コロナショックはXVAトレーダーのヘッジ手法を変えるか

市場変動が起きると必ず繰り返されることだが、今回は原油価格とクレジットスプレッドの動きからCVA損失が膨らんだケースが散見された。海外で石油会社と金利スワップを行った後に、金利急低下が起き銀行の勝ちポジションが増えたが、それと同時に原油価格が急落し、石油会社のクレジットスプレッドが拡大、クロスガンマヘッジが効かずCVA損失が急拡大してしまったというものだ。

原油価格が下落した場合にこれが必ず起きるというのであれば、原油ヘッジをするというのも理にかなっているが、CVAモデルにそのような影響を組み込もうという動きもある。同じことは為替ポジションでも起きるが、例えば円高に振れるとクレジットスプレッドが拡大する自動車会社のようなカウンターパーティーと金利スワップを行った場合は、直接為替リスクを抱えている訳ではないが、CVA計算に為替のインパクトを入れるというものだ。

そもそもCDSの流動性が高ければこのような問題が大きくなることはないのかもしれないが、個人的な経験でも、ひとたび危機が発生してCDSスプレッドが急拡大すると、その時点でCDSヘッジを買おうとしても時すでに遅しである。このような状況は、海外よりも日本において顕著に表れる傾向があると思う。通常時は10bpもないビッドオファーが一気に20、50と上がっていくのは危機下にあるマーケットでは珍しいことではない。

ここで無理して極端にワイドなビッドオファーを払ってヘッジをするより、しばらくマーケットが落ち着くのを待ってからヘッジしようというのはトレーダーとして自然な心理である。とは言え、リーマンショック時のように、マーケットが落ち着くことなく、一方向にワイドニングを続けるということもあるので、あまり「待つ」というオプションに頼り続けることもできない。

ここで、これ以上のCVA損失を避けるために、一部のXVAトレーダーは、いくらか為替、金利、コモディティなどのオプションを買ってヘッジするということを行っているのではないかと思われる。当然これらのヘッジはいわゆるマクロヘッジの一環であり、資本計算上ヘッジとして認められるわけではない。

こうなると、iTraxxなどのインデックス物に需要が集まるのは当然のことである。実際、3月のコロナショックでは欧州のインデックスCDSの取引量は倍増している。CDSの場合は株式に比べて、危機時にはすべての銘柄がワイドニングする傾向があるので、CDS indexヘッジはある程度正当化される。

ただし、今回3月まではすべてがワイドニングしていたところ、4月に入ると元に戻る銘柄とそうでない銘柄が二極化した。優良銘柄やインデックス物がタイトニングする中、引き続き懸念のある業種の銘柄などは、引き続きワイドニングが拡大し、実際のヘッジも個別CDSヘッジが増えている。個別のヘッジが増えるとさらにCDSが拡大するといういわゆるNegative Feedback Loopが起きる。これは欧州ショック、ギリシャショックの時に起きたことと同じである。当時は確かEURの金利が低下するとともにCDSが拡大を続けたためにさらなる金利リスクヘッジが必要になり、それが金利をさらに押し下げるという負の循環に陥ってしまった。

ここのところのマーケットは落ち着きを取り戻しているが、3月4月のような動きを見てしまった海外のXVAトレーダーの間では、もう少しCDSのOptionを取引してもよいかという議論が上がっているようだ。日本ではほとんどCDSのOption取引は見られないが、何か新しいヘッジを考えないと、また個別CDSを高値で掴まされて安値で売るということの繰り返しになりかねない。

やはり、様々なツールを使ってマクロヘッジをしていくしかないと思うのだが、そう考えるとXVAトレーダーは完全にトレーディングとなる。よくXVA管理はトレーディング業務かリスク管理業務かという議論が巻き起こるが、マーケット感覚のないリスク管理者が機械的にヘッジをすると、高値づかみの安値売りの典型例になってしまう。やはりXVAトレーダーには常にマーケットをモニターし、取引に参加していくトレーディングスキルが必要になるように思う。

日本は金融政策のフロントランナー?

FRBのパウエル長官の木曜のコメントで明らかになったように、インフレーションについてこれまでより柔軟な対応を取るという姿勢を打ち出した。平均的には2%をターゲットにするという言い方で、もちろんインフレが急上昇するような局面では適切な行動を取るとは言っていたものの、一定程度のインフレを許容するという方向のようだ。もともと古くはインフレ抑制がFRBの主な役割だったこともあったと思うが、ある意味大きな方針転換といえるだろう。

これを受けて米国のイールドカーブがスティープニングした。長期金利が上がると銀行業績が上向くという連想なのか、銀行株も上昇した。社債投資家にとってみれば、インフレは実質金利の低下につながるため、長期金利が上がったという意見も聞かれる。

とはいえ、高いインフレ率を達成するには、短期金利はしばらく低いまま据え置こうということになる可能性が高い。最近の国債入札を見ても、短い年限には需要が集まるが、長期債の入札が弱含む傾向がみられる。こうした理由から今後もスティープニング圧力がかかり続けると予想する声が大きくなってきた。

さらに、コロナ対策で資金も必要だろうから、長期債発行も増えるかもしれない。特に明らかにはされていなかったが、日本のように中銀が国債の買い入れを増やすという方向性も考えられる。またこうした望ましくない金利をコントロールするために、日本のようなYCC導入という話も、再度出てくるかもしれない。

長期化する低金利と低インフレ、ゼロ金利、マイナス金利、YCCと、日本は他国に先駆けて変化を経験しているように思える。そうすると海外のマーケットも入札と国債買い入れ中心の取引になり、低金利、低ボラティリティが常態化するようになるのだろうか。

LIBOR改革後には管理しなければならないベーシスリスクが多くなる?

LIBORからの移行がなかなか進まない。一言にLIBORからSOFRに移行するといってもマーケットによってそのSOFRの計算方法が異なることが混乱に拍車をかけている。シンジケートローンは単利、スワップは後決め複利、住宅ローンは前決め複利だったりと様々なレートになっていて、ヘッジやリスク管理も難しくなっている。LIBOR一つだった時とはかなりの違いだ。

フォワードルッキングなターム物SOFRに対する期待も高まるが、現状のSOFRリンクデリバティブの取引量を見ると、来年前半まではあまり拡がっていくとは思えない。まずはSOFRリンクの米国債発行に期待が集まる。

スワップは後決め複利だが、これは過去3か月などの日々のSOFRを複利計算して金利を後で決めるという方法である。当初これが決まった時はほかの金利も追随するだろうと思ってしまったのだが、結局様々な計算方法が混在することになりそうだ。

ローンの場合、計算期間が終わってから金利が決まるという手法だと、繰上弁済が行われた時の金利を決めるのかといった問題がある。住宅ローンにおいても、今後3か月間の金利は今はわからないけど、3か月後に確定するという方法はなじみにくい。米国では金利が先に決まっていないと政府機関の適格ローンとならないという問題もある。

こうしたマーケットの声を総合すると、やはりターム物金利が最も求められているもののように思う。それが確立するまでのつなぎとして後決め複利があるが、米国債などで後決め複利の発行が増えていって市場参加者の抵抗感がなくなれば、これが存続するという可能性もあるかもしれない。

最終的にはターム物や後決め複利に収斂していくだろうから、ベーシスリスクは少なくなっていくと思われるが、信用コストを反映したローン金利、Tough Legacyの問題もあるので、しばらくの間は数多くの金利指標が併存することになるだろう。

こうした金利はおおむね同じように動くだろうが、ひとたび市場が混乱すると、そのベーシスが大きく開くこともあり得る。こうした市場混乱期にLIBOR移行によって損失が発生する市場参加者が相次いだということにならないよう、秩序ある移行が望まれる。

国債の電子取引は増えるか

コロナショックによって電子取引が増えたかどうかというのはよく話題になるが、JPMのレポートによると、債券市場においては、電話から電子取引への劇的なシフトが見られたとのことだ。

市場不安定な中では、電子でクォートするのを避け、電話での取引に限るトレーダーもいたと思うが、顧客側からすると、在宅でディーラーに電話するよりも、画面上で取引執行する方が楽だということだったようだ。確かに家族がいたり、宅配便が来たりと落ち着かない環境では、電話をするより、画面執行の方がやりやすいという心理は理解できる。

過去2年間で米国債取引の約半分が電子的に行われていたが、これは4月に70%に急増し、その後も上昇を続けた後6月には77%に達したとのことである。多くの顧客が電子取引に慣れ始めているため、たとえ彼らがオフィスに戻ったとしても完全に元に戻ることはないという見通しのようだ。

株式や為替と比べると債券の電子取引化の速度は緩やかだったが、このコロナ対応によって移行が加速する可能性がある。特にオンザランについては、かなりの部分が電子的に行われることになるだろう。オフザランですら3月以降は電子の割合が増えているようだ。

とは言え、全取引が電子に移行するとは結論づけておらず、1億ドル以上といった大きな取引については引き続き電話取引を志向する傾向もあり、流動性が極端に枯渇した時などはトレーダーの関与が必要になるだろう。今後はすべてが電子に移るというよりは、トレーダーの電子に関わる度合いが強くなるという方向性なのかもしれない。

翻って日本国債のマーケットを見ると、米国債のような電子取引が占める割合は少なく、コロナを受けてもその状況には大きな変化は見られない。日本国債の場合は、オフザランが取引されることが多く、回号ごとに価格がずれることもあるので、そもそも電子取引になじみにくいのかもしれない。ただ、少ないながらも着実に電子取引を増やそうという動きは見られ始めており、今後数年の動きに注目が集まる。

今後CCPで清算されるプロダクトは増えるか

GSがLCHのNDFのクライアントクリアリング業務を開始することの報道があった。この商品では7社目のクリアリングブローカーということになる。証拠金規制の最終フェーズに向けて当初証拠金規制の対象となるファンドやアセマネ等が相対取引からCCP取引にシフトすることを見込んだ動きと思われる。NDFは一日約2500億ドルと一定程度の取引が行われているが、日本の市場参加者のシェアは大きくないものと予想される。

バーゼルは4月、コロナ感染拡大による業務の混乱を理由に、最終フェーズを遅らせる勧告を行った。これにより、店頭デリバティブ想定元本(AANA)が500億ユーロを超える企業は来年9月にフェーズ5の対象となり、80億ユーロ以上500億ユーロ未満の企業は再来年9月に最終のフェーズ6対象となることとなった。

今のところ現金決済が行われる為替フォワードを対象にする予定はなさそうで、NDFの清算のみが進むことになるが、決済リスクさえ何とかなればFX Forwardの清算も不可能ではないはずだ。これにはCLSとの連携が現状では不可欠だが、このあたりの分野でもFintechの新規参入があれば望ましい。これが可能になれば、通貨スワップの清算も視野に入ってくる。

コロナ環境下の在宅勤務で明らかになったように、日本の市場参加者のシステム対応とオペレーション業務の効率化は世界に比べて格段に遅れている。こうした業務を人海戦術で乗り切るだけの人員を抱えているため、システム投資を増やして効率化しようというインセンティブが働きにくいのかもしれない。

そんな状況の中、CCPが標準オペレーションを確立し、全市場参加者がそれに対応すべくシステム投資をするというのが、日本が一気に海外に追いつく唯一の方法なのではないかと思ってしまう。

日本の企業が外債を発行する際などに行う通貨スワップもクリアリングできないため、カウンターパーティーリスクやCVAの負担が大きくのしかかってくる。Notional Resetがあってもヘッジ会計を適用できるようにして、それをクリアリングし、決済リスクをCLSのような機関と管理するということができれば、日本のスワップ市場の透明性向上には大きく資すると思うのだが。まずはNDFの広がり、そしてその後のFX Fowardの清算可能性に注目したい。

BREXIT後もLCHは安泰?

Brexitによってスワップのクリアリングが英国からEUに移るという話もあったが、やはりLCHの地位は盤石のようだ。

EU域内でLCHに代わるCCPとして期待されたEurex Clearingは、コロナ感染拡大に関連する市場混乱もあって、新たなシェア拡大を達成できていない。EURの金利スワップのシェアは15%を割ったままである。EUR Swapの精算額を見ると、LCHの45.8兆ユーロに対し、Eurexは7.3兆ユーロであり、全体の約14%となっている。これは今年末の達成目標だった25兆ユーロに遠く及ばない。

証拠金規制の延期がアセマネ等のクリアリングへのシフトを遅らせているというコメントもあったが、これはLCHでも同じことである。最終フェーズが2021年9月となったが、これによってEurexに傾くかというと疑問が残る。コロナがなければ銀行がもう少しロンドンからの移転を進めていたという意見もあるが、これもかなり疑わしい。むしろ在宅勤務が完全にワークすることが分かった今、わざわざ人を移動させる必要があるのかは疑わしい。

このままで行くと、おそらくEUは今後数週間のうちに、12月以降もLCHがEU顧客向けにEUR IRSの清算業務継続を認めることになるのではないかと思われる。そして、BOEもESMA等のEU規制当局がLCHを監督する権限をある程度認めるという方向が市場にとっては最も望ましいのではないか。もっとも複数当局の関与というのはこれまでもあまり認められてこなかったのでハードルは高いが、今後EUにシフトすることが起きないとも限らないので、英国としてもある程度の妥協は必要かと思う。

2年超のJPY IRSについてはLIBORからRFRの移行が進んでいる?

7月からISDA-Clarus RFR採用指標が公表されるようになっているが、今後はこれを見ながらLIBORからRFR(リスクフリーレート)への移行進捗を確認していくことになるだろう。

これは基本的にはCCP/取引所で清算された取引が対象になる。グラフで見ていくと、やはりGBPの移行が最も進んでおり、EURやUSDが遅れているのがわかる。

一つだけ気になるのが、2年以上の年限で見てみるとJPYが最も移行が進んでいるという点である。これを見るとPV01で見たときに7月は約45%がすでにRFRで取引されてたという結果になっている(6月は何と6割超)。全年限ベースでは1.7%なので、かなりの開きがある。

データの定義を見てみても、TONAインデックスにリンクしている清算取引となっているので、JSCCとLCHのデータがメインなのだろうが、JSCCのOIS取引はそれほど多くはないはずである。

ちょっと調べてみようと思うが、何かわかる方がいれば是非。

SA-CCRとは

リーマンショックでカウンターパーティーリスクやCVAが注目されたときに、そのリスクについても資本を積むべきという話が出た。ではリスク量(RWA:Risk-weighted asset)をどう計算するかだが、貸出金額が決まっているローンとは異なり、デリバティブの想定元本をリスク量としてしまうとやりすぎである(100億円のローンと100億円の金利スワップでは全くリスク量が異なる)。じゃあ100億円に1%などの掛け目を掛けて簡易計算したらどうかというのが最も簡単な標準方式である。これに対して銀行のモデルを使って精緻に計算しようというのが内部モデル方式である。

この標準法としては、カレントエクスポージャー方式(CEM)というものが使われてきたが、担保やネッティングを完全に反映していないので、あくまでも簡便法に過ぎないということで、より実態に近づけたのがSA-CCRである。Standardised Approach for Counterparty Credit Riskの略である。

これは、CCR資本、CVA資本、レバレッジ比率等の計算に使われ、標準法と内部モデルを使った先進的手法のギャップを埋めるべく考案された手法と言える。CEMに比べると、担保取引と無担保取引の区別、ネッティングやヘッジの考慮、超過担保の認識などにおいて改善がみられる。

これで資本賦課が少なくなったかというとそう簡単な話ではなく、このインパクトは、デリバティブポートフォリオとネッティングセットなどに依存するので、金融機関によって異なる。完全により詳細な分析が必要である。企業向けの無担保デリバなどでは逆に資本賦課が大きくなることもあるからだ。

本来簡便法であるはずなのだが、計算はやってみると意外と面倒で、複雑なインプットも多くなっている。計算法を理解するにはバーゼルのペーパーについている計算例が最適ではあるが、簡単に説明できるものではないのでここでは割愛し、SA-CCRのコンセプトだけに止める。適用状況などについてはブログでアップデートしていく予定である。

LIBOR代替レートとしてCMTの注目度が上昇

TradewebとIBA(Ice Benchmark Administration)のベンチマークであるCMT(Constant Maturity Treasury)がLIBOR後継候補として注目を集め始めた。これはオンザランの米国債の出来高加重平均をトラックするベンチマークで、特に住宅ローンにおいて利用度が高まっているようだ。

CSG(Credit Sensitivity Group)の参加者もSOFRの代替レートとしての可能性に言及しているため、社債やローンにおいて広く使われるようになるかもしれない。ターム物SOFRはトライアルバージョンが今年末にも公表されることになっているが、CMTも30年までの12の満期というタームストラクチャーを持つという利点がある。

とは言え、米国債に連動するため、信用リスクを反映していないという点SOFRと同様の問題が残るため、銀行ローンに対する問題がすべて解決されるわけではない。

おそらく年末までにLIBORの使用を取りやめるFannie MaeやFreddie Macなどの政府機関系の住宅ローンからCMTの取り扱いが広がっていく可能性がある。

LIBOR代替レートとしてはAmeribor、CMTなどのほかにもいくつかの候補が挙げられており、米国では今後どのようなレートに収れんしていくのかが不透明になってきた。

ストレスキャピタルバッファが金融機関のリスク耐性を弱める?

8/10月曜にFRBのストレステストの結果が公表されたが、以前もお伝えした通り、10月1日から本格導入されるSCB(ストレスキャピタルバッファ)のインパクトに注目が集まっていた。

予想通りではあるが商業銀行より投資銀行系のGSとMSのSCBが6.7%、5.9%と大きく、最大はドイツ銀行の米国ビジネスにかかる7.8%だった。

SCBは非常に大きな経済混乱が起きた時にどの程度損失が出るかを考慮して追加で資本を積ませるというコンセプトなので、トレーディングポジションの多い銀行のバッファが増えるというのは、一般の人にはわかりやすい指標なのだろう。

このテストをするときに、GDP、失業率、金利、為替など、ストレス環境下で何が起きるかをまず決めて、そのシナリオにおいてどのくらいの損失が出るかということを予想していくのだが、このプロセスをトレーディングポジションに当てはめると、このSCBは一体何の役に立つのだろうかと思ってしまう。

景気が悪化して金利や為替が急激に変化し、市場ボラティリティが激しくなった時に、どれくらいの損失が出るかと金利、為替トレーダーに聞くと、ほぼ全員が利益が出ると言ってくるだろう。ボラティリティが上がるということはBid Offerも広がるだろうし、市場変動に備えて持っているオプションからの利益も上がる。特にエキゾチック物を扱うトレーダーなどはかなりの収益が見込める。ストレステストを提出しなければならない担当としては、ストレス時に収益が増えるシナリオは作れないので、いったいどうやってこの整合性をとっているのか不思議である。

SCBはクレジット物やローンなど、取ったポジションを一定程度保有し、それが不況によって毀損することを想定しているのかもしれないが、金利、為替トレーディングでは巨大なポジションを持つことは少なく、たいていはヘッジされている。特に2008-9年以降の規制強化によって自己勘定取引ポジションを膨らませることができないので、尚更だ。

今回のストレステストではGSをはじめとする5銀行が異議を唱えて結局それは却下されたが、ボラティリティが上がった時にトレーディング収益は下がるのではなく上がるというしごく当たり前の主張だったのかと思う。事実、コロナショック真っ只中の第二四半期はどの銀行もトレーディング収益が最高益に近い数字を叩き出している。

ほとんどの銀行で自己資本比率は向上しており、このコロナ危機によって打撃を受けたのは引当金の積み増しを余儀なくされたローンの方であって、トレーディングはどこも絶好調だった。ストレスキャピタルバッファがこうした経済混乱に備えるものなのであれば、トレーディングポジションの大きい投資銀行系ではなく、ローンの割合が大きい商業銀行系に厳しくあるべきというのは当然の主張だろう。

不況になれば利益が出るというのは、一般的には理解しにくいのかもしれない。まして銀行がそんなプランを作ってきたら当局は一発で却下するだろう。だが、不況になれば利益が出るようになったのは過去10年の規制強化によるものであり、その意味では当局の功績は大きい。リーマンショックの時に損失が出たというのは事実だが、その損失の中身を詳しく見ていけば、それと同じことは今の規制環境下では起きにくいということは容易にわかるだろう。規制以外にも各銀行とも今ではVelocity(取引の回転率)を重視しており、リスクポジションを長期にわたって抱え込むということをしなくなっている。

これで資本賦課が大きいのでトレーディングポジションを減らしていけば、せっかく不況時にショックアブソーバーとしての機能を持っていたポジションがなくなって、逆に金融機関の不況に対する耐性を弱めてしまうのではないだろうか。ストレステストは保険会社、アセマネ、年金基金、ローン中心の銀行など、リスクをとってビジネスを行う業態にはなじむかもしれないが、リスクをすぐにヘッジしてBid Offerで細かく収益を積み上げる証券仲介業を中心とするビジネスにはあまり意味がないのではないだろうか。

10月に向けSOFR-FFベーシスの変動は起きるか

10月のUSD IRSのディスカウント変更プロセスについて書いてきたが、SOFRとFFのベーシス拡大を予想する声が大きくなってきた。確かに6月以降このベーシスは若干拡大しているように見える。

通常リアルマネーと言われる保険会社や年金ファンドは、金利リスクをヘッジするため、長期の固定受けスワップを持つことが多い。一方アセマネのフローは、固定クーポンの社債を買ってそれをヘッジするニーズがあり、どちらかというと固定払いが多くなる。

既存の固定受けスワップは昨今の金利低下によって勝ちポジションが大きくなっているが、割引率変更時にはSOFRを受けてFFを払うスワップを入れることになる。つまりリアルマネーはSOFR受けのスワップをブックし、アセマネは払いのスワップをブックすることになる。

LCHではこのベーシススワップを行わないOpt Outができることになっているが、そうするとこのベーシススワップがオークションにかけられマーケットに出てくることになる。このオークションにかかるスワップの想定元本は、その時のスワップの時価と等しくなるので、スワップの勝ち分がどの程度か、またOpt Outを選択した参加者がどの程度いるかに依存する。

つまり、SOFR-FFベーシスが拡大するということは、固定受けのリアルマネーがOpt Outし、SOFR受けのベーシススワップの方が多くオークションにかけられるということを市場が予測しているということになるのだろうか。また、アセマネは固定払いに偏るとは言え固定受けのニーズもあるため、どちらかというとリアルマネーのフローが大きくなるという予想のもとで動いているのかもしれない。そして金利が下がれば下がるほどスワップの勝ち分が増えるので、この動きが増幅されていくことになる。

一方、スワップの勝ち分をリセットする方法にリクーポニングがあるが、こうした動きも観測されているようだ。つまり、以前1.5%の固定受けのスワップを行っていればその勝ち分が大きくなっているが、その1.5%を例えば0.5%に変更すれば、勝ち分は少なくなる。当然少なくなった分は損をするわけではなく、現金で受け取れる。こうすればディスカウント変更時に行うベーシススワップの想定元本が減らせる。

オークション自体はLCHが10/16に、CMEが10/19に予定されているが、オークションにかけるかどうかの選択はCMEが10/2までにCMEに連絡、LCHが9/4までにクライアントクリアリングブローカーに連絡することになっている。LCHがオークションサイズの予測値を公表するのが9/18である。こうした日程をめがけてマーケットがどのように動くかに注目が集まる。

USD IRSディスカウントレート変更プロセス

今後のマーケットインパクトもありそうなので、LCHやCMEで10月16日から19日に行われるディスカウントレート変更についてまとめてみたい。LCHではUSDのみならずKRW、CNY、INR、BRL、TWDなどのNon Deliverable通貨やMXNスワップも対象となる。また現金決済ではなくスワップ決済のスワップションも、行使によってクリアされた瞬間にSOFR割引となる。

デリバティブ取引は結局は将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いたものなので、割引率(ディスカウントレート)が変われば当然ポジションの時価が変動する。時価が変化すると言うことは、その時点で得したリ損したりする人が出てくる。もともとのスワップのクーポン等のキャッシュフローには何の変更も起きない。

時価とともにもう一つ変化するのがリスク量だ。相対取引でヘッジをしていた場合、CCP取引の方だけ割引率が変更になると、ヘッジのズレが生じてしまう。したがって、従来と同じような状態を続けるには、損をした人はその分の現金を受け取り、得をした人は現金を払い、CCPとの間でリスクをフラットにするための新たなスワップをブックすることになる。

おそらくクライアントクリアリングでLCHに参加している人は、このCash onlyかCash+Compensating Swapかの選択をするよう通知を受け始めているものと思う。ちなみに、Cash onlyを選択することをOpt Outするという。期限は9月4日と報じられている。

通常はSwapも同時に行った方が、リスク量の変化がないので、CCPとしても望ましい。ちなみにLCHではディーラー自身のポジションにはこのOpt Outが認められず、強制的にSwapをブックすることになる。それくらい通常であればSwapもセットで行うのだが、デリバティブ取引に明るくないエンドユーザーの中には、何だかよくわからないスワップを行わなければならないならCash Onlyで良いという選択をする人が多いかもしれない。CMEにはこのような選択肢はなく、強制的にスワップがブックされるようだ。

このスワップはFFとSOFRのベーシススワップになるはずだが、オークションを行うことによってその後解約され、オークション時に得られた情報によってスワップのValuationが行われる。

つまり、このオークションにどのくらいのスワップがかけられるかというのは、その時のスワップの時価とどの程度のエンドユーザーがOpt Outするかにかかってくる。これによってマーケットが動くことも十分予想されるので、今後もモニタリングが必要だろう。

円LIBOR改革第二回市中協議

昨日日銀から第二回の市中協議文書が公開された。意見提出の期限は6月30日となっている。意見募集段階なので、特に目新しい内容はないが、これまでの経緯や今後の対応が良くまとまっており、一読されると良いかと思う。

概ね海外の対応と平仄を合わせた形になっており、実際の準備作業の遅れは目立つものの、内容的には海外とそん色ないところまで来ている印象を受ける。

オペレーション面での懸念から日本だけ決済期間を長くするかという議論もあったが、特にそういった要望を上げていくという雰囲気は感じられない。決済金額の確定から決済までの期間がLIBOR スワップ対比で短いため、システム改修等が必要とした先が一部にみられたものの、全体としては、事務フローやシステム面が日本円 OIS 取引活性化の制約になる可能性は低いことが確認されたとコメントされている。

貸出、債券と区別した上でフォールバックの順序も明確に示されており、海外と比べて特に違和感はない。

移行スケジュールについても海外のベストプラクティスを意識した形になっており、以下のようなタイミングが示されている。

  • 契約当事者間での交渉開始(今!)
  • 後決め複利に対応した体制整備(2021年1Q)
  • 新規LIBOR参照ローンの停止(2021年2Q)
  • 新規LIBOR参照社債の発行停止(2021年2Q)
  • ターム物RFRの確定値公表開始(2021年2Q )
  • LIBOR参照ローン、社債の顕著な削減(2021年3Q)

システム対応は今年中にはほぼ終わらせておかなければならず、来年の今頃には新規LIBORローン、社債はなくなっているというプランだ。契約当事者間の交渉は既に始まっているとは思うが、「どうしましょうねえ」という会話から始まって、「まだまだ不透明な点も多いので引き続き議論を継続しましょうか」という形になっているのではないだろうか。

夏休みが終わったら急速にギアを上げていかなければならないと思う。

日本は在宅勤務になると取引量が減る?

4-6月の第二四半期のJPY SwapのCCP清算額が久しぶりに400兆円を下回った。LCHのシェアがJSCCを上回ったのも久しぶりである。USDやEURも落ち込んでいるが、これらの通貨は第一四半期に取引量が拡大していた。日本の場合は450兆円くらいで安定していたため、360兆円程度への落ち込みはかなり大きい。

興味深いのは、この落ち込みのほとんどはJSCCから来ており、4月に緊急事態宣言が出で、多くの日本の市場参加者が在宅勤務へのシフトを余儀なくされたことも関係しているのかもしれない。

海外は、3月に在宅勤務へのシフトが起きたが、取引量が落ち込むこともなく、逆に市場の変動拡大により、取引量が拡大している。海外当局のSTP規制の影響もあってか、システム投資が完了していたため、たとえ自宅であっても、取引執行から決済までほぼ自動でプロセスできる仕組みが整っていたからかと思われる。

確かにConfirmation送付、取引ブッキング、決済、マージンコール等、日本ではかなりマニュアル作業が多いのは周知の事実であり、自動化、標準化というよりは、特別なマニュアル対応をすることにより顧客獲得競争をしてきたという側面もある。効率性よりも手厚いサービスを売りにしてきたのが裏目に出たとは言えないだろうか。

しかし、LCHで清算する海外勢や外資系が引き続き取引を続けているため、日本の円金利市場が海外勢の動向によって動くマーケットになってしまっている。特にLCH-JSCCベーシスの動きが目立つ。このままでは、大きな市場変動が起きた時にも国内勢が取り残されたり、海外勢の動きによって日本の市場が混乱したりしてしまうのではないだろうか。

確かに巨額のシステム投資を行って業務効率化を図ると、それらの職に従事していた従業員の仕事がなくなってしまう。人の雇用を守るためには自動化や標準化は避けたいという意図が働くのかもしれない。

ただし、機械は感染しないが人は感染する。もしかしたらコロナがこの流れに終止符を打つのかもしれない。

通貨スワップのRFR移行はどのように行われるのだろうか

昨日ドル建て社債のLIBOR移行対応の遅れについて書いたが、もう一つドルが関係するものに通貨スワップがある。日本円LIBORについてはUSD LIBORなどの他の通貨の動きを見てからと様子見が続いているが、通貨スワップはYen LegだけでなくドルLegもある。つまりUSD LIBORが移行するのであれば、片方のLegだけは移行をしなければならない。しかも通貨スワップはCCPでクリアされたものが事実上ないため、全てが相対の交渉となる。

移行時のスプレッドは過去5年間の中央値を使うことで合意形成はできているが、この5年間は通貨によって異なる可能性が高い。Libor Discontinuationのアナウンスメントが今年末までに出る可能性があるというFCA高官の発言もあったが、この5年間の計算は通貨スワップの場合かなり複雑になる。

ドルLegだけをまずは変更し、その後に円Legも変更するという二段階の価格変化が起きるということもあるのだろうか。それとも面倒だから遅い方に合わせて一気に変更するのだろうか。

この移行時期についてヒントを与えるものとしては、早ければ9月にも公表が見込まれているIBA(Ice Benchmark Administration)の市中協議の結果に注目が集まる。

今後ISDAのフォールバックプロトコルに批准した市場参加者と、批准していない参加者が存在する上に、通貨ごとにタイミングがずれるとなると、様々な組み合わせが存在することになり、かなり市場が混乱することが予想される。これまでは、EONIA-ESTRへのディスカウント変更、FFからSOFRへのディスカウント変更、USD IRSやGBP IRSの移行の話が中心だったが、そろそろ通貨スワップについても議論をしていく必要があるだろう。

ASIAのLIBOR移行の遅れが目立ってきた

アジアではなかなかLIBOR対応が進まないという報道がRisk.netに連続して出ていた。確かに欧米に比べると日本を含むアジアではどうも期限が近いという切迫感がない。

各種メディアで報じられている通り、アジアでも数多くのドル債が発行されており、その金利指標をどうするかは、全ての発行体にとって一大事のはずなのだが。

少なくともこれまでに発行した社債のFallback文言がどのようになっているかは分析しているとは思うが、発行時期によって様々なバリエーションがある。例えば、非常に古いものになるとScreenに表示されたレートを使うといったものから、Dealer Poll(ディーラーに提示してもらう)を取ってその平均を取るとか、Pollを取って最後のLIBORで固定するとか、Determination Agent、Calculation Agentになっている銀行がReasonable DiscretionやAbsolute Discretionで決めるというものなどがあるかと予想される。中央銀行等によって決められた代替レートを使うという文言も見たことがある。

数年前に発行されたものであれば、何らかのフォールバック文言が入っているかもしれない。直近のものであればARRCの推奨文言が入っているだろう。ISDAのDetermination文言が使えるものもあるだろう。

さすがに来年1月1日くらいからはUSD LIBOR参照の社債発行はなくなり、標準フォールバック文言を入れていけば良いので新規についてはそれほど心配はないのかもしれないが、既存の社債について全く社債権者に働きかけを始めていないということになると、かなり先行きが懸念される。

とは言え、こうした対応を一般企業の財務担当者が行うのは、かなり大変だろう。社債発行企業を集めたセッションか何かが本当はあった方が良いのかもしれない。