通貨スワップのIM

証拠金規制導入時に、為替取引までIMを拠出するのは困難という抵抗を受け、スポットFXとフォワード為替取引がIMの対象外となった。そこまでは良かったのだが、それなら通貨スワップも同じようなものではないかということで、元本交換部分のみを計算から除くことで落ち着いた。証拠金規制は、導入から年数が経ち、すっかり事務フローとしても確立したのだが、今となってみると、同じ取引のうち一部だけを除くというのは、極めて無理なプロセスに思える。

これによって、証拠金計算のみならず、ポートフォリオの最適化や資本計算等の障害にもなっている。特に通貨スワップには、CSAの通貨による割引率の違いやMTM条項の有無、ブッキングの方法、ベースカレンシーの違いなど様々な問題がある。

MTM条項とは、四半期ごとに為替の動きに対応して元本をリセットするものである。ブッキングの問題とは、例えばEURJPYの通貨スワップをそのまま一つの取引としてブックするか、USDJPYとEURUSDに分けてブックするかという問題である。ベースカレンシー問題は、現状のようにドル金利が高い状況では、ドルで計算する米銀にとって、ドルクーポンの為替リスクはないが、円をベースとする邦銀の場合はこれが大きくなるという問題である。また米銀にとっては、USDJPYのMTM通貨スワップより、EURJPYのMTM通貨スワップの方がIMが大きくなる。

こうした手間を省くため、いくつかの為替フォワードに分解すれば、証拠金規制のIM計算の対象外にすることもできてしまう。

MTM条項付のスワップに関しては、ISDAからガイドラインが出ている。MTM条項がついているということは、四半期ごとに元本がリセットされるため、元本が変更になった分について四半期ごとに支払いが起きる。これはある意味元本交換のようなものなのだから、IMの計算の対象外ではないかと思う人もいるが、これは間違いである。

つまり、取引時点で確定している元本交換についてはSIMMの計算から除くことができるが、その時点では確定していない、フォワードからImplyされるようなキャッシュフローは、IMの計算に含むということである。もっと厳密にいうと、リセットしたばかりの次の支払額はFixされているのでSIMMの計算から除き、それ以降のまだFixされていないものはSIMMの計算に入れるということになる。

規制上の定義では、any risks or risk factors associated with the foreign exchange transactions associated with the fixed exchange of principal embedded in a cross-currency swapにはIMが必要とされている。ここでいうfixedは取引時点で固まっているキャッシュフローを指すという理解であり、その時点でfixされていない将来の支払いは除くことができないというロジックである。

通常債券発行時に事業会社などと行う通貨スワップは、固定vs固定のNon MTMのスワップになることが多い。ディーラーとしては、四半期ごとのリセットがないため、スワップのエクスポージャーが大きくなり、その分バランスシートや資本を使うことになる。このため、ディーラーは標準的な変動vs変動のMTM条項付のスワップを好む。コンプレッションなどの効率も高くなる。だが、このSIMMのガイドラインに従えば、マーケット標準のMTM条項付の変動vs変動の通貨スワップの方がIM負担が大きくなってしまうのである。

例えば、事業会社との通貨スワップのコストを抑えるために、最適化を行いマーケットスタンダードの変動vs変動のMTM条項付スワップを反対方向で入れると、IMが逆に増えるということになってしまい、為替のリスクは大きく軽減されるにもかかわらず、Optimizationなどしない方が良いということになる。実質的なリスクは減るのに、元本交換がSIMMから除かれているがために、IMが増えてしまうのである。

昨今では証拠金削減、資本コスト削減のためにあらゆる最適化取引が検討され、金融機関のバランスシートコストやポートフォリオとしてのリスクを小さくするような努力が行われているが、元本交換を除いてしまったがために、IM計算がリスク削減を反映しなくなってしまっているのである。そしてこの差を利用すれば、リスクが増えるがIMが減ることが起きてしまうのである。

通常の為替でも、NDFだとIMがかかるが、現物決済の為替フォワードにしてしまえば、IMはゼロになってしまう。現物決済の方が決済リスクがあるのでリスクは大きいはずなのだが、NDFだけ不当にコスト高になっているといっても過言ではない。

以前は、CCPで決済リスクを取るのは困難ということだったのだが、実際は現物やレポ、そして一部のCCPでは為替取引や通貨スワップもクリアリングするようになってきている。このような状況の中、清算集中規制もIM規制もかからないから楽だという理由で、為替取引が極端に増えるのはあまり健全とは言えない。大きな事故が起きる前に、為替取引についても清算集中やIMの規制をかけるべきなのではないだろうか。これは、VMすら取らない無担保為替取引の多い日本では特に重要な課題である。