金融における保護主義の功罪

欧州のクリアリング規制が迷走している。EURスワップの清算に関して、依然英国のLCHのシェアが大きいことから、一定のスワップを欧州域内で清算するよう規制しようとしているのだが、もともとのコンセプトに無理がある。欧州域外の市場参加者にとってみれば、使い勝手が良く流動性が高い方を使いたいというのは当然のニーズであり、LCHのこれまでの歴史を見れば、全てを欧州のEurexに移すのは現時点では困難だ。どの程度の量のスワップを移さなければならないかについても、未だはっきりとして数字が示されていない。2025年の期限に向けて不透明感が漂う。

結局マーケットメーカーとしての銀行は、LCHとEurexの両方において流動性を提供しなければならないので、どちらか一つに移すことは不可能だ。そうすると結局顧客ニーズの多いLCHで取引を継続せざるを得ない。特に米国や日本の市場参加者で、現状ではわざわざ流動性の低い欧州をメインで使おうというところは少ないだろう。

当初は激変緩和措置として本格移行が一時的に免除されていたが、結局この免除は何度も延長され、今でも一定の範囲内で認められている。思った通りの移行ができなかったというのが正直なところだろう。そうは言ってもすべてを英国に依存することもできなかったので、多くの銀行はEU域内拠点を充実させている。確かに拠点間の移動は進み、ドイツやフランスのオフィスも徐々に人が増えてきたのは確かである。しかし、円については日本のJSCCを使いたい人が多いのと同様に、LCHで清算したいというニーズは当面なくならないだろう。

日本の市場参加者もLCHを使えないという事情はあるので、似たような話があるのだが、対象が日本の金融危機観に止まっているため、あまり国際的な議論にはならない。JSCCがここまでシェアを伸ばしている中、LCHの利用を解禁しても良いのかもしれない。そして米国の市場参加者もJSCCに参加できるようにして、極力国による境界は無くしていった方が市場のためには望ましいのだろう。