通常預金をすれば金利がもらえる、担保を出せばその担保に対する金利は返ってくるというのが以前の常識だったが、マイナス金利になるとおかしなことになる。お金を預けた方が金利を払い、担保を出した方が金利を払うということいなるからだ。とは言え、海外、法人預金、日銀当座預金の一部にもマイナス金利が適用されている。
ここで自分が得をするときだけ担保金利のマイナスを許容すると、業界で大混乱になるため、当時ISDA中心に皆でマイナス金利を適用しましょうということで2014年にマイナス金利プロトコルが出来上がった。CCPの取引にもマイナス金利が適用され、何となく落ち着きを見せたと思っていたのだが、英国の金利低下を受けてこのプロトコル脱退の動きがあるというニュースがマーケットを震撼させた。
市場で金利がマイナスになるのであれば担保金利もマイナスにすべきであり、これがマイナスにならないとデリバティブ取引の割引率もおかしなことになり、すべてのデリバティブ取引の時価評価が変わってしまう。
そもそもこれを防ぐために、業界でプロトコルを準備し、大手銀行はすべてこれに批准していたのだが、いざ金利がマイナスになりそうになってきたらこれを反故にするというのはどういうことなのだろうか。もちろん銀行が自らの利益のためにこの決断をしたとは考えにくいので、顧客にチェリーピックをされると自らの身が危うくなるということなのだろうが。
業界でチェリーピックを防ぐために極力皆でこのプロトコルを批准しようと働きかけてきた身からすると、信じられない気分だ。当時も自らが得をするときだけマイナス金利を適用し、損をする場合にはこれを拒否するという動きがあり、皆がこれをやりだすと収拾がつかなくなるので、皆で大人の対応をしましょうということだったのだが、結局チェリーピックしたもの勝ちということになってしまう。
Citi、JPMなどの大手がプロトコルから離脱しているということなので、この流れはもう変えられない。現存する取引にはインパクトはないようだが、今後離脱した銀行と行う新規取引については、担保金利がマイナスにならない。
昨年もLIBOR改革がらみで、業界(ARRC)で決めたCash Compensationをしないのが市場標準になった時にも思ったのだが、業界の善意で秩序を保とうとしても、結局はそれを利用して収益を上げようとする人がでてくるので、結局自主努力だけでは無理ということなのかもしれない。
こうなると担保を多く出している市場参加者はマイナス金利の適用を避けるだろうし、担保を受け取っている方はマイナス金利を享受したいと思うのは当然だろう。プロトコルが破綻するということは、結局業界の善意で市場標準を作るのは無理で、やはり金融には規制が必要ということなのかもしれない。非常に残念だ。
しかしこの影響は非常に大きい。担保付デリバティブ取引の割引率が担保金利であったことを考えると、ほとんどの取引のValuationが変わるということになる。今後の取引時にもマイナス金利非適用顧客と取引した時に、それをDealer間でヘッジしCCPで清算した場合、CCPはマイナス金利適用なのでミスマッチが生じてしまう。それともCCPもマイナス金利適用を止めるのだろうか。少なくとも大手ディーラー間ではマイナス金利適用を相対で約束するのだろうか。
少なくともはっきりしているのは、今後このプロトコルに批准しようという市場参加者は少なくなっていくだろうということだ。そして市場分断が起き流動性にも影響が出る可能性がある。既にマイナス金利を適用している日本はどうなるのだろうか。