市場の雰囲気が変化し始めた

直近では、米国で物価をめぐる議論が盛んに行われているが、米国労働局のデータを見ると、想定したような物価の動きになっており、日本の統計に比べると肌感覚にあうようなうごきに見える。

8月のデータ(前年比)を見ると、学食や職場の食堂の食品価格が3%下がっているのに対し、家庭での食品価格が4.6%上昇している。出社頻度が減るためスーツや高級衣料の物価が17%下がり、化粧品価格も3%減だが、パジャマの価格が4%上昇している。新聞やケーブルテレビの価格は思った通り上昇している。ホテルや航空券は当然のことながら急減している。授業料上昇にも歯止めがかかり、カメラ、ミシン、自転車等の価格上昇がみられる。

とは言え、全体的な需要は弱く、第二波、第三波の懸念もあるため、インフレを予想する声は少ない。特に少なくとも大統領選までは追加の大型政府支出が見込めないことが明らかになってきたため、これまでの流れが逆回転するかもしれない。失業や家計所得の減少からの需要減もあって、一般的にはデフレ圧力がかかりやすいかと思われる。

これまで上昇を続けてきた貴金属価格も下がり始め、テクノロジー株の上昇とドル安基調にも終止符が打たれ、インフレ期待は一気に下がり始めた。米国債のスティープナー推奨をする意見も一気に後退した。社債価格もハイイールド債を中心に現金を引き上げる動きもみられる。とは言え、その資金の流れる先がないため、引き続き株価が支えられる可能性もあるので、このまま膠着状態が続くのだろうか。

IBOR Fallbacks Protocolの公表が遅れている

LIBOR改革に関するISDAのProtocolの公表が遅れに遅れている。先週水曜の9/23のISDAのアナウンスには、週の初めに当局にレターを送り、その中で、プロトコルの発効日を2021年1月中旬から下旬と想定していると書かれている。独占禁止等、公平な競争環境を確保するためのレビューによって遅れているとは報道されていたが、ここまで遅れることなるのは想定外だったに違いない。米国司法省からのフィードバック待ちとのことだが、このプロセスはISDAサイドではコントロール不能とのことで、若干のFrustrationが表れているようにも思える。

司法省からのゴーサインが出た時点で、ISDAは約2週間の期間を与えて公式な効力発生日を伝えることになっている。この期間に市場参加者は「in escrow」でプロトコルに批准できることになっている。この期間をエスクロー期間という。つまり、批准の事実は公開されないものの、プロトコルが有効になった時点で批准の効果が発生することを確約するといった意味になろうか。

プロトコルの発効はその後約3か月後とされているが、年末だと混乱するため、来年1月の後半までは発効しないと見込まれている。FCA高官からのLIBOR Cessationのアナウンスが年末までに出てもおかしくないというコメントは注目を集めたが、過去5年中央値のスプレッド調整の計算は、すでに決められた方法に基づいて行われる。これはプロトコルの発効日に関係なく行われるということだ。

以前日本でも地銀の統廃合を進めたい金融庁と、公正取引委員会の意見の相違が明らかになったことがあったが、同じような事情なのだろうか。いずれにしても、ただでさえ時間のない中対応に苦慮している業界にとっては、早急なアナウンスメントが強く望まれることろである。

流動性維持のための規制緩和が継続

米国FRBが、米国債やレポ取引の障害にならないよう、NSFRの修正を検討しているという発言が23日にあった。NSFRはその性質からして流動性規制であり、資本規制とは異なるため、一連のバーゼル3からは切り離すべきという言い方になっている。

NSFRによって、他の銀行からの短期ファンディングが安定した調達とはみなされないうえ、国債保有やリバースレポを行うとそれに応じた(国債は5%、レポは10%)安定調達が義務付けられる形になるため、危機時に銀行が必要な流動性供給ができなくなるという批判があった。

銀行が米国債を担保に資金を供与し、その米国債を担保に資金を調達すると、当然NSFRが悪化する。最終案では、このような批判に一部答える形で、何らかの修正が入るのではないかとのことだ。おそらく、国債についてはゼロ%、国債のレポに対しては5%というように、所要安定資金の割合を引き下げるのではないかと言われている。

確かに、NSFR 導入の話が出てから、銀行は国債や FRB準備預金を増やし、ローンや流動性を支えるリバースレポのシェアを減らしてきた。奇しくもコロナショックによって、その問題点がさらに明らかになり、FRBがさらなる市場介入を余儀なくされた。昨年9月と今年3月の混乱がなかったら、このような規制緩和はこれほど短期間に行われなかったのかもしれない。

そのほか、FRTBなど一連のバーゼル3の残りのルールの最終化を一度に行うという発言もあった。2023年1月に向けて順調に準備が進んでいる様子がうかがわれる。

一時期NSFRを考慮するため各種取引のプライシングに影響が出ているという報道が出ていたこともあったが、最近ではそういった話が聞かれなくなってきた。レバレッジ比率もそうだが、一度その基準を達成してしまうと、日々の取引までコントロールしなくても、財務部門の方で対応が可能ということなのかもしれない。今回の変更も財務部もにとっては朗報で、取引を抑えることはしなくてもよいというメリットはあるのだろうが、マーケットのプライシングにはそれほど大きな影響はないのかもしれない。

通貨ベーシススワップの変動要因

いつも説明もなく、社債発行により通貨ベーシス拡大とか書いてしまっているので少し補足説明をしておく。企業が債券発行を行うと、それに応じて各種ヘッジ行動が起き、マーケットにインパクトを与える。

円のニーズがある企業が、海外投資家から幅広く資金調達をするためにドル債を発行することがあるが、通常は発行によって得たドルをスワップで円転する(円に倒すと言ったりする)。円のニーズが高まる方向なのでドル円ベーシスが縮小する。ドル投円転と言ったりもする。

一方海外企業が日本の低金利を目当てに円債を発行する(サムライ債)場合は、円で集めた資金をドル転するため、ドルのニーズが高まる方向になり通貨ベーシスは拡大する。この方向は円投ドル転だ。発行した円を受け取ってこれをドルに換える通貨スワップを行うが、円を受け取ると円金利を払うので、円金利受け、ドル金利払いの通貨スワップになる(当初元本交換と金利交換は逆向きになる)。円金利を受けてドル金利を払うこの通貨スワップを行うことをベーシスの受けと言ったりもする。当然逆はベーシスの払いだ。

その他、ドル債を買うために通貨スワップや為替スワップでドル調達をすることもあり、これもドルニーズが高まるため通貨ベーシスが拡大する方向だ(円投ドル転)。要はドルが欲しい人が多いとドル調達コストが上がり、ベーシスが拡大する。

この通貨スワップの裏には数多くのスワップが絡んでくるのだが、サムライ債発行を例にとってどのようなスワップ取引が行われるかというと以下のようになる。矢印は金利の方向であるので当初元本交換は逆方向になる(発行体は円資金を当初元本交換として受け取り、その後円固定金利を支払い、最後に円を返す)。

海外の発行体は円を持たないので、ドル固定金利を払って円固定金利を受ける通貨スワップを銀行と行う。銀行の方は円固定受け6か月変動金利払いの円金利スワップを行い、ドル固定払い3か月変動受けのドル金利スワップを行う。この金利スワップはディーラー間なのでCCPで清算され、資本コストは限定的になる。

そして、市場で一般的に取引されている3か月変動同士の通貨スワップを行い、その調整のために3か月物変動金利と6か月物変動金利の交換をする円の3s6sのベーシススワップを行う。この3s6sもCCPで清算される。

つまりサムライ債ひとつ発行するだけで、通貨ベーシススワップ、円金利スワップ、ドル金利スワップ、円の3s6sの単一通貨ベーシススワップが取引されることになる。レバレッジ比率規制でCEMを使っている場合などは、想定元本がかなりの金額になるので、資本賦課もばかにならないが、それでもCCPで清算できる部分が多いので何とかなっている。

市場への影響をまとめると、サムライ債が発行されると、円金利には低下圧力がかかり、ドル金利には上昇圧力がかかる。そしてドル円ベーシスの拡大圧力と、3s6sベーシスの拡大圧力がかかる。マーケットがこのような動きをしたときは、トレーダーは何か発行があったのではないかと予想し、ニュースを確認する。これと逆のことが起きた場合はドル債の発行を疑うという恰好だ。

これから海外投資家にReach outする際に、ドル債発行をしたいという企業も増えてくると思われるが、こうした裏にあるスワップとそのマーケットインパクトについても注意を払っておく必要がある。

欧州の危機対応資金は企業ではなく国債に流れた?

欧州銀行が保有するイタリア、スペインなどの周辺国の国債保有を増加させている。コロナショック前に比べると15%程度増えているという報道があった。

3月の7500億ユーロの緊急資産買い入れプログラムが6月に13.5兆ユーロへと拡大され、市場に豊富な流動性を供給し、債券価格安定に資したことは間違いない。しかし、その目的通り必要なところに資金が回ったのかどうかは定かではなく、結局それがリスクの高い国々の国債保有に回っただけなのかもしれない。米国でも同じようにローンが増えずに国債投資に資金が回ったという報道があったので米国も同じだが、信用力に不安のある国の国債に回っている点が欧州の特徴だ。

欧州危機時にはこうした周辺国へのエクスポージャーが多いだけで市場の不安を煽ったため、金融機関もこうした国の国債保有には消極的だったが、今回はそうした心理的なタガも外れてしまっているように思う。

現在の資本規制の下では、国債を保有したとしても資本賦課がほぼ無視できるので、銀行が国債保有をしやすいのではないかという意見もある。一方、企業向けローンや社債保有を増やしてしまうとあらゆる資本比率に影響を与える上、引当金も積まなければならない。

特にローンの場合は急に減らすこともできず、社債も一たびマーケットが荒れれば売却が難しくなる。また、SLR、NSFR、LCR、ストレステストと、複雑に絡み合う資本への影響を考えると、国債を保有しておいた方がインパクトが理解しやすいという側面もあろう。

日本でも同じようなことが他国に先駆けて起きていたが、日本の場合は日銀の国債保有シェアが大きい。とはいえ、感覚としては海外よりは企業向けローン等に資金が回っているような印象を受ける。時間のある時にデータを見てみたいと思っている。

日本においては、資本賦課が低いからローンより国債というような議論を聞くことは海外より少ない気がする。あまり資本対比のリターンに気を使わなくて良いということの裏返しなのだろうか。または日本の銀行には、営利だけでなく、社会的責任を重視するという文化があるかもしれない。

コロナがXVAに与えた影響

JPMの財務データからCVA/FVAの情報を見てみた。予想通りコロナショックによって第一四半期、第二四半期ともに変動が大きい。

これらはヘッジ考慮前なので、ヘッジ後はこの影響は小さくなる。第一四半期のアナウンスでCredit Adjustment&Othersで$951mmの損失が出ていて、そのほとんどがファンディングスプレッドの拡大によるものという記述があるので、CVAはかなりの部分ヘッジされており、ほとんどの損失はFVAから来ているものと推測される。自社のファンディングコストをヘッジするのは容易ではないし、これを敢えてヘッジする金融機関は少ないと思えるからだ。

10Kには計算根拠についての情報も出ており、いわゆるポテンシャルエクスポージャーやExpected Exposureなどの年限毎のグラフも見ることができる。Management’s discussion and analysisのセクションでAVGとして示されているのがExpected Exposure、DREがデリバティブリスクをローン相当額に変更したLoan Equivalent、PeakがPFEに、それぞれ相当するものと思われる。Peakは97.5%の信頼区間のVaRに近いようだ。Expected Exposureは$30bn-$40bn程度であることと、CVAやFVAの金額が公表されていることを考えると、JPMのFVAに計算しているスプレッドや、カウンターパーティーの信用スプレッド等もある程度逆算できるように思う。ここまでのDisclosureがあるというのはさすがだ。

$951mmというのは結構なサイズだが、Q2にFVAの利益が$676mmとなっており、かなりの部分を取り戻している。一方CVAの方はQ1の$924mmをQ2で$207mm取り戻した形になっているが、ヘッジがあるので実態はよくわからない。つまり金融機関の社債スプレッドが動くと、この規模での収益のアップダウンがあるということになる。

以前はCVAがある程度DVAでオフセットされていたが、FVAが入ってくると市場混乱期には損失が膨らむことになり、プロシクリカリティは増すことになる。ローンのリザーブも増えるだろうから、その影響は更に大きくなる。その分市場のボラティリティが増すのでトレーディング収益が上がるので、全体としては大きな問題にならないのかもしれないが、これは自己勘定ポジションを抑える金融危機後の規制強化の恩恵なのかもしれない。

デリバティブKVAの計算方法

なぜレバレッジという用語が使われるのか

レバレッジ比率規制とは、リスクを取るなら一定の資本を積みなさいという規制の中の最も単純なものである。リスクを表すにはレバレッジエクスポージャー、資本を表すにはティア1資本が使われ、この比率が概ね3%を超えなければならない(国によって若干異なる)。3の資本で100のリスクを取れるので、33.3倍(100/3)のレバレッジがかけられるという意味で、レバレッジ比率という言い方になっている。

リスク量とリンクしないレバレッジエクスポージャー

レバレッジエクスポージャーは保有している債券の価値などのバランスシート金額とデリバティブPFEに分かれる。単純なバランスシートなので、安全な国債だろうと危険なジャンク債だろうと同じ金額として扱われる。

そしてデリバティブPFEは想定元本に、5年超の通貨スワップだったら7.5%、1年から5年までの金利スワップなら0.5%のような掛け目をかけて計算される。当然SA-CCRに変更されれば計算方法が変わるが、CEM(カレントエクスポージャー方式)の下ではこのような単純な計算になる。

ここで重要なのはCEMでは担保を加味していないということである。そして、+100の勝ちポジションと-100の負けポジションがあれば相殺してリスクゼロなのだが、このネッティングも完全には加味されない。完全にはといったのは、一応NGR(Net-to-Gross Ratio)によって0.4*AGross + 0.6*NGR*AGrossのように部分的には考慮される。ここでAGrossは、各取引の勝ち負けの絶対値を足しあげたものである。NGRはANet/AGrossで計算されるが、ANetは各取引の勝ち負けをそのまま合計したものである。

なぜデリバティブPFEというかというと、これはPotential Future Exposureと似たような概念を使っているからだと思われる。有担保の場合マージンコールの合間の2週間のVaR等を見ることになるが、金利スワップの2週間VaRは年限によって0.5%から1.5%程度、通貨スワップの2週間VaRが5%とか7.5%というとだいたい感覚に合うからである。

レバレッジ比率からのKVA計算

前置きが長くなったが、この辺りの詳細は検索すればいくらでも出てくるだろう。重要なのはこれが実取引に対してどういう影響を与えるかという点だ。

まずは、レバレッジ比率が最大の制約になっているような場合は、ここから簡単にKVAが計算できるという点だ。バーゼル3の先進的手法、標準的手法等ほかの資本規制の制約が大きい金融機関は別の計算が必要だが、それでもレバレッジ比率のKVAはある程度の目安にはなる。

例えば$500mmの10年通貨スワップを行った場合、適宜最低レバレッジ比率(3%とか5%)、NGR、ROEターゲット等の前提を置いて架空の試算をしてみる。

PFE資本コスト
ディーラーA銀 (NGR 0%)$15mm$467k
大手B銀行 (NGR13%)$18mm$558k
C生保(NGR97%)$31mm$978k
地銀D行(NGR62%)$29mm$902k
アセマネE社(NGR45%)$25mm$782k

NGRはポートフォリオが大きくなると0%に近づいていき、一方向の取引が多いと100%に近くなっていくので、適当にNGRの前提を上のように置いてみた。資本コストは税引後のROEを10%に保つべく14%程度、割引率も14%としたが、税金やその他コストを考えるともう少し高くすべきかもしれない。当然各金融機関ではもう少し高度な計算をしているだろうが、ここでは単なるコンセプトの説明に重点を置く。

結果を見ると、$500mmの取引をポジションが一方向に偏った地銀D行と行うには、$902kくらいの利益がないとROE10%が達成できないということになる。さらに、無担保または担保が現金ではない場合は、これに将来のデリバティブの時価(これはオンバランスになる)がレバレッジ比率の分母に加わるので、さらにバッファが必要となる

また、この計算は10年間解約がないという前提になっているが、数年後に解約される可能性があればこの計算は全く異なるものになる。例えば、アセマネE社の$782kを基準にすると、1年後に解約されるなら$142k、5年後に解約されるなら$597kとKVAが減少する。また、金利スワップであれば、コンプレッション等により想定元本が減る可能性があればそれも考慮する必要がある。

すべての取引についてこのような分析をするのは難しいだろうが、大きな取引については、それがROEハードルを満たしているかを計算する必要がある。また、システム化によってこのような計算を簡単にできるツールを作ることも可能だろう。

資本規制が強化され、収益性が重要になってくる金融業界においては、こうした資本コスト対比の収益性分析はますます重要になっていくだろう。

社債発行の急増がもたらすリスクと市場の構造変化

コロナウィルス感染拡大を受けて各国中央銀行が潤沢に資金を供給し、金利低下や政府の債券買取プログラムの拡大を受けて、社債市場からの資金調達も急増している。これを受けて、リスクの高い企業にも潤沢な資金が流れ込み、米国の15%はすでにゾンビ企業になっているとの報道まである。2000年にも似たようなことがあったが、このままのペースでいくとその時のレベルを超えるのは時間の問題だ。

8月までの社債発行額は1.9兆ドルを超えており、これは2017年に記録した年間発行額のピークとすでに同水準になっている。大統領選前に発行してしまおうというニーズもあるだろうから、今年の発行額は過去最高になるのは間違いない。

昨今の発行実績や販売状況も好調で、どんな大型起債も簡単にマーケットに吸収され、銀行がローンを出せないような規模でも社債なら需要が集まっているように見える。

資本市場の流動性が枯渇し、社債の満期時にそれを継続することができなくなったら何が起きるのだろうか。国や中央銀行が経済を支え切れているうちは良いが、社債のデフォルトが多発し、クレジット市場が崩壊すると、一気に景気への影響が出ることが懸念される。

日本は銀行からの資金調達が中心と長らく言われてきたが、海外でこれほどの調達が可能ということが明らかになると、ローンから資本市場へのシフトというものが起きてくるかもしれない。特にドル債で幅広くニーズを募れば、手間をかけて銀行からローンを借りるよりは、資金調達をする企業にとっては望ましい場合もあろう。ただし、ドル債を発行した場合はそれを通貨スワップなどによって円転しなければならず、企業にとっては、海外投資家にアクセスするためには、ISDAを締結してデリバティブ取引をする必要性が出てくる。

本来担保が出せれば問題はないのだろうが、為替レート等に応じて担保を出すというのは、企業にとってはかなりのハードルになる。こうなると、先進的な銀行としてはXVAを計算した上である程度ヘッジをする必要が生じ、CDSの流動性も重要になる。逆に言うと、こうした日本企業の海外起債が、CDS市場の流動性向上を後押しするようになるのかもしれない。

レバレッジ比率一時緩和に効果はあるか

ECBから資本規制の追加緩和のアナウンスメントがあった。4月に米国で行われたのと同様のレバレッジ比率規制の一部緩和だ。米国と同じように中央銀行に預けられている銀行預金をレバレッジ比率の分子から除外できるというものになる。

この預金は総額2兆ユーロともいわれているので、金額的には大きいように見える。米国は中央銀行預金と米国債を来年3月までレバレッジ比率の計算から除いて良いとしていたが、ECBは来年6月27日までとしている。ECBの試算では、3月末のユーロ圏の銀行の合計レバレッジ比率は5.36%とのことだが、これが5.66%に上昇することになる。G-SIBsにとっては、TLACの要件緩和にもなるとのことである。

ただし、このレバレッジ比率は、免除期間中もこの中央銀行預金を含んだ比率の開示を続けなければならないとされている。レバレッジ比率規制導入以前にも、厳密には従わなくても良いものの、その水準を公開しなければならない期間があったが、各銀行とも実質的にはすでに規制が導入されているかのように順守していた。危ない銀行とみなされるの嫌ったという理由もあると思う。

したがって、免除があったとしてもそれを利用してレバレッジ比率を下げれば、健全性が低いという印象を市場に与える可能性があるため、積極的にレバレッジを取るという行動にはならないだろう。

金融機関内でも規制が緩和されたのだからポジションを増やそうという号令がかかるかというと、一部のコロナ対応融資以外ではそうしたことは起きにくい。

したがって、いつもの四半期末のひっ迫を和らげる効果くらいはあるかもしれないが、銀行の行動が大きく変わるとは思えない。米国でも同様で、レバレッジ比率規制の一時的緩和はあまり銀行の行動に影響を与えていないように見える。

レバレッジ比率規制は、内部モデルによるリスク管理等のバックストップとして作られたはずのものなので、基本に立ち返って恒久的に緩和し、リスク管理高度化のインセンティブを与える方が、業界にとって望ましいのではないだろうか。

USDのCCP割引率変更に伴うベーシススワップの動き

LCHとCMEにおける米金利スワップの割引率変更まで一か月を切ったが、移行時のオークションのサイズについての情報がLCHから出始めた。概ね予想通りという報道もあったが、公表直後ドル金利のトレーダーからは、そのサイズの小ささに驚きの声が上がっていた。この発表を受けてSOFRとFFのベーシスは1bpほどタイトニングした。

ベーシススワップのワイドニングもあり、一部ディスカウントの変更時に大きな市場変動があるのではないかという憶測もあったが、若干拍子抜けといった感がある。

10月中旬までにさらなる変更があるだろうが、現時点でオークションにかけられるベーシススワップ(FF払いSOFR受け)のサイズは30年ポイントでわずか$1.5mm程度のDV01となっている。このサイズだとほとんどマーケットインパクトはないだろう。その他の年限(2、5、10、15、20年)は逆方向のようだが、2年で$3mm、5年で$4mm、10年で$1.5mmのDV01なので、こちらもそれほど大きくない。15年は$1mm、20年は受払交錯でほぼフラットとのことだ。

リアルマネーからのSOFRベースの債券発行が短い年限に集中していたためか、2年、5年バケットの量が大きくなっているが、長い年限になるとバランスの取れたポートフォリオになっている。

CMEからは同様の詳細が公表されないので全体像はわからない。LCHからは、10月1日と10月15日にオークション情報が更に明らかになるが、全体の傾向としては大きく変化しないように思う。

SWAPTIONのLIBOR移行対策

LIBOR改革に関連して、デリバティブ取引の割引率変更時に利益や損が出たときに、それを現金でやり取りして相殺するかどうかについて市場では活発な議論が展開されている。特にスワップションについての話題が多い。

金利スワップがCCPで清算されるようになったため、スワップションの権利行使時にスワップが発生すると、それがCCPで清算される。つまり相対の取引なのだが権利行使時にCCPでクリアされ、CCPの割引率で評価される。以前のスワップションでは、どこのCCPで清算されるか、その割引率は何かなどは事前に合意する必要はなかったが、昨今ではこれが重要な取引条件の一部を構成するようになっている。

LIBOR改革によって、こうした不透明性を避けるために今年の3月30日にSupplement 64が公表された。3月30日以降に行われた新規取引が対象になっており、割引率(Agreed Discount Rate)と、CCP(Mutually Agreed Clearinghouse)をコンファメーションで指定することになっている。

ARRCの当初案では、割引率変更時にその差額を現金でやり取りすることが推奨されていたが、実際にEONIAからESTRへの変更時にはこの現金の交換を行わないところが多かった。今般ARRCから新たなRecommendationが出されたが、10月16日までにこのCash Compensationを行うかどうか合意できなかった場合は、3/30以前の取引であってもSupplement 64の対象とするように契約を変更することが推奨されている。

なかなかわかりくいRecommendationだが、要はこれまでの損益をやり取りする推奨をあきらめ、市場慣行が変わらない限り当事者同士の判断に委ねることにしたという判断と受け止めている。

わざわざARRCがそのスタンスを変えてきたということからも推測されるように、実際にCash Compensationを行うという市場慣行があと一か月で確立する確率は低いため、当初の契約通りに契約を履行しCash Compensationを行わないということになるという結末が最も現実味を帯びているのだと思われる。

TLAC(総損失吸収力 Total Loss Absorbing Capacity)とは

TLACはTotal Loss-Absorbing Capacityの略で、銀行デフォルト時の損失をカバーするための原資の合計という意味合いがある。最近は細かい説明がWebにもかなり上がっているので、別の観点から話を進める。

銀行が破綻すると預けた預金が返ってこなくなり影響が大きいので、何とか銀行だけは存続させて、国民の税金を使わない形で、経済に支障がないようにしようと言うのが趣旨である。

このために持株会社の下に傘下の銀行を置いて、何かあったら持株会社をつぶしても銀行を存続させるという仕組みになっている。国によっても若干制度が違うが、一般的にTLAC債が持株会社から発行されることが多いのはこれが理由で、持株会社が発行した社債を持っている人が損をしても、傘下の銀行の預金や債券は守られることになる。

そうなると、当然〇〇ホールディングスという持株会社が発行した社債の方が、〇〇銀行の社債よりもリスクが高いことになる。したがって、持株会社の方が格付も低いし、社債のクーポンも高くなる。したがって、社債投資を行う際は、どの銀行の社債かということのほかに、どこのエンティティが発行しているか、またその発行した国の法制では、どの順番で債務が毀損していくのかを分析する必要がある。

ただし、いくら分析したといっても、本当に大型破綻が起きる段になると、政治的に社債権者が損をするベイルインができるかは定かではない。海外では、個人投資家の債券だけは守るとか、その場になってから想定もしていなかった処理がなされるという事例もあった。

元英国中銀副総裁のポールタッカー氏が述べていたように、社債投資家は銀行の破綻リスクを織り込んでおらず、未だに救済されると思っている人が多いように思う。感染拡大を受けてここまで資金投入が増えているため、銀行も救済されるという連想が働いてしまっているのかもしれない。

おそらく投資家のうち25%程度しか本当のTLACの意味を分かっていないというコメントをした人もいたが、実際にベイルインのプロセスはその場になってみないと確定しないことも多く、そのリスクを正しく見積もるのは極めて困難である。現に、イタリアやドイツの銀行が救済される例が散見されており、ベイルインの可能性を低く見積もる投資家が増えたとしても不思議ではない。

劣後債のようにある程度リスクが見積もれ、スプレッド差についても何らかの感覚がある場合は良いが、これがTLAC債になると、あらゆる角度からの分析を加えないと、それが本当に割安なのか割高なのかはよく分からないのではないかと思う。

デリバティブ取引の当初証拠金とは

証拠金規制で一躍有名になった当初証拠金(Initial Margin、IM)だが、これはOTCデリバティブの世界では昔からISDAの用語に従って、独立担保額(Independent Amount、IA)と呼ばれており、ヘッジファンド等との取引では一般的に使われてきた方法である。

通常デリバティブ取引で勝ちポジションがあるときに相手方が破綻すると、その勝ち分が返ってこないので、その分の担保をもらっておく。これが変動証拠金(Variation Margin、VM)である。

しかし破綻した瞬間からポジションクローズまでに、為替が動いたりして勝ちポジションが大きくなると、その分は取り返せない。この部分のリスクをカバーするのが当初証拠金である。

以前からこの金額の計算方法には様々なやり方があったが、最近は2週間99%のVaR(または期待ショートフォール)に収斂してきているように思う。通常ISDAの下でデフォルトが起きると、普通に催促した後にPotential Event of Defaultの通知を出し、一定の猶予期間を経てようやくEvent of Default通知が出せ、最終的にクローズアウトに至る。

この期間はISDAのバージョンや相対で定めた条項によって異なるが、概ね2週間あれば十分だというのが一般的な考え方である。マージンコールが日次ではなく一週間に一回だったり、担保の受け渡し期限が翌日ではなく3日後だったりすると、その分の調整が必要になる。リスク計算や資本計算も本来はこれらの日数を加味して計算するのが望ましい。

日本では、証拠金規制導入前は日次のマージンコールに抵抗感を持つ市場参加者がいたり、担保の受渡しに3日欲しいというところが多く、決済期間の長さがグローバルでは問題になることが多かった。

昨今ではJGBの決済期間短縮化も進み、以前のように3日必要という人も少なくなり、翌日決済の割合が増えつつある。とは言え、送金に時間のかかる日本のシステムは、いつも海外から不思議に思われる。

実際は可能なのだが、期限に違反するのを恐れるために、極力長めに期間を取っておきたいという文化的な要素と、システムで対応するよりは人海戦術で対応する方がコスト安という要素もあるのかもしれない。また、契約上決められた支払いなのに、上席の承認がいるなどということもあるやに聞く。

この期間は、クローズアウトまでの期間が短い取引所取引や、CCPにおける取引では、2週間が2日とか1週間に短縮化される。即時決済が進めば、本来はIMの金額を減らすことも可能になるのではないかと思っている。

特にこのIMは、通貨スワップ、オプション取引、CDS等、まともにVaRを計算すると想定元本の半分近くになってしまうこともあり、円滑な取引の妨げになっている。このIMのファンディングコストをプライシングに入れるMVAの登場もあり、デリバティブがコスト高になる一因になっている。

将来的には決済期間の即時化、短縮化等によってIMの水準を落とせるよう、技術革新が起きることが期待される。

為替決済リスクの高まりに当局が注目し始めた

3月の市場変動を受けて為替決済リスクを意識する声が高まった。CLSの調査を受けてグローバル外為市場委員会が先月公表したレポートによると、現在CLS経由の取引は全為替決済の1/3に留まるとのことである。確かリーマンショック時には半分くらいのシェアだったと思うので、他の資産がCCPや取引所に移行していく中、若干逆行する流れとなっている。CLSが主要18通貨しか扱っていないことは以前から問題になっていたが、人民元やルーブルなどの通貨の取扱高の増加に伴い、グローバルベースの決済リスクが高まったためとのことである。

余談になるが、最近はCCPのルールにみられるように、先物とOTCの共通点が増え、証拠金規制、資本規制等により商品間の垣根が低くなってきたように思う。ただし、各商品に関わる人はやはり結構分かれており、為替の人、コモディティの人、先物の人はキャラが立っていると思うのは私だけだろうか。特にコモディティ先物に関わる人は比較的強面な人が多く、為替もちょっとそれに近いような感覚がある。いずれも自分の商品に誇りを持っており、業界の活動にも強い思い入れがあるように思う。

話を元に戻すと、CLSでは当然新興国通貨とドルやユーロなどのペアの取引の取り扱い開始を検討しているが、最近のCLSのシェア低下を受けてこれが急務になりそうだ。CLSは元々FRBの支援のもとで設立され、グローバル外為市場委員会等とも連携しており、官製というイメージもあるが、実際は、かなり独占的地位を確保しているようにも見える。

今回も、CLSが規制当局や中央銀行と、新興通貨の取り扱いについて議論を進めていると報じられている。確かに金融安定を目指す当局に対して、金融決済リスクを減らすための業務拡大は非常に刺さりやすいトピックだろう。とは言え、清算集中規制などがあるわけではなく、マージン規制も現金決済為替取引は当初証拠金の対象外である。CLSを使わないで決済することも十分可能で、特に日本では大手も含めて決済リスクに対する意識は海外ほど高くない。だが、最近では、金融庁の平成28事務年度金融行政方針外為決済リスクに係るラウンドテーブルの成果もあり、信託銀行を含めたCLS加入が加速しつつあり、急速にキャッチアップを図っている。生保最大手のCLS加入のニュースも記憶に新しい。

一方で、独占企業でもあることからかCLSのサービスやフィー水準が妥当なのかという議論があるのも事実である。CLSのCCP向けサービス等も、フィーが下がればもう少し普及が進むのかもしれない。当局のサポートは別として、決済分野などは、フィンテックの出番が結構あると思うのだが、この分野でも健全な競争が必要だ。その意味ではIHS Markitが昨年株式取得したCobaltなどの新興企業の動向に注目したい。CitiやStandard Charteredなどもサポートしていることから、サービス内容を高めていけばCLSに匹敵するサービスを提供することは可能だろう。

特に日本においては、ドル調達ニーズが高いこともあり、為替市場の安定化は非常に重要である。日本では大手企業の決済リスクは低いと思われているからか、CLSの利用は海外より遅れているうえ、日本時間にドルを決済したいというところもあったり、第三者送金等、外為行為規範で推奨されないような慣行も多い。しかし、いざという時のために、グローバル基準に合わせていった方が危機時のリスクを低減できると思う。

SA-CCRへの移行が始まった

バンカメが先陣を切ってSA-CCRに移行したと報じられた。米銀には移行期限の2022年1月1日より前に、自主的に移行するオプションが与えられていたが、思ったよりも早く移行するところが現れたという印象である。欧州系には早めの移行が許されていないので、米銀に有利という意見も当初は見られたが、最近ではそのメリットは大きくないのではないかという声も聞かれていた。

別途記事を書いたが、SA-CCRへの移行によって資本賦課が削減できるかどうかはポートフォリオやビジネスフォーカスによって異なってくるので、バンカメの場合は、全体的に見たときに移行した方が資本要件が緩和されるという結論に至ったということなのだろう。事実RWAは$15bnの減少となっている。

金利スワップ等のOTCデリバティブのクリアリング取引では、この削減幅は大きくないと言われており、削減効果の大きい上場物デリバを重視したのではないかと報じられている。3月のコロナショックで各行のRWAが急上昇したということも、この決断の背景にあったのかもしれない。

株式オプション取引のクリアリングにおいてこの削減効果が大きいので、もしかしたら昨日もポストした昨今のオプション取引の急増も関係しているのだろうか。確かに、これによってプライムブローカー業務を拡充し、急増する顧客ニーズに応えることはできる。ただし、このような資本計算手法の変更は一定の準備期間が必要なため、これだけが理由とは思えないが。

他にも追随する銀行が出てくるかが注目だが、いずれにしても1年半後には移行しなければならないのだから、今年後半にもSA-CCR対応行が増えてくるのだろう。

ネット情報が株価を動かす

今年の初めの頃から米国のオンラインフォーラムが株価を動かしているという噂が出ていたが、昨日FTの一面に出たソフトバンクのニュースもこれに関連した記事になっている。今般のテクノロジー株の上昇でソフトバンクが40憶ドルもの利益を株式オプション取引から上げたというニュースだが、これはwallstreetbets(別名WSB)というオンラインフォーラムで流行っていたやり方である。単純にコールオプションをディーラーから買うとディーラーがそのヘッジのために株を買うため、株価上昇を促すことができるのではないかという理論だ。

孫社長からの指示で行った取引と報じられているが、米国動向に詳しい孫氏が、米国で流行っていた取引に目を付けたとしても不思議ではない。WSBにも、ソフトバンクがWSBの戦略をまねたとのコメントも多くポストされている。ソフトバンクのこの取引が最近の米株上昇に寄与したのではないかとも報じられているが、どちらかというと、すでに流行っていた戦略にソフトバンクが乗っかり、上昇を加速させたということなのではないかと思われる。確かにここ一か月くらいの単一株式のコールオプションの買いはこれまでにないくらいに急上昇している。一方プットオプションの買いもじりじりと増えてきているので、そろそろ転換点を迎えてもおかしくない。

WSBは2012年頃から存在していたのだが、多くの人が職を失ったり、在宅勤務になった今年、急速にその存在感を増してきたように思う。一応価格操作を意図したようなコメントはご法度とはってはいるものの、株価が不自然な動きをした場合にやり玉に挙げられるケースが多くなってきている。インサイダー取引という訳ではないだろうが、ここまで影響力が大きくなってくると、規制強化という話にもなるかもしれない。正直あまり詳細には追っていなかったのだが、今回のニュースもあり一層知名度が高まりそうだ。

トランプ大統領のTweetがマーケットを動かしたり、Twitterのコメントを分析して株価の行方を予測するインデックスが作られたりと、ネット情報の影響は日に日に高まっている。こうした動きは株式市場の流動性を上げて市場の安定性向上に寄与するというよりは、市場変動を激しくする方向に働く。

ソフトバンクは、まだ日の目を見ない将来性の高いベンチャーに資金を回すという役割を果たしてきたが、今回のような取引が金融の発展に資するとは思えない。何か他の理由があるのかもしれないが、投資損失を取り戻そうと躍起になっているとしたら黄信号とも言えるだろうか。このニュースを受けてコールオプションを解約するという連想も生まれてくるだろうし、これをきっかけに一旦大きな調整が起きる可能性も考慮しておく必要がありそうだ。

無料サービスによってビジネスを拡大を目指すのは悪か?

欧州ESMAから、MiFID IIのResearch Unbundlingによる悪影響はなかったという分析結果を出している。2006年から2019年までの8000社について分析を行ったとのことだ。

2018年にMiFID IIの一環として導入されたこの規制は、リサーチを無料で配る代わりに取引執行を求めるという慣行が不透明として、リサーチには独自の料金を払うように求めたものである。これによって、調査対象企業が大企業に集中し、小型株の調査の質が悪化し、これらの中小株の取引き流動性にまで影響を与えたという批判が一部ではあったが、それを真っ向から否定した形だ。

リサーチレポートが発行される企業数は確かに減少しているものの、これはMiFID IIの影響ではないという主張のようだ。アナリストの数も減ってはおらず、リサーチの質も特に変化していないとの主張となっている。

先に紹介したように7月に欧州委員会からこのUnbundlingの一部緩和策が発表されていたが、やはり規制緩和は一筋縄ではいかないのかもしれない。

とはいえ、リサーチを無料提供することがそれほど悪なのか、個人的にはよくわからない。弁護士事務所やコンサル会社もよく無料でセミナーをやったり、規制アップデートなどを無料で行って、その後のビジネスにつなげようとしている。メルマガを無料で配って優良プログラムに誘導したり、特売品や何らかの特典を打ち出して集客を図る小売店やサービス業も多い。

何かをしてもらったらお返しをしたくなるという人間の返報性に訴えるやり方なのだが、このようなことは古今東西様々な業界で行われてきたことのように思える。確かに、銀行が自分のポジションに都合の良いリサーチを発行するのはまずいし、特別な報酬としてみなされてはいけないといか、投資家の利益を損なうような利益相反があっては困るなどという観点もあるだろうが、リサーチを別料金にすればこれがなくなるという類のものでもないような気もする。

ただ、昨今の世論からすると、規制を作るのは比較的簡単だが、規制を緩和するのはかなり厳しいので、しばらくはこのままの慣行が続くことになるのだろう。

市場構造が変わり始めた?

FRBがインフレに対するスタンスを変更して国債保有に慎重になる動きが出てくるのではないかという懸念が聞かれるようになってきた。コロナショックに際しても米国債は安全資産として選好されたが、インフレが起きるとなると様相が異なってくる。

特に金融緩和が極端に進む現状では、株価が下落した場合に債券価格も下がるということが起き始めている。これまでのような資産間の相関が見られなくなり、すべての資産が一方向に動く傾向が今後も強まっていくように思う。

ウィルス感染が拡大してから、中央銀行は巨額の資金を市場に投入してきた。そしてこの流動性供給と株価の間には以前から強い相関がある。したがって、感染拡大によって企業倒産が加速し、景気が減速するという一般的な連想とは裏腹に、株価が上昇を続けてきたというのはある意味自然な話である。何しろリーマンショック時を超える量的緩和を行ってきたのだから。

市場関係者のほとんどは株価上昇が早すぎると感じており、実体経済から乖離していると考えている。つまり何かきっかけがあれば株価は急落しやすい。ただし、大きな流れを変えるのはFRBの金融政策ということになるのだろう。少しでも金融引き締めの兆しが見えたらその時が株価のピークになるのかもしれない。良くも悪くも中央銀行がマーケットの趨勢を決めるようになっている。日本などもイールドカーブコントロールという言葉が示す通り管理相場になっている。

だからこそインフレ政策をめぐるFRBの方針転換がここまで注目を集めているのだろうが、これまでのところ、株価に対する影響というよりは、国債への影響を懸念する声の方が多い。そうすると、何が安全資産かという議論については、実は株式なのではないかなどという報道も見られるようになってきた。特に従業員一人当たりの無形資産がの水準の高いハイテク、プラットフォーマーの株が安全なのではないかと言われている。

とは言え、ドットコムバブルの頃も、急上昇する株価を正当化するための理論が数多く登場していたことを思うと、何が本当かよくわからない。いずれにしても9月は市場が大きく動く傾向があるので、要注意だ。

インフレに関して言うと、感染拡大を受けて金利は低位安定を続けるだろうし、特に米国のような先進国ではインフレが進むとは思いにくい。これまでも低金利、デフレ等日本が先頭を走ってきたことを考えると、海外先進国も日本と同じような状況になる可能性が高いように思う。インフレが起きるとしたら新興国からで、それが最後に先進国に押し寄せてくるという動きになるのだろう。