ワクチン投与の進展と経済活動

金融市場だけを見ているとワクチンの重要性が非常に高まっている。当初は安全性を疑う声からワクチン投与を拒否する人の割合が相応に見込まれていたが、ここへきてワクチン投与による効用が不安感を上回っているように感じる。

最近の電話会議では、ワクチンもう打った?という話題から始まり、ロンドンはほぼ一回目を終わった人が増え始め、NYでもそろそろ受けようと思うという意見が増えてきている。

英国では3月のサービス部門収益が大幅拡大し、4月もさらなる拡大が予想されている。新規感染者数も3-4000人程度の日が多くなり、そろそろ日本と英国が逆転しそうだ。サービス産業が英国経済の80%を占めていることを考えるとここからの景気回復は思ったより早そうだ。

Google Mobilityのデータやクレジットカード支出統計なども、3月は力強い回復を見せている。4月以降、厳しいロックダウンの間に貯めこまれた資金が一気に消費に向かう可能性がある。労働市場も回復し、GDP成長率も当初予想の5%を大きく超えてくる可能性が高くなってきた。

米国ではまだ30%がワクチン投与に後ろ向きとCNBCで報道されており、これを義務化するかどうかという議論が起こっている。政府の立場としては強制はできないという立場を貫くだろうが、水疱瘡やはしかの予防接種は、通学の条件だった州もあったので、今後、航空機の搭乗のほか、劇場やコンサートでワクチン証明書が必要になることもあるだろう(当然、宗教、体質の問題もあるので完全強制は不可能だが)。

現在のワクチンはEUA(Emergency Use Authorization)による承認で正式承認ではなく義務化は難しいが、実際にイスラエルでは一部娯楽施設の入場に証明書が必要になっている。米国でも証明書を提示すればドーナッツがもらえるとか各種割引を提供する店が出始めている。レストランなどでも、ワクチン接種をしない従業員には接客をさせないというバーが出てきて議論になっている。ワクチン接種に金銭的インセンティブを与えるという企業もある。

ワクチン接種者のみで飲み会をやろうとか、海外旅行をしようということになると、自分だけが家にこもり続けることもできなくなってくるのではないだろうか。日本にいるとそんな雰囲気はないが、海外では夏の飛行機の予約も増えているとのことなので、思ったより早く変化の波が訪れているようだ。

日本の社債市場は発展するか

日本は間接金融中心だったため、社債市場の育成が遅れたというのは何年も言われてきたことである。JSDAで社債市場の活性化に関する懇談会が開かれたり、業界を上げて様々な努力が何十年も行われてきたが、結局大きな成果を得るには至っていない。

社債発行が少ないので活発な流通市場も育たず、社債レポ市場もないため、満期保有目的の投資以外はあまり投資家ニーズもなかった。CDSである程度ヘッジできるようになったとは言え、CDS市場の流動性も海外に比べると極端に低い。

業界でもあきらめムードに近いものがあったのだが、この傾向に若干変化が表れてきているように見える。大型起債のニュースが近年多かったので、久々にJSDAのデータを拾ってみると、以下のように年間発行額が15兆円を超えている。何となく7、8兆円が平均で多い時で10兆円という感覚だったので15兆円というのは頭一つ抜けた感じであり、しかもこれが2年続いている。

日本証券業協会データより筆者作成

もしかしたら銀行との関係にも変化が起き始めているのかもしれない。昨年末の大型起債も順調に消化され、投資家層も厚くなってきた感がある。昨年大型投資時には、中央公的、生損保、投信、系統、銀行で投資家層の7割を占めており、残りが地銀、海外その他と報じられていた。投信に組み込む動きと海外投資家のニーズが増えているのかもしれない。

それでも米国に比べると微々たる発行量だが、海外のように社債市場が活発化すると、銀行と企業の力関係も変化してくることが期待される。低格付債市場も活発化すれば、新興企業の資金調達の道も開かれるようになる。

ドル建て債券になると海外投資家が容易に投資できるが、円資金が必要な場合は通貨スワップが必要になる。このコストを考えると、円債でニーズが賄えれば企業にとっては望ましい。ほとんど金利のつかない銀行預金にしておくより、きちんと利息のつく社債投資を行いたいという個人も出てくるだろう。そして日本の社債をベースにしたETFや、リスク分散の観点から円建て資産を持ちたいという海外投資家も入ってくるかもしれない。

そうすれば、セカンダリー市場での売買も活発化し、レポ、社債ショートのニーズも高まり、CDS市場も活発化するのではないだろうか。