レポ取引のクリアリング義務化は米国以外にも拡がるか

米国では来年6月にはレポ取引の清算集中義務が始まる。FICCへの直接参加者が行う米国債レポが対象となるが、ディーラー間のみならずディーラーとバイサイド間の取引も含まる。これまでは一つの国が動けばその他の国も追随するというのが一般的だったが、今回はこれが他の国でも導入されるかどうかは、微妙な状況である。

特に英国や欧州では市場構造が米国と異なるため、義務化というよりは、インセンティブをつけることによって自発的なクリアリングの方向性を模索しているように見える。

米国の場合、オーバーナイトの取引が中心で、様々な参加者によるフローがあるため、CCPを通じたネッティング効果が極めて大きい。しかし、英国・欧州では、年金基金などの資金の借り手と、MMFなどの資金の貸し手のニーズが一方的になりやすく、取引もオーバーナイトよりは期間の長いターム物が中心となる。したがって、CCPを介しても期待されるほどのネッティング効果が得られないと言われている。

また、米国ではMMFの運用資産が7.2兆ドルと巨額なのに対し、英国ではMMFの占める割合は1%程度と極めて低くなっている。同様に日本でも多様な市場参加者がレポを行っている訳ではなく、大手金融機関中心のマーケットとなっている。欧州同様、既に6割程度が自発的にクリアリングされており、クリアリング比率が4割程度にとどまる米国とは状況が異なる。

このような状況において米国に追随して清算義務化を行うと、プロシクリカリティを誘発し、預金者や年金加入者にコスト増のしわ寄せが行くという意見が、ICMAやISDAなどの業界団体からも出されている。

英国中銀もレポ市場の強靭化に関する議論文書を公表し、清算集中の拡大を検討しているが、業界としては義務化より構造的な障壁を取り除くことによる自発的な清算集中を訴えている。欧州CCPの幹部からも、欧州では既に自発的なクリアリングで透明性の高いプロセスが確立しているのであえて清算集中義務は必要ないとのコメントまで飛び出している。

おそらくここで残る問題は、デリバティブ取引に義務付けられている当初証拠金にあたるヘアカット問題だろう。レポ市場では適切なヘアカットが取られていないため、信用危機時に連鎖倒産が起きる可能性は残っている。特に大手バイサイドは非常に強い交渉力を持っており、ヘアカットの低いところに取引が流れるのを嫌って、市場変動に比べて十分なヘアカットが取れていない取引が多いものと予想される。ただし、商品は異なるものの、アルケゴスでIMをディスカウントしたCSにポジションが集中し、危機につながったのは記憶に新しい。

単純にヘアカットを上げると、年金受給者にコスト転嫁するのかという議論も持ち上がるだろう。したがって、現物や先物、金利スワップなどとのネッティングを確立し、クロスマージンを減らした上で、十分なヘアカットが確保できるようにしていくのがベストな方向性なのだろう。

米国債レポのクリアリング義務化による影響

来年から米国債のクリアリングが義務化され、レポについても来年6月末から義務化となる。これによってどの程度のインパクトがあるか常に気になっていたのだが、OFRのブログで大手米銀6行のSLRが2000億ドル以上削減されるとの見通しが示されている。6行合計でレポが7470億ドルから5400億ドルへ、リバースレポが6340億ドルから4270億ドルへと減少するとされており、これはかなりの減少だ。OFRの公式見解ではないとしているものの、かなり信頼性のある数字だと思う。

昨年の8月までの一日平均取引量のうち、米国債レポの約45%がクリアリングされていたが、清算集中義務化が行われていれば、これが約77%まで上昇していただろうとのことである。残りの23%のうち約8割が関連会社間の取引とのことで、残りがオプション付の特殊なレポということになる。ちなみに日本では既に6割近くがクリアリングされていると記憶してるので、他国に引けを取らない割合が既にクリアリングされている。

この残高減少は主にCCPに取引を集中させることによって得られるネッティング効果によるものである。A社に国債を貸して、B社から同じ国債を同じ期間借りていた場合、それをCCPで清算すれば、オフセットしてゼロになる。

また、興味深いことに日々のレポ残高を見てみると、四半期末などにポジションを減らして規制資本を下げようとする、いわゆるWindow Dressingがみられない。つまり、常日頃からSLRが増えすぎないような管理を行っており、期末にだけポジションを落とすようなことは米銀は行ってないということだ。

当然レポのクリアリング義務化が行われれば、様々なコスト増が発生するだろうが、ネッティング効果やカウンターパーティーリスクの削減により、市場安定化に帰するものと思われる。

英国デジタル証券サンドボックス(DSS)

世界中でDLTを証券の発行、決済、取引に活用しようという動きが活発になってきた。英国では、英国中銀と金融当局であるFCAが共同でDSS(デジタル証券サンドボックス)という規制上の実証環境を運営している。

これまでのように取引所とカストディアンなど様々な機能が分散されていたが、DSS内では一つの企業がすべての役割を担うことができる。対象資産としては、国債、社債、株式、CP、投資信託、排出権などで、資産の裏付けのない暗号資産やデリバティブ取引は対象外となっている。

ここで発行されたデジタル証券は、レポ取引やデリバティブ取引の担保として使うことができる。ポストトレード処理の迅速化とコスト削減が可能になり、金融機関やバイサイドなどの市場参加者全体に利益をもたらし、発行体にとっては資金調達が容易で「深い」資本市場へのアクセスが可能になる。

このDSSは2024年9月に開始され、2029年1月8日まで(または2028年12月まで)運用予定となっている。参加申請期限は2027年3月頃だが、既に大手銀行、取引所、DLTを活用する多くのスタートアップ企業がテスト段階であるゲート1を通過している。

米国でも米国債をトークン化しようという動きがみられており、世界中で決済周りの革新が起きている。特に米国では国債の決済はFEDであるものの、DTCC、FICC、トライパーティーとなる銀行など、既に分散型で運用されており、民間を巻き込んだ柔軟な制度設計ができる可能性が高い。証券の保有もブローカーが間接保有することが多い。英国でもDSSを皮切りに業界を巻き込んだ革新を起こそうとしている。

こうなると日本も出遅れてはならないと思うのだが、日本の場合は権限を中央銀行に集中される中央集権型なので、法改正などハードルが高くなる。英国のように日銀と金融庁がこうした動きを主導するのもかなり難しそうだ。日本の場合は日銀ネット上で振替法に基づく直接記録体系をとっていたと思うので、米国とは異なるアプローチが必要になるのだろう。

日本の場合は、レポ取引なども取引主体が限られており、そもそも日銀が多くの国債を保有してきたため、他国のようなトライパーティーレポなどの発展も起きてこなかったため、DLT導入インセンティブは他国ほど高くないのかもしれない。また、日銀がどこまで外部基盤への接続を認めるかという問題もあるが、これも他国よりはハードルが高いだろう。

とはいえ、日銀の保有比率が今後減少していること、グローバルな市場参加者が日本国債への興味を示し始めていることから、今後は状況が急速に変わっていく可能性がある。おそらく日銀ネットを外すことは不可能に近いだろうが、日銀ネットと接続する形で米国債型のトークン化を進めていく必要があるように思う。

DLTによって決済が容易になれば、資金不足による破綻、連鎖倒産などを防ぐことができ、金融市場の流れが円滑になる。市場変動がここまで多くなってくると必要担保額がさらに増加していくが、デジタル資産を適格担保に含めることができればトークン化したMMFなどを担保に出せるようにもなってくる。また決済期間短縮化が進めばリアルタイムFX、リアルタイムレポなども容易に行えるようになる。ここ1年の進歩を見ていると1~2年後にはこうしたことが海外では実現している可能性が高い。日本でも海外に後れを取らないよう、準備を進めておいた方が良いと思われる。

ステーブルコインがもたらすデリバティブ市場変革

ステーブルコインの発行量が増加し、為替取引への応用が議論されている。様々なデジタル資産がチェーン上で取引されるようになり、即時決済も可能になってきたので、当然の議論だと思うが、それでも金融の現場ではまだ慎重派が多いように思う。確かに、ブロックチェーン上で取引されるオンチェーンの取引の場合は、自社のウォレット内で残高が移動するものが中心で、実際の為替や送金に使われているケースは極めて少ない。

あとは現金や株式債券といった資産がリアルタイムで動けば良いのだが、これはある程度実現している。例えばSwapAgentにおける決済は、SwapAgentが銀行内に用意した信託口座の中で、参加者の所有権を移転することによって決済を行っている。つまり、資金の引き出しや送金は行われず、SwapAgentが指示を出した通りに所有権が帳簿上瞬時に移転しているだけである。これを応用すれば資金を簡単に移すことができるので、リアルタイムFXなども可能なのではないかと思ってしまう。

国債についても所有権を書き換えれば良いだけなのだが、国債を保管する場所の制約もあるため、そのままでは使いにくい。その場合、国債をトークン化してオンチェーンに持っていけば問題は解決できる。また現金についてもトークン化によってオンチェーンの世界に移せば、すべてが即時決済できるようになる。このようにして、現金、国債などのデジタルツインを作れば、決済のあり方が完全に変わる。国際送金なども、一旦現地通貨をデジタル通貨にしてオンチェーン上で別の国に動かしてまた元の通貨に戻せばよい。手数料も現在と比べるとかなり安くなる。

それにしてもこの世界になると、新興企業がサービスが多すぎて、名前がこんがらがってくる。ここで少し名前を整理してみる。

ステーブルコイン発行体

  • Thether(USDT)
  • Circle(USDC/EIRC/USYC)
  • Paxos(USDP/PYUSD)
  • MakerDAO(DAI)
  • First Digital(FDUSD)

ブロックチェーン

  • Ethereum
  • Tron
  • Solana
  • Polygon
  • Canton

若干例を挙げただけでこれらの他にも数多くの発行体、チェーンがある。そして銀行自体が構築しているコインや決済システムも存在しており、まさに玉石混合の様相を呈している。これ以外にも、取引所が様々な取り組みを始めている。

そして今月には、CFTCがデリバティブ取引の証拠金にステーブルコインを担保として受け入れることができるというアナウンスメントを出している。ISDAやFRBからもデリバティブ取引の担保にデジタル資産を使う方向性に関して様々なコメントが出ている。

これまでこうした動きが出ても、またかという感じでしばらく先の話という印象で聞いていたが、今回ばかりは実現に向けて動き出すかもしれない。技術的にはすべてが可能であり、それを海外当局が後押しする動きがみられ始めてきたからだ。

日本だとライドシェアの際にあった既存業界からの反対運動などの動きがみられるだろうから、政府が主導しない限り新しいことはなかなか進まなかった。しかし、最近の大手行のステーブルコイン発行に向けた動きについては、片山金融相からの支援コメントが出ている。ひょっとすると今回ばかりはかなりのスピードをもって市場に変革が起きるかもしれない。

まずはリアルタイムFX、リアルタイムレポなどからはじめて、デリバティブ取引の担保の分野に広げていくのが良いかと思う。

デジタル資産の適格担保化

先週ECBが、DLTネットワーク上で発行される債券を含むトークン化された証券を、ユーロシステムの中銀オペレーションにおける担保として利用可能とする方針を発表したと報じられた。今年の3月末からサポートされると書かれている。

当面は、通常の担保要件を満たすことに加え、トークン化された担保が TARGET2で決済できること、およびCSDを通じて発行されていること が条件となる。TARGETとはTrans-European Automated Real-time Gross Settlement Express Transfer Systemの略で、ECBと17の欧州中銀で構成されるユーロシステム運営する資金決済システムである。第二世代のシステムということで2がついている。デリバティブの祝日カレンダーでTarget2と書かれているのを認識されている方も多いだろう。

また、ロイターで報道されているように、ECBの発表を受けた英国中銀に対する質疑応答でも、英国版EMIRの中で、トークン化担保をどのように取り扱うかを明確にする方針を2026年に公表する予定であると回答されている。

英国では、トークンされた銀行預金を使って即時決済を実現するブロックチェーンの決済プラットフォームの発表もあったばかりである。

以前から話には出ていたものの、ここへ来てデジタル通貨を巡る動きが活発化してきた。CCPや相対デリバティブ取引の担保にデジタル通貨が使われるようになるのも時間の問題となってきた。これによって決済期間の短縮や資金移動のスピードが早まれば、MPORの削減通じた当初証拠金や資本賦課の引き下げがついに実現するかもしれない。