NDFのクリアリングが加速

証拠金規制最終フェーズを来年に控え、LCHやEurexといったCCPにおけるNDFのクリアリングが増加している。特に取引が一方向になりがちなバイサイドにとっては、当初証拠金の負担増を避けるため、CCPにおいて清算するインセンティブがある。INR、KRW、TWDといったアジア通貨のクリアリングも増えているようだ。OTCでも証拠金が必要になれば、上場商品と何ら変わりがなくなるため、上場デリバティブへのシフトも進むかもしれない。

こうした通貨は当然アジアのバイサイドからの取引ニーズが大きいので、アジアの参加者のクリアリングシフトが起きている。日本でもEM通貨を扱う投資信託等はあるので、一定のクリアリングニーズはあるはずなのだが、どうも日本は担保拠出と担保オペレーションに対するアレルギーがあるのか、ほとんどクリアリングが使われていない。

個人的な印象だけなのかもしれないが、日本では当初証拠金、規制資本等の最適化を進めようという動きが鈍い。未だに効率性よりシェアを重視しているわけではないだろうが、ROEは依然低く、当初証拠金を減らそうという動きも鈍い。海外CCP、CLSなどの海外標準サービスの採用ペースも遅い。

最近ではあらゆる標準システムが、こうしたフローを中心に作られているので、海外で進む自動化、標準化の流れについていかないと、世界から取り残されてしまうのではないだろうか。外資系では、金融は完全にシステム産業化していると言われ、毎年莫大なシステム投資を続けている。商品に差がつけ難くなってきた今、サービスの差別化をシステム化で図ろうとしている。お金ばかりかければ良いという訳ではないので注意が必要だが、テクノロジーの重要性は今後の金融機関経営の最重要課題となっていくだろう。

欧州300億円規制は邦銀に影響を与えるか

10月末にアナウンスされたEUの資本規制改正案が邦銀の海外戦略に影響を与えるとRisk.netで報道されている。EU域内に支店を持つ銀行の資産が300憶ユーロを超えた場合、EU市場にシステミックリスクがあると判断されれば、事業再編を迫られ、必要な場合は現法設立が求められるというものだ。また、資産50憶ユーロ以上の場合、LCRを含む追加的な流動性要件に従う必要があるという。

300億ユーロを超えているのはSMBCだけとのことだが、その他の銀行はこの300億を意識して事業展開をせざるを得ないという報道内容となっている。

ただ細かくないようを見ていくと、それほど負担が増えるようなものには見えない。EUの専門家からも、それほど大きなインパクトがはないだろうというコメントも出ている。何となく面倒だからEUでのビジネス拡大を躊躇するという影響はあるだろうが、自国に進出する金融機関に追加規制をかけるのはどこでも同じである。米国はもちろん、アジアの国々でも現地通貨建ての流動性確保の要件など、追加規制は珍しくない。

日本で活動している海外金融機関を見ても、ほとんどが現地法人を設立し、登録金融機関または金商業者として登録し業務を行っている。以前は便利だった支店形態は、規制強化によってどんどん困難になっている。米国にもSMBC CapitalやMizuho Capitalいった現法は既に存在しているので、今後は現法による海外展開というのが中心になっていくのだろう。

ポストトレード処理

以前は、デリバティブ取引を執行した後は、システムにブックしてコンファメーションを送れば処理が完了した。しかし、近年は、規制強化に伴って、取引後の処理が重要になってきた。取引照合、SEFやETPにおける執行、CCPにおける清算、即時報告(リアルタイムレポーティング)、当局への報告、マージンコール、担保決済、分別管理など、ポストトレードサービスは、取引が行われた後に発生する、取引のライフサイクルにおけるミドルオフィスとバックオフィスのあらゆる処理をカバーする。

更に、その取引に関するファンディングコスト、資本コストがかかり続けるため、それをいかに最適化していくかということも重要になる。この代表例がコンプレッションであるが、オフセットする取引を削減し、バランスシートにのっている取引量を減らすことにより、資本効率を向上させることができる。また、所要当初証拠金額の削減、ベーシスポジションの解消、SA-CCR上の資本賦課の削減、XVAの削減まで、様々な最適化が可能である。つまり、各種取引の結果できあがったポートフォリオを常に最適化し管理していくことが重要になってきたのである。

金融業界は規制強化、競争激化、低成長化、低収益化が起きており、それに対応するためテクノロジーを使ったコスト削減によるROE向上が急務になっている。その中心となるのがポストトレード処理である。

取引報告

まずは、ポストトレード処理の最初の段階に取引報告がある。単に取引した内容を報告するだけかと思ったら大間違いで、これを適切に行わないと巨額の罰金を科せられる。ここまで取引量が増えてくると、手作業で報告をするのは不可能で、システム対応によるオートメーションが不可欠となる。システム障害が発生した時は、取引が報告できないという理由で新規取引を止めたりもする。近年、規制当局は取引報告の一貫性と正確性を高める必要性を認識し、世界的に調和したデータ要素の採用を目指して、規則の見直しに着手している。こうした規則の変更に対応するには、その要件を解釈し、変更をシステムに組み込まなければならない。米国、EU、日本と規則が異なるが、共通の分類法や技術を使用して、より費用対効果の高いシステムを作り上げる必要がある。

ISDAでは、デジタル・レギュラトリー・レポーティング(DRR)イニシアチブの下で、共通ドメインモデル(CDM)を使って、一連の規則を共通の認識で解釈できるように努めている。将来的に規制が変更になった場合も、DRRを使用するすべての企業に迅速かつ一貫した形で展開することができ、監督当局に対して透明性を確保することができる。CDMの利用により、ポストトレードに関わるコストを業界全体で50-80%削減することが可能という研究結果もある。

当初証拠金最適化

ポストトレードのもう一つの柱に当初証拠金計算と最適化がある。証拠金規制によって、より多くの市場参加者が当初証拠金を計算、モニタリング、拠出するようになり、カストディアンにおける分別管理を行うようになった。カストディアンと口座管理契約の交渉と日々のやり取りは、証拠金規制によって新たに生まれたプロセスである。

ISDAの標準モデルであるSIMMの導入も不可欠となり、このSIMMで計算された当初証拠金額が証拠金規制のThresholdを超えていないかどうかの確認も必要となった。取引の収益マージンが縮小していく中、これらのすべてのプロセスを手作業が行っていると、オペレーションコストがかさんでしまうので、極力人手を介さずに効率的に処理を行うことが金融機関の競争力の源泉となってきた。残念ながら、これは日本の金融機関が最も不得手とする分野である。

取引量の圧縮(コンプレッション)

カウンターパーティーリスク管理の観点からは、CCPと並んでTriOptima社やQuantile Technologies社のような会社が提供するサービスの重要性も高まってきている。特に近年では、レバレッジ比率規制等想定元本で縛りをかける規制がふえてきたことから、元本を減らすコンプレッションはきわめて重要になってきている。これは、既存の取引について、参加者間でオフセットできる取引を一斉にキャンセルし、取引量を圧縮するというものである(Compression、Tear-upとも呼ばれる)。これにより、エクスポージャーや資本コストを削減すると同時に、取引管理業務からも解放される。

市場参加者は、キャンセルを希望する取引明細を同社のWeb上にアップロードすると同時に、キャンセルによって生じうる与信やリスク量の変化について、自身の許容量を提示する。TriOptimaでは、各社のキャンセル候補案件を組み合わせ、すべての参加者の許容範囲内でキャンセルできるような最適な取引の組合せを探し出し、参加者の合意が得られれば取引を一斉にキャンセルする。CDS等の想定元本残高が近年減少しているが、単純に取引が減ったというよりは、こうした残高圧縮の動きが活発化していることも、その理由の一つである。

バーゼルIに始まった資本規制は、内部格付、内部モデル等を使ったリスクに応じた計算にシフトしてきたが、2008年の金融危機を受けて、各金融機関が独自に計算したリスク指標は信用できないという方向に180度転換した。取引の想定元本で規制をかけるというレバレッジ比率規制がその最たるものであるが、リスクという観点からは完全にオフセットしている二つの取引であったとして、取引が残っている以上は取引に制約条件を加えなければならなくなった。これを受けて、金融機関サイドでは、本来のリスクのみならず想定元本も管理しなければならなくなり、リスクベースではない指標の管理も重要になってきた。

これはCCPに対する取引も同様で、各CCPでは、定期的に取引圧縮を行っている。このため、今後はコンプレッションが容易な取引のニーズが高まり、一部でMACスワップのような取引の標準化が進んだ。同時に各金融機関、CCPともに、想定元本をふくらませずに取引をブックし、キャンセルしていくような仕組みを構築していかなければならない。

 たとえば、想定元本10億円のスワップを銀行と行った後、これを解約する場合、同じ銀行と解約すれば取引が完全に消える。しかし、別の銀行のプライスが良かった場合は、反対取引を新規で入れることになる。この場合、二つの取引は完全にオフセットしているため、マーケットリスクはない。しかし、二つの銀行に対するカウンターパーティーリスクを負っていると同時に、想定元本も20億円になってしまう。このようなケースではアサインメントといって、当初の取引を新しい銀行に譲渡するやり方をとれば想定元本はふえない。なお、CCPで取引をしていればオフセットする取引はその後消えていくことになる。

さらにこうした完全にオフセットする取引でなくても、満期やクーポンが若干異なるためにコンプレッションができない場合にも、取引の内容を若干変えてでも想定元本を減らせるような仕組みも考えていく必要がある。CCPでは既にクーポンブレンディングやリスキーコンプレッションといってリスク量が若干変化するのを許容するコンプレッションも行われている。このような努力を続けていけば、想定元本を減らすのみならず、万が一参加者破綻が起きた場合でもオークションポートフォリオを簡素化できる。

SwapAgentとは

SwapAgentは、英国のCCPであるLCHのサービスで、清算はしないものの、相対取引の執行、証拠金授受、決済などを簡素化するためのサービスである。クリアリング業務で培った経験を、非清算取引に拡大し、標準化、効率化、簡素化を進めようというものである。取引自体は清算されていないが、集中取引処理、時価評価、証拠金計算、リスク計算、ポートフォリオ最適化などが、清算取引と似たようなプロセスで行われる。

通常のマージンコールにおいては、双方の時価が異なることによるDisputeが発生するが、SwapAgentでは、LCHが時価評価をすることによりDisputeがなくなる。担保決済も清算取引と同じように行われるため、標準化が可能になる。リスクファクターの計算も標準化されるため、SIMMの計算も容易になり、計算結果の違いも少なくなる。

そして、SwapAgentと非SwapAgent取引を含めたポートフォリオについて、TriOptimaなどのコンプレッションが容易に適用できるため、取引量の圧縮も可能になる。

また、何と言っても割引率が統一されるのが大きい。例えば、ドル円通貨スワップについては、CSAの適格担保の通貨によって、割引率が円のものとドルのものが混在している。一般的に通貨スワップについてはドルディスカウントを行う市場参加者が多いので、ドル担保のCSAを別途締結するところもある、追加のCSA契約締結等手間が多い。これが、SwapAgentに参加すると、すべて標準のドルディスカウントが行えるようになる。

LIBOR改革においても清算取引と同様の指標変更が行えるため、相対で交渉する手間が省けた。今後は逆にSwapAgentに参加していないとチャージをされるようなことが増えてくるものと思われる。

SA-CCRが小規模金融機関に与えるインパクト

スペインの地銀の2021年上半期のCVA資本チャージが、SA-CCRへの移行に伴い€29mmから€1bn超へと、30倍に膨らんだとの記事が出ている。この程度の規模の地銀でこれだけの資本コストの上昇は尋常でないが、地銀でもCVAを無視できない時代に突入したということなのだろう。

こうなると、CVAをきちんと把握してそのヘッジを行おうというインセンティブが高まる。おそらく簡便法が最も簡単なのだが、少なくともBA-CVAを適用しようという銀行も増えてくるかもしれない。

日本の地銀においては、2023年3月期からバーゼルIII第3の柱に基づく開示全般について、新様式の利用を予定しているところが多いものと思われる。どうせ必要なら充分に研究して先進的なCVA計算手法を入れ、資本の効率化を向上させようとする銀行が出てきても良いのではないか。デリバティブを毛嫌いするだけでなく、うまく使えばリスク管理にもなるし、ROE向上にもつながる。

計算だけなら数人のチームを作ってとことん勉強させれば、何とか先進的な手法を導入するのは可能だと思う。あるいは複数地銀で集まって、CVA導入を目指しても良いのではないだろうか。日本では大手銀行でも資本効率が海外に比べて極端に低いので、中小金融機関でも高ROEを達成することができるのではないか。組織が硬直的でない分小規模金融機関の方が小回りが利いて、新しいことが進めやすいと思う。

金融の生産性を向上するには

日本の生産性が問題視されるようになって久しいが、確かに完璧を求め生産性を犠牲にする文化があるのかもしれない。既存のプロセスを変更するときや前例のない新しいことを始めるのが非常に困難だ。

メールのやり取り一つとっても英語より極端に時間がかかる。まず相手の会社名、部署名、役職を記入し、漢字に間違いがないか確認しながら名前を書く。そして、「いつもお世話…」にという常套文句を書き、ようやく要件に入れる。複数人宛の場合は誰を最初に書くべきかの確認も必須だ。役職も参事役と部長補佐はどちらが偉いんだなどと考えながら、内容を書くまでに意外と時間がかかってしまう。

メールの返信を書く時まで、その都度会社名とお世話に…を入れる場合もあるが、英語メールの場合は、複数のやり取りが続くと名前すら省略することがあるが、慣れてくるとメールのやりとりは、英語の方が圧倒的に早い。プロ野球で「そうですね」廃止が話題になっているが、メールでも「いつもお世話に」を禁止したいものだ。

会食時にも、手土産やタクシーを手配し、座る場所、会計、見送りに気を配り、次の日の朝にはお礼状、お礼メールを送る。慣れてしまったので何のことはないのだが、余分に時間はかかる。外資系では手土産などは送る方ももらう方も申請が必要なので、その申請も出さなければならない。コンプライアンスから追加質問がくる場合もある。古き良き伝統なのかもしれないが、少なくともこのご時世、接待の手土産は禁止にして欲しい。通常物を贈るのは禁止というのがグローバル金融機関の常識なのだが、手土産の他、事務所移転等で花を贈ったりする日本においては、各社とも特殊ルールを設けている。

このような他愛もないこと以外にも、金融ではフェイルやレポート提出の遅れ、非常に細かい事務ミスが許容されないので、そのために人海戦術で対応するしかない。こうして現場は多忙を極める割に収益にはつながらないため、生産性が下がる。95%の正確性で収益を上げるより、コストを引いた後の収益がマイナスでも100の正確性を求めている。

その割にシステム投資を抑えるため大きなミスが起きてしまう。フェイルやその他事務ミスについては、人手をかけて二重チェックをすれば防げるが、システム障害は人海戦術では防げない。製造業であれだけ費用対効果を極限まで最大化する努力ができたのだから、サービス業でも若干は効率性を考えなければならない。1円帳尻が合うまで支店の全員が残っていたというエピソードがあったが、日本のビジネス環境をよく表している。

しかし一方で、黒船、地震、コロナ等があると、急に危機感が芽生えて常識が変わる。テレワークはコロナがなければ絶対に進まなかっただろう。海外企業は、コロナ前から金曜だけはフロリダからテレワークという人もいたくらいなので、在宅勤務への移行は直ちに実行できた。つまり、何か天変地異のようなものがなくても変化が起きていたということだ。

しかし、コロナのような大きな変化が起きると、これまでのしがらみを捨てて変化できるというのも日本の良さなので、これからはチャンスが出てくるかもしれない。規制業種になってしまったので以前より難しくはなってきたが、常に新しいことにチャレンジする精神を持っていきたいものである。