大手米銀がテクノロジー投資を加速させている。クラウドインフラ、データーセンター、各種データ分析、セキュリティ、ソフトウェアやアプリ開発と、もはや金融機関というとテクノロジー会社の様相を呈してきている。これまで右肩上がりに上昇してきたテクノロジー支出だが、今後も更に増加することが見込まれている。全世界のテクノロジー支出は4.8兆ドルを超えるとも言われている。
JPMの2022年のテクノロジー予算は約$14bn(約2兆円!)だが、そのうち$6bnが成長を支える新デジタル商品やデジタルサービス、通常業務に必要なテクノロジーの導入に充てられている。そして$4bnが主要ビジネスであるチェースブランドのリテール、投資銀行、商業銀行、資産運用に使われている。
特にJPMだけが突出しているという訳でもなく、バンカメも約$11bnを年間使っており、兆円単位での支出をする銀行は多い。日本のシステム投資額を同じ分類で比較するのは難しいが、一昨年のS&Pのアナリストの分析では、比較的システム投資に熱心なMUFGが300億円程度と推定していた。当時のJPMの投資額が1.1兆円だったことから1/3以下ということになる。近年では邦銀のシステム投資は米銀の1/5というニュースもあった。円安の影響もあるが、JPMの投資が2兆円近くになってきたことから、この差はさらに開いているものと思われる。
米銀のシステム投資は、新技術に対して行われることが多く、6-7割がこうした新しい取り組みに対するものである。翻って日本の状況をみると、既存システムのメンテナンスや拡張が中心になっており、先のS&Pの分析では新技術に対する投資は2割程度と推測していた。
システム投資のみでなく、人材面でも大きな変化がみられる。海外ではトレーダーの数は極端に少なくなり、オペレーション部門の人員削減が進み、かなりの業務がシステムやAIに置き換わっている。当然過渡期であるため、日本のように人手を介して手厚くサポートするサービスに比べると、満足のいくサービスが行えていない面もあるかもしれないが、これは技術進歩によって大きく変わっていくことになる。JPMなどでは全従業員の約2割以上がテクノロジー関連の技術者だが、邦銀のシステム部門の人員は全体の数%と言われる。
これだけのIT人材を雇おうと思うと、もう国内だけでは不可能となる。実際米銀でもテクノロジー部門の人員はほとんどが米国外におり、ブタペスト、ムンバイなど世界中のあらゆる国から優秀な人材を集めている。特にコロナ以降この傾向はますます強まっている。
あらゆるスタートアップ企業が新しいテクノロジーをフル活用して、過去のシステムより優れたものを短期間でしかも低コストで構築しているのをみると、日本でも時代遅れのレガシーシステムのメンテナンスに資金を投入するよりは、一から新しいシステムを作った方が良いのかもしれない。もっとも銀行サービスが止まってしまっては死活問題なので、そこまで大胆な決断ができるところは少ないだろうが、意外とその方がリスクが低いのかもしれない。