中銀の緊急資金供与とStigma問題

ほとんどの国には、銀行が流動性危機に見舞われたときに一時的に緊急資金供給をするプログラムがある。ただし、これを利用したことが公になると、その銀行が危ないのではないかという憶測を呼ぶという恐れが常に付きまとう。おそらくStigmaという単語の意味を知ったのはこの問題について考えた時だったと思う。辞書では烙印、汚名、不名誉などと訳されているが、まさに国に資金供与を求めると、こうしたStigma問題が発生する。

しかし、最近米国FRBの高官からは、こうした資金供与を申請したとしても問題なく、むしろ積極的に使って欲しいというメッセージが出されたおり、Stigma問題に対する市場の見方に変化が見られるようになってきた。特にSVBが連銀窓口貸出を受けられずに破綻したこともあり、常日頃からこの資金にアクセスできるよう、準備を整えておく必要があるという認識すら示されている。

同様に問題は日本でも起きており、ドル資金供給のプログラムなどは、何となく使ってはいけないのではないかという雰囲気があったが、コロナショック時に活発に使われ、実は使っても問題ないということが認識されるようになった気がする。当然、それを当てにして銀行経営を行うのはどうかとも思うが、いざというときに風評被害を恐れてこれを使わず、銀行が破綻しては元も子もない。そもそもこうしたプログラムを創設した意味がなくなってしまう。

米国でもいざというときに備えて、定期的にこのプログラムの利用をテストすることが望ましいという意見もある。一部では、LCRの計算に連銀貸出を考慮しても良いのではないかとの意見も出ている。

いつも思うのだが、ここまで技術が進んで、スマホ決済なども可能になったのだから、資金を簡単に動かせるような技術は生まれないのだろうか。PayPayやLine Payなどでは、システム障害がない限り24時間資金移動が寛太にできる。なぜ緊急時の資金プログラムで24時間送金ができなかったり(今後24時間になるようだが)、担保金のやり取りに1日とか、下手すると数日かかったりするのだろう。このような即時決済が可能だったら、SVBはあのタイミングで破綻する必要はなかったのではないか。

残念ながらこうした決済周りの技術革新は、常に海外発となっている。先日も海外からの友人が、日本ではスマホに入れたクレジットカードのタッチ決済ができるところがなく愕然としていた。未だに日本では現金使用率が高い。

カウンターパーティーリスクの世界でも、取引先破綻からポジションクローズまで約2週間かかるという前提で、2週間99%VaRを当初証拠金に取るという考え方が根強く残っている。DisputeやGrace Periodの影響もあるのだが、昨今のマーケット環境において、ポジションクローズまで破綻から2週間かかるというのは長すぎる。そしてこれが長いために当初証拠金の金額が大きくなっており、流動性をひっ迫している。この期間を短縮してCCPのIMやSIMMの数字を減らすことができれば、プロシクリカリティの影響を緩和し、市場流動性の向上に役立つのではないだろうか。

CDSのクレジットイベント決定委員会のルール改正

ISDAがCDSのDC(Determination Committee)の制度改革に向けて意見募集をしている。このDCはクレジット・デリバティブ決定委員会のことで、CDSのクレジットイベントは判定するための委員会だ。第三者としてLinklatersに独立した評価を依頼しており、最終結果はまもなく公表され、2024年後半に市中協議が行われる予定と報じられている。


以前は26社であったDCのメンバーは、最近徐々に減っており、12社程度となっている。基本銀行などのセルサイドが10社、ファンドやアセマネなどのバイサイドが5社となっているが、今回の見直しは、バイサイド側からの情報公開を求める声に応えたものなのだろう。主な変更点はDCのWebsiteに若干公開されている。DCの意思決定プロセスの透明性向上、公平性の確保は重要なポイントであり、ヘッジファンドやアセマネがDCに参加したいという気持ちもわかるが、実際に参加しても失望するだけではないかという気もする。

そもそも、DCで話されたことをベースに取引をすることは禁じられているし、自分のポジションに合うような決定をするよう働きかけをすることもできない。2016年の改正もあったので、銀行内では、トレーディングを行うフロント部門はDCで議論された情報にアクセスできるはずもなく、意思決定に圧力をかけることなどもってのほかである。

ただ働きであるにも関わらず、透明性を確保するためにある程度の調査分析が必要となり、時間もかなり取られる。銀行の場合はコストも負担しているはずなので、割に合わない役割といっても過言ではないように思う。参加したいというファンドに門戸を開くのは大賛成だが、おそらく2、3回参加したら辞退するところが多発するのではないだろうか。

特に日本では、なぜISDAが企業のデフォルトを決めるのかという意見が出されて混乱したことがあった。企業の命運を決定するわけではなく、CDS契約のクレジットイベントに該当するかの判定をするだけだったのだが、ここが誤解された。その時も出された意見であるが、日本においては、市場参加者が集まって議論するのではなく、当局主導のもとで判定を行うべきという考えている人が多いように思う。どうせ、透明性を保ちつつ、自己のポジションに捕らわれない、公平公正な判断をしなければならないのだから、監督する機関が指導を行っても良いような気がする。

米国クリアリングの盲点

以前から何度か書いてきたことであるが、資本規制強化によってクリアリングブローカーの数が減り、ポジションが集中しすぎていることに対して当局サイドからも懸念が聞かれ始めている。主要16CCPのマージンやポジションの集中度合を調べたRisk.netの分析によると、半数以上のリスクがトップ5のブローカーに集中しているとのことである。

BNYや野村などの撤退により、この集中度合は年々高まっており、Basel III Endgameを経てさらに加速していくことが懸念されている。当初に比べるとクリアリングブローカーの数は7割減という意見もある。一方でクライアントクリアリングの市場は拡大の一途をだどっており、クリアリングのキャパシティ不足が指摘されている。前にも書いたように、こんな状況では、ディーラー破綻時にデフォルトマネジメントプロセスがワークするはずもなく、ポジションの強制解消が市場混乱を巻き起こすのは目に見えている。こうした状況にあって、米国では更に資本規制を強化しようというのだから、規制というのは政治がからむと本当にややこしい。ウォール街を支持するような意見を出せば、選挙で負けることを懸念する政治家もいるのだろう。

もし今後新たな銀行危機が起きた場合に、その顧客ポジションを引き受けるかどうかという判断を短期間で迫られれば、おそらく自分だったらNoと言ってしまうだろう。もちろんポジションのサイズ、方向、既存顧客かどうかなど様々な要因を分析したうえで判断する必要があるが、大きなポジションを引き受けてしまってから将来的にさらなる規制強化が起きる可能性もあるので、保守的にプライシングをせざるを得ない。しかも、一方向かつ長期に大きなポジションを持つ傾向のある、生命保険会社やアセマネなどのリアルマネーのポジション引き受けにはさらに慎重にならざるを得ない。

米国債の清算集中規制の導入も検討され、市場がますますクリアリングの方向に進む中、生保などのエンドユーザーが、クリアリングへのアクセスに苦慮する状況になるというのは皮肉なものである。

CDS Basisがネガティブになってきた

コロナ初期にも話題になったが、欧州でCDSのネガティブベーシスが再度注目を集めている。CDSのスプレッドから社債のスプレッドを引いたものをCDS Basisというが、これがマイナスになるのがネガティブベーシスである。このネガティブベーシスの状況において、社債を買ってそれと同年限のCDSでヘッジをすれば、大きなリスクを取ることなくポジティブキャリーを稼ぐことができる。

最近ドル債を発行した楽天なども、クーポンが11.25%で、ASW Spreadが450bpを超えでいるが、3年のCDSスプレッドは300bpを下回っていることからネガティブベーシスになっている。楽天の社債を買って3年のCDSを買ってヘッジすれば1.5%以上のキャリーを得られる。

通常はCDSの方が機動的に取引可能で流動性も高い。一方社債の方は何らかのショックが発生した時に慌てて売る投資家もいるので、価格が急落することがある。例えばコロナウィルス拡大の初期には、市場の不透明性を嫌気する投資家の売りが誘発され、社債が大きく売られた。一方CDSの方は、底値を拾うもあり、社債価格ほどの急落が見られずネガティブベーシスとなった。

通常は、リストラクチャリングをクレジットイベントに入れるCDSの方がトリガーされやすいので、CDS Basisはポジティブになることが多い。またCDSの場合はした取引相手のカウンターパーティーリスクもあるので、理論的にはCDSスプレッドの方がワイドであるべきだ。また、100億円の社債を購入する場合には100億円の現金を払う必要があるが、CDSを100億円売る(つまりクレジットリスクを取る)場合には、当初証拠金のみで良いとうい利点もある。

CDSマーケットがなかった頃は、社債を買ったら何があってもそれを持っておくしかなかった。海外では社債のショートができる場合はあるが、日本では社債のレポ市場がないためショートができない。したがって、これをCDSでヘッジできるようになったのは、リスク管理にとっては重要な進歩である。

本来このような裁定機会がある場合は、それを活かした取引をする投資家のフローが、こうしたひずみを解消させる。しかし、バランスシートや資本規制、証拠金規制など様々な制約がかかることにより、こうしたマーケットのひずみが放置されることが多くなってきた。

特に、日本においては、こうした裁定機会をとらえようとするヘッジファンドも少ないので、ひずみがそのまま残ることも多い。どうもヘッジファンドというとハゲタカのイメージがつきまとうのか、あまり良い顔をされないことが日本では多いが、市場に流動性を提供するという重要な役割を持っているというのも事実である。

例えば、日本で不良債権などを処理しようと思ったときに、海外のヘッジファンドがこれを買ってくれることが多い。これをハゲタカが日本の資産を買いあさるという表現をする向きもあるが、売りたい側にとっては、買い手があるというのはありがたいことなのである。

日本においても、株式のみならず社債ファンドが増え、こうした収益機会をとらえようとするArbitragerが増え、市場に厚みが増すことが望まれる。

取引を一般公開すると流動性は上がるのか

1年前のクレディスイスショック時に、ドイツ銀行のCDSスプレッドが極度にワイドニングしたことを受けて、CDS市場の透明性を高めるために報告規制を強化すべきという声が上がったが、その後あまり進展はないようだ。そもそもの発端は、CDSスプレッドの拡大が、ドイツ銀行の株価急落を誘発したため、CDS市場の透明性確保が急務と認識されたことにある。

具体的にはGSIBsに認定された銀行を参照するCDSについてポストトレードの透明性向上を求めるペーパーがEUから出された。米国でもいわゆるRule 10B-1によってCDS取引のポジションを公に公開するというルールについての議論が注目されたこともある。

金融取引を極力開示して透明性を高めることが、市場の活性化と正常化につながるという意見が欧米では良く聞かれるのだが、これは流動性の観点から慎重に検討すべきである。もちろん、株式や為替のような流動性の高い取引については、極力開示を進めることによって透明性が高まることは否定しない。ただ、リテールの取引が皆無であり、プロ投資家同士の間で取引される、流動性の低い取引が開示されたからといって、同じようなメリットがあるとは限らない。

特に、特定の投資家に取引が集中するコモディティなどでは、その取引内容が明らかになった時点で、誰が取引をしたのかが、その分野に詳しい人に明らかになってしまうことがある。また、米国規制上は開示義務が米国スワップディーラーにかかるが、円金利などの取引が日本時間に行われた場合、日本でスワップディーラー登録を行っている市場参加者は限られていることから、誰が取引をしたかが何となくプロにはわかってしまうということもある。

CDSも同じく流動性に欠けるため、取引開示規制を強化すれば、流動性が更に低下してしまうという懸念がある。昨年のドラフトでは、GSIBsを参照するシングルネームCDSは、欧州のPre Trade Transparencyの対象となるのではないかと言われていた。つまり、取引約定前に執行可能なプライスを公開しなければならないということである。流動性のないCDS市場においてこの要件はかなり厳しい。

また、欧州Mifirでは、ポストトレードでも取引内容を当局だけでなく一般公開する修正案が提案されたことがあったが、流動性のないシングルネームCDSには、4週間の報告猶予や免除が設けられており、CCPで行われた取引も除外されていた。しかしそれもドイツ銀行のCDSショックによって一瞬潮目が変わりかけた。

日本では、取引データを一般公開することに対して、欧米ほどの意見が聞かれない。ETP規制はあるが、免除規定も多くあまり大きな障害にはなっていない。確かに流動性がそれほど高くない日本で、報告規制を強化してもそれほどメリットはないので、欧米に遅れないよう一応の仕組みだけ整備しておけば良いのかもしれない。

特に流動性のない商品の場合は、まず取引を抑えることよりも、流動性を高める努力をするのが重要である。取引更改が流動性向上につながるのなら良いが、現状CDSに関してはそうは思えない。日本については、それはCDSのみならず、スワップションや通貨スワップについても言えることなのかもしれない。

Basel III endgameの大幅修正?

今週水曜3/6に突然バーゼルIIIの見直しのニュースが出てきた。日本語に翻訳されたニュースの見出しも「ウォール街の大きな勝利に道」、「米当局は資本要件を大幅緩和」といったセンセーショナルなものとなっている。

CNBCのビデオクリップを見てみると、確かにパウエル氏も今回の規制強化案が多くの批判の対象となっていることを認識しており、何らかの見直しが必要と認めている。ただし、単に矢継ぎ早な誘導尋問的な質問に短く答えているだけのように見えるのだが、これ以外のところでもう少し踏み込んだ発言をしているのかもしれない。

とはいえ、全般的に「大きな勝利に道」というほどの変更が行われるかどうかは懐疑的ではある。

今回のコメント期間に寄せられた意見は300を超えるが、よく言われている通りそのうち97%が規制強化案全体またはその重要部分にかなりの懸念を示したとのことである。特に痛切に批判をしてきるのがFinancial Services Commiteeのレターで、確かに銀行だけでなく幅広くBasel III Endgameに対する批判が高まっているのがわかる。

実際に細かい内容はわからないが、ロイターの報道の一部では、オペレーショナルリスクの計算方法の変更の影響が最も大きく、低所得者向けの住宅ローンや再生可能エネルギーの税額控除に対するリスクウェイトが削減またはゼロになるという話が紹介されている。そして草案の大幅修正を行うことによって資本の上乗せ幅は大幅に圧縮される見込みとまで書かれている。

パウエル氏はまだ検討が始まったばかりなので、具体的な変更点は示していない。ただし、米地銀危機で打ち出された長期債発行拡大を義務付ける規制などについても再検討が行われる可能性があると述べている。

個人的には、クライアントクリアリングに対するCVA Capital、OTCデリバにおけるSA-CCR上の取り扱い(STMとCTMのネッティング)などがどう見直されるかに注目している。これらは、細かい点ではあるものの、デリバティブ市場の流動性に影響を与えるからである。

折しもBasel III Endgameを控えて、今年から流動性の悪化が始まるのではないかという懸念が高まりつつあったところなので、早急に検証作業結果が公表されることが望まれる。

クライアントクリアリングビジネスの将来

米国で、クライアントクリアリングの取引にCVA Capitalをチャージすべきという話が出ている。CCPへのシフトを奨励する一方で、その取引をRiskyなものとして扱うことには違和感があるが、この点に関しては米国のスタンスは一貫している。

クライアントクリアリングにはCCPと顧客の間にブローカーが入るプリンシパルモデルと、CCPと顧客が直接取引をするが、その履行をディーラーが保証するエージェントモデルがある。プリンシパルモデルは主に欧州で広がり、米国は先物の流れでエージェントモデルが主流となっている。実際に取引相手とならないということで、エージェントモデルの方が資本コストが低く、欧州ではエージェントモデルへの変更が議論されていたくらいだ。今回はこのエージェントモデルでもCVA Capitalのコストがかかることになる。

エージェントモデルにおいては、ディーラーが保証を提供している形だが、保証はオフバランスシート項目であり、すでにデフォルトリスクに対する資本賦課がなされている。これにCVA Capitalを追加するのはダブルカウントとも言える。また、CVA CapitalはバーゼルIII標準法に含まれていないが、この変更により新たにCVA Capitalも追加になるという話もある。

クライアントクリアリングに関しては、顧客のポジションがレバレッジ比率計算の対象となるということで、資本コストがかさみ、いくつかのディーラーがクライアントクリアリングビジネスから撤退している。欧州では、顧客の拠出するIMはレバレッジ比率の計算から除外されているが、米国にはこのような措置はない。これで更にCVA Capitalまでとなると、いくつかビジネスの見直しを行うディーラーが出てきてもおかしくない。これまで比較的CVAに対する免除規定の多かった欧州が米国に追随する可能性は低いと思われるので、これは米国特有の問題となる。

さらに、CCPの参加者破綻時に、顧客がポジションを他のディーラーに移管(ポーティング)できるかどうかについては、すでに多くの疑問が呈されている。ここで更に資本規制強化が重なると、このポーティングという仕組み自体がワークしなくなる可能性がある。CSの時はUBSがすべて引き受けたから何とかなったが、CSのような巨大なポジションを短期間で受け入れることのできるディーラーは限られてくるだろう。そして、それを受けることによって多額の資本コストがかかるのであれば、ポジションの引き受けに躊躇するのが普通だろう。つまり今後大きな銀行危機が起きた時は、資本コスト増加を避けるためにポジションの移管がスムーズに行われず、該当ポジションが一斉解約されることになり、ますます市場の危機が増幅される可能性がある。

今回の提案にがFIAがレターを出しているが、バーゼルIIIエンドゲームと言われる米国の一連の規制強化によって、資本コストが22.4%増になると警告している(うちCVA Capitalのインパクトが8.1%増)。このほかにエージェントモデルで清算したクライアントクリアリングの取引を、GSIB Surchargeにも含めるという提案も出されており、このインパクトは58%増、つまりすべての改革が実現されると資本コストが80.5%増という、かなりの資本規制強化となる。ここまで何とか耐えてきたブローカーも、本気でビジネスの継続可能性を再精査する必要が出てくることが予想される。

本件改革案に対するコメント期限はすでに1月に終了しており、施行開始が来年7月と言われていることから、今年のどこかで最終案が出てくるものと思われる。米国だけの話とは言え、業界を揺るがすような変更になる可能性があるので、最終案には注目が集まる。

国債市場をめぐる規制の方向性は国によって異なる

決済期間短縮化、清算集中規制等、米国債の規制改革案が次々と最終化され、今後数年間の間に大きな変化が生じることとなる。また米国債の自己勘定取引を行う会社に対しても、ディーラーと同じような登録義務を課すという規制強化も議論されている。

決済期間短縮化に関しては、米国株や債券に投資する全世界の投資家が事務手続きの変更を余儀なくされるため、その影響は世界中に広がる。

特に為替取引を組み合わせて投資を行うアジアの投資家にとっては、時差の関係もあるため、事務負担はかなり大きくなる。ただ、その準備状況にはかなりばらつきがあるため、準備が遅れているところを中心に、かなりの混乱が起きるのではないかと危惧している。

米国がここまで国債市場に気を使うのは、2019年のレポショック、2020年3月の国債市場などの混乱時には、緊急介入を余儀なくされたことにあるのだろう。英国でも2022年秋にGilt Shockがあったが、やはりそのサイズからして米国債市場の混乱が与えるインパクトは他の追随を許さない。残高でみると英国債の残高は日本の半分以下である一方米国債残高は日本の4倍程度もある。

米国の場合は、金融規制によってディーラーのマーケットメークが困難になり、市場流動性が悪化したことが問題視されている。これを解決するために規制緩和が行われるのではないかという期待もあったが、結局は更に規制をかけることによって、CCPを使った流動性向上という方向性を目指すことになった。

日本では、米国ほどバランスシート制約やROEを気にするところが少ないので、ディーラーが引き続き流動性を提供している。その意味では日本の国債市場は、比較的安定していると言えよう。特に清算集中規制などの規制強化を行うという話も聞かれない。

米国では、清算集中機関の役割が今後ますます重要になってくることが予想される。現状では米国DTCCの重要性が増しているが、米国債市場ほどのサイズともなると、ある程度の競争が必要になるため、その他の清算機関の参入も予想される。CMEやIntercontinantal Exchangeなどがその候補になろう。

日本では東証/JSCCのほぼ独占状態だが、よほどの技術革新がない限り、新規参入があるようにも思えない。とは言え、他国の清算機関との比較やCPMI/IOSCOなど、海外からのプレッシャーが存在しないわけではないので、それなりに競争力を保ちつつ、技術革新への努力も続けられているように見える。

問題がない以上、規制強化をする必要性はないだろうから、たとえ米国で規制強化が進んでも、日本でJGBの清算集中規制が課されるようなことにはならないのだろうレポについては、清算集中規制を課さずともJSCCを通じた清算がすでにかなりのサイズで行われている。ヘアカットなしでレバレッジを掛けようとヘッジファンドが増えれば、何らかの議論が必要となるかもしれないが、現状ではそれほど大きな問題にはなっていない。

金融規制については世界的に歩調をそろえてレベルプレーイングフィールドを確保すべきという議論が持ち上がるが、国債周りの規制に関しては米国と日本では、異なる規制環境、オペレーションフローによって取引が続けられていくのだろう。