長らく間議論されてきたCMEの証拠金モデルの変更が今年第四四半期になりそうだ。COVIDによって先延ばしになってきた変更がようやく導入されることになる。SPAN(The Standard Portfolio Analysis of Risk)は1988年から証拠金計算に使われており、日本でもJSCCとCMEの間でライセンス契約が結ばれ、先物・オプション取引の証拠金所要額計算にも使われている。世界で32の取引所で採用されている手法なので、日本を含めて世界中にインパクトを与える。
新しい計算手法はSPAN2と呼ばれ、シナリオベースのSPAN1と異なり、ヒストリカルデータを使ったVaRタイプのモデルとなっている。市場リスク、ストレスリスク、流動性・集中リスクの3つの部分に分かれており、ローリング・ルックバック期間に基づいている。AnchorモデルかRolling Lookbackモデルかはよく議論になるが、Anchorモデルの場合は例えば金融危機の時期を含むように2008年からといった形で過去データを固定する。
Rolling Lookbackは常に過去何年かといった期間をずらしていくので、極端な市場変動の時期が外れてしまうと証拠金額が大きくぶれてしまう。こうしたブレを緩和するために、一定のフロアを設けたり、ボラティリティを調整することによって、極端な変動が発生しないようにしている。商品によっては季節性を考慮したりもする。仮想シナリオを含めるのも良く使われる方法だ。
16のシナリオに基づくSPAN1に比べ、ポートフォリオ全体の動きを包括的に考慮するため、同じネッティング契約のもとに入っている取引については、ある程度のオフセットが見込まれるのではないかと予想される。パラレルテストは既に始まっているが、概ね好評との報道が多いため、当局承認を経て実際に導入されることになるのだろう。
アルケゴスの損失により、各金融機関ともMargined Riskの管理方法については、活発な議論がされていると思われるが、このSPANもリスク管理手法の進化に重要な役割を果たすことになるだろう。無担保取引が多かった頃は企業分析、ヘッジ等がリスク管理上重要だったが、有担保取引や取引所取引が中心になってくると、こうした証拠金計算手法がリスク管理の中心になってくるものと思われる。