信用リスク移転はクレジット市場を活性化させるか

Basel III最終化によって米国においてCredit Risk Transfer(CRT)の一部としてCLNが認められるようになるのではないかという期待が高まっている。これまでは、米国のRegulation Qに明確にCRTとして定められているのはCDSヘッジと保証であった。それ以外のリスク移転が不可能ということではないのだが、CLNがこれに該当するとは明確には書かれていない。

CDSヘッジと似たようなものなので実質的には全く問題ないはずだが、昨今の規制環境下において無理してリスクを冒す必要はないという風潮があるのだろう。大手銀行は特にリスク削減効果を狙ってCLNを増やすということは行っていない。したがって、実質的にはリスク削減が行われているのだが、その効果をRWAに反映させることはできていない。

一方地域ごとにはこれが認められているところもあるため、地銀がこれによってリスク削減効果を享受している。大手銀行に対する規制を強化し、中小銀行に対する規制を緩和してしまったことからSVBショックが起きたのだが、ここでも同じような構図になっている。

しかしこれがBasel IIIの最終化の中で可能になれば、CLNマーケットのすそ野が広がり、CDS取引の拡大にもつながる可能性がある。リスクが高いとされる商業用不動産担保ローンなどは、ポートフォリオ全体の12.5%だけでもヘッジすればリスクウェイトを100%から20%に下げられる。これは極めて大きな資本削減につながるので、このルールの明確化の効果は大きい。また、ローンポートフォリオのクレジットリスクを担保付で投資家に移転すれば、Credit Substitionが可能になる。担保が国債ならウェイトが10%に、現金であれば0%になるため、こちらの削減効果も大きい。

長年の規制強化と罰金によって、大手金融機関は君子危うきに近寄らずという状態になっている。少しでもリスクがあるなら諦めるという風潮が支配的になっている。一方で中小金融機関やヘッジファンドなどの銀行以外の市場参加者のプレゼンスが上がってきており、リスク量も増えている。今後の金融革新はこうした大手銀行以外の投資家や、スタートアップからでないと起きにくくなってきているようにも思う。