日本の生産性が問題視されるようになって久しいが、確かに完璧を求め生産性を犠牲にする文化があるのかもしれない。既存のプロセスを変更するときや前例のない新しいことを始めるのが非常に困難だ。
メールのやり取り一つとっても英語より極端に時間がかかる。まず相手の会社名、部署名、役職を記入し、漢字に間違いがないか確認しながら名前を書く。そして、「いつもお世話…」にという常套文句を書き、ようやく要件に入れる。複数人宛の場合は誰を最初に書くべきかの確認も必須だ。役職も参事役と部長補佐はどちらが偉いんだなどと考えながら、内容を書くまでに意外と時間がかかってしまう。
メールの返信を書く時まで、その都度会社名とお世話に…を入れる場合もあるが、英語メールの場合は、複数のやり取りが続くと名前すら省略することがあるが、慣れてくるとメールのやりとりは、英語の方が圧倒的に早い。プロ野球で「そうですね」廃止が話題になっているが、メールでも「いつもお世話に」を禁止したいものだ。
会食時にも、手土産やタクシーを手配し、座る場所、会計、見送りに気を配り、次の日の朝にはお礼状、お礼メールを送る。慣れてしまったので何のことはないのだが、余分に時間はかかる。外資系では手土産などは送る方ももらう方も申請が必要なので、その申請も出さなければならない。コンプライアンスから追加質問がくる場合もある。古き良き伝統なのかもしれないが、少なくともこのご時世、接待の手土産は禁止にして欲しい。通常物を贈るのは禁止というのがグローバル金融機関の常識なのだが、手土産の他、事務所移転等で花を贈ったりする日本においては、各社とも特殊ルールを設けている。
このような他愛もないこと以外にも、金融ではフェイルやレポート提出の遅れ、非常に細かい事務ミスが許容されないので、そのために人海戦術で対応するしかない。こうして現場は多忙を極める割に収益にはつながらないため、生産性が下がる。95%の正確性で収益を上げるより、コストを引いた後の収益がマイナスでも100の正確性を求めている。
その割にシステム投資を抑えるため大きなミスが起きてしまう。フェイルやその他事務ミスについては、人手をかけて二重チェックをすれば防げるが、システム障害は人海戦術では防げない。製造業であれだけ費用対効果を極限まで最大化する努力ができたのだから、サービス業でも若干は効率性を考えなければならない。1円帳尻が合うまで支店の全員が残っていたというエピソードがあったが、日本のビジネス環境をよく表している。
しかし一方で、黒船、地震、コロナ等があると、急に危機感が芽生えて常識が変わる。テレワークはコロナがなければ絶対に進まなかっただろう。海外企業は、コロナ前から金曜だけはフロリダからテレワークという人もいたくらいなので、在宅勤務への移行は直ちに実行できた。つまり、何か天変地異のようなものがなくても変化が起きていたということだ。
しかし、コロナのような大きな変化が起きると、これまでのしがらみを捨てて変化できるというのも日本の良さなので、これからはチャンスが出てくるかもしれない。規制業種になってしまったので以前より難しくはなってきたが、常に新しいことにチャレンジする精神を持っていきたいものである。