Archegosショックや、天然ガス価格やニッケル暴騰によってマージンコールに注目が集まっている。証拠金規制の対象が拡大したこともあり、マージンコールからデフォルトや流動性危機が起きることが多くなっているからだ。同時に、Dispute Resolutionも重要になってきている。
SwapAgentは、英国のCCPであるLCHのサービスで、清算はしないものの、相対取引の執行、証拠金授受、決済などを簡素化するためのサービスである。クリアリング業務で培った経験を、非清算取引に拡大し、標準化、効率化、簡素化を進めようというものである。取引自体は清算されていないが、集中取引処理、時価評価、証拠金計算、リスク計算、ポートフォリオ最適化などが、清算取引と同様のプロセスで行われる。
Disputeにはあらゆる種類のものがあるが、計算時点の違いが最も一般的な原因となる。東京クローズ、NYクローズのような時間の差や、15時と17時の差のような時間差によって時価評価に差が出る場合である。大手行の場合、ドルスワップはNYクローズ、円スワップは東京クローズのように、市場慣行に合わせるのが一般的だが、日本の会社がすべてを東京クローズで評価するときもある。昨今のように、金利、為替、コモディティ価格が大きく動く場合、どの時点でValuationを行うかによってDisputeの金額が大きくなる。
おそらく多くの金融機関では、大きなMargin Disputeがあった場合はシニアレベルに報告が行くプロセスになっていると思われる。昨今の規制のもとでは、一定以上のDisputeが続くと当局報告が求められ、資本賦課が上がってしまう。Disputeは紛争と訳され、あたかも相手方がマージンコールに不服を唱えているような印象を与えるが、実際はシステムトラブルで時価が計算できない場合や、単に回答ができなかった場合も、技術的にはCSA上のDisputeに相当してしまう。取引先がDisputeとしてきたと経営陣に報告すると、無用に騒ぎを大きくする可能性があるので言葉の使い方には注意が必要である。
このような場合には、LCHのSwapAgentへ移行すれば、LCHが時価評価をすることによりDisputeがなくなる。オペレーションやリスク担当が、日々時価の違いを分析して相手方と交渉するという手間が必要なくなるメリットは想像以上に大きい。担保決済も清算取引と同じように行われるため、標準化も可能になる。そのほか、リスクファクターの計算も標準化されるため、SIMMの計算も容易になり、計算結果の違いも少なくなる。そして、SwapAgentと非SwapAgent取引を含めたポートフォリオについて、TriOptimaなどのコンプレッションが容易に適用できるため、取引量の圧縮も可能になる。また、何と言っても割引率が統一されるのが大きい。
現状のマーケットでは、SwapAgent経由の取引を選好するトレーダーがほとんどだと思われるので、SwapAgentを経由しない取引に対してはプライスを変える動きが出てきてもおかしくない。マーケットはまだそこまでは行っておらず、特に本邦ではSwapAgentを使う市場参加者が極端に少ない。しかし、海外でSwapAgentのシェアが急速に高まっていることを考えると、日本においても早めにSwapAgentのOnboardの準備を進めておいたほうが良いのではないだろうか。