところ発行量は少ない。

クリアリングのニーズもあるが、未だ取引量がそこまで増えておらず、デフォルトオークションでそのポジションを解消できるかどうかも不明なので、まだ時期尚早だろう。取引が増えて流動性が向上しなとクリアリングができないが、クリアリングできないと取引しにくいという鶏卵の状態になっている。

一方他のマーケットに目を転じると、ドル以外ではターム物のニーズはそれほど大きくない。もしかしたら、米国でローンのフォールバックにターム物を選んでしまったからこうなってしまったのかもしれない。確かに金利前決めは美しいが、要は金利決定から金利支払いまでの日数がもう少しあればよかっただけなのではないという意見も聞かれる。

日本も同じくフォールバックがターム物になっており、TORFが作られたが、これまでの米国の動向をみている限り、TORFの取引量が急速に増えるような見通しは残念ながら聞こえてこない。さすがに米国ではターム物SOFRは存続するだろうが、GBP、EURについては、ターム物の議論はほとんど進展がない。まだ結論を出すのは早いだろうが、他の通貨にも影響があるので、今後のドルターム物SOFRの動向には注目が集まる。

Observation Period Shift

米国債取引のクリアリングが増える

ついに米国債市場改革の案がでてきた。9/14のSECのアナウンスメントによると、米国債と米国債レポのクリアリングの範囲をヘッジファンドなどの他の投資家に広げることが提案されている。現時点では清算集中義務を課す形ではなさそうだが、少なくともFICCで清算できる市場参加者は増えることになる。現状は13%がクリアリングされているのみだが、これが広がれば銀行にとっては所要資本が減ることになる。SECのすべてのコミッショナーが賛成したとのことなので、あとは業界の市中協議へと移る。

特に米系やバランスシート制約や資本制約によって米国債のレポができなくなっていたので、クリアリングが進めば流動性が向上するものと予想される。ただし、投資家にとってはコスト増につながることから、実際にどれくらいの取引が清算されるのかは定かではない。銀行が資本コスト削減分を価格に反映させ、クリアリングした方がコスト安ということになれば、すそ野が広がるかもしれないが、単にコストが上がるだけだと相対取引を継続したいという希望もあろう。

デリバティブの場合は、規制で清算集中義務をかけて強制的にクリアリングに移行させたが、清算集中義務をどの規模のファンドにまでかけるのかは非常に難しい問題である。おそらく証拠金規制対象のファンド等が一つの目安となろうが、これで取引が手控えられてしまえば元も子もない。今後の制度設計、どれくらいのファンドがCCPに移るかに注目したい。

コモディティ価格に対する欧州の当局介入

EU当局が天然ガス市場についての介入を強めている。あらゆる分析ペーパーを見てみても、かなり力を入れて分析している様が伺われる。世界中のリスクマネージャーも日々TTF/JKM/HHの価格を確認していることだろうが、これがかなりのマージンコールの混乱を引き起こしている。適格担保を広げるとか価格キャップを設けるといった話が議論されているが、今回は欧州の代表的価格指標であるTTFから別の指標にシフトするという話がEU当局から出ている。

LIBORからの移行ができたということは、当局の後押しがあれば市場をシフトさせることは可能なのだろうが、現状ではこれに変わる指標が見つからない。現状は欧州、アジア、米国のマーケットが結構独立して動いている。今はまだ時期尚早であるが、アジアにおける天然ガスの需要が年々高まっていることを考えると、今度はJKMが代表的指標として使われるようになるかもしれない。しかし、最近はJKMもかなり変動が激しくなっている。

他国では、天然ガスの輸入業者に対して政府保証をつけて市場の安定性を確保しようとしているという話も報道されていたが、これは日本にとっても重要な問題だと思う。欧州のようなコモディティデリバティブに関して提言を行うのは日本では経産省になるのだろうか。日本の場合は金融機関といよりは商社が重要な役割を果たしており、信用力が高く、エンドユーザーも大企業が多いので、それほど大きな問題にはなっていないのかもしれない。特にCCPの利用が少なく、相対取引が多いために、欧州のような当初証拠金の問題は少ないだろう。

とは言え、天然ガスが電力やガスの価格に影響を与えていることを考えると、ヘッジニーズが増えてくる可能性がある。今度何か危機があったときに、欧州は準備万端だが日本が混乱に陥らないよう、デリバティブ市場についての分析、提言をする機能を拡充していくべきなのかもしれない。ロシアの影響が軽微だからということなのだろうが、海外と日本の天然ガスへの関心度の違いが顕著なので気になるところである。

CCPのポーティングは現実的か

CPMI/IOSCOからクライアントクリアリングのポジション移管についてのペーパーが出ている。クライアントクリアリングサービスを提供するCCSP(Client Clearing Service Provider)がデフォルトした場合、その下にぶらさがっている顧客は、別のCCSPにポジションを移すことになる。そうすれば顧客としてはCCSPである銀行のリスクにさらされることなく、ポジションを維持することができる。これはこの仕組みを作った当初からそう思っていたのだが、現実には若干無理のある仕組みである。参加者デフォルト時に、各ディーラーがトレーダーをCCPに派遣してポジションクローズをする仕組みもそうだが、いざというときに、それがうまく機能するのかは定かでない。

このレポートでは、顧客の同意なしにポジション移管ができれば、ポーティングと言われるポジション移管が成功する確率が高まると述べている。またマージンの取り方についてもGross Marginの方がポーティングが容易だとしている。Gross Marginとは、各顧客のマージンを別々に管理するもので、全体としての効率は下がるが、顧客ごとに十分なマージンが確保されることになる。これに対してNet Marginでは、CCSPの自己ポジションとその顧客ポジションのすべてをComingle、つまりまとめて管理する。

CCPはすべてのポジションが見えているので、破綻参加者の傘下のポジションを受け入れやすいCCSPを探すこともできるし、顧客の同意なしにすぐにそれが移せれば、マーケットの混乱を抑えることができるという理論である。

ここで一つ抜け落ちているのが、クライアントクリアリングサービスを提供する銀行の立場である。もしクライアントクリアリングが収益性の高いビジネスで、皆が喜んで顧客ポジションを受け入れたいというのなら、ここで提案されているプランは成り立つのかもしれない。ただ、現状の規制のもとでは、資本コストが大きくかかり、いざというときのContingent Liquidityを提供したり、清算基金を拠出したりしなければならないので、銀行としては、ごく一部の優良顧客だけに提供したいサービスとなっている節もあり、喜んでポジション移管を受け入れる銀行は少ないのではないだろうか。

特にCCSPがデフォルトするということは、そこそこの大手の銀行が破綻しているということであり、その破綻直後に大きなポジションを引き受けることは非常に困難だと思われる。CCPとしては、混乱を抑えるためにPortingについて2日以内(長くて5日)といった期限を設けていることが多い。移管するポジションのサイズにもよるが、資本や流動性に対するインパクトを計算して社内承認を取るには、そもそも2日では不可能に近い。なにしろ同じことが複数のCCPで起きていることが想定されるので、各CCPのポジション移管リクエストにてんやわんやになるだろう。

レバレッジ比率規制やポジションリミットの一部免除でもない限り、おそらくポーティングは単なる理想論に終わってしまう可能性が高い。実際は、破綻懸念が大きくなる前にポジション移管の交渉を行って徐々にポジションをシフトするというのが一般的だと思うが、これが一気にデフォルトに陥ってしまった場合は大混乱になる。

ここまで取引清算の重要性が増している以上、資本規制や流動性規制も見直す時期が来ているように思う。クリアリングブローカーも10年前はこれが一つのビジネスの柱になると思っていたのだが、蓋を開けてみるとあまりにコストがかかり、結局Payしないビジネスということが明らかになり、CCSPから撤退する金融機関も増えた。サービスの差別化も難しいので、常に手数料引き下げの圧力もかかる。結局顧客のリスクを取っているという整理で資本規制が作られており、アルケゴス以降こうした大きなポジションに対するリスク管理が厳しくなっていることが予想される。CCPを金融取引のメインに据えるのであれば、もう少し全体としてのインセンティブメカニズムを見直すべきではないかと思う。

天然ガス価格が国家レベルの問題になってきた

欧州天然ガス市場の混乱を受けてEU当局が対応策を真剣に検討している。通常天然ガスの価格については、欧州のTTF(Title Transfer Facility)、アジアのJKM(Japan Korea Marker)、米国のHH(Henry Hub)を見るが、中でもTTFの動きが特に激しい。おそらく銀行のリスク管理者であれば、これが巨額のマージンコールを引き起こしているため、日々モニタリングしていることだろう。

TTFとJKMのスプレッド取引なども良く行われる取引だが、TTFをICE、相対でJKMのように取引していると巨額のマージンコールがかかる。もはや天然ガスは有担保で取引するのが不可能なくらいに市場変動が激しくなっている。欧州では当局と取引所の経営陣との間で盛んにミーティングが開かれているようである。3日前の9/7には、急増するマージンコールに焦点をあて、天然ガス市場の安定策が話し合われたようだ。

あまりの価格変動が生じているため、市場を閉鎖すべきとか、取引可能な価格帯を制限するといった意見まで聞かれるようになってきた。市場を閉鎖すればマージンコールの問題はなくなるだろうが、ヘッジ取引ができなくなる。どうしてこのような案が真剣に検討されているのかよく分からないが、せいぜいサーキットブレーカーのような価格制限をかけるくらいしかできないと思う。

効果が期待できそうな策としては、CCPの適格担保に銀行保証を加えるという案である。これであれば、実際に現金担保が必要なくなり、銀行が信用供与をする形になるため、流動性は悪化しない。EMIR上銀行保証であるLCは既に担保として使えるが、現金担保に裏付けられていなければならないとされている。したがって、結局現金が必要になるので、あまり意味がない。この制限を緩めれば銀行が信用供与をすることで、マージンコールの負担を和らげることができる。

銀行が融資をしてその資金を担保に出すのなら、銀行が信用状をCCPに出しても、信用リスクという観点からはあまり差はない。現金が入ってこないので、その資金を使いまわしたりすることはできないので、ファンディング上は不利だが、昨今のマーケットをみると、これが最も実効性があり、かつ容易に実施できる施策なのだと思う。

高騰する電力価格が一般消費者の生活を脅かしているため、天然ガスの確保はもはや国レベルの問題になりつつある。政府が保証状を出しているケースもあるとまで報道されている。ロシアの動向が天然ガス市場に大きく影響を及ぼしているが、国レベルで補助金を出すとか、エネルギーの節約を求めるほかに、デリバティブ取引にかかるマージンコールを保証するというのも、有効な政策の一つになりうるかもしれない。

レバレッジ比率の計算から国債が除かれる日は近い?

前FED副議長のRandal Quarlesが、米国債市場の流動性改善のため、米国のレバレッジ比率であるSLRの規制緩和を主張している。感染拡大期にSLRの分母から米国債と連邦準備預金を除いた一時的免除を、恒久措置とすべきという主張だ。このところ各政府高官からSLRの改訂についてのコメントが多く出ていることから考えても、そろそろ何らかの緩和措置が発表されるのではないだろうか。

2020年には大規模金融緩和が行われ、米国債市場は極度に膨張した。銀行が保有する米国債も大きく増えたが、あまりに大きなポジションを抱え続けるとSLRが悪化してしまう。そこで先ほどの一時的免除措置が行われたわけだが、市場の期待も空しく1年後に期限が切れた後は、それが延長されることはなかった。その代わり、今後米国債市場を支えるために様々な見直し作業を行っているとう発表もあり、市場は将来の規制緩和を予想した。

一時的免除措置が有効だった時期には大手米銀のSLRは約1%程度改善していた。SLRが最大の制約となっている銀行もあることから、これはかなりのインパクトだ。もしこの緩和が行われると、米銀としては、積極的に国債の取引をすることができるようになる。ポジションを持てるのであれば、価格急落時には逆を取りに行くこともできるだろうし、マーケットメイク能力が拡大する。結果的に流動性が上がり、顧客サイドも売りたいときに売る、買いたいときに買うということできるようになる。

これでリスクが増えるかというと、銀行としてはリスクの高い債券の保有が増える訳ではなく、それでも信用力と流動性の高い米国債の保有が増えるだけである。なぜ直ちに緩和しないのかわからないくらいである。

Randal Quarles氏の後任のMichael Barr氏も、銀行の資本水準については懸念していないといったコメントもみられることから、おそらくQuarles氏と同じような考えを持っているものと思われる。ここで重要なのは、日本や他の国が歩調を合わせるかということである。グローバル銀行は、米国SLRだけが緩和されれば、まずはバランスシートを米国債に割り当てる。日本国債を持つよりは米国債を持つ方が資本対比の利益が大きくなるからだ。ひょっとしたら米国債の流動性が上がる一方、日本国債の流動性が下がってしまうかもしれない。

米国が金融引き締めを行えば円安が加速するのと同じで、海外の規制は日本にも及ぶ。すべてはバランスが問題だからだ。リーマンショック後は海外に比べ日本の金融緩和が遅れたために、急速な円高を招き企業倒産も増えた。レバレッジ比率の見直しなどについても、国際的な流れを見ながら機動的に動けるようにしておくことが望まれる。

証拠金規制最終フェーズGo Live

証拠金規制の最終フェーズであるフェーズ6が始まった。これで、2016年から段階的に導入が行われてきた証拠金規制がすべて導入されたこととなる。ほぼ同時期に中国のネッティングに関しても法改正が行われ、中国の市場参加者証拠金規制の対象となっている(欧州規制に関しては6か月の猶予期間があるが)。

これで、ますます担保コストを意識した取引が行われることになるだろうし、担保が入ることによって取引が難しくなるものも出てきている。しかも、当初証拠金の計算に使われるSIMMモデルのパラメータ更新が毎年行われるため、昨今の市場変動を考えると、将来の担保拠出コストが非常に重要になってくるのは間違いない。

SIMMのパラメータは毎年12月に見直されるが、IMは過去4年とストレス期1年のデータから計算されるため、どの期間を使ってCalibrateするかによってIM所要額が変わってくる。Arcadiaによると、2021年12月にSIMMのパラメータ改訂(SIMM2.4)では、必要担保額が17%から33%増え、平均的には29%の増加と推計している。昨今の金利上昇を考えると担保額が増えるとともに担保拠出コストも上がっていることは想像に難くない。これを考慮すると全体的に1.5倍になっていてもおかしくないとのことだ。

一応IM Thresholdがあるので、計算したIM所要額が$50mmに満たない場合はカストディアンのセットアップをする必要はないが、常にIMを計算してモニタリングしていく必要がある。こうしたモデルのパラメーター変更によってIM所要額が上昇すれば、$50mmを上回る可能性も出てくる。突然これを上回ると2か月以内といった短期間の間に契約締結から分別管理のオペレーションを準備しなければならない。

コロナショックが始まった2020年、ロシアのウクライナ侵攻の影響を受けた最近のデータが今後入ってくると、特にコモディティや株式について、IMがかなり増える可能性がある。米金利の上昇もあるので、金利についてもIMが一定程度増えてもおかしくない。SIMMのパラメータ更新には1年のラグがあるため、最近のコモディティの市場変動の影響が出てくるのは2年後くらいになる可能性もある。

一部のExchange Marginは既に引き上げられているため、SIMMのパラメータ変更が遅れると、一時的とは言え取引所取引から相対取引にシフトさせたいという市場参加者が出てきてもおかしくない。各市場の相互関連性が強まっていることを考えると、こうしたArbitrageが起こらないように歩調を合わせていくことも重要だろう。

米国債の流動性低下が問題になっている

世界一の国債マーケットともいえる米国債の流動性低下が著しい。今年の6月からFEDが金融引き締めを始めたことによる影響が日々の取引に表れ始めている。米国債を取引するバイサイドによると$50mmを超えるようなサイズの取引の場合は、小分けにして取引をするようになっているという。しかも流動性の低いオフザランを避ける投資家が多くなっている。リーマンショックの時期を除くと過去20年で最低の流動性とも言われている。

取引量自体は月間$630bnとのこのことなので、そこそこの水準を保ってはいるが、取引しているトレーダーの感覚としては非常にやりにくいとのことだ。$100mm単位の取引の場合ヘッジが難しくなるので、$25mmとか$50mmに分けて取引しないとマーケットが動いてしまう。20年国債などはあまりの流動性のなさから取引を敬遠するディーラーさえいるとのことだ。

コロナショック来に資産買い入れを拡大し、マーケットに溢れた債券を急速に吸収しようとしているため、その反動がきている。銀行のトレーダーにとってみると、バランスシート規制があるために多くの在庫が抱えられない。価格が飛ぶので大きなサイズの取引に対してプライスを出すのがためらわれる。

しかし、日本からすると、米国債でここまで大騒ぎになっているのが不思議なくらいである。JGBとレーダーからしたら何を甘ったれたことをという感じだろう。日本国債はそもそももっと問題が深刻であり、流動性は比較にならないほど低い。回号が異なるだけで価格の動きが変わり、突然プライスが飛ぶことも多い。金利が動かないためトレーダーの数も減っており、今や収益のためというよりは、日本の市場を支えるためにボランティア活動をしているような錯覚にすら陥る時がある。

米国に必要なのは銀行のマーケットメイク機能の拡大であり、日本に必要なのは、金利の市場機能の回復なのだろう。

米国当局が取引データの分析に本腰を入れ始めた?

米国SECとCFTCが共同でヘッジファンドやファミリーオフィスの取引報告の厳格化を進めようとしている。10月11日までパブリックコメントを募集しているが、賛否両論となっている。

とはいえ、金融危機以降、金融市場の資金が銀行からファンドに移っており、もはや銀行のデータだけ見ていても全体像がつかめなくなっているのは確かだ。プライベートファンドの総資産は金融危機の初期には2兆ドル程度だったのが昨年末には10倍の20兆ドルに膨らんでいる。ここで対象となるのは、5億ドル以上の資産を有するファンドという提案になっている。日本だとデリバティブ想定元本3000億円を閾値としているので、米国の方が多くのファンドを網にかける形になっている。

報告内容はビットコインの保有額を含めた総エクスポージャー、借入、ファイナンス関連の契約となっている。これによって当局がポートフォリオの集中度合い、レバレッジなどを把握できるようになる。最近こうした取引報告の厳格化のニュースが良くみられるが、これは当局がこうしたデータの分析をかなり進めていることの裏返しなのだろう。これまでは、とりあえずデータを集めておこうということだったのだが、昨今の流れをみると、データ分析に本腰を入れ始めたように感じる。

当局同士のつながりも深くなっているので、おそらくこれが他の国でもスタンダードになっていくと思われる。その意味では日本では信託銀行にデータが集まっているため、海外より楽にデータが集められるのかもしれない。あとは集めたデータをどのように分析し、それを規制や金融政策に活かしていくかということになるのだろう。

デジタルレポ

レポ取引と言えば通常オーバーナイトだったり、期間が定められているが、それが日中の何時に決済されるかは決まっていない。これが技術進歩によって可能になれば、例えば3時間レポとか6時間レポというものが可能になる。レポ金利もオーバーナイト金利ではなく3時間分の金利を計算することができる。東京時間終了後からNY時間開始までといった短期間の資金ニーズもあるだろうから、それなりに意味があると思う。

JPMとBroadbridgeが既に、ブロックチェーン技術を使いこうしたサービス提供を開始している。こうした技術により、決済時間を分刻みで設定できれば、証券のフェイルがなくなり、効率性と流動性が上がる。

膨大な証券ポートフォリオを持っている投資家などが、こうした契約に入っていれば、分単位で使っていない証券を貸し出し資金を得ることができる。JPMのプラットフォームではJPMコインを使わなければならないが、通常の現金でこれを可能にするプラットフォームも存在している。

こうした技術革新を使えば常にドル調達のニーズがある日本でも、JGBなどの資産によって、より安価にドルを確保することができるかもしれない。たまにはこうした金融の革新も日本から生まれてほしいものである。

マーケットメイクからブローキングへ

銀行の社債保有額が過去最低レベルに落ち込み、市場の流動性が枯渇している。フェイルの件数も過去10年で最高レベルに増えており、担保不足も発生している。バランスシート規制の強化から、ディーラーサイドには常に在庫を減らす要請がある。ポジションを抱えていると、それだけで財務部門に日々コストを払う仕組みになっているため、トレーダーはなるべく在庫を最小限にしようとする。そしてAged Positionと言われる、長期にわたって保有する債券に関しては保有期間に関するリミットが設けられ、極力ポジションを回転させることが求められる。つまり、顧客の債券売りニーズがあったとしても、それがすぐに外せないリスクの場合は、顧客取引を躊躇してしまう。

そして、夏休み期間には、こうしたポジションを外せないため、必然的に社債を保有したいという銀行は少なくなる。当然債券価格は少しの取引でも乱高下しやすくなり、実際の取引がなくても気配値だけで値が飛んでしまう。特に戦争やインフレなどの不確実性リスクが高い時はなおさらである。実取引に基づかないレートは市場操作の可能性があるということでLIBOR改革が行われたのだが、社債市場に関しては、皮肉にも規制強化によって、価格の透明性が低下しているように思う。現場の感覚だと、マーケットメイクという業務が難しくなり、単なるブローカー業務がメインになってきたように感じる。

規制緩和はかなり困難であることが予想されるため、今後はバイサイド同士で取引をする仕組みや、上場物のように売り手と買い手を結び付ける場を拡充していくしかないのだろう。