各社ともオフィス復帰に向けたプランの策定を行っていると思うが、海外に比べると日本の計画はかなりスムーズだ。なぜかというと、海外では職場に戻りたくないという意見が多い一方で、日本の場合は戻ることに抵抗のない人が多いからだ(というかそう言えない雰囲気があるのかもしれないが)。もちろん、感染者数や死者数が少ないという事情もあるとは思うが、会社が戻ると決めればほとんどの社員が満員電車で通勤を始めることになるだろう。
オフィスの安全対策に関しても、中国やシンガポールのように当局からの立ち入り検査で検温やデスクの距離等を測ることが義務付けられているところもある。日本の場合は各社の判断に任されるところが多い。経団連がある程度のガイドラインを公表しているが、海外は米国CDCや英国政府などが詳細なガイドラインを公表している。
本当は家に妊婦がいたり、喘息持ちのお子さんがいたり、基礎疾患のある両親と同居していたりと、できれば在宅勤務を続けたいと心の中では思っていても、実際には言い出せないという人達のケアが日本では最大の問題となっているように思う。
その中でも不思議なのは、特に金融機関においては、在宅でトレーディング業務を行ったり、決済の業務を行うのは当局が許さないから、オフィスに来ざるを得ないという意見があるという点だ。おそらく日本の当局もそんなに理不尽ではないし、密を避けるためにトレーディング業務に関係する人達には出勤を義務付けるということはしないと思うのだが、コンプライアンスの強い日本では、お上に忖度して必死で出社を続けるというのが常態化しているように思える。中には、他社とは異なり自分たちは皆出社して顧客サポートをしていることを売りにしているところもあるかもしれない。
確かにトレーディング拠点として登録もしていない家から取引執行をするのは常識的にあり得ないというのももっともなのだが、今後は場所がそれほど意味をなさなくなるのではないだろうか。例えば自宅から会社のPCにリモートログインして取引執行した場合は、オフィスからの執行という整理はできるのだろうか。でもこうなると、例えばハワイから日本のオフィスのPCにログインして取引した場合、取引拠点は本当に日本なのかなどという議論が巻き起こる。税金上の拠点や準拠法等整理しなければならない点も多いのかもしれないが、海外では普通に在宅からのトレーディングが一般的になっている。
日本のコンプライアンス的には、その場合拠点登録が必要だとか、法廷帳簿上の届け出はどうするのかと至極全うな意見が主流になる。そうなると、全員出社が原則になるが、出社人数を減らすという政府方針に従うためには、取引を抑えるというのが唯一の解決法になる。JSCCの取引件数や金額を見ていると、確かに3月以降急速に取引が細っている。一方LCHの円金利スワップの取引量は減っていない。海外当局が緊急対応のために録音義務を緩和したりと様々なアナウンスを出しているのとは対象的に、日本ではおそらく当局の意思に反して取引量を抑える方向に行ってしまっているのではないだろうか。こうした文化は本当に当局から何らかのガイダンスが出ない限りきっと変わらないのだろう。