RFR First UPDATE

通貨スワップのLIBORからRFRへの移行ターゲットである9/21を通過し、RFRへのシフトが着実に進み始めた。先週まではRFRの通貨スワップはほとんど見られずどうなることかと思っていたが、いざ始まってみると特に大きな問題なく移行が進んでいるようである。

初日のSDRには東京時間に3件のUSDJPYの通貨スワップが観測されたが、すべてRFRベースだった。先スタートの1年スワップと13年、20年の通貨スワップだったが、すべてTONA vs SOFRになっている。その後ロンドン時間に入って行われた2件もRFRだった。別の日にはTONA vs USDLIBORが見えるようだが、例外的なものと願いたい。

その他の通貨も順調にRFR取引が行われた。RFR Firstは大成功といった形だろう。前にも書いたが、このベンチマークの移行というのは徐々に起きるというよりは一気に起きるようだ。特に日本でこの傾向が強い。前もって一応準備しておくが、何かきっかけがあるまではなかなか動けないのだが、一度動き出すと一気に移行が進む。

一つ注目なのはEURだ。欧州のワーキンググループでは、USD、GBP、JPY、CHFについての移行を推奨していたものの、EURレグについては、Continue to monitor the development of market liquidity and demand from end usersと書かれており、市場の流動性を見ながら当面モニタリングとなっている。実際初日ロンドン時間ではEuribor vs Liborが多かった。米国時間になるとESTR vs SOFRもみられ始めたが、まだマーケットは完全に方向感がつかめていないようだ。

欧州系はEuribor、米系はESTRということなのかもしれない。まだ一週目なので何とも言えないが、ESTR vs SOFRの取引が一定程度増えてきたので来週以降の動向に注目が集まる。

非公開情報とCVAヘッジ

デリバティブカウンターパーティーリスクをヘッジする際について回るのが、MNPIの問題である。これはMaterial Non Pubic Informationの略で、日本語では内部情報と呼ばれる。内部情報は秘密情報であり、株価や債券価格などに重大な影響を及ぼす可能性のあるすべての非公開情報が含まれる。

この内部情報の管理手法には、各社でかなりばらつきがあり、あまり表に出てこない情報であるが、2020年から始められた金融庁の市場制度ワーキンググループの資料が参考になる。特に第8回では外資系金融機関に対するヒアリング結果が公表されており、各社がどのようにMNPIを管理しているかの一端をうかがうことができる。ここで述べられているように、海外では、情報共有を法律で禁じるというよりは、内部コントロールを聞かせることによって情報の遮断を行っている。一方本邦では、ファイアーウォールによって長らく銀証分離が行われてきた。

日本では、伝統的に「ルールベースの監督」が行われてきたが、外資系金融機関においては、「プリンシプルベースの監督」が主流であった。法律で禁じるというよりは、顧客利便性と内部管理のバランスを取りながら、各金融機関が内部コントロールを行い、個社のガイドラインに基づいて情報共有が行うという手法である。監督当局は法律違反をチェックするのではなく、内部管理体制がきちんと構築されているかを検査するという形になる。

ある程度自由度が増すのは確かだが、自己責任原則に基づいてかなり厳格な管理が行われるのが一般的である。法律に書いていないから良いではないかということではなく、常識に照らして自分で判断しなければならない。最近は日本でもプリンシパルベースへの移行を進めているように見受けられる。

いずれにしても金融機関経営はめまぐるしく変化をしており、極めて専門性が高い。完璧な法律を作ってがんじがらめにすれば利便性が損なわれ、法律の穴をかいくぐる行為が増えてしまう。プリンシパルベースにすれば、法律には書いていないものの、常識的に不正に当たりそうだという行為ができなくなる。ワーキンググループの議事録にもあるように、海外では「Need to Know」原則が貫かれている。業務遂行上知らなければならない人のみに情報共有が認められるという考え方だ。マニュアルが存在しない代わり、組織の良識が試される。

カウンターパーティーリスク管理においてこの内部情報が関係してくるのは、社債発行やM&Aに関係したスワップ取引についてである。先のヒアリング結果を見ると、「MNPIには、一定規模以上の債券が含まれる」という回答がある。また、「債券の発行について日本では原則MNPIとしていないが、グローバルでは基本的にMNPIとしている。」との不思議な回答もみられる。なぜ日本ではOKなのだろう。サイズが小さいからということなのかもしれないが。

カウンターパーティーリスク管理の性質上、新規取引を行うと同時にそのカウンターパーティーリスクをヘッジするのが一般的であるが、新規取引が債券発行に関するものであったり、会社の合併、事業再構築に関連していたりする場合は、その情報が公になっていなければインサイダー取引とみなされてしまう可能性も否定できない。したがって、こうした重要な非公開情報を入手してしまった場合は、適切なヘッジができなくなってしまうこともある。

通常は、適切なウォールを設けることにより情報管理体制が確立されているが、この体制は各社で独自に構築する必要がある。CVAの計算自体は取引のプライシングに関係しているため、きわめて早い段階でXVAデスクに問合せが入ることが多い。しかし、CVAの場合は、カウンターパーティーがわからないとCVAの計算ができない。Indicationを提示する段階では、A格程度の事業会社などと仮定して計算を行い、取引が近くなってからWall Crossを行い、厳密なプライシングを行う。あるいは、スプレッドを5年で100bp、10年で150bpのように仮定して計算を依頼することもある。

通常のトレーディングデスクであれば、こうした情報を得てしまった場合は取引を控えるという対応が可能かもしれないが、XVAデスクの場合は、取引ができなくなると会社としてリスクを抱えたままにしておかなければならないということになるので、情報管理は厳しく徹底する必要がある。

また、社債の発行金額があまりにも大きかった場合などは、MNPIに該当せずとも、市場に与える影響が甚大であるため、その情報を利用した取引をすべきでないという判断もあるかもしれない。この辺りは、各社であるべきコントロールを入れ、当局に説明できるようにしておく必要があろう。

通貨スワップのRFR移行はいつか

通貨スワップのRFR移行のターゲットは来週9月21日(RFR First)なのだが、未だ日本市場では本格的に移行する兆しがみられない。金利スワップがTONA Firstで一気に移行したのとは対照的である。今回は、米ドル、英ポンド、スイスフラン、日本円の4つの通貨間の取引でLiborの使用を停止するという目標だったが、日本円以外はある程度流動性が上がっているので、日本円が最も遅れている。

7月末は他の通貨も含めて95%でLIBOR/LIBORだったが、インターバンクでは、RFR/RFRへの移行が進んできた。円LIBORが年末に公表停止になるので当然の動きなのだが、海外に比べて当局のPushが少ないからなのか、市場参加者の認識は低い。ドルLIBORの公表停止が延長されたことも影響しているのかもしれないが、このような市場慣行変更は、銀行サイドが顧客に広報するだけでは限界があるのかもしれない。

LIBOR/RFRのように通貨ごとに移行をずらすことは技術的には可能だが、決済日がずれることになるのでできれば避けたい。金利スワップのTONA移行が急激に行われたのを見ると、今回も移るときは一気に移るのだろう。しかしそれは、9/21ではなく10月になるのかもしれない。

MACスワップとは

金利スワップの流動性向上のため、SIFMAの資産運用グループ(AMG)とISDAが2013年に提案した市場標準のスワップである。取引日、終了日、固定クーポンレートなどをあらかじめ決めておくことにより、先物取引のように取引流動性を向上させようというものである。 たとえば10年スワップといえば、すべて今年の6/15に始まり、10年後の6/15に終了日を迎える0.5%と固定金利と変動の交換ということになる。この日付はIMM Dateと呼ばれ、3,6,9,12月の第2水曜日とSIMFA公表のTerm Sheet上で定められている。固定クーポンはCMEのWeb上で定期的に公表されている。

このように条件を標準化すると、例えば6/1から始まるクーポン0.5%の10年金利スワップと、6/2から始まるクーポン0.51%の10年金利スワップのように複数の種類のスワップができることがなくなり、すべて6/15から始まる0.5%の金利スワップに統一でき、流動性が増すためb/oがタイトになるという効果がある。

また、解約、Novation、CCPへのバックロード等も容易になる。CDSではすでに25%、100%のように固定クーポン制をとっているが、これと同じことを金利スワップで行うことによってマーケットの標準化をしようという試みである。これをつきつめれば先物ということになるが、金利スワップについてはすべてが先物に移行するのはむずかしいと思われるため、MACスワップのような標準的取引が利用されている。日本円についても固定クーポンが定期的に更新されているが、日本の市場参加者間ではほとんど話題になっていない。しかし、海外投資家の中にはMAC Swapを好んで使い、IMM DateにRollをしてくる参加者も多い。

CDS取引などの場合は、無用なベーシスリスクを避けるため、当初のカウンターパーティーとの間で解約を行ったり、別の金融機関にポジションを移すことによって取引を完全に消滅させることが多いが、その他の商品においては、反対取引を入れることによってリスクを消すケースが多い。レバレッジ比率など、想定元本に係る規制が多くなっていることを考えると、今後はコンプレッションのみならず、解約が容易にできるような仕組みについての検討も必要である。CCPで清算されている取引の場合、既存取引のUnwind(解約)をするときは、一旦反対方向の取引を入れ、その日の終わりの相殺処理によって取引を消すという流れになる。MAC Swapであれば、必然的に相殺できる取引ペアが増えるため、想定元本削減が容易になる。

 顧客から解約依頼があったときに、こうしたリスクや担保条件、資金調達コストを考えながらどのような方法がベストかを計算しながら行っている金融機関と、単に申し出どおりに処理を行う金融機関とでは収益性に差が出たとしても不思議ではない。取引単位でみればたいした違いは出ないかもしれないが、日々膨大な取引を行う金融機関では無視できない収益差が生まれることもあるのである。

SA-CCR適用行

SA-CCRは現状任意適用だが、2021年3月時点での大手行の適用状況をざっと調べてみた。各社のリスク・アセットの概要の開示部分を拾ってみると、メガバンクはSA-CCR適用分の開示がなく、カレントエクスポージャー方式が中心となっている。しかし、みずほだけは期待エクスポージャー方式適用分の開示がある。

大手では野村、大和、農中がSA-CCR適用分に数字がみられるが、野村は期待エクスポージャー方式適用分の欄にも数字が入っている。カウンターパーティー信用リスクの数字を見るとMUFGが9兆円程度で飛びぬけており、SMBCMizuhoSMTB野村がその半分程度のところにある。大和は1兆円程度、農中は5000億円程度となっている。

過去からの数字をざっと見ても、SA-CCRに変更することによってリスクアセットが急減したようには見えない。

CVAリスクについてみてみると、MUFG、SMFG、Mizuhoの順で続くが、意外とSMTBのリスク量が大きくみずほを超えている。全体に占めるCVAリスクの割合が最も高いのもSMTBとなっている。野村と大和のCVAリスクはそれほど大きくない。やはり証券会社の方が有担保取引が多いのかもしれない。

その他地銀もSA-CCRに移行しているところは少なそうなので、日本では証券大手がSA-CCR適用済、銀行系でSA-CCRを適用しているのは農中など一部の銀行に限られているようである。ただし、来年以降は順次SA-CCRへの移行が進むので、今後のリスク・アセットの変化に注目したい。

入力ミスもあるかもしれないが、数字をまとめておく(単位10億円)。

デリバティブ保証

ISDAマスターに対する保証

デリバティブ取引のカウンターパーティーリスク削減の一手法に保証がある。最も一般的なのは、ISDAマスター契約において、信用保証提供者(Credit Support Provider)として保証会社を指定し、保証状を提供して信用補完を行うものである。これにより、カウンターパーティーリスクが対子会社から対親会社へと移る。これは、Credit Substitutionと呼ばれることもあり、資本計算などにも影響を及ぼす。特に外資系金融機関が現地法人を通して取引をする場合などに使われてきた。

CVAの計算上も、その親会社のCDSスプレッドを使って行われることになる。しかし、近年のRRP(Recovery and Resolution Planning)などの規制環境変化により、現地法人単独で格付取得、資本増強等を行い、親会社保証なしに取引をするところも増えてきた。親会社の格付が子会社より下になることが多く、信用力に劣る親会社(持株会社)が保証提供するというのが意味をなさなくなってきたという事情もある。

他にも、例えば米国の親会社が保証を提供すると、日本法人との取引であっても米国規制の一部が適用されるため、親会社保証なしに取引をしたいというニーズもある。日本では、親会社というとグループで最も信用力が高いという印象が残っているためか、親会社保証を外すことに難色を示すところもあるが、各国規制が複雑に絡み合う状況を回避するために、保証を入れないケースも増え始めている。

CVAの計算上、以前は、親会社のスプレッドをタイトにすることもあったが、近年では、TLAC債の発行も進み、必ずしも親会社の方が信用スプレッドが低いとも言えなくなってきた。日本や米国では、持株会社発行のシニア債のみがTLAC債となるが、経営破綻時に元本毀損リスクがあるTLAC債は、格付けが低く設定されることが多いからだ。

親会社と子会社双方の信用スプレッドがマーケットで観測されればCVAの計算は容易だが、親会社のCDSしか取引されていない場合が多いので、子会社銀行との取引に係るCVAをどう計算するかという問題が発生する。ここでその信用力に差をつけ子会社単独の信用スプレッドを推定しCVAの計算を行うことになる。

もともとFSBが定めたTLACの仕組みは、公的資金注入がないことが前提になっているが、日本では、預金保険法の整備によって、予防的な公的資金注入が可能になっている。したがって、日本の場合は、実質的な政府保証があるため、持株会社と銀行子会社のスプレッドに差をつける必要がないのではないかという議論もある。

企業グループに対する与信枠

こうした保証とは異なるが、海外、特に米国では、連結決算に重きを置くのが通常であり、信用枠管理等もグループベースでみることが多い。Back to Back取引などでリスクを一定の法人に集中させ、グループとしての一体管理をするところが多いので、一法人だけのリスクを見ていても全体像がつかめないからだ。一方、日本や欧州の一部の銀行では、個別法人ごとに与信枠を設定している例も多い。当然資本効率やIM Thresholdの効率的利用から、取引をブックするBooking Entityを変えることはあるが、純粋に信用枠の観点から取引法人を指定する場合もある。

ただし、最近では同グループ間の取引であっても各法人間でCSAを提供し、日々担保授受を行うのが普通になった。当初証拠金まで入れているところは少ないが、少なくとも変動証拠金のやり取りは行っている。つまり、Back to Back取引でリスクを移転した上で、マージンコールをかけて変動証拠金のやり取りを行うため、完全ではないものの、ある程度他国法人の影響から遮断される。

日本における保証

日本においては、保証予約、経営指導念書など、保証の形態にもさまざまなものがあるが、デリバティブの契約においては、こうした保証に効力を認めて資本賦課を下げたり、CVAの削減効果を認めるケースは少ないものと思われる。

そのほか、担保の代わりにISDAマスター契約の債務を対象とした一定金額までの保証状を差し入れるケースもある。通常はその会社のメインバンク等がこのような保証を提供することが多いが、その効力に6カ月や1年といった期限を設けることが多いため、期日管理も重要になってくる。CVAやPFEの計算上こうした期限付きの保証をどのように扱うかが問題になるが、保証が毎回更新されるかどうかは明らかではないため、保証の期限までのエクスポージャーが保証されているという前提で計算する方法が最も保守的だろう。

あとは更新の確率に応じて、適宜調整を入れるという方法も考えられる。通常は会社全体の債務をカバーする保証が多いが、一部の債務に限定した保証も存在する。これはつまるところCDSと同じようなものである。海外であれば時価評価を逃れるためにCDSを保証形態にするというのは、規制の関係でむずかしいだろうが、時価評価を嫌う市場参加者が多い日本では、比較的広範囲に使われているようだ。Risk Participationという形で、CDSではなく、保証類似形態にして日々の時価評価を避けるというものも、一部では行われている。

LCによる保証

その他、特にコモディティ取引で多くみられるものに信用状がある。LC、L/C、LOC(Letter of Credit)と呼ばれる信用状を銀行が発行し、それを現金担保や国債担保の代わりに入れるというものである。通常はCSAの適格担保にLCを追加し、掛け目(Valuation Percentage)や適格LCの条件(格付、銀行の格付、期間)等を規定しておく。こうすることにより、たとえLCに期限が設定されていたとしても、期限後は更新されるか、現金等他の適格担保を提供してくるという前提でCVAやPFEの計算ができる。

問題は、LCの場合実際に現金が受領されないので、カウンターパーティーリスクやCVAの削減はできても、ファンディングコストやFVAは減らせない。資本規制上も現金でなければ時価と相殺することができないことが多いので、KVAの削減も限定的となる。2000年初めまでは、LCはカウンターパーティーリスクを減らせるためメリットが大きかったが、規制強化によってファンディング、資本賦課が重要になってくると、現金担保ほどのメリットが得られないということで敬遠されるようになってきた。それでも、豊富な現金を持たない事業会社等に対する取引においては、カウンターパーティーリスク削減は可能なため、今でも一部の取引で使われている。

SOFR以外のベンチマークに対するIOSCOの懸念

以前から言われていたことであるが、十分な流動性に裏付けされていない金利指標を使うと、結局LIBORと同じような市場操作の懸念がある。BSBYやAmeriborのような信用リスクを含んだCredit Sensitive Ratesが一定程度使われ始めているが、9/8付にIOSCOからアナウンスが出され、こうした新ベンチマーク利用についての懸念が改めて表明されている。

ベンチマークに関しては、IOSCO準拠という基準がある。IOSCO Compliantかどうかということが現場ではよく言われる。今回はこの原則6、7について特に強調している。訳すとわかりにくくなるのだが、極端に簡略化すると、原則6は充分な流動性に裏付けされているか、原則7は充分なデータがあるかということになる。

文書の中で言われているいわゆる逆三角形問題(Inverted Pyramid Problem)とは、まさに充分な参照資産の流動性があって初めてそれを代表する指標が作れるという通常の三角形の逆が起きているというという懸念である。

そうなると実取引に基づかない金利指標となり、市場操作のリスクが高まりLIBORの二の舞になるということである。これは米国で英国の当局が主張してきたことであると書かれている。日本が入っていないが、日本の当局からこれに類するコメントはあまり聞かれないからなのだろうか。

TONAの流動性が上がる前にTORFを使うと同じような状況になるので、当然日本にも同じことが当てはまる。海外からはなぜTIBORがOKなのかといつも聞かれるが、TIBORはIOSCO Compliantになるよう、各種改善を行っていると返答している。なかなか納得してもらえないのが苦しいところであるが。

デリバティブ取引の割引率

以前はデリバティブ取引の割引率(ディスカウントレート)と言えばLIBORを使うのが一般的だった。邦銀であれば円LIBOR、米銀であればドルLIBORが使われていたと思われる。当初、LIBORはリスクフリーレートのProxy、つまり代替指標として使われていた。

デリバティブプライシングにおいては、リスクフリーの金利期間構造が不可欠であったため、AA格程度の銀行の短期の借り入れコストを表すLIBORが、リスクフレートとして便宜的に使われた。あくまでもリスクフリーレートの代替であり、銀行のリスクを含んだRisky Rateとしての扱いではなかったように記憶している。金利スワップの変動金利がLIBORで、ディスカウントレートもLIBORだったので、プライシング上便利という理由もあったのだろう。

2000年初めに良く行われた議論は、有担保取引の担保金利は翌日物金利であるOISだったので、OISディスカウントをすべきだというものだった。デリバティブ取引の担保契約であるCSA上では、現金担保に対する金利は米ドルであればFFレートであり、日本円であればTONATであった。

当時はTONATと言ったのだが、今ではTONAと言われることが多い。Tokyo Overnight Weighted Average RatesだからTONAとかTONARなのだが、ロイター社テレレートのTONATページにレートが表示されていたからTONATと呼んでいたのだろう。

しかし、リーマンショック時に銀行の信用リスクが顕在化すると、LIBORをリスクフリーレートとすることに対して疑問が呈されるようになった。ここで翌日物金利をベースにしたOISディスカウントへ移行しようという話になるのだが、先ほど述べたように、OISディスカウントの話は金融危機前から出ており、一部の海外大手銀行は、金融危機には既に移行を終えていたところもあったはずである。システム的な変更は終えていなかったとしても、将来的なOISディスカウントへの移行をにらんでプライシングを変えていたところが多かった。

プライシングの変更を早くから進めていたことににより、こうした大手行は、金融危機時の収益悪化をある程度緩和することができたものと思われる。金融危機以前にOISディスカウントの重要性について認識し、プライシングを変えていた銀行には、先見の明があったと言えよう。CCPでもLCHが2012年にOISディスカウントに移行し、有担保取引の割引率は完全にOISディスカウントに移行していった。

この頃から、LIBORはリスクフリーレートの代替ではなく、銀行の信用リスクを含んだものと言われるようになった。そもそもファイナンスの世界では、投資評価はその投資のリスクに応じて決まるものであり、それをどうファイナンスするかは関係ないというのが定説があったため、このディスカウントレートの変更に際しては、業界をあげた大きな議論になっていた。

プロジェクトファイナンス等で将来キャッシュフローを割り引く際には、無リスク金利に投資のリスクプレミアムを加えて現在価値を計算することが多い。しかし、その投資資金をいくらで調達するかは関係ない。しかし、デリバティブ取引においては、この頃からCVA、DVA、FVAといったXVAの導入が進み、どうファンディングするかというのがプライシングに考慮されていくようになる。当時あれほど、クオンツ部門と喧々諤々の議論をしたのだが、今では、こうした評価調整は所与のものとして話が進んでいる。

さて、話を2021年に進めると、今度はLIBOR改革でLIBORがなくなることになった。おそらく外資系であれば、有担保取引はFFディスカウントからSOFRディスカウントへ変更されているものと思われる。同時に、無担保取引についてもLIBORディスカウントからSOFRディスカウントに変更しているところが多いものと推測される。そうすると、有担も無担も同じSOFRディスカウントでよいのかという疑問が生じる。邦銀であればTONATとか、TIBORディスカウントに移行しているのかもしれない。あとは有担保と無担保の違いは、FVAで調整しているということになるのか。この辺りはまた時間のあるときに。

LIBOR移行Update

月初なのでJSCCの月次データを見てみる。

https://www.jpx.co.jp/jscc/toukei.html

予想通り8月にOIS移行が一気に進み、想定元本の半分を占めている。LIBORの割合は23%と7月に続いて一気に減少した。TONA Firstの後押しもあったが、まさにワクチン接種率と同様、日本という国は進みだすと早い。現場の雰囲気も既に金利スワップと言えばTONAが主流で、LIBORの場合はわざわざLIBORでと言わなければならない。

一つ注目すべきなのはTIBORが引き続き27%を占めている点だ。以前は10%未満だったので、LIBOR改革とは、LIBORがOISに変わるだけでなく、TIBORの増加を意味するのだろうか。初期の頃からTIBORが増えているのを見ると、ヘッジ会計やシステム整備の関連で一時的にTIBORへのシフトが進んだという見方もできようが、恒久的にTIBORが増えていくのかもしれない。もっとも、日本の場合は会計が極端に保守的なので、単にヘッジ会計の整理がまだ終わっていないというだけという可能性も捨てきれないので、今後の展開に注目したい。

日次の統計も確認してみる。

こちらも全般的には同じ流れだが、日によってLIBORやTIBORが増えている。クリアリング取引の場合は、取引のアンワインドができず、反対方向の取引を入れたうえで消すので、既存のLIBOR移行関連の取引も含まれているのだろう。

一応LCHの月次データも見てみる。本当はシェアを出せると良いのだが、データ集計が面倒なので取引量($bn)で示す。

https://www.lch.com/services/swapclear/volumes/rfr-volumes

不思議とあまり取引量に変化がみられない。LCHの場合は、tpMatchなと短期の取引が全体をゆがめる傾向があるので、長期の流れがつかみにくい。また、全体の取引量が細っているのも影響している。とは言え、以下のようにSOFRを見てみると取引量が着実に増えているので、TONAのグラフは若干の違和感がある。新しく開示され始めたデータでもあるので、少し精査をしてみる必要がありそうだ。

SOFR Term Rateはインターバンクで取引不可?

やはり金利指標の流動性というのは、徐々に変化するというよりは一気に進むものなのだろう。日本円の金利スワップについては、あっという間にLIBORからTONAにシフトした。ボールを一押しすればあっという間に転がると以前も書いたと思うが、転がるスピードは一気に加速した。


TONAだけでなく少し遅れていたUSDについてもSOFRの取引量が急上昇し、8月最終週の取引量は7月末に比べると56%上昇したと報道されている。

一方ARRCからはターム物RFRの利用についてのFAQが公表されている。以前CMEのターム物が正式に支持されたが、今回はそのターム物については、エンドユーザーの使用にとどめるべきであり、ディーラー間では使用が推奨されないと書かれている。原文を引用しよう。

The ARRC, however, does not support the use of the SOFR Term Rate for the vast majority of the derivatives markets. The ARRC does not recommend the trading of SOFR Term Rate derivatives in the
interdealer market because such activity could undermine trading activity in the underlying overnight SOFR derivatives that are needed to construct the SOFR term rate itself and could, thereby, compromise
the robustness of the rate and its corresponding utility to market participants.

デリバティブ市場における広範な利用が支持されておらず、特にインターバンクでは利用を控えるようにとのことだ。オーバーナイトSOFRよりターム物の取引が増えてしまうと、ターム物の裏付けとなっているオーバーナイトのSOFRの頑健性を損ねてしまうという、以前からの主張を繰り返している。

こうなるとローン、社債等の原資産をヘッジするためにエンドユーザーがターム物のIRSを行った場合、ディーラーはそのリスクをそのまま抱え込むことになる。確かにターム物とオーバーナイトの差はそれほど大きくなるのは不思議なので、これでもよいのかもしれないが、果たしてすべての通貨でこのやり方が通用するのかは定かでない。TORFについて同じようなRecommendationが出るとは若干思いにくいが、きっと議論にはなるだろう。

インターバンク市場が存在しなければ、後決め複利のSOFRとTerm SOFRのベーシスリスクが存在しなくなる?また、ブローカースクリーンもできないということになるのだろうか。であればベーシスが開いて損失がでることもなくなるので、ベーシスリスクの管理が必要なくなる。もしかしてARRCはそれを狙っているのかもしれない。でもこのベーシスマーケットができた方が流動性が上ががるような気もするのだがよくわからない。

日本でTORFをインターバンクで取引しないようにと言われたら、Quick社は困ってしまうのではないだろうか。当局も制限しようとまでは考えていなかったように思うが、ARRC推奨なので今後の議論に注目したい。しかし、日本でこれをやると、じゃあTIBORで良いやということになってしまわないだろうか。もう少し考えてみる必要がありそうだが、今晩はここまで。