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米国FedNowのアナウンスメント

先週木曜日、米国FRBが即時資金決済のFedNowシステムの立ち上げを発表した。これを使えば、24時間いつでも企業向け、個人向けの送金が瞬時に可能になる。FRBの発表によると当初参加者は一部の銀行に限ら、完全に利用が拡大するには数年かかる見込みである。

PayPayやLine Payなどで友人に送金をすれば、瞬時に送金が行われるため、すでに実現しているのではないかと言われるかもしれないが、実際に銀行に資金を入金し、それを現金として使うには時間がかかる。結局中小企業の資金繰り問題は、こうしたスマホ送金では完全には解決することができない。

この米国のプロジェクトは8年をかけて議論されてきたそうだが、これにより、給料日支払いなどの事前決済やつなぎ資金を提供する金融サービスの必要性がなくなる。大手銀行間の決済システムもあるが、中小銀行などの参加が限定的であり、完全にすべての決済がここを通っているわけではない。

メキシコやブラジルなど、他の国でも同様の即時決済システムの構築は進んでいる。これが可能になれば、金融危機時の即時資金供給なども可能になる。

何よりもこれがデリバティブ市場の決済にも使えるようになれば、金融システミックリスク軽減につながる。現在のカウンターパーティーリスク管理の仕組みは、資金の不払いがあってからポジションを完全にクローズするのに2週間程度もかかるという前提で構築されている。当然少し保守的にはなっているのだが、前日末のマーケットをもとに時価評価し、マージンコールを掛ける。そしてその金額が確認できたら送金支持をして次の日の夜中が期限となる。それで送金が確認できなければ潜在的デフォルトの通知を行い、その後の猶予期間を経てデフォルト通知となる。

本来であれば時価評価を共通業界プラットフォームの中で瞬時に把握し、即時決済を行えば、ここまでの時間は必要ではなくなる。当初証拠金などもこうした時間を考慮して決められているので、即時決済が確保されるのであれば証拠金削減も可能になる。これはCCPなどで決済されている取引についても同様である。

日本もRTGSの仕組みがあるが、金融システミックリスク削減のために、決済周りの高度化をもっと推し進めても良いと思う。

JSCCのシェア拡大が確実なものとなってきた

円金利スワップマーケットでは、LIBOR改革後にJSCCのシェアが高まっている。以前は50/50だったマーケットシェアが、LIBOR改革後に70/30くらいでJSCCが優勢となった。一時的なシェアの変化という声もあったが、ここのところ70%で安定している。

米国CFTCが米国顧客のJSCCへの参加を認めるのではないかという報道も以前からみられるが、これが本当に可能になれば、JSCCの優位性は更に拡大する。直近では、2023Q2のJSCCのシェアは72.1%に上昇しているが、ここからさらに加速する可能性がある。

日本はLCHのシェアが低い数少ない国の一つとなる。実質的にLCHが日本顧客向けの清算を行えないので当然といえば当然なのだが、ここまでくれば、この制限を外したとしてもJSCCの優位は揺るがないだろう。

トレーダーとしては、流動性のあるマーケットで取引したいと思うのは当然であり、プライスもタイトに出せる。先物とのクロスマージンもあるので、JSCCで清算したいというニーズは揺るがない。

こうなると次のフォーカスは当初証拠金や資本コスト削減に移る。金利スワップについてはほぼマーケットが安定し、昨今の規制環境下においても取引も非常にやりやすくなった。しかし、スワップション、通貨スワップは引き続き相対で取引されており、カウンターパーティーリスクが存在しているため、資本コストも高い。特に通貨スワップについては、元本交換部分がSIMMに含まれていないため、グローバルでストレスロスや超過リスク量の多いところを並べるとどうしても日本のプレーヤーが多くなる。

昨今の為替相場の変動により、CSAの評価時点によっても担保コール額が変化し、Disputeも多くなる。日本以外では、Disputeを減らさないと資本コストが上がるので、極力時価評価がそろっていた方がよいのだが、これがなかなか難しい。LCHのSwapAgentを利用すればこれが一気に解決するのだが、他国に比べて日本では今一つ普及していない。

東証のPBR改革によって収益性に対する注目が高まったのは望ましいことであるが、同じような意識改革がデリバティブ市場でも起きることが期待される。

カナダでターム物の銀行間取引が認められる可能性

米国では、LIBORの二の舞とならないよう、オーバーナイトのSOFRに流動性を集中させるべく、タームSOFRの銀行間取引が実質的に制限されているが、カナダではターム物の利用が許されるかもしれない。

カナダのリスクフリーレートはCORRA(Canadian Overnight Repo Rate Average)と呼ばれるが、カナダでベンチマークについて協議をするCARR(Canadian Alternative Reference Rate ) Commiteeから、ターム物のの利用を広く認めても良いのではないかというコメントが出されている。

カナダのマーケットの特性を考慮すると、ARRCのガイダンスに従う必要はなく、ターム物の銀行間取引はむしろ望ましいことなのではないかとのことだ。これが先例となると、他の通貨についてもターム物の利用が拡大するかもしれない。日本でもターム物の利用を制限すべきという意見は少なく、当局サイドからも利用を促進するようなコメントも聞かれることがあるので似たような状況なのかもしれない。

そもそもここまで流動性が上がってくれば、LIBORで起きたようなことがSOFRで起きるとは考えにくい。何よりも金融機関内部の雰囲気が10年前とは全く異なる。わざわざ刑務所に行くリスクを冒してまでターム物周りで不正を働こうという人は少ないうえ、金融機関内部でもそれを取り締まる人員が10年前の数倍に膨らんでおり、システム的にも不正を防ぐ仕組みが整備されている。

カナダには、信用リスクを含んだレートであるCDOR(Canadian Dollar Offered Rate)というものもあるが、これもあと一年で公表停止となるが、CORRAへの移行は順調に進んでいる。したがって、カナダの金利指標はCORRAに集中されていくことになる。将来の方向性としては、オーバーナイトのリスクフリーレートを中心としつつ、先物とターム物が使われるという方向性になるのだろう。そして米国のAmeriborやBSBYのようなクレジットセンシティブレートが細々と使われ、TIBORも同じような位置づけになるのだろう。

リサーチアンバンドリング規制緩和に向けた動き

英国がリサーチアンバンドリングの規制緩和を行うと報道されている。来週月曜には何か正式な発表がある模様だ。もともと欧州MiFID IIによって施行された規制だが、リサーチサービスを提供することによって取引を取るという慣行を不透明とし、この二つを完全に切り離すという規制だった。

当時このブログでもこの規制の問題点について書いたが、そもそもこれが本当に金融取引の健全性と透明性の向上に資するのかはよく分からない規制であった。日本でも、欧州顧客に対してうっかりリサーチを提供してしまうと規制違反になるのではないかということで、リサーチ提供を止めるところも多かった。欧州の投資資金が入っているファンドや、欧州銀行のアジア支店など、どこまでが欧州規制の対象になるのか、かなりの議論をしたことが思い出される。結局誰も規制違反はしたくないので、保守的にリサーチ提供先を限定し、結局不利益を被ったのは顧客という状況になってしまった。

利益相反の問題は少ないのかもしれないが、無料で情報提供をすることによってビジネスを取ってくるコンサルや法律事務所も多い。当然取引があるからと言ってリサーチの内容を恣意的に変えてはいけないが、ここは手数料を別にするよりは、検証をして必要があれば行政指導や罰金を科すという方法でも問題ないように思う。

そもそもリサーチを無料で受け取ることに慣れてきた投資家が、喜んで手数料を払うようになるかというと無理がある。結局手数料がなければアナリストへの給料も払えなくなるので、あまりニーズのない小型株などのリサーチが廃止されるという、当たり前の結果となった。投資家がリサーチに払うコストも1/5に減ったという報道もあったが、各金融機関ではリサーチアナリストのリストラが進み、業界全体のアナリストの数が減ってしまった。結局情報が少なくなり、顧客がアクセスできるリサーチの数も減り、金融マーケットに対してプラスのインパクトがあったとは思えないという結果になっている。

この英国の動きを受けて欧州規制がどう変わるかに注目が集まる。くしくも米国ではこの欧州規制の域外適用の免除期限が間近に迫っているので、世界的な影響がある。欧州でもリサーチアンバンドリング規制緩和に向けた議論が加速するのではないだろうか。

信用リスク移転はクレジット市場を活性化させるか

Basel III最終化によって米国においてCredit Risk Transfer(CRT)の一部としてCLNが認められるようになるのではないかという期待が高まっている。これまでは、米国のRegulation Qに明確にCRTとして定められているのはCDSヘッジと保証であった。それ以外のリスク移転が不可能ということではないのだが、CLNがこれに該当するとは明確には書かれていない。

CDSヘッジと似たようなものなので実質的には全く問題ないはずだが、昨今の規制環境下において無理してリスクを冒す必要はないという風潮があるのだろう。大手銀行は特にリスク削減効果を狙ってCLNを増やすということは行っていない。したがって、実質的にはリスク削減が行われているのだが、その効果をRWAに反映させることはできていない。

一方地域ごとにはこれが認められているところもあるため、地銀がこれによってリスク削減効果を享受している。大手銀行に対する規制を強化し、中小銀行に対する規制を緩和してしまったことからSVBショックが起きたのだが、ここでも同じような構図になっている。

しかしこれがBasel IIIの最終化の中で可能になれば、CLNマーケットのすそ野が広がり、CDS取引の拡大にもつながる可能性がある。リスクが高いとされる商業用不動産担保ローンなどは、ポートフォリオ全体の12.5%だけでもヘッジすればリスクウェイトを100%から20%に下げられる。これは極めて大きな資本削減につながるので、このルールの明確化の効果は大きい。また、ローンポートフォリオのクレジットリスクを担保付で投資家に移転すれば、Credit Substitionが可能になる。担保が国債ならウェイトが10%に、現金であれば0%になるため、こちらの削減効果も大きい。

長年の規制強化と罰金によって、大手金融機関は君子危うきに近寄らずという状態になっている。少しでもリスクがあるなら諦めるという風潮が支配的になっている。一方で中小金融機関やヘッジファンドなどの銀行以外の市場参加者のプレゼンスが上がってきており、リスク量も増えている。今後の金融革新はこうした大手銀行以外の投資家や、スタートアップからでないと起きにくくなってきているようにも思う。

Term SOFRのクリアリングに向けた動きが見られ始めた

CMEがTerm SOFRとOvernight SOFRのベーシススワップのクリアリングを銀行と検討していると報道された。これまではOvernightのSOFRに取引流動性を集中させるために、Term SOFRの取引には制限がついており、クリアリングもできていないため、コスト高となっていた。これが可能になると、これまでエンドユーザーとのTerm SOFR取引のヘッジに苦戦していた銀行が、容易に取引できるようになり、市場の流動性と効率性向上に資することとなる。

しかし昨日も書いたように、当局はSOFR以外のベンチマーク取引を拡大することには慎重になっているため、BSBYやAmeribor同様、Term物SOFRに対して厳しい立場を取るのではないだろうか。そもそもディーラーマーケットがない取引をCCPでクリアリングするのが望ましいのかという問題も残る。

銀行の信用リスクを織り込んでいるCSRがIOSCO準拠と認定されないという問題の他に、信用リスクは含まれていないものの、ローンなどで幅広く使われ始めているターム物金利のクリアリングもできないということで、米金利市場はあらゆる市場分断が起きている。その分のコストは銀行やエンドユーザーが負担している状況であり、早晩何らかの対策が必要となる。

日本円のターム物金利であるTORFは未だ取引がそれほど多くないためこのような切迫した状況にはなっておらず、欧州でも同様である。利用者が多いからか米金利だけが特殊な状況となっているが、この流れはもうしばらく続きそうだ。個人的にはターム物のクリアリングは歓迎すべきであり、その分のリスクは流動性チャージなどによってIMを多めにとって対応すれば良いと思う。そして流動性が上がってくればその流動性チャージを減らして徐々に正常に近づけていけばよい。

CSRについては未だ方向性を見極めるための時間をとっても良いが、Term SOFRの方はそれほど不正リスクなども大きくないものと思われる。相対で取引が残るのもリスクなので、クリアリング自体はそれほど問題視する必要はないのではないだろうか。

いずれにしてもOvernight SOFTとTerm SOFRのベーシスを安定させないと不効率である。そしてこの市場を分断しておくメリットはあまりなく、当局が気にするようなLIBORの二の舞にもなりにくいのではないかと思う。

日本でもJSCC-LCHベーシスリスクをヘッジするためにSPVを使ってStructured Notesに仕立て上げてEnd Userに売るケースが見られるが、同様のスキームを使って、このOvernight SOFTとTerm SOFRのベーシスをヘッジしようという動きもみられる。このベーシスは流動性の問題から広がることがあるが、結局最終的にはゼロ近辺に収斂するというViewを持つ投資家が多いため、若干のレバレッジを掛ければ、おそらく取引が可能だろう。もちろん当局やARRCの判断も重要だが、ここまで市場取引を制限する理由があるかどうかは、デメリットも含めて議論する必要があろう。

LIBORの終焉と今後の金利指標

昨日ついにUSD LIBORが終焉を迎えた。もちろんSynthetic Liborで一部残るものもあるが、一般的には昨日2023年6月30日がLIBOR最後の日として記憶されることになるだろう。JPYやGBPなどの他の通貨はすでに2021年に移行を終えているので、日本ではあまり大きなニュースにはなっていないが、それでもYahooトップニュースにLIBORのことが出ていたのが興味深かった。

こうなると当然CSR(Credit Sensitive Rates)がどうなるかということに注目が集まるのだが、最終レポートが出ると言われていた昨日を迎えても、当局サイドからのアナウンスは見つからない。協議に時間がかかっているのかもしれないが、IOSCOから適格ベンチマークとして認定される可能性は極めて低いものと思われる。

このCSR問題は、シリコンバレーバンクなどの米地銀破綻を受けて米国では大きな問題になっている。そもそもLIBORの代替レートであるSOFRだと、基本的にリスクフリーレートであるため、銀行の信用力を反映していない。つまり、リスクフリーレートで貸付をしているところに銀行危機が起き、ファンディングコストが上がってしまうと、銀行としては損失になってしまう。

これを解決するためにBSBYやAmeriborなどのCSRが出てきたのだが、そのレート決定の裏付けとなる実取引が少なく、いわゆる逆三角形問題が起きている。EYなどの独立監査によるとIOSCO準拠とのことなのだが、結局LIBORと同じような不正につながるのではないかと当局が懸念するのは至極当然と言える。

それでもBSBYの場合裏付けとなる現取引は1日$600bnを超える日もあり、SOFRには及ばないとはいえかなりのボリュームになっている。Euriborの参照取引などに比べると遥かに取引量が大きい。SECのゲンスラー氏がこれを認めるとは全く思えないが、パウエルFRB議長からはAmeriborについて肯定的なコメントも出ている。こうした状況に鑑みると、IOSCOがTIBORのレビューを行い、その透明性に疑義を示していないことはラッキーなのかもしれない。そのため、日本では海外のようなCSRの問題が起きていない。そもそもIOSCOはベンチマークを認定する団体ではなく基準やBest Practiceを示すだけなので、今後どのような議論になるかはよくわからない。

結局銀行のファンディングコストの急上昇に対する懸念は強いものの、実際はSOFRをベースとした取引がメインとなっている。英国などでは、そもそもCSRの話もほとんど聞かれない。EURもEuriborからESTRへのシフトは起きるかもしれないが、CSRの議論は盛り上がっていない。本当に銀行危機が起きたら大変なことになるのだろうが、当局としてはそんなことが起きないよう規制を強化するというのがメインシナリオなのかもしれない。日本の場合はもう少し金利に関しては融通が利くというかFlexibleな印象があるので、本当に銀行危機が起きれば、金利を上げられる余地は他の通貨に比べて大きいような気がする。

まずはIOSCOの出方に注目したい。

TONA先物がまずまずの取引量となっている

TFXが3月31日にTONA先物の取引を開始してからもうすぐ3か月となるが、そこそこの取引が行われているようである。日々の取引量や取引価格はTFXのウェブサイトで公表されている。OSEが取引を始めたのは5月29日だが、こちらも取引が見られている。

日銀の政策変更をめぐる不透明感も取引増加の背景にあるのかもしれないが、TFXとOSEの価格差を取るような裁定取引をするヘッジファンドまであると報じられていた。ディーラー以外の参加者も見られることから、ほとんど取引されないのではないかと疑問視する向きも多かった中では、まずまずの出だしといったところなのだろう。

金利スワップについても取引量が増えており、特にLCHに対するJSCCの優位が鮮明になってきている。これでUSクライアントのクリアリングが可能になれば、さらに流動性が上がってくる。TONA先物と金利スワップのクロスマージンが可能になれば、OSEのTONA先物の取引量も上がってくる可能性がある。

海外では為替でも先物やCCPでの清算を行うケースが増えてきた。資本規制が緩和される可能性は極めて低いため、ROEを向上させるためには先物やCCPへのシフトは今後も必然の流れとなるだろう。これまで日本ではあまり意識されてこなかった分野ではあるが、ここへ来て資本効率にフォーカスが当たり始めている。今後もさらに取引手法に変化が起きていくことが予想される。

理想のカウンターパーティーリスク管理とは

欧州ECBがカウンターパーティーリスクに関するガバナンスとリスク管理についてのコメント募集を行っている。募集が始まったのが6/2で、期限が7/14なので、比較的短期間の市中協議となるが、内容的にはそれほど大きな意見の相違がある内容でもなさそうだ。

対象となっている報告書はSound practices in counterparty credit risk governance and managementというもので、カウンターパーティーリスク管理のベストプラクティスのような形となっている。カウンターパーティーリスク管理のガバナンス、リスク管理手法、ストレステスト、WWR、デフォルトマネジメントなどの項目について、現行のベストプラクティスがまとめられている。

ガバナンス面では3線管理の重要性が強調されている。フロントオフィスの1st line of defenceと、独立したリスク管理部門である2nd line of defence、監査を行う3rd line of defenceのガバナンスと役割分担の重要性が強調されている。大手銀行はフロントに専門のカウンターパーティーリスクチームを設置しているものの、あまり効果を発揮していないというコメントも見られる。CCRに関する詳細な報告がシニアマネジメント層に報告されていないとも書かれている。マージンコールを始めとする詳細なリスク管理に対するトップマネジメントの関与不足も指摘されている。

確かに担保管理プロセス、WWRの管理、ストレステストなど、すべてのツールは揃っているが、トップマネジメントの関与があるかというと、このレポートがコメントしている通りなのかもしれない。定期的にリスク管理委員会などで報告はなされるが、トップマネジメントが、この深く突っ込んだ質問をしてくることは少ないのだろう。本来は、複雑でかなりの細部にわたるリスク報告書を平易な言葉で報告をしていくことと、CROだけでなくトップマネジメントがリスクに対して関心を持つことが必要なのだろう。

とはいえ、この10年の間にリスク管理に関しては大きな進歩が見られているのも確かである。以前であれば、ビジネスを推し進めたい現場と、それを抑えようという2線が対決するのが当然だったが、最近では、2線が承認した取引でさえも、ビジネスサイドのトップが否認するというケースもあるようだ。特に海外大手銀行では、アルケゴスのような大きな損失が発生すると、現場のマネジメント層も責任を負うことが増えてきたため、収益サイドに偏っていた現場のマネジメントのフォーカスが、若干リスク寄りに変化している。

最も効果を発揮しているのは、こうした損失が発生した時に現場のマネジメント層が個人的に責任を負うというプラクティスである。これは当初英国で始められた規制だが、米国でも似たような議論が出始めている。この場合の「責任を負う」とは、過去に支給されたボーナスが没収される可能性があることを意味する。こうなると、いくら収益が重要といってもリスクを気にせざるを得なくなる。だが、これが正しいリスク管理なのかどうかはよくわからない。

退職を控えたマネジメントなどが、すべてのリスクを避けるという行動にでることもありうるからだ。一方転職してきたばかり、着任したばかりのマネジメントにはこうしたインセンティブがなく、両者のせめぎあいとなる。だが、これが本当に金融機関の経営として健全と言えるのだろうか。やはり個人の生活とビジネスディシジョンは別に分けておいた方が良いと思う。そもそもこうした規制が海外で導入されるのは、上級管理職の報酬が極端に高すぎるからなのかもしれない。

とはいえ、現場のマネジメントがリスクに注意を払うのは良いことである。日本の場合はリスクはリスク管理部門、ファンディングコストは財務部門、資本コストや規制コストは企画部門のようにサイロに分かれていて、現場のトレーダーが資本コストやファンディングコストを気にしながら取引をすることが少ない印象がある。海外モデルが正しいとは言えないが、海外と日本の中間のようなところに正しい姿があるような気がする。

Non Financial Riskに対する資本規制強化

大手銀行の資本コストが20%アップというニュースが今月初めに大きな話題となった。資本コストの変更によって大きなビジネスの転換を余儀なくされた米系にとっては、こうしたニュースは個人レベルまで影響が及ぶ大問題であるため、各所から問い合わせが寄せられた。当然シリコンバレーバンクなどの銀行破綻を受けた資本規制の変更であり、トレーディング業務の割合の大きい大手銀行に対する影響も大きいと言われた。

これまでこうした資本規制の変更に翻弄されてきた債券ビジネスに関わる担当にとっては、またかという感じだったのだが、報道によると今回は少し様相が異なっていた。というのは、これまでは安全とみなされていたウェルスマネジメントに対する資本コストの増加が見込まれると報道されたからだ。

2007-2009年の金融危機では、トレーディング業務が狙い撃ちされ、それに対応するためにいくつかの銀行がウェルスマネジメントに舵を切った。こうした銀行の収益は安定し株価も右肩上がりとなり、従来巨額の収益をトレーディングから上げてきた銀行との差を広げていった。今では猫も杓子もウェルスマネジメントという風潮になっているのだが、今回の変更がこの傾向に待ったをかけるのかに注目が集まる。

こうした手数料収入にフォーカスしたビジネスは、確かにトレーディングから収益を上げるビジネスよりはリスクの振れ幅が少ない。しかし、今回注目されたのは、カウンターパーティーリスクやマーケットリスクではなく、不正や人的システムエラー、サイバー攻撃のようなオペレーショナルリスクに対する資本賦課の増加である。

金利ポジションの管理に失敗したSVBを始めとする地銀や中小銀行に対する規制強化は誰もが予想していたが、ウェルスマネジメントのような手数料ビジネスにまで規制強化の影響が及ぶとは思っておらず若干唐突感がある。確かに、昨今では虐待疑惑のかかる富豪と取引をしていたことから罰金を科される事件なども起きており、金融機関は、より社会的な責任を負うようになってきている。日本でも反社会勢力との取引が銀行を危機に追いやることもあるため、同じように状況にある。

虐待、環境破壊など、社会的に望ましくないとされる業界とビジネスを行っていることが、金融機関を危機に追いやることがあるので、確かにリスクとはいえる。つまり資金融通をするという金融仲介機能以外に、社会的公器としての役割が金融機関には求められるようになってきたということである。

従来は、カウンターパーティーの財務的健全性の検証にフォーカスしていたDue Deligenceが、それ以外のNon Financialな部分に及び始めたということである。日本では、こうしたリスクに対する罰金の額は少ないが、米国エプスタイン事件ではJPMは160億円にも上る罰金を支払っている。こうしたリスクはリスクの高いトレーディングビジネスを行っているとか、アルケゴスのような集中リスクを抱えるという伝統的なリスクとは性質が異なってくる。

今後はデフォルト損失やトレーディング損失にフォーカスするリスク管理者のほかに、KYC(Know Your Client)や顧客の社会的行動についても注意を払う担当が必要になってくる。そしてそのリスクを数値化し、資本コストとして割り当てていく必要がある。これはトレーディングビジネスのみならず、ありとあらゆるビジネスに関係してくる。

日本では反社会勢力に対する取引という観点で、もしかしたらこの分野では一日の長があるのかもしれないが、海外ビジネスを行う際には、日本とは異なり、巨額の罰金が科せられる可能性があることを考慮しながら、新たなプロセスを設けていかないと、日本の銀行だけが罰せられるということにならないよう、注意していかなければならない。

欧州CCPの利用の義務付けは欧州のためになるのか

EMIR3.0の一部であるActive account要件が物議を醸している。これはEUR金利スワップの一定程度を英国LCHではなく、EUのEurexでクリアリングするように定めたルールだ。LCHに比べると流動性に劣るEurexでクリアリングするということは、それだけ追加コストを払わざるを得なくなるということだ。LCH/EurexのCCPベーシスは、LCH/CMEベーシスとは異なり、10年で4bp程度にまで開くことがある。年金基金やアセマネなどで最良執行義務があるところなどは、コストの高いEurexでのクリアリングを義務付けられると、顧客との間で問題が起きるのではないかという懸念もある。

まだ具体的な数値が確定した訳ではないが、この要件が課されるのは2024年からなので、適用開始に向けて議論が大きくなる可能性がある。

Risk.netによるとドルスワップの80%は米国参加者によるものである一方、ユーロスワップの場合は、24%が欧州参加者によるものらしい。直感的にはわかりにくいが、ドルの場合は、米国参加者による取引がかなりの部分をカバーしている、つまり受けも払いもバランスよく含まれているということのようだ。したがって、CCPベーシスが拡大しにくい。一方ユーロの場合は、EUの参加者の取引がマーケット全体のバランスを表しているというよりは、70%の取引がEU外のグローバルプレーヤーによるものとなっている。つまり、EUの参加者にEurexの参加を義務付けても、一部のフローが移るだけで、結局CCPベーシスの縮小にはつながらない。

米国の場合は、CMEにおいて先物と金利スワップのクロスマージンによる証拠金の削減が可能になっていることからCMEでクリアリングするメリットもある。一方Eurexの先物は取引量が少ないため、クロスマージンのメリットが少ない。こうなると異なる通貨間の相殺効果があるLCHの方がマージンが少なくなり、コストが下がる。

また、年金基金に認められている清算集中義務の免除の期限が来週から切れることから、一方向(長期の固定受け)の取引が更に増え、ベーシスの拡大につながるのではないかという懸念がある。週明け以降のマーケットには注意したい。

中国オンショアスワップの行方

5/15に中国のSwap Connectの取引が始まったが、事前の期待とは裏腹に、今のところそれほど取引量は増えていないようだ。主な参加者は中国外の大手アセマネ、年金、保険会社といった、いわゆるリアルマネーの投資家となっている。

とは言え、興味を示す市場参加者が確実に増えているようなので、一定の時期を経れば急激に取引量が増えていくことが予想される。そうなると、これまでオフショアでドル差金決済をするNon Derivarableで取引されてきた金利スワップ(NDIRS)マーケットからのシフトが予想される。オンショアでDerivarableの金利スワップが使えるのであれば中国国債(CGB)のヘッジとしても最適である。流動性や取引コスト面でもオンショアの金利スワップは圧倒的に有利だ。

事実、Swap Connectの話が出てからというものオンショアとオフショアのスワップ金利の差は20bpから4bpへと縮小している。このベーシスリスクは中国のトレーダーの収益の源泉だったのだが、この取引戦略のうまみがなくなりつつある。

これまでBond ConnectやCIBM DirectによってCGBの取引をしてきたオフショア投資家のほとんどがSwap Connectに参加していくようになると予想されている。CIBM Directに比べると参加時に求められる手続きもSwap Connectの方が簡単なようだ。

それにしてもOnshoreとOffshoreでここまでマーケットが異なるということには驚きを隠せない。流動性にも大きな違いがある。これが社債になると、OffshoreでほぼDistress債のような価格で取引されているものでも、Onshoreではパー近くで取引されることもある。一連の市場開放策によってこうした差が収斂していくと予想する投資家も多く、実際にポジションを取っている人もいるようだ。確かに巨大なOnshoreマーケットが開放され、参加者が増えてくれば、ドルに次ぐマーケットが出来上がる可能性はある。当然政治的リスクはあるものの、無視できるマーケットではないだろう。

米国の決済期間T+1化がアジアに与える影響

米国で決済期間の短縮化が粛々と進んでいるが、アジアでは時差の関係から様々な問題点が指摘されるようになってきた。社債や株式の決済を来年5月28日の期限までにT+1にすべく作業が進んでいるのだが、実は米国ではそれほど問題がなくとも、時差の関係でアジアにおける作業が最も大変になるかもしれない。

例えばアジアの市場参加者が米国債を購入した場合、次の日に米ドルの確保をしてT+2で決済してきた。これがT+1になるということは取引がマッチした日に米ドルをSame Dayで確保するのがベストである。あるいは決済前に米ドルを持っておかなければならない。日本円はおそらく大丈夫だろうが、アジアの通貨の中には、取引日のNYクローズなどに為替を取ろうと思っても、時間帯的に流動性に難があるかもしれない。

CLSのカットオフであるNY時間18時に間に合わないと相対の決済を行うしかないが、そうすると決済リスクが発生してしまう。ここまでテクノロジーが進歩したのだから、即時決済などが進んでも良いのだが、なかなかこれに関しては技術革新が起きていない。

こうした点は以前から議論されてきたのだが、アジアからの懸念が十分に認識されないうちに、米国主導でT+1化が進んでしまっているような気がする。もう少しアジアからの主張を声高にしていく必要がありそうだ。

ISDA SIMMのAd Hoc更新が行われた

証拠金規制のIMについては、毎年決まった時期にパラメーターの更新が行われるが、今回は直近のボラティリティの上昇を受けAd hocで調整が行われた。マージンパラメーターの変更が遅きに失しているという批判を受けて通常のサイクル外で変更をかけたものと思われる。このVersion 2.5からVersion 2.5Aへの変更は来月から実施されるが、主に金利関連の変更が行われている。

ドルやユーロなどの標準的なVolatilityの通貨に関するもので15年までの年限に関するものだが、6か月までの短い年限では若干リスクウェイトが低くなっている一方、3-5年回りの年限で引き上げが行われている。逆にHigh Volatility通貨については短期の上昇が著しい。唯一のLow Volatility通貨である円については、10年回りのリスクウェイトが上がっている。日銀の政策修正を巡って10年近辺の変動が大きくなったのでこれは当然だろう。クレジット物、株式、為替、コモディティなどには全く変化はない。

これによって相対取引のIMが7月15日から引き上げられることになる。10年円金利スワップのRisk Weightが2割程度引き上げになるのが、日本にとっては最大の影響となるだろう。あとはHigh Volatility通貨であるブラジル、メキシコなどの短期スワップのIMが急上昇し、ドルについては5年回りが15%増となる。

Clarusの分析では一般的なポートフォリオでIMが4-17%、平均にして14%増加すると見込まれている。最近IMが急上昇したコモディティのIM増加幅に比べるとマイルドな変化と言えるが、円金利についての変更はそこそこのマーケットインパクトがあるかもしれない。原則論からするとIMのファンディングコストをチャージするMVAの上昇につながる。

今回は年次更新のサイクルの外で行われた最初の変更となるが、今後は四半期ごとの更新などへと議論が移っていくかもしれない。市場変動に合わせて柔軟に変更をかけるというコンセプトは問題ないのだろうが、あまりに頻繁にこれが変わると、ファンディングコストがぶれるため、ビジネスプランが立てにくくなるうえ、プロシクリカリティを誘発しかねない。とはいえ、市場が動いてからのカリブレーションがかなりのラグを持って行われるのも問題なので、今回のような、大きな変動があったときに機動的に変更をかけるという方法にするしかないのだろう。

ただし、頻繁な変更に備えて社内のシステムテストなどのプロセスをもう少し自動化していく必要はありそうだ。

顧客保護を意図した規制により顧客の利益が損なわれる例

5/15に中国のSwap ConnectがGo Liveとなり、グローバルで注目を集めている。ここへ来て、JSCCで長らく問題となっていたUS Personのクライアントクリアリング参加が突然注目を集め始めた。米国の市場参加者はCFTCの制約により、Exempt DCOと言われる外国CCPに参加することができないのはこのブログでも何度か説明してきた。

もともとは、米国の市場参加者を保護するための制約だったのだが、流動性が高まるJSCCの円金利スワップ市場や、今回新たに始まったSwap Connect経由の中国の金利スワップも取引することができない。完全に米国の参加者にとっては不利なのだが、CFTCは自分で自分の首を絞めてしまっている。

中国の場合、オンショアとオフショアで完全にマーケットが二分されてしまっており、オンショアマーケットの流動性は格段に高い。これは金利だけでなく、為替、債券などあらゆる商品共通である。社債などもオフショアのドル債は30%くらいに価格が下落していてもオンショアでは90%で取引されていたりする。金利スワップについては、ドルで決済するNon Derivarableの形で行われてきたが、今般のSwap Connectにより、海外市場参加者がより流動性の高いオンショアマーケットにアクセスすることができるようになった。だが、米国の参加者以外はという但し書きがつく。

DCOとはDerivatives Clearing Organizationの略で、これが認められるためには、米国CFTCが定めた要件を満たす必要がある。しかし、多くの米国外CCPはExempt DCOというStatusを取ることにより、一部制限された形で取引を行っている。JSCCもSwap Connectを提供するHKEXもともにこの形態をとっている。

米国のバイサイドでは日本円金利市場はもちろん、中国国債の取引をするところも多いので、流動性の高まるJSCCの金利スワップや中国のSwap Connectにアクセスできないのは、非常に不利である。大手であれば欧州にファンドを設立してそこから取引をすれば良いが、こうなると何のための規制なのかわからなくなってくる。これでようやくCFTCも重い腰を上げるかもしれない。

金融機関のシステム産業化

大手米銀がテクノロジー投資を加速させている。クラウドインフラ、データーセンター、各種データ分析、セキュリティ、ソフトウェアやアプリ開発と、もはや金融機関というとテクノロジー会社の様相を呈してきている。これまで右肩上がりに上昇してきたテクノロジー支出だが、今後も更に増加することが見込まれている。全世界のテクノロジー支出は4.8兆ドルを超えるとも言われている。

JPMの2022年のテクノロジー予算は約$14bn(約2兆円!)だが、そのうち$6bnが成長を支える新デジタル商品やデジタルサービス、通常業務に必要なテクノロジーの導入に充てられている。そして$4bnが主要ビジネスであるチェースブランドのリテール、投資銀行、商業銀行、資産運用に使われている。

特にJPMだけが突出しているという訳でもなく、バンカメも約$11bnを年間使っており、兆円単位での支出をする銀行は多い。日本のシステム投資額を同じ分類で比較するのは難しいが、一昨年のS&Pのアナリストの分析では、比較的システム投資に熱心なMUFGが300億円程度と推定していた。当時のJPMの投資額が1.1兆円だったことから1/3以下ということになる。近年では邦銀のシステム投資は米銀の1/5というニュースもあった。円安の影響もあるが、JPMの投資が2兆円近くになってきたことから、この差はさらに開いているものと思われる。

米銀のシステム投資は、新技術に対して行われることが多く、6-7割がこうした新しい取り組みに対するものである。翻って日本の状況をみると、既存システムのメンテナンスや拡張が中心になっており、先のS&Pの分析では新技術に対する投資は2割程度と推測していた。

システム投資のみでなく、人材面でも大きな変化がみられる。海外ではトレーダーの数は極端に少なくなり、オペレーション部門の人員削減が進み、かなりの業務がシステムやAIに置き換わっている。当然過渡期であるため、日本のように人手を介して手厚くサポートするサービスに比べると、満足のいくサービスが行えていない面もあるかもしれないが、これは技術進歩によって大きく変わっていくことになる。JPMなどでは全従業員の約2割以上がテクノロジー関連の技術者だが、邦銀のシステム部門の人員は全体の数%と言われる。

これだけのIT人材を雇おうと思うと、もう国内だけでは不可能となる。実際米銀でもテクノロジー部門の人員はほとんどが米国外におり、ブタペスト、ムンバイなど世界中のあらゆる国から優秀な人材を集めている。特にコロナ以降この傾向はますます強まっている。

あらゆるスタートアップ企業が新しいテクノロジーをフル活用して、過去のシステムより優れたものを短期間でしかも低コストで構築しているのをみると、日本でも時代遅れのレガシーシステムのメンテナンスに資金を投入するよりは、一から新しいシステムを作った方が良いのかもしれない。もっとも銀行サービスが止まってしまっては死活問題なので、そこまで大胆な決断ができるところは少ないだろうが、意外とその方がリスクが低いのかもしれない。

日本の金融を復活させるには

このところ日本に対する海外からの関心が急速に高まっている。一時は日銀の政策変更を睨んだ取引がヘッジファンドの間では流行したが、現在は日銀トレードは一旦小休止となり、金利市場以外のところではあらゆる関心が寄せられている。

海外の論調は、成長期待というよりは、Non Chinaとしての日本の政治的安定性を評価する声が多いが、それでも日本にようやく構造変化が起き始めているという意見も多くなっている。

日経平均が1990年以来の最高値をつけ、1-3月のGDP成長率も1.6%と予想を上回り、個人消費が全体を押し上げている。焦点だった賃金も若干上昇の兆しを見せ始めており、輸出額も過去2年間で43%と盛り返している。

この追い風を利用して、あとは生産性向上が達成できれば国際的な地位向上を達成できるかもしれない。生産性向上に関しては、過剰品質、過剰サービスからの脱却が不可欠だと思う。どこかで「おもてなし」の精神が捻じ曲げられたのか、日本では効率性よりも完璧を求める風潮がある。日本の半導体の凋落原因を分析した記事にもあったが、同じことはあらゆる分野で起きていると思う。

25年ほど前に米国で生活した時は、チェックの利用額に誤りがあったり、窓口サービスのいい加減さにあきれたものだが、ミスを100%無くすために多大なコストをかけるよりは95%程度で良しとして効率性を追求するのも理にかなっている。当時1円の帳尻を合わせるために支店の銀行員全員で残業するという話もあったが、アメリカだったら無視してさっさと皆帰宅しただろう。

「お客様は神様」という言葉が誤って理解されたことにも起因する。「自分は客だ」という態度で銀行、レストラン、タクシー運転手にクレームをつける人がいるが、海外では店員が言い返す姿も見られる。日本ではひたすら謝るのが一般的だ。

日本でシステム化や標準化が進まないのもここに原因があるのだろう。各社ごとの仕組みに併せるためにあらゆるカスタマイスを求められるため、システム対応が困難で、コストもかかる。それだったら、人間が柔軟に対応した方が安いということになり、システム化と標準化が進まない。最新のテクノロジーを使おうにも、系列システム会社を使わなければならないという制約もあるため、古いテクノロジーを使い続けることになってしまう。

海外では、金利が高い銀行に一瞬で資金が移動するようになり、SVBショックのような混乱が起きている。世知辛い世の中と言われるが、過剰サービスをしても預金を残してくれるかは心もとない。こうしたサービスは資産運用などの分野ではまだ通用するかもしれないが、伝統的な金融サービスは更に標準化、効率化されていくことになるだろう。

ただし、それでも安定性と信頼性は金融サービスには不可欠であることから、日本の金融に最新のテクノロジーを組み合わせれば、世界で十分戦えると思う。そのためには効率よく事務処理を行い、システムかと標準化を進めて生産性を向上させることが肝要である。

米ターム物金利を巡る混乱

ある意味タイミングが悪かったとも言えるのだが、米地銀がローン金利としてその利用を拡げているターム物SOFRの流動性問題が大きくなってきた。ターム物SOFRは依然銀行間での取引が制限されており、CCPによる清算もできない。つまり相対取引で地銀のリスクをとって取引がなされるので、米地銀に対する信用不安が大きくなった現状ではどうしても取引コストが上昇しやすい。

ターム物SOFRの流動性がないから、資本コストが高いからという理由でもともと取引コストが上昇していたところに、地銀の信用リスクの問題が重なってしまった。来月2023年6月末に公表停止をUSD LIBORが迎える中、金利市場の混乱要因となっている。通常金利スワップのビッドオファーは1bpを超えることは少ないが、これが最大10bp近くになったこともあると報道されているが、かなりの異常事態である。

ディーラーサイドとしては、流動性がない商品はレベル3資産に分類せざるを得ず、資本コストがかさむ。ヘッジができないためトレーダーがリスクチャージを増やすのも致し方ない。カウンターパーティーリスクもあるため、この地銀ショックの中では、若干のXVAをかけるところもあるかもしれない。ARRCの制限もあることから、日本でもターム物SOFRを取引する際には、コンプライアンス違反にならないよう、慎重に検討しなければならなくなる。

CCPサイドとしては、流動性がない商品を清算してしまうと、万が一参加者破綻があった場合には、ポジション解消のコストがかかることから、そのクリアリングには慎重にならざるを得ない。当初証拠金や清算基金の計算も保守的にせざるを得ない。

地銀サイドとしては、LIBORからの移行を進めるため、言われた通りターム物SOFRに移行しただけなのに、これほどのコストを払わざるを得なくなっている。

誰も得をしないこのような状況になってしまったのはなぜなのだろうか。個人的にはローンの代替金利にターム物を第一順位としてしまったのが間違いだったように思うのだが、後の祭りである。ターム物の利用が進んでいない他の通貨ではあまりこのような問題が起きていない。日本でもターム物のTORFが少しずつ使われ始めているが、TIBORもあることから大きな動きにはなっていない。

相対取引からCCPにおける清算取引へ、LIBORからリスクフリーレートへという掛け声のもと業界で努力が続けられてきたのだが、このターム物に限っては、清算取引から相対取引へという逆の流れが出来上がってしまっている。そして銀行に対する信用不安が大きくなっているにもかかわらず、信用リスクを取った上で取引をしなければならず、そのヘッジもできない。

ここまでくると、ディーラー間取引を認め、クリアリングの方向へ進むしかないのではないだろうか。

米国債務上限問題がマージンコールに与える影響

毎回問題になる米国債務上限だが、米国債がデリバティブ取引の担保として広く使われていることを考えると、既に米国だけの問題ではない。ISDAのAGMでのパネルディスカッションで議論されているのを聞いて初めて気づいたのだが、債務上限に関する6/1までに合意されないと、解決策が見つかるまでに満期を迎える短期の米国債は無価値になるとのことだ。

こうした米国債を担保にとっているCCPや市場参加者は、ヘアカットを変更することによって別の担保への変更を依頼することも可能だが、そうすると金融市場にパニックが生じてしまうかもしれない。また、今後はこうした担保を不適格とするようなルール変更が必要になってくるかもしれない。

確かにデフォルトする可能性が高い担保を受け取るのを避けたいというのはリスク管理上きわめて自然である。だが、そうなると満期の違いによって適格担保が変わることになり、一時的に混乱が発生する。

現状短期国債の担保ヘアカットはCCPによって異なっているが、概ね0.25%から3.75%のレンジに収まっている。過去の短期国債の市場変動からすると妥当なのだろうが、米国の債務上限のような特殊事情は考慮していない。

他にもCCPの担保条件には満期までの期間制限がある。例えばLCHは3日以内に満期を迎える米国債は非適格となっている。Eurexは15日、ICEは2日だが、CMEにはこうした制限がない。おそらく相対のCSAでこうした条件を加えているところはないものと思われるが、今後は何らかの制限をつけるところが出てくるかもしれない。

米国債のクーポン支払いが重なるという問題もあるだろうが、これはSubstition(担保の入替)で対応可能だろう。

CCPは当局とも会話をしているらしいので、何らかの対応がなされるのだろうが、市場参加者の間でこれに対策を考えているところは少なそうな雰囲気がある。もし信用力に懸念のあるヘッジファンドと取引をしていて、こうした米国債を担保に受け取っていれば、意外と注意をした方が良いのかもしれない。少なくとも該当国債を誰から受け取っているかは調べてみた方が良さそうだ。

金融における保護主義の功罪

欧州のクリアリング規制が迷走している。EURスワップの清算に関して、依然英国のLCHのシェアが大きいことから、一定のスワップを欧州域内で清算するよう規制しようとしているのだが、もともとのコンセプトに無理がある。欧州域外の市場参加者にとってみれば、使い勝手が良く流動性が高い方を使いたいというのは当然のニーズであり、LCHのこれまでの歴史を見れば、全てを欧州のEurexに移すのは現時点では困難だ。どの程度の量のスワップを移さなければならないかについても、未だはっきりとして数字が示されていない。2025年の期限に向けて不透明感が漂う。

結局マーケットメーカーとしての銀行は、LCHとEurexの両方において流動性を提供しなければならないので、どちらか一つに移すことは不可能だ。そうすると結局顧客ニーズの多いLCHで取引を継続せざるを得ない。特に米国や日本の市場参加者で、現状ではわざわざ流動性の低い欧州をメインで使おうというところは少ないだろう。

当初は激変緩和措置として本格移行が一時的に免除されていたが、結局この免除は何度も延長され、今でも一定の範囲内で認められている。思った通りの移行ができなかったというのが正直なところだろう。そうは言ってもすべてを英国に依存することもできなかったので、多くの銀行はEU域内拠点を充実させている。確かに拠点間の移動は進み、ドイツやフランスのオフィスも徐々に人が増えてきたのは確かである。しかし、円については日本のJSCCを使いたい人が多いのと同様に、LCHで清算したいというニーズは当面なくならないだろう。

日本の市場参加者もLCHを使えないという事情はあるので、似たような話があるのだが、対象が日本の金融危機観に止まっているため、あまり国際的な議論にはならない。JSCCがここまでシェアを伸ばしている中、LCHの利用を解禁しても良いのかもしれない。そして米国の市場参加者もJSCCに参加できるようにして、極力国による境界は無くしていった方が市場のためには望ましいのだろう。