米国ストレステストの結果が公表され、米銀の資本コストに対する注目が高まっている。昨今米銀は資本コストに応じてビジネスミックスやプライシングを変更せざるを得ない状況が続いているため、マーケットに与えるインパクトもじわじわ出てくるのではないかと予想される。
RWAを計算するには先進的手法と標準的手法があるが、銀行によってどちらが制約となっているかは異なっている。コロナ前の2019年第四四半期においては、ほとんどの米銀大手行が標準法の下でのRWAの方が先進的手法のRWAよりも高く、メインの制約条件となっていた。しかしウィルス感染拡大を受けた市場変動によって、CVA RWAが上昇したこともあり、いくつかの銀行において先進的手法の下でのRWAの方が高くなるという現象が生じた。標準法は日本でもなじみのある方法で、簡単に言うと、デリバティブ取引の想定元本の影響を受けやすく、先進的手法は内部モデルや市場のボラティリティ、CVA資本等の影響を受ける。
そして今後は10月に導入を控えたストレスキャピタルバッファ(SCB)の影響を見ていかなければならない。このSCBは主に標準的手法に影響を与えるため、標準的手法の重要度が増すことになる。そして、CVAキャピタルは標準法ではなく先進的手法で大きくなる。基本的にVaRモデルに基づくため、今回のような危機時に膨らむ傾向がある。
どのビジネスの資本賦課が大きいかによって、国際的な銀行はそのビジネスフォーカスを変えてきた。自己勘定取引を減らして資産運用ビジネスに転換する動きなどはその代表例だが、現状はこの標準的手法と先進的手法のせめぎあいになっており、そこにSCBやCVA資本などの要素が絡まり、銀行の意思決定を難しくしている。
標準法にのみ関係するSCBに移行すると、先進的手法+2.5%の資本保全バッファとSCBを考慮した標準的手法の比較になる。市場では、CCARストレステストの影響を受ける標準法+SCBの方が今後は制約になってくる可能性が高いという意見が多いようだが、CVA資本の動向によっては先進的手法の影響も見逃せないだろう。
標準的手法の制約があまりにも大きくなると内部モデルを高度化させようというインセンティブがなくなってしまうので、このくらいのバランス間で調整されていくのが望ましいのかもしれないが、本来は先進的手法がメインで標準的手法がバックストップになるというのが正しい姿なのだと思う。