米ターム物金利を巡る混乱

ある意味タイミングが悪かったとも言えるのだが、米地銀がローン金利としてその利用を拡げているターム物SOFRの流動性問題が大きくなってきた。ターム物SOFRは依然銀行間での取引が制限されており、CCPによる清算もできない。つまり相対取引で地銀のリスクをとって取引がなされるので、米地銀に対する信用不安が大きくなった現状ではどうしても取引コストが上昇しやすい。

ターム物SOFRの流動性がないから、資本コストが高いからという理由でもともと取引コストが上昇していたところに、地銀の信用リスクの問題が重なってしまった。来月2023年6月末に公表停止をUSD LIBORが迎える中、金利市場の混乱要因となっている。通常金利スワップのビッドオファーは1bpを超えることは少ないが、これが最大10bp近くになったこともあると報道されているが、かなりの異常事態である。

ディーラーサイドとしては、流動性がない商品はレベル3資産に分類せざるを得ず、資本コストがかさむ。ヘッジができないためトレーダーがリスクチャージを増やすのも致し方ない。カウンターパーティーリスクもあるため、この地銀ショックの中では、若干のXVAをかけるところもあるかもしれない。ARRCの制限もあることから、日本でもターム物SOFRを取引する際には、コンプライアンス違反にならないよう、慎重に検討しなければならなくなる。

CCPサイドとしては、流動性がない商品を清算してしまうと、万が一参加者破綻があった場合には、ポジション解消のコストがかかることから、そのクリアリングには慎重にならざるを得ない。当初証拠金や清算基金の計算も保守的にせざるを得ない。

地銀サイドとしては、LIBORからの移行を進めるため、言われた通りターム物SOFRに移行しただけなのに、これほどのコストを払わざるを得なくなっている。

誰も得をしないこのような状況になってしまったのはなぜなのだろうか。個人的にはローンの代替金利にターム物を第一順位としてしまったのが間違いだったように思うのだが、後の祭りである。ターム物の利用が進んでいない他の通貨ではあまりこのような問題が起きていない。日本でもターム物のTORFが少しずつ使われ始めているが、TIBORもあることから大きな動きにはなっていない。

相対取引からCCPにおける清算取引へ、LIBORからリスクフリーレートへという掛け声のもと業界で努力が続けられてきたのだが、このターム物に限っては、清算取引から相対取引へという逆の流れが出来上がってしまっている。そして銀行に対する信用不安が大きくなっているにもかかわらず、信用リスクを取った上で取引をしなければならず、そのヘッジもできない。

ここまでくると、ディーラー間取引を認め、クリアリングの方向へ進むしかないのではないだろうか。