社債発行の急増がもたらすリスクと市場の構造変化

コロナウィルス感染拡大を受けて各国中央銀行が潤沢に資金を供給し、金利低下や政府の債券買取プログラムの拡大を受けて、社債市場からの資金調達も急増している。これを受けて、リスクの高い企業にも潤沢な資金が流れ込み、米国の15%はすでにゾンビ企業になっているとの報道まである。2000年にも似たようなことがあったが、このままのペースでいくとその時のレベルを超えるのは時間の問題だ。

8月までの社債発行額は1.9兆ドルを超えており、これは2017年に記録した年間発行額のピークとすでに同水準になっている。大統領選前に発行してしまおうというニーズもあるだろうから、今年の発行額は過去最高になるのは間違いない。

昨今の発行実績や販売状況も好調で、どんな大型起債も簡単にマーケットに吸収され、銀行がローンを出せないような規模でも社債なら需要が集まっているように見える。

資本市場の流動性が枯渇し、社債の満期時にそれを継続することができなくなったら何が起きるのだろうか。国や中央銀行が経済を支え切れているうちは良いが、社債のデフォルトが多発し、クレジット市場が崩壊すると、一気に景気への影響が出ることが懸念される。

日本は銀行からの資金調達が中心と長らく言われてきたが、海外でこれほどの調達が可能ということが明らかになると、ローンから資本市場へのシフトというものが起きてくるかもしれない。特にドル債で幅広くニーズを募れば、手間をかけて銀行からローンを借りるよりは、資金調達をする企業にとっては望ましい場合もあろう。ただし、ドル債を発行した場合はそれを通貨スワップなどによって円転しなければならず、企業にとっては、海外投資家にアクセスするためには、ISDAを締結してデリバティブ取引をする必要性が出てくる。

本来担保が出せれば問題はないのだろうが、為替レート等に応じて担保を出すというのは、企業にとってはかなりのハードルになる。こうなると、先進的な銀行としてはXVAを計算した上である程度ヘッジをする必要が生じ、CDSの流動性も重要になる。逆に言うと、こうした日本企業の海外起債が、CDS市場の流動性向上を後押しするようになるのかもしれない。

レバレッジ比率一時緩和に効果はあるか

ECBから資本規制の追加緩和のアナウンスメントがあった。4月に米国で行われたのと同様のレバレッジ比率規制の一部緩和だ。米国と同じように中央銀行に預けられている銀行預金をレバレッジ比率の分子から除外できるというものになる。

この預金は総額2兆ユーロともいわれているので、金額的には大きいように見える。米国は中央銀行預金と米国債を来年3月までレバレッジ比率の計算から除いて良いとしていたが、ECBは来年6月27日までとしている。ECBの試算では、3月末のユーロ圏の銀行の合計レバレッジ比率は5.36%とのことだが、これが5.66%に上昇することになる。G-SIBsにとっては、TLACの要件緩和にもなるとのことである。

ただし、このレバレッジ比率は、免除期間中もこの中央銀行預金を含んだ比率の開示を続けなければならないとされている。レバレッジ比率規制導入以前にも、厳密には従わなくても良いものの、その水準を公開しなければならない期間があったが、各銀行とも実質的にはすでに規制が導入されているかのように順守していた。危ない銀行とみなされるの嫌ったという理由もあると思う。

したがって、免除があったとしてもそれを利用してレバレッジ比率を下げれば、健全性が低いという印象を市場に与える可能性があるため、積極的にレバレッジを取るという行動にはならないだろう。

金融機関内でも規制が緩和されたのだからポジションを増やそうという号令がかかるかというと、一部のコロナ対応融資以外ではそうしたことは起きにくい。

したがって、いつもの四半期末のひっ迫を和らげる効果くらいはあるかもしれないが、銀行の行動が大きく変わるとは思えない。米国でも同様で、レバレッジ比率規制の一時的緩和はあまり銀行の行動に影響を与えていないように見える。

レバレッジ比率規制は、内部モデルによるリスク管理等のバックストップとして作られたはずのものなので、基本に立ち返って恒久的に緩和し、リスク管理高度化のインセンティブを与える方が、業界にとって望ましいのではないだろうか。