最近マーケットが一方向に動くことが多くなってきた。以前であれば、金融機関がマーケットメーキングの一環としてポジションを抱えることにより、ショックアブソーバーの役割を果たしていたが、各種規制の影響で制限がかかり、マーケットが一方向に動き出したら止まらなくなるということが増えている。
他の要因として、動き出したら流れに乗るというモメンタム系のヘッジファンドが増えてきたことも影響していると報じられている。こういったファンドは、何かイベントが発生してマーケットが大きく動き出すと、ポジションを増やしたり、急速にアンワインドをすることがあるが、これがマーケットの動きを加速させてしまう。
特にAIやアルゴ取引などで自動的に取引を執行するような場合は、瞬時にポジションが解約されていく。海外マーケットなどでは、電子取引の割合がここ数年で増えているが、こうしたファンドの取引量の増加によるところも大きいものと思われる。
今回日本の選挙ではそれほど大きな市場変動はなかったが、為替の動きなどに対しては一定のヘッジファンドのフローの影響があったのかもしれない。いずれにしても、日本ではこうしたファンドが少なく、電子取引も少ないので海外ほど影響は顕著ではない。しかし、為替や一部先物取引のように、海外プレーヤーのシェアが高くなってくると、こうした影響は徐々に無視できなくなっていく。
一定のモメンタム系のシグナルが発生すると、多くの市場参加者が同じ取引をしようとする。それに対応するマーケットメーカーとしては、うかつにこうした取引を受けてしまうと、さらに市場が動いて大きく損失を出す危険性がある。
個人的にはヘッジファンドの存在意義の一つは市場流動性を高めることにあると思っていたのだが、ほかのマクロ系ファンドとは異なり、モメンタム系ファンドは、市場の効率化に資しているのか疑わしいと感じている。したがって、マーケットメーカーとしては、こうしたフローに適切なリスクチャージをしていくことが重要になるものと思われるが、透明性、公平性、競争上の問題からなかなかこれも難しい。
海外では、レポ市場で国債を借りてショートし、先物をロングするといったベーシストレードが流行っているが、ファンドがこうした取引戦略をとることも多い。米国では既に問題となっているが、この取引がワークするには、非常に大きなサイズで取引をする必要がある。厳格なバランスシート規制を受ける金融機関であれば、こうした取引を増やすとG-SIBスコアやBSが膨らんでしまうのでなかなかできない。しかし、規制の緩いヘッジファンドは簡単にできてしまう。
こうしたファンドに銀行規制と似たような規制をかけようという話も出ているが、当然ファンドサイドからは反対意見が出ている。投資家のコストが上がり経済における資金の流れを阻害するという理由だ。英国中銀のBailey総裁が、今週火曜のスピーチでシャドーバンキングに対する規制強化を再度訴えていたが、銀行がここまで規制を受ける中、一部のファンドがフリーライドをすることは不公平であるため、ある程度の規制は必要なのだろう。
確かにファンドといっても様々なものがあり、一律厳しい規制をかけるのは望ましくないのだが、現状市場の公平性の観点からいって、規制が厳しいところとそうでないところでかなりの違いが出ているのは確かである。ファンドは銀行の「顧客」であるため、特に大手のファンドになってくると、銀行に対して圧力をかけて有利な条件を引き出そうというところもあるかもしれない。アルケゴスのケースでも明らかになったように、競争上の理由、ファンドからの圧力で担保を引き下げてしまうということが現に起きている。
証拠金規制によって随分改善されたが、ヘッジファンドとの当初証拠金の交渉は難航することが多い。シャドーバンキングの規制強化の流れは加速しているが、ここまでファンドの立場が強くなってくると銀行だけ規制しても不十分ということがありうる。ある程度銀行以外に対する規制強化もやむを得ないのだろう。