世界のデリバティブ市場のトレンド

バーゼルのOTCデリバティブ取引の統計情報が更新されているので、ここ10年の動きを見てみる。

まずは全体の取引元本だが、昨年2024年下期の想定元本は約$700tnで、ここ10年では$500tnから$700tnへと40%増加している。特に直近2年間の伸びが大きい。いつも上半期で増えて下半期に減るというサイクルを繰り返しているが、これは年末のコンプレッションの影響が大きいのかもしれない。

為替取引は全体の10%程度だが、取引量は10年で倍に迫る勢いになってきており、徐々にシェアが増加している。Spot/Forwardほどではないものの通貨スワップの取引量も順調に伸びており、デュレーションを考慮すると実は通貨スワップのリスク量の伸びはより大きいものと予想される。通貨オプションは横ばいだったのだが、過去2年で急に伸びている。

取引主体別にみると銀行などのディーラーのシェアは、ここ2年では伸びているもののほぼ横ばいで、その他金融に分類されるファンドやマーケットメーカーなどの市場参加者の取引が10年で倍増しており、ディーラーをはるかに凌ぐ取引量となっている。CCPのシェアは為替については小さいが着実に増加しており、全体の15%に迫っている。

通貨別ではやはりドルが圧倒的なシェアを占めており、EUR、JPY、GBPという順番で続く。近年は横ばいだったJPYの取引量が若干増えつつある。為替取引に関して言うとUSDとEURの差は依然として大きい。

次に全体の8割近くを占める金利商品だが、こちらは10年で約20%増で、上期に増えて下期に減るという傾向が為替よりも顕著だ。オプションは横ばい、FRAは若干減少傾向にあるので、増加分はほぼ金利スワップに集中している。

金利についても取引主体のメインはその他金融だが、そのほとんどはCCPである。満期ごとの取引量を見ると長期より短期取引の伸びが大きい。1年未満の取引については上期下期の変動が激しく、年末に資本削減やG-SIBスコア削減のために、短期取引のコンプレッションが活発に行われているのが伺われる。

最も興味深いのが通貨別の統計だが、2年ほど前からUSDとEURが逆点している。トランプ関税の話が出る前からUSDからEURへのシフトが起きているのがわかる。そして、長期低迷していたJPYの取引量が過去2年で急増し始め、昨年下期にはついにGBPを抜いてEUR、USDに次ぐ3位に躍り出ている。

株式デリバに関しては、全体の1%と小さいが、2024年までのデータを見る限り米国の独壇場だ。近年ではEquity OptionやFowardの取引量も増えている。

以上、為替デリバや株式デリバはUSD中心だが、金利デリバについてはEURへのシフトが著しい。現状の米国の財政状況を見ていると、今後本当に米国債からの逃避も継続していくのかもしれない。JPYについては、金融政策正常化を受けてようやく本来の位置に戻りつつあり、為替の世界では常にUSD、EURに次ぐ3番手だったが、金利スワップに関しても、英ポンドを抜いてUSD、EURに次ぐ地位を確立しつつある。特に足元の変化が大きいので、今年このトレンドが続くかどうかに注目したい。

24時間トレーディング

昨年9月に米国NSCCが取引時間を拡大し、それまで夜中の1時半までだった取引期限を朝4時とした。来年2026年からは土日を除いた24時間オープンが予定されている。NASDAQも来年からの24時間トレーディングについて当局承認待ち状態にある。既にオーバーナイトの取引を行っている市場もあることから、将来的には24時間トレーディングが普通になっていくのだろうが、これがOTCデリバとなると今一つ不安感をぬぐい切れない。

先物や為替取引などではリアルタイムマージンを導入して24時間プライムブローカーサービスなどが行われてきたが、リスクマネジャーとしては気が気でなかった。実際に日本の市場参加者でも夜中の2時にアラートが発せられることもあり、契約上は担保が入ってこなければ即時強制終了という条項はあるものの、実務的には様々な問題が発生する。強制終了せざるを得ない個人投資家の場合はこれが標準なのだろうが、そこそこ大きな機関投資家となると、長期の顧客関係もあり、なかなか判断に迷うことが多くなる。単なるオペレーションの遅延ということも多い。

頻繁に発生する為替の急激な変動、数年前の電力、天然ガス、ニッケル等のコモディティ価格の急変、英国トラス政権を失脚させた英国債ショックなどが寝ている間に発生した時に、取引所や金融機関がそれに問題なく対応できるかが重要になってくる。ここまでくると、24時間体制でモニタリングのできるシステムや決済フローを構築する必要があるが、いくらテクノロジーが進歩したといっても、今の状況では、まだ人の力が必要である。24時間稼働をするには日本でシフトを組むのは現実的でなく、海外時間でのオペレーション体制も整えておく必要がある。

当然デリバティブ取引については先の話になるのだろうが、メールでマージンコールをかけて、時価が合うかどうかを照合し、送金手続きを行うという処理では間に合わないことは明らかである。そもそもお互いが取引時価を別々に計算してそれを合わせていては不可能なので、誰かが中立公平なプライスを提供してくれることが不可欠になる。とは言え、技術的には全く難しくなく、決済についてもリアルタイム決済への移行が確実なので、将来的には夢物語とは言えない。寝ている間の極度の市場変動についても、一定のサーキットブレーカーを設ければ対応可能だと思われる。

ただし、そうなる前に各金融機関がシステム投資を怠らず、将来的な金融変革に備えておかなければならない。欧米には遅れているとはいえ、日本でも人手不足が深刻になりつつあるためか、これまで人海戦術で対応してきた部分を積極的に自動化しようという動きが活発になってきている。こうして決済リスクが減ればMPOR(Margin Period of Risk)を減らして必要証拠金や所要資本を引き下げることも可能になるかもしれない。特にアジアの金融機関がこうした対応で急速にキャッチアップする中、こうした対応はますます重要になってくるだろう。