国際金融都市ロンドンは復活するか

英国財務省が、ブレグジット後のロンドン凋落を防ぐため金融関連規則の見直しに着手していると報じられた。

BrexitによりEU規制の範囲から外れるため、EUのMiFID IIをターゲットにしているようだ。確かに米国ドッド・フランク法と比べ、MiFID IIは規制遵守の手間がかかり、本当に市場のためになるのかわからないようなものも含まれている気がする。

国際金融都市として海外から金融関連サービスの誘致を狙う日本にとっても参考になるだろう。英国自身、これまでの経験からEUよりも効率的かつ効果的に市場を監督規制できると考えている。

英国財務省では、夏には改革案についての意見募集を行い、年末までの法律策定を目指している。法律が絡む内容としてはかなりのスピード感を持って進めているように見える。LIBOR改革にしてもそうだが、英国当局はかなり市場に関する知見を持っており、指導力を発揮している。ひょっとしたら巻き返しも可能かもしれない。

EUには現地取引規制のようなものがあり、EUの株式取引を英国でできなくなったことを受け、オランダ等への取引シフトが起きたが、こうした取引場所に関する規制への対処も視野に入れているようだ。

そのほかにも、取引所を通さずダークプールを経由する取引の上限撤廃や、一つの商品に対するポジションリミットの撤廃のほか、株や債券取引の透明性向上のための制約も見直したいとのことだ。

そして、FCAがいちいち議会での法律策定をすることなしに、自らの権限でルール変更をできるようにすることも検討されている。変化の激しい金融ビジネスにおいては、すべて国会にで議論をして立法化するという手続きを踏んでいては遅きに失する。特に金融専門家の少ない日本ではいつも後手後手に回ってしまうことが多いので、こうした英国の動きは参考になる。

デリバティブ取引は場所を問わないため、どこに拠点があるかはあまり重要ではない。一定のビジネスが英国から、EUではなく米国に移っているのもその証拠である。日経225先物は海外取引所で取引されていることも多いが、世界中あらゆる時間帯で取引できるという利点がある。先物やデリバティブは、取引所は意識する者の、金融機関の取引場所は意識しなくなってきている。日本時間に日本の企業ととりひきをしたとしても、それをロンドン法人につけたり、米国法人につけたりすることは可能だ。当然ドッド・フランク法やMiFID IIに対する注意は当然必要だが、あまり場所自体は重要でなくなりつつある。

この計画は3月上旬の予算案の中で示されたもので、より広範な資本市場改革にも拡大して、さらなる計画を近々発表されることになっている。どのような案が出てくるか注目したい。

CMEのLIBOR移行プラン

EUREXに続いてCMEのプランを見てみる。概ね同じようなプランだが、FallbackでできるフォールバックRFRスワップと標準RFR Swapの違いが分かりやすかったのでまず紹介しておく。リンクにつけたプレゼンの2頁目にある以下の図だが、1がこれまで何度か説明してきたFallbackでできるスワップ、2が標準スワップである。

現在のLIBORは一番上で、Fが金利が決まる日、Pが金利支払日となる。つまり、例えば今後3か月間の金利は今日決まり、それを計算期間の最終日である3か月後に払うというスケジュールである。

ISDAのLIBORプロトコルでできるスワップは金利が後決めなので、FがPの直前に来ている。そして計算期間が前倒しになっている。金利が決まってその日に払うことはできないので、計算期間を2日程度全体的にずらす形だ。

一方市場標準のOISは、計算期間はずれないが、金利支払日を後ろにずらす。金利決定日のFが計算期間の最後に来ているので後決めと言われる。一方LIBORは前決めである。つまり、LIBOR移行によってこれまで前決めだった金利が後決めに変更されるため、資金決済のオペレーションのシステム化が遅れる日本ではこれがネックになっている。TORFなどのターム物RFRでは前決めが使えるので、TORFの流動性向上を待ちたいという市場参加者がいるのかもしれない。

後決めだと、例えばローンを借りた時に、今後3か月の金利は最後に決まりますよと言われるようなもので、しかも決まった日から二日後にそれを振り込んでくださいと言われるようなものである。資金決済がオートメーション化されている海外ではそれほど問題ないが、決まった金利の通知を受けて、それを振り込み指示するという手作業を行っていると、2日後に着金が間に合わないということも起きる。担当者が休暇の時に対応できないとか、祭日に対応できないという問題もある。

とは言え、後決めが主流というのは特にデリバティブの世界では一般的になっており、これを覆すのは困難だと思われるので、後決めのシステム対応を進めるしかない。

さて、話をCMEの移行プランに戻そう。他のCCP同様、CMEでも一括変換の検討は行われているが、それが望ましいのか結論づけてはいない。他のCCPとの調整も必要であり、Duratrionや割引率変更のリスク、ヘッジ会計や税務面への考慮が必要としている。

それぞれの変換手法についての課題が以下のように整理されている。

ISDA Fallback

  • 後決め等から発生するオペレーション面やリスク管理面の懸念
  • 業界で広く認知された方式
  • LIBOR移行後のSwaption行使によって発生したスワップが清算可能

標準OIS

  • 上と同じオペレーション面、リスク管理面の懸念
  • Swaption行使後のスワップが清算できない

Observation Period Shiftを行ったOIS

  • リスク管理面での懸念に対応
  • 支払日がISDA Fallbackと同じ
  • Swaption行使後のスワップが清算できない。

これらの点を明確にした上で、市場参加者への意見を求めている。これだけ見ると3番目の観測期間シフト方式を選好しているような印象を持ってしまうが、おそらく他のCCPの動向を踏まえて2の方向になるのではないかと個人的には予想している。

方向性は3月末までには決めるとしており、そこから30日のコメント期間に入る。詳細な計画は4月か5月上旬に公表するようだ。タイミングやオペレーションの詳細については、具体的な言及はない。いずれにしてももう少しすれば様々な情報が出てくるものと予想される。

EUREXのLIBOR移行プラン

各CCPのLIBOR移行の詳細が明らかになってきた。一昨日3/11にEUREXからもプランが公開されている

2021年12月31日以前にCHF、GBP、JPY、USD LIBOR取引をRFRにコンバートする予定となっており、他のCCPと概ね同じようなやり方になりそうだ。RFRは当初のLIBORスワップと同じ計算期間(Observation Period)で決済日が後ろにずれる標準RFR取引となり、ISDAのFallbackで発生するスワップのようなObservation Period Shiftがない。

変換時のスプレッドは、過去5年間のヒストリカルスプレッドの中央値で、価値評価がずれる場合は現金受け渡しによって決済する。ただし、LIBOR vs LIBORのベーシススワップについては、コンバージョンをせずに現金決済をするとある。つまり3か月LIBORと6か月LIBORのような取引は3m RFRと6m RFRのベーシススワップに変えるのではなく、そのまま解約する方法を導入するということのようだ。

そしてLIBORスワップはその後清算非適格となる。このコンバージョンのタイミングや手法、そして法的な解釈等の詳細は今後アナウンスされるとある。これについては、2020年12月の市中協議の結果も踏まえてなされる。

これはEURについての市中協議だが、EONIAから€STR flat(つまりスプレッドを加えない単なる€STR)への一括変換で、価値変化分は現金決済するという案が支持されている。変換日は2021/11/19が提案されているが、大多数がこれに賛同したとある。とは言え、それより早いタイミングを望む意見も多かったようで、結局2021/10/15金曜とその後の土日という提案になっている。当然他のCCPとの調整みあるだろうが、円についても10月から11月くらいのタイミングを意識しておく必要があるだろう。その他、円も含めたFRAを清算非対象とし、短期のスワップとして存続させることについても触れられている。

詳細については更なるアナウンスを待つ必要があるが、各CCPで変換の手順や変換後のスワップに違いが発生すると混乱が生じる。通常CCP同士で調整をすることはあまりないのかもしれないが、ここまでの大きな業界全体の変更となると、やはりCCP間で調整し、極力同一の方法で変換できるように調整をしてもらうのが望ましいだろう。