米国資本規制緩和のニュース

最近たまに各方面からコメントが出てくるが、今週はFEDがG-SIBサーチャージの緩和策を検討というロイターのニュースが注目を集めた。決算に前向きな意見が出たこともあるが、米銀の株価が軒並み上昇した。

公式見解は何も出ていないのだが、事情を知る複数の市場参加者のコメントとして報道されている。米国ではこうした記事が出ることが多いが、今回もおそらく信ぴょう性が高いのだろう。内容としては、G-SIBスコアのうち、経済成長を反映させた形で係数を調整するということのようだ。

通常銀行がバランスシートのサイズを増やせばサイズを表すスコアが上昇し、G-SIBサーチャージが上昇する。グローバルなシステム上重要な銀行にかかるチャージであるため、サイズが大きくなればシステム上重要度が増すので、それが大きくなるのはある意味当然である。

以前G-SIBの定義を紹介した時の記事にも書いたが、バーゼルのルールが相対指標なのに対し、米国の一部ルール(Method 2)は絶対指標となっている。つまりバーゼルのルールでは、経済全体が10%成長していれば、個々の銀行が10%成長したとしてもスコアは変わらないのに対し、米国のMethod 2では、各行のスコアが上がってしまうのである。報道されている内容からするとこのMethod 2の見直しが検討されているということなのかもしれない。

例えばサーチャージが0.5%変更となっただけでも、JPMやバンカメなどの大銀行では各行1兆円を超える資本削減が可能になる。多くの大手米銀がこうした恩恵を受けるとなると、そのインパクトはかなり大きい。市場インパクトもあるかもしれない。

JPMなどは、この経済成長によって米国のG-SIBは$59bnもの資本を積んでいると試算していたこともある。言っていることはもっともで、なぜこれが米国だけ修正されないのかは不思議なところではあるが、大手銀行だけに有利な変更をするとなると、政治的にはなかなか受け入れられないだろう。とは言え、バーゼルIII Endgameでここを修正しないまま更に資本規制強化を行うのもかなり厳しい。

となると、Basel III Endgameで増える資本賦課と、経済成長を加味することで減る資本賦課がオフセットするようにデザインするというのが、誰からも受け入れやすい変更のようにも思える。しかし、この二つの変更には関連がないとする事情通のコメントも報道されているので、本当のところはよくわからない。いずれにしても米銀大手にとっては朗報であり、それが今週の株価の動きに表れているのかもしれない。

EUR IRSについてCCP間の競争が激しくなってきた

以前も紹介した通りユーロの金利スワップのクリアリングにNasdaqが参入し、現在5社入り乱れての競争になっている。とはいえ、メインはLCHであり、それをEurexが追う形になっている。Eurexは欧州域内のCCPとしては競争がないためか、コスト高という評判もあり、規制の後押しにも関わらず苦戦しているように見える。当然他の金利スワップとのネッティング効率という意味ではLCHが断然有利である。

通常あらゆる取引をネッティングするためには、極力一つのCCPの集中させた方が望ましい。だが、一社だけだと何かトラブルがあった時や、ポジションの集中リスクが大きくなった時のために、2社程度に分散しておく方が無難である。大手銀行はLCHとEurexの両方にアクセスがあるのが普通だろう。さすがにこの2社にBME、CME、Nasdaqを加えた5社は多いようにも思えるので、いずれは淘汰されていくことになるかNasdaqのように、北欧の銀行に強みを持つといった地域による棲み分けが起こるのかもしれない。

特に、委員会等への参加、デフォルトマネジメントプロセスやオークションへの参加など、ディーラーの参加者にとっての義務は軽くはないため、2社以上となるとかなりの負担になる。ただし、1社だとバックアッププランがないため海外当局からは不安視される傾向がある。

LCHに欧州当局から与えられている免除期間は来年2025年6月末で切れるが、さらなる延長があるのか、それとも欧州域内へのシフトが進むのかに注目が集まる。6月末で免除が終わることが明らかになれば、3か月前の3月までにLCHはポジション解消の通知を送らなければならない。欧州の規制としては、€6bn超の取引をする市場参加者は、半年ごとに5件の取引をEurexなど欧州域内のCCPでクリアリングする義務がある。これが€100bn超の参加者になると、毎月5件の義務となる。

これまでなかなかEurexへのシフトが大規模に進んでこなかったが、Nasdaqは北欧系の銀行を順調に取り込んでおり、LCHのポジションを移管するのならEurexではなくNasdaqという声も出始めているようだ。いわゆるEmir3.0が公開されるのが今年後半とのことなので、それまでには徐々に詳細が明らかになっていくのだろう。