日本のTrade Bookingは海外に追いつけるか

少し前にことになるが、CFTCから2019年7月に日本の電子取引基盤(ETP)業者に対するSEF登録免除が公表され、日本のETP規制と米国規制との同等性が認められるている。日本のETPは円金利スワップの5年、7年、10年が対象で、店頭デリバティブの残高が6兆円を超える金商業者同士の取引が規制対象となる。確か日本でETP業者として登録されているのは以下の7社と記憶している。最近はあまりチェックしていなかったのだが、ETPがどれくらい使われているのかリンクから確認してみる。

データの見えるところだけを4/30で拾ってみると、TotanでUeda Traditionで3件Prebonが0件、Traditionが1件見えている。BGCはリンク切れのように見える。ClearMarketsもIntraday Tradingのところに取引があれば表示されるということなのだろうか。他はデータが見つからないかアクセス権が必要なようだ。

GW前で取引が少ないからという事情もあるだろうが、大手市場参加者の5、7、10年のスワップのみで、リンクされたパッケージトレードが対象外になっているので、JSCCの統計情報で示されている件数と比較するとあまりにも少ない。

米国SEFの場合は、対象年限や範囲が広いため、どうせやるなら全部SEFに乗せてしまえということになるのかもしれないが、日本のETPの場合は、この件数だと全部乗せるのは避け、対象取引だけ手作業で対応しようという判断になりそうだ。あるいはパッケージ取引やBlock取引など、対象外になる取引が多いのかもしれない。規制逃れになるので無理だろうが、ひょっとしたら11年スワップとかにしているところもあったりするのだろうか。

いずれにしてもここまで件数が少ないと、制度としていかがなものか。米国SEFと同等と言い切ってしまうのも何となく気が引ける。同じデータをSDRで見てみると件数が桁違いだ。欧州も米国SEFとの同等性がかなり確保されているので、海外の金融機関の取引はほぼSDRで確認でき、日本の取引だけが見えなくなっているというように見える。

ここまでリアルタイムでレポートするにはシステム的にSTPが確保されていなければならないため、海外ではシステム開発がかなり進んでいる。日本はシステム開発をしなくても良いよう極力対象を絞っているので、手作業が続けられている。今後e-tradingが増えたり、データ活用が進むようになってくると、日本だけ取り残されてしまうのではないだろうか。

共通データフォーマットがポートフォリオ最適化を促す

当初証拠金モデルのSIMMの計算に使われる共通データーフォーマットのCrifが新しくなる。もともと証拠金規制の中のIM計算にかかるSIMMのインプットであったため、現物決済されるFX Forwardなどが対象外となっていたが、それらも含めてCrif-plusとするとのことだ。これですべての取引がカバーされることになるため、その用途がSIMMのみならず、資本計算やコンプレッション、ポートフォリオ最適化等様々な用途に使えることになる。

SA-CCRの適用開始も間近に控えていることから、このデータの重要性はさらに高まる。今後は各社のトレーディングシステムも、いかにCrif-plusなどのような標準フォーマットに変換できるかが重要になる。

TriOptimaのようなコンプレッションベンダーは、当初証拠金、資本、リスク等様々なポートフォリオ最適化など、そのサービスを拡張しているが、こうした共通データフォーマットはその流れを一層加速させることになるだろう。本邦ではあまり資本対比の収益性が重視されてこなかったが、その流れが変わりつつあり、そのためにはSA-CCRへの移行による資本コスト増減を正しく分析することが不可欠となる。

海外ではTriOptimaの牙城を崩すべく、Quantile Technologiesが$51mmの投資資金を受け入れ、そのほかにもIHS MarkitとCMEの合弁、米銀が投資したCapitolisなどが業容を拡大している。こうしたポートフォリオ最適化は今後の銀行経営に欠かすことのできないサービスとなるだろう。

このサービスがコンサルティング業務と異なるのは、複数の銀行のデータを集めて業界全体での最適化を図れる点だ。通常は銀行は競合他社に自分の取引データを開示することは困難だが、守秘義務契約を締結したサードパーティーベンダーであれば、業界全体のポートフォリオを最適化する提案をすることができる。これが銀行全体のリスク量、資本、ファンディング、証拠金、ひいてはXVAまで、様々な分野に広がる可能性を秘めている。

守秘義務があるので難しいかもしれないが、ひょっとしたらアルケゴスのような業界全体に溜まっていた巨額のリスクにも気づけたのかもしれない。日本でも当局に取引データは蓄積されているもののそのデータが完全に分析できているとは限らないので、こうした専門会社が金融全体の安全性のために当局と連携するということもあり得る。

こうなると単にDealer間の取引にとどまらず、年金ファンドや保険会社などのデリバティブ取引ユーザーもこうしたサービスを必要とするようになるかもしれない。日本ではあまりこうした動きは見られないが、数年内にきっとフォーカスが集まっていることであろう。


GBP LIBORからSONIAの移行から学べるもの

日本円LIBORからの移行がどのように進むかという点で、GBP LIBORの移行がどのように進んでいるかが参考になる。FCAのSchooling Latter氏によると、引き続きLIBORスワップのシェアが半分くらいあるものの、未だにLIBORが継続しているというよりは、コンプレッションや移行に係るリスク管理上の取引とのことだ。

ある意味当然のことなのだが、あれだけ当局から新規取引にLIBORを使うなと言われている以上は、まともなディーラーであれば、極力顧客にも新レートへの移行を促すだろうし、社内ポリシーとしてもLIBORの取引を大々的に認めるのは難しいだろう。当然システム整備等が間に合わない顧客からは、いつまで使えるのか、新規LIBORスワップはできないのかという問い合わせが入ると思うが、ディーラーとしては、例外規定に入っているリスク管理、ヘッジのためのスワップのみ可能と答える他ないだろう。

いつものごとく、他のディーラーは期限移行も取引してくれると言っているのに、なぜお宅はできないんだという人も出てくるだろうが、こうしたいわゆるRace to Bottomを助長するような発言は取り締まっても良いくらいだと思う。新規取引が本当にリスク管理やヘッジのためのやむを得ない取引だったのかチェックする義務は厳密にはないものの、移行が進まない場合は、海外当局であればその正当性をヒアリングする可能性もある。

英国ではLIBORスワップの引き合いが来たときは、SONIAスワップとSONIA-LIBORベーシスのパッケージを進めているところもあると報じられている。

第一四半期の取引データによると、2年を超えるような長期のスワップの移行が進んできたようだ。これはで短期に集中していたSONIA取引が徐々に長期に広がってきたのは望ましいことである。

英国で起きているこれら一連の移行が今後日本では一気に起きることを考えると、夏以降は短期のスワップからOISに移り、それが徐々に長期に波及し、最後にスワップションなどのNon Linearな商品に移っていくことになるのだろう。

一方USDについてはここでも何度か紹介してきたAmeribor、BYI、BSBY(ビスビー)の勢いが増してきた。ISDAの定義集にも入ってくることになるようだ。ARRCとしてはじくじたる思いもあるのかもしれないが、このマーケットの流れには逆らえなさそうだ。

ターム物金利の流動性問題

CMEが米ドルのLIBOR代替金利であるSOFRのターム物を広めようと努力している。ARRCからは、SOFRの取引量が不十分であるため、指標の頑健性に欠けるとして、その拙速な利用に対して否定的な立場が示されたばかりであるが、CMEの取り組みがどこまで成功するかに注目が集まる。

確かにSOFR先物の一日当たりの取引量は徐々に増えてきており、新レートの先物すら存在しない日本に比べれば少しはましになってきている。とは言え、流動性が十分といえないまま指標が使われるようになると、指標が操作されやすくなり、何のためにLIBORから移行したのかがわからなくなってしまう。当局からはターム物の利用は一部の限られた部分に限るべきだという意見も出されている。

LIBOR改革が始まったころは、もう少し早くターム物RFRができるという前提だったのだろう。この話が出てから既存の契約に組み込まれたFallback文言上は、後継金利をターム物RFRとしているものが多い。米国の場合は18か月の猶予ができたのでまだましだが、日本はどうなるのだろう。

こんな中バンカメがクレジットリスクを含んだ新レートの一つであるBSBYを参照する債券を$1bn発行したというニュースが4/21に飛び込んできた。クレジットスプレッドを含んだレートとしてはAmeribor建ての債券が米地銀から発行されていたが、大手銀行がBSBY建ての債券を発行するというのは正直驚いた。BSBYはBloombergが公表するものでBloomberg Short-Term Bank Yield Indexのことである。

それでも米国ではこのような様々な取り組みがなされているだけましなのかもしれない。日本では来週の月曜4/26からTORFの確定値が公表されるが、OISの流動性がない中これを使うというのは海外当局やARRCとしては指示できないということなのだろうが、日本では不思議とこういった議論はあまり聞かれない。

最近はTIBORマーケットが盛り上がっているが、日本では一時的にTIBORがメインになってしまったりするのだろうか。LIBORがダメでなぜTIBORが問題ないのかと、何度海外から説明を求められたかわからないが、ここまで時間がなくなってくると一時的にTIBORに移行してから他の手段を考えるしか方法がなくなっているのかもしれない。

日本はいつも準備と勉強だけは誰よりも早くから進める割には、実際に行動が伴わないと、いつも批判され悔しい思いをするのだが、ワクチンにしてもLIBOR改革にしても、なかなか反論ができないのがもどかしいところである。

CFTCコミッショナーのコメントがCLEARD Marketに与える影響

最近はビットコイン関連のコメントで有名になってしまった米国CFTCコミッショナーのStump氏であるが、先週4/19にCFTCのWebサイトで公開されたCCPに関するスピーチが興味深い。

ここでは国際規制当局間の連携の重要性が説かれており、地域に特化した規制の撤廃、規制のグローバル化が訴えられている。当然全く同じ規制を各国が導入するのは不可能ではあるものの、Compatibilityが重要との主張である。規制が重複してしまうと、増加の一途を辿るOTCクリアリングのリスク管理上のメリットが損なわれてしまうとの意見はもっともである。

そしてCase StudyとしてExempt DCOの話題に踏み込んでいる。DCOはDerivatives Clearing Organizationsの略で、米国で正式に認可を受けたCCPのことである。この他にExempt DCOというステータスがあるが、これは、米国マーケットに与える影響が軽微などの理由で、DCO登録を免除しつつ、米国参加者にも門戸を開くものとなっている。ちなみに欧州の場合は第三国CCPという認証がある。日本のCCPであるJSCCはこのExempt DCOとして登録免除決定を受けている。

今回Stump氏は、当時も話題になった2019年のExempt DCOに関するCFTCの決定が誤りだったのではないかと述べているのである。この提案によって、米国顧客はFCMを通じてExempt DCOにアクセスすることができなくなっているが、これを問題視している。上場先物にはこんな制限はないのでOTCだけに制限があるのもおかしいとしている。

これがなぜ重要かと言うと、現在米国の大手アセマネなどの主要市場参加者はJSCCに参加できない。欧州にはこのような規制がないので、JSCCのメンバーになっているが、JSCCのクライアントクリアリングの参加者に厳密な米国顧客はいないはずである。つまり、円金利市場にとって重要なのは、米国顧客がJSCCで円金利スワップをクリアリングできるようにすべきと言っているのに等しいということである。

つまり、参加者が異なること、ポジションの偏りによって生まれていたJSCC-LCHベーシスがなくなる方向に動くということなのだろうか(といっても最近はこのベーシスは既にかなり縮まっているのであまり影響はないかもしれないが)。

続けて、「米国外のCCPが米国顧客のために取引清算を可能にするため、DCO登録免除取得の道筋を再検討するよう自分が求めたにも関わらず、昨年はそのような努力はなされなかった。」とコメントしている。

最後にロケーションベースの政策を批判し、グローバル市場へのグローバルなアクセスが確保されるべき、世界中のCCPが競争することを認めなければならない、場所による制限を最小限にするよう努めなければならないとしている。マーケットのグローバルな性質を無視して域外の人が一定の地域のCCPにアクセスできなくなると、金融不安を軽減するどころか助長するので、国境を越えた協力、連携が不可欠であると述べている。至極もっともな内容でいずれも同感である。良く練られた良いスピーチだと思う。

こうして考えてみると、日本でLCHやCMEが日本の顧客に対して円金利スワップの清算ができないこと、米国顧客がJSCCに入れないことというのは、Stump氏にとっては大問題ということになるのだろうか。

バーゼルIIIの国内規制方針案

2023年3月期から国内で実施となるバーゼルIIIの規制方針が公表され、コメント期間も終わったことから、6月のターゲットを前に告示改正案のパブコメ募集という形になる。バーゼルIIIと言われて久しいがようやく完全実施が近づいてきた。

国際合意上は、OTCデリバティブ取引の想定元本1000億ユーロ以下の金融機関は、CVAリスクについて簡便法の利用が可能だが、日本では国際基準行は簡便法は認められない。国内基準行は、CVAリスクの対象となるデリバティブ取引の元本合計が10兆円以下であれば簡便法が使える。少し古いもので基準が完全に一致しているかよく分からないが、以前公表された1兆円リスト上は40社しかなかった。10兆円というとかなりの大きさなのでほとんどの国内基準行は簡便法が使えるようになるように思う。資本賦課の水準はデリバティブ取引の信用リスク・アセットの額に12%を乗じて得た額となっている。

その他注目されるのばバンキング勘定とトレーディング勘定の厳格な分類を告示に規定する予定というコメントだ。これが従来より厳しくなるかどうかに注目が集まる。

そのほか株式や資本制商品のリスクウェイトの扱いについても記載がある。非上場株式のうち250%のリスクウェイトが適用されるものの範囲についてQ&Aで明確化が図られる予定だ。持ち合い株の扱いについてのリスクウェイトが焦点になろう。

SA-CCRの計算

バーゼルIIIの最終化がコロナによって1年延長されたものの、2023年1月のFRTB、信用リスクにかかる標準的手法、内部格付手法、CVAなどの適用まで2年を切った(本邦では2023年3月)。内部モデルによるRWAを標準法のRWAの72.5%を下限とするアウトプットフロアについても2023年1月からの段階適用となる(50%->55%->60%->65%->70%->72.5%)。

カウンターパーティークレジットリスク計測手法も、従来のカレントエクスポージャー方式からSA-CCRに変更になる。既にSA-CCRの導入を始めた邦銀も多いが、ROE重視の経営が盛んになる中、SA-CCRを巡る分析が今後活発になっていくものと思われる。SA-CCRは基本的に以下の6つの分野に影響を及ぼす。

  1. RWA
  2. Large Exposure Framework
  3. レバレッジ比率
  4. CCP向けエクスポージャー
  5. CVA
  6. アウトプットフロア

という訳で、若干SA-CCRについて整理してみる。デリバティブ取引はまず以下のリスクカテゴリに分けられる。

  1. コモディティ
  2. クレジット
  3. 株式
  4. 為替
  5. 金利
  6. その他

まずはカウンターパーティーのデフォルト時の時価であるるEAD(Exposure at Default)の計算が必要になる。要は取引相手がデフォルトするとき、どの程度のエクスポージャーを持っているかというものだ。これはいつもの通り以下の式で表記される。

EAD=α(RC+PFE)

αは当局指定のマジックナンバーである1.4、RCはReplacement Costの略、PFEはPotential Future Exposureの略である。RCはそのポジションを再構築したらどれくらいのコストがかかるかということでこのように呼ばれるのだろうが、要はその取引の時価(MtM)である。PFEはおなじみのVaRと似た概念で、エクスポージャーが潜在的にどれくらい動くかというものである。無担保の場合は1年間にどれくらい動くか、有担保の場合はMPORとかMPRと呼ばれる一定期間でどのくらい動くかを測るものである。OTCであれば、通常は2週間程度が使われることが多い。

PFEはそれぞれの資産クラスで計算したものを足し上げ、それに決められた掛け目(Multiplier)をかけて計算される。RCはISDAマスター契約などのネッティング契約の下にある取引をすべて足し上げる。この契約単位をネッティングセットという。

無担保の場合は以下の式で表される。

RC=max(CMV – NICA, 0)

CMVはCurrent Market Valueなので取引の時価(MtM)、NICAはNet Independent Collateral AmountなのでCSA契約で言う独立担保額、つまり当初証拠金と同義である。無担保なので要は取引の時価ということになる。ここでmaxがついているのでこの値はマイナスにならない。つまりA社でプラスの時価、B社でマイナスの時価だったとしてもそれらを相殺できない。

有担保の場合は以下の式となる。

RC=max(CMV-VM-NICA, TH+MTA-NICA,0)

だんだんややこしくなってきたが、VMは受け入れた変動証拠金、THは担保のThreshold、MTAは最低受渡金額(Minimum Transfer Amount)である。昨今ではThresholdは証拠金規制でほぼゼロになり、MTAもほぼ無視できるので、結局は担保でカバーされていない時価ということになる。ここでもmaxで0以下にならないので、異なるネッティングセット間で勝ち負けを相殺することはできない。

ハイブリッド取引のようにどこの資産クラスに入れるか明らかでない場合は、センシティビティの最も大きなリスクファクターなどによって分類する。年限毎のオフセット等その他詳細についてはまたの機会に。

日本の金融オペレーションはなぜ世界に後れを取ったか

あくまでも私見だが、日本のスワップ事務処理が世界に後れを取った理由の一つに、STPガイダンスがなかったことがあるのかもしれない。米国では2013年にSTPガイダンスが出され、欧州でも2015年に似たようなガイダンスが出された。要はクレジットリミットのチェックを瞬時に行い、その後のプロセスも極力自動化せよというものだが、これがSEF(Swap Execution Facility)、リアルタイムレポーティング等につながっている。

これにより、システム開発が行われ、一連の自動化プロセスが確立した。主にSEF上で執行されクリアリングされるような取引に対するプロセスなので、今回のArchegosのような事件には対応できないだろうが、一定程度のリスクコントロールも可能になる。

欧米ではClearing Certaintyという概念があり、執行前にクリアリングブローカーであるFCMとCCPが、取引がCCPで清算されることを事前にコミットする。CCPのブローカーに対するリミット、FCMが各顧客に対して持つリミットがあり、取引前にこれらのクレジットチェックが行われる。

なぜこんなことをするかというと、クリアされた取引と相対取引は資本コストやIMコスト、ディスカウントレートが異なるため、プライスが異なってしまうからである。クリア前提で取引を行い、その後にクリアリングできなかったとなると一方が損をしてしまう。清算集中義務規制が広がった今ではあまり問題にならないかもしれないが、当時はクリアリング前提の取引が急にOTCになってしまうとかなりの混乱を招いた。

通常はExecution Agreementでこうした場合にどのような対応をするかが取り決められている。STPガイダンスでは、Void Ab Initioという概念があり、あたかも取引がもともとなかったかのように無効になる。遡及的無効とでも訳すのだろうか。欧州ESMAのガイダンス上も取引がVoidになるとされているので、同じような対応となっている。

これを避けるためには取引前にリミットチェック等を瞬時に行う必要があり、これを確保するのがClearing Certaintyだ。クリアリングブローカーが顧客やSEFにリミットをあらかじめ伝えておき、これを超える場合には取引が瞬時にVoidとなる。取引の再提出は基本的には認められないが、ESMAの場合はシステム障害等による場合のみ例外が認められている。とは言え再提出の期限は10秒以内だったと思うので、システム的に対応していないと不可能だ。

欧米ともこの一連のプロセスにかなり厳格なタイムフレームを設けており、1分以内とか10秒以内とか細かく決められている。つまり、2013年くらいから、欧米金融機関はシステム開発にかなりのコストをかけ、ほとんどのプロセスの自動化することに注力してきた。

システム開発は不思議なもので、よほどのトップダウンの指示がない限り巨額投資が行われないという性質がある。特に従業員の雇用を守るという視点が入ってくると、自動化に対する抵抗力まで生まれてくる。規制で決められているのでやるというのが最も簡単だ。

日本の金融のオートメーション化が進まなかったのは、文化的な要素もあるのだろうが、このSTPガイダンスのような規制の後押しがなかったからなのかもしれない。STPプロセスの場合は、途中でそれを止めることができず、例えばBookingを間違えると、それがそのままConfirmationに反映され、SDRレポーティングまで行ってしまう。

事務ミスに対する許容度の低い日本では、きちんと人の目でチェックして顧客に送る書類には絶対にミスがないように気を配る。送ってから間違いがあれば直すという海外とは文化が異なる。ただ、昨今の自動化の流れの中では、人海戦術でミスを極限まで減らすという戦略には限界がある。不完全ではありながらも自動化の努力を進め、AIを駆使してそのプロセスを日々改善している海外とは、早晩戦えなくなってしまうのではないだろうか。

CMEのIBOR CONVERSION追加詳細

CMEからLIBOR取引一括変換の追加詳細が公表された。JPYが12/3、GBPが12/17なので、LCHと同じスケジュールになっている。既にFixingが終わった部分については、後決めでレートを変更することはなく、そのまま決まったFixingが維持されるとある。

また、オペレーション的にはCancel &Rebookだが、法的にはAmendmentの形を取るという点も新しい。ヘッジ会計の継続とかレポーティング規制の免除を受けやすいということなのだろうか。Swaptionについては、一旦Fallbackしたスワップをクリアして、日の終わりに標準OISに変換するとしている。これは参加者にとってはありがたい話なのだろう。ベーシススワップは二つのスワップに分解するようで、こちらはLCHとも同じだ。

参加者の意見を踏まえてこうした詳細が決められているのだろうが、CCPによって細かい点が微妙に異なっているのが興味深い。今後はこれらのやり方が一本化されていくことになるのだろうか。

しかし、色んな意味においてヘッジ会計は面倒だ。これがなければ、普通にコンプレッションサイクルで新レートに変えられるのに。

TIBORシフトは起きるか(UPDATE)

(グラフが間違えていたので修正しました。)

LIBOR公表停止関連のアナウンスを受け、OISへのシフトが増えるかに注目が集まっている。JSCCの債務負担金額の推移を見ると、全般的には右肩上がりだが、期待したほどには増えていない。

一方TIBOR関連のニュースもあったが、存続する予定のDTIBORが若干増えている。3月に顕著だったのはDTIBOR vs ZTIBORスワップだ。従来はほぼ同じものとして扱われていたDとZが今後異なってくることを予想した動きなのか、このリスクをヘッジすべきという判断が働いたのかはよく分からないが、この伸び率はかなり大きい。

https://www.jpx.co.jp/jscc/toukei_irs.html

年度末のヘッジニーズ等もあるだろうから一概には言えないが、引き続きTIBOR Swapは継続して使われていくのだろう。ドル円通貨スワップはSOFR vs TIBORは可能なのかという話まであったが、さすがに通貨スワップはSOFR vs TONAだと思う。とは言え、豪ドルなどはBBSWが残るのでBBSW vs SOFRも可能だろうから、理論的にはTIBORベースの通貨スワップの取引が増える可能性は捨てきれない。

TIBOR統合のDとZの統合が2024年12月となりそうだが、統合という言葉が使われているからか、DとZのスプレッドが縮小するという声が多いのも気になる。確か厳密にはZが廃止となり、Dが新しいレートとして残ることになる。したがってZが廃止となるのであればFallbackのトリガーイベントとなり、OIS+スプレッドになるのか。そうするとDとZが近づいていくというよりは、DとZが別物になっていくという理論も成り立つ。いずれにしてもTIBORは公開情報も少ないのでよく分からない。

決済迅速化によってリスクを減らす

Archegos問題でCSが$4.7bnという巨額損失を公表したが、一年間必死に働いて得た収益が一瞬にして吹っ飛んでしまったようなもので、衝撃は大きい。幸いマーケットを揺るがすようなインパクトにはならなかったが、ファミリーオフィスに対する規制強化が叫ばれるようになったのは当然だろう。

リーマンショック時にも何度もファンド破綻を経験したが、マージンコールに遅れた場合に、ファンド責任者からはもう少し待ってほしいという依頼が当然届く。後は他の銀行の出方を見ながらということになるが、経験上すぐに動かなければ負けである。これは債務金額が変化しないローンとは異なり、特にデリバティブ取引の場合は、急速に債務が膨らむような方向に市場が動くのが常である。その後数週間待てるのであれば、資産価格が戻ってくる可能性があるが、その時には既に破綻していて時すでに遅しとなる。

そもそもマージンコールをかけて資金を送金してもらうというプロセス自体が時代遅れになってきているのではないだろうか。今の技術を使えば、損失が膨らんだ段階でリアルタイムに資金移動を行い、口座に資金がなくなった段階で自動的にLiquidationを始めるような仕組みは簡単に作れるように思う。

DTCCの株式決済システムを高度化させれば済むように思うのだが、最近パイロット運用が一時的に認められたPaxosのようなサービスが正式にSECからライセンスを取れば、DTCCを脅かすようになるのかもしれない。ブロックチェーン技術が進めば、こうしたファンドやファミリーオフィス破綻の影響を最小化できるのではないだろうか。この辺りはFTの社説にも報じられていたが全くその通りだと思う。DTCCは2023年までに決済期間を2日から1日に縮小する計画を持っているが、本来即時決済に持っていくべきだと思う。

今回話題になっているトータルリターンスワップのようなデリバティブ取引については、MPOR(Margin Period or Risk)を1日、2日または、2週間のように決めてその間のリスクをカバーすべく当初証拠金などのマージンが決まる。瞬時に決済が可能なのであれば、2日間のリスクをカバーする必要はなくなり、必要証拠金が減る。つまり、よりレバレッジがかけられることになるので、本末転倒という声も聞こえてきそうだが、その分直ちにポジション清算に動けるのであれば、マーケットが極端に動いて巨額損失が発生する前にポジションカットをすることが可能になる。

今回のArchegos事件によって、ファミリーオフィスに対する規制を強化するとか、金融機関サイドがこうした投資家に巨額のリスクを取らせないようにすべきといった議論が盛り上がっている。しかし、そもそも、ある程度損失が膨らんだ時点で強制終了し、こうした巨額の損失が発生しないような仕組みを作ってしまえばよいのではないだろうか。

CLEARED SWAPの一括変換プロセスが明らかになってきた

LCH、CME、Eurex、JSCCの新レートへの切り替えプロセスについての情報が公開され始めている。JSCCからは3/26に「LIBOR参照スワップの標準的なOISへの変換に関する取扱いについて」という文書が開示されているので、年末までのどこかで行われるだろう変換作業に向けて準備を進めていくことになる。ただし、今後の変更の可能性があるという但し書きがついているので確定という訳ではなさそうだ。

JPY LIBORについてはスプレッド付のTONA(OIS)に変換するという方針になっており、後決めの、Delayed Payment(2日ラグ)とする標準的なTONA(OIS)に変換するとあるので、ISDAプロトコルによるFallbackによってできるスワップではなく標準OISへの変換である。つまり、LIBORの時の金利支払い日より2日後にOISレグの金利支払いが行われるという想定だ。キャッシュフローが異なることになるので若干面倒だが仕方がないのだろう。ただ、投資家にとっては異なる日に振り込まれても困るという人もいるかもしれない。

変換前にレートが確定していても、変換日にPaymentを迎えていないLIBOR参照のキャッシュフローについてはTONA-OISとして金利計算、支払いを行うとある。確かに後決めだから変換した後に金利を決めるのは当然ということなのかもしれないが、既に決まっている金利までが変わるとなると何か特殊なプロセスを考えなければならないかもしれない。

LCHの方のアナウンスを見ると、意見募集の結果当初のキャッシュフローを極力保持してほしいという依頼が多かったようで、LCHとしては、極力その方向で行きたい(Intend to preserve this outcome)とも書かれている。CCP間で処理が異なるのも面倒なので、今後の議論によっていずれかの方法に収斂していくのかもしれない。

他にもJSCC案では、LIBOR 6/3 basisについてはOIS vs OISベーシススワップとして変換するとある。OISの6/3というのはない気がするので、片方のレグは半年ごとのPayment、もう一方は四半期ごとのPaymentではあるが、単なる固定されたキャッシュフローのスワップということになるのだろうか。おそらくコンプレッションもできないだろうから、これは決済してしまってなくしてしまえないものだろうか。それか標準的な固定 vs 変動のスワップに分解するとか。実際にどのように変換プロセスを決めようかと考えていると、何だか訳がわからなくなってきたので、もう少し時間をかけて考えてみたい。

ターム物リスクフリーレートの取引はいつから活発化するか

オペレーション、システム的な理由から、日本においては、市場標準の後決め複利RFR(リスクフリーレート)に移行したくないというニーズが一定程度存在する。こうした市場参加者は前決めのターム物RFRに期待を寄せる声が大きく、これが標準OIS取引への移行の妨げになっている気がする。

日銀検討委員会で債券、ローンLIBORフォールバックとしてターム物RFRが第一順位に来ているとうのも、ターム物RFRを待ちたいという意見につながっている。日本のターム物RFRであるTORFについては、2021/4/26から確定値公表が始まると発表されているが、公表されたからと言って一気に流動性が上がるとは全く思えない。

何か勘違いもあるのかもしれないが、TORFの計算のもとになっているOIS取引が増えていかないとTORFの頑健性は上がっていかない。OISの取引が増えないのにTORFの流動性を頑張って上げましょうというのは本末転倒の議論に感じる。

海外に目を転じると、ARRCから3/23にフォワードルッキングなSOFRターム物金利についてのUpdateが公表されているが、そもそもOISの流動性がない中、ターム物RFRの早期流動性向上に懐疑的なコメントとなっている。

While trading activity in SOFR derivatives is growing, at this time, the ARRC believes that it is not yet in a position to recommend a term rate with confidence based on the current level of liquidity in SOFR
derivatives markets.

という記載の通り、現状のSOFRの流動性に照らすと、自信をもってターム物金利を推奨できる立場にないとしている。SOFRが流動性の低い実取引に基づいているということは、金利操作が可能ということにもつながり、何のためのLIBOR改革かわからなくなる。

TORFについてもQuickのページで説明されている通り、以下のような順位で計算がなされている。

  1. 実取引
  2. CLOB(現時点では当然対象外)
  3. 気配値ペア(想定元本情報有り)
  4. 気配値
  5. 気配値ペア(想定元本情報無し)

CLOBとはCentral Limit Order Bookのことで、いわゆる取引の「板」に当たるものである。現状CLOBが存在せず、気配値もほぼない中、唯一限定的にOISの実取引があるのだろうが、OISの実取引が増えない中TORFの頑健性を高めるのは理論的にはおかしな話になってしまう。

一方ARRCは、フォワードルッキングなターム物金利を新規取引に使うのは少し待った方が良く、現状あるもの、つまり後決め複利のRFRを使うことを推奨している。米ドルの他、英ポンドについてもターム物RFRの利用を一部の用途に制限すべきという意見も聞こえる。

LIBORがなくなる年末までには流動性が上がる見込みのないターム物にはある程度見切りをつけて、早めに標準OISに移行すべきというのが海外の主要意見である。そうしないとターム物の流動性が上がるまで様子見を決め込む市場参加者が増えてしまうため、海外当局は早めに警告を発しているのかもしれない。

日本ではこのような意見はあまり聞かれないので、特に多くの債券投資家がTORFに期待して何もせず、そのうち年末近くなって実はTORFは使えないということが明らかになり、慌てて別の手段を検討し始めパニックになるという姿が容易に想像できてしまうのは私だけだろうか。










ローンから社債へのシフトは本物か

先日に続いて社債の話を少し。円建て社債がここ2年間急増しているというグラフを載せたが、外債も同じように増えている。こちらはここ数年というよりはリーマンショック後右肩上がりに伸びているように見える。

出所:日本銀行データより筆者作成

負債に占める割合も2016年あたりから18%程度まで増えており、ローンから社債への流れが本格化している。優良企業では50年債などの発行もあり、ローンでは不可能な資金調達が低利でできるようになり、低格付債の発行も増え始めている。銀行ローンはそれほど長期のものがないので、低利のうちに長期間の資金確保をしようというニーズが増えるのも当然の流れである。日銀の社債買い入れも追い風だ。

市場と連動しているのかどうかよくわからない長短プライムレートで借り入れるよりは、低金利を活かしてマーケットレートで資金を借りたいというのは当然の流れだろう。社債投資家は銀行のようにあれこれ言ってくることもないし、多くの投資家への分散もできる。ESG債の発行も増えてくることが予想され、債券市場が面白くなってきた。

負債に占める社債の割合が増えると投資家との対話も重視するようになり、銀行だけを向いた経営というよりは、市場に評価される経営が必要になってくる。これで海外並みの収益率を重視した企業が増えてくるきっかけになるかもしれない。

ワクチン投与の進展と経済活動

金融市場だけを見ているとワクチンの重要性が非常に高まっている。当初は安全性を疑う声からワクチン投与を拒否する人の割合が相応に見込まれていたが、ここへきてワクチン投与による効用が不安感を上回っているように感じる。

最近の電話会議では、ワクチンもう打った?という話題から始まり、ロンドンはほぼ一回目を終わった人が増え始め、NYでもそろそろ受けようと思うという意見が増えてきている。

英国では3月のサービス部門収益が大幅拡大し、4月もさらなる拡大が予想されている。新規感染者数も3-4000人程度の日が多くなり、そろそろ日本と英国が逆転しそうだ。サービス産業が英国経済の80%を占めていることを考えるとここからの景気回復は思ったより早そうだ。

Google Mobilityのデータやクレジットカード支出統計なども、3月は力強い回復を見せている。4月以降、厳しいロックダウンの間に貯めこまれた資金が一気に消費に向かう可能性がある。労働市場も回復し、GDP成長率も当初予想の5%を大きく超えてくる可能性が高くなってきた。

米国ではまだ30%がワクチン投与に後ろ向きとCNBCで報道されており、これを義務化するかどうかという議論が起こっている。政府の立場としては強制はできないという立場を貫くだろうが、水疱瘡やはしかの予防接種は、通学の条件だった州もあったので、今後、航空機の搭乗のほか、劇場やコンサートでワクチン証明書が必要になることもあるだろう(当然、宗教、体質の問題もあるので完全強制は不可能だが)。

現在のワクチンはEUA(Emergency Use Authorization)による承認で正式承認ではなく義務化は難しいが、実際にイスラエルでは一部娯楽施設の入場に証明書が必要になっている。米国でも証明書を提示すればドーナッツがもらえるとか各種割引を提供する店が出始めている。レストランなどでも、ワクチン接種をしない従業員には接客をさせないというバーが出てきて議論になっている。ワクチン接種に金銭的インセンティブを与えるという企業もある。

ワクチン接種者のみで飲み会をやろうとか、海外旅行をしようということになると、自分だけが家にこもり続けることもできなくなってくるのではないだろうか。日本にいるとそんな雰囲気はないが、海外では夏の飛行機の予約も増えているとのことなので、思ったより早く変化の波が訪れているようだ。

日本の社債市場は発展するか

日本は間接金融中心だったため、社債市場の育成が遅れたというのは何年も言われてきたことである。JSDAで社債市場の活性化に関する懇談会が開かれたり、業界を上げて様々な努力が何十年も行われてきたが、結局大きな成果を得るには至っていない。

社債発行が少ないので活発な流通市場も育たず、社債レポ市場もないため、満期保有目的の投資以外はあまり投資家ニーズもなかった。CDSである程度ヘッジできるようになったとは言え、CDS市場の流動性も海外に比べると極端に低い。

業界でもあきらめムードに近いものがあったのだが、この傾向に若干変化が表れてきているように見える。大型起債のニュースが近年多かったので、久々にJSDAのデータを拾ってみると、以下のように年間発行額が15兆円を超えている。何となく7、8兆円が平均で多い時で10兆円という感覚だったので15兆円というのは頭一つ抜けた感じであり、しかもこれが2年続いている。

日本証券業協会データより筆者作成

もしかしたら銀行との関係にも変化が起き始めているのかもしれない。昨年末の大型起債も順調に消化され、投資家層も厚くなってきた感がある。昨年大型投資時には、中央公的、生損保、投信、系統、銀行で投資家層の7割を占めており、残りが地銀、海外その他と報じられていた。投信に組み込む動きと海外投資家のニーズが増えているのかもしれない。

それでも米国に比べると微々たる発行量だが、海外のように社債市場が活発化すると、銀行と企業の力関係も変化してくることが期待される。低格付債市場も活発化すれば、新興企業の資金調達の道も開かれるようになる。

ドル建て債券になると海外投資家が容易に投資できるが、円資金が必要な場合は通貨スワップが必要になる。このコストを考えると、円債でニーズが賄えれば企業にとっては望ましい。ほとんど金利のつかない銀行預金にしておくより、きちんと利息のつく社債投資を行いたいという個人も出てくるだろう。そして日本の社債をベースにしたETFや、リスク分散の観点から円建て資産を持ちたいという海外投資家も入ってくるかもしれない。

そうすれば、セカンダリー市場での売買も活発化し、レポ、社債ショートのニーズも高まり、CDS市場も活発化するのではないだろうか。

通貨スワップはいつからLIBORからRFRに変わるか

LIBORからのシフトに伴う通貨スワップに関する質問が多くなってきた。ドル円の通貨スワップで言えば、JPYのレグだけ今年末でTONAに変換され、USDレグは2023年6月に変換されるということになるかということなのだが、確かにFallbackまで待てばそうなる。

この過程では、TONA vs USDLIBORという通貨スワップができることになる。Risk.netの記事では、このようなスワップは、単にもう一種類のベーシスが生まれるだけで、トレーダーとしては特に問題ないというコメントが紹介されていたが、それでもやはり厄介だ。やはり事前にTONA vs SOFRのスワップに一度に変えてしまう方が、オペレーション的にもリスク管理上も簡単である。

DTCCに報告されているRFR同士の通貨スワップの取引量もまだ極めて限定的である。今年に入ってから62取引しかなく、円については6取引である。とは言え、この4月からGBP LIBORの新規取引が奨励されなくなり、USD LIBORは確か7月から、JPY LIBORは10月から同じ状況になるので、徐々にRFRの流動性も上がってくるだろう。流動性が上がれば、一斉にRFRに変換してしまおうというニーズも増えてくることが予想される。

当然LIBORリスクをヘッジしている一部のものはLIBORのまま残るだろうが、ブローカーマーケットの主流がRFRに移れば、b/oもRFRの方がタイトになっていくだろうし、自然のシフトが進んでいくことが予想される。

問題はいつどのように相対での交渉を始めるかという点だ。ディーラーは数多くの取引を抱えているので、数か月の間に多くの取引を変換することが難しくなってくる。オペレーション的には徐々に慣れてくるだろうが、最終顧客に対する説明や個別対応が難しくなる危険性もある。海外では極力マーケットスタンダードの形に持っていこうとするのが通常であるが、日本の場合はオペレーション、システムの制約から、いつものように支払日等で特殊対応が必要になるかもしれない。こうなると期限内にすべてのスワップを変換するのはかなり困難になるだろう。

おそらく海外では7月から変換が進み始め、日本では10月以降から移行が本格化するという感じかと思う。ただしそうなると10月は忙しくなり結局間に合わず、JPY LegだけがFallbackしてしまうスワップが多くなるというのが、残念ながら現実的な予想なのかもしれない。

よく日本は、かなり早い段階から細かく勉強をする人が多いものの、お勉強どまりでその後の作業が進まず、最後の最後で駆け込みで何とかしようとするものの、各種制約が大きすぎて頓挫すると言われることが多い。海外のメディアでも実は日本のLIBOR移行が最も問題なのではないかという記事が出ていたが、何とか汚名挽回と行きたいところである。

Archegosショックについて

週末から金融業界はArchegosの話題で持ちきりだが、見方によってはこれも規制の産物と言えるのかもしれない。昔であれば株式のエクスポージャーを取りたければ、マージンレンディング等が様々な方法があるが、こうしたSecurity Financeはレバレッジ比率規制等の規制上不利になり、トータルリターンスワップを使った方が所要資本が低いということが起きる。

ヘッジファンドにとっても株を買う必要はなくマージンコールにさえ応えられれば良いため、レバレッジがかけられる。中央清算機関での清算や取引報告要件も弱いため、ニーズが高まるのは当然である。

また、スワップ形式であれば想定元本を小さくして取引をブックすることも理論的には可能であり、元本のみに注目する規制上更に有利になる。100億円の元本で1%の金利を支払うスワップと10億円の元本で10%の金利を払うスワップは、全く同じペイアウトになるものの、想定元本は後者が10分の1になり、レバレッジ比率規制上の所要資本も大幅に減少する。

国債でも同じで、レポを行うよりはTRSにしてしまった方が所要資本額を減らせる可能性がある。バックストップとしてのレバレッジ比率規制なら問題ないが、これが最大の制約になっており、先月のように規制緩和延長を巡って市場が動いたりするのは本来望ましくない。

本当ならリスクの高い取引の所要資本を大きくするべきなのだが、国債取引やレポをするくらいならスワップにしてしまった方が得策になる。このインセンティブを何とか修正すべきだというのはここで何度も主張してきたことだ。

それにしても日本の金融機関までもが巻き込まれているのは若干残念だ。ローンの世界だと返済猶予を与えるのにそれほど大きな抵抗はないかもしれないが、証券取引の世界だとほんの少し支払いが遅れただけでもクローズアウトに走るのがこの世界では一般的である。一分一秒を争うので、夜中だろうが何だろうが、緊急電話会議を行ってポジションをクローズするのが通常だと思われるので、初期動作の遅れは致命傷となる。こうした危機管理対応にはある程度の慣れが必要なのかもしれない。