金融規制によってリスクが銀行から利用者サイドに移った

今回の市場の混乱は、まさに911とリーマンショックを足したようなものになってきているが、金融機関の安定性に不安を覚える投資家がいると聞いて少し驚いた。確かにCDSも銀行銘柄のスプレッド拡大が大きい。個人的には、既に問題が発生している一部の欧州系銀行を除いて、G-SIBと言われるような大手金融機関の破綻はあり得ないと思っている。金融規制のおかげで、ここまで資本や流動性を厚く積んでいるのは史上初めてであり、銀行経営層のリスク許容度も極端に落ちている。つまり、顧客が取引を解約して流動性を確保しようと思っても、以前のように市場の流動性を銀行が支えることはできなくなっている。

となると結局危ないのはヘッジファンドや年金のような投資を行っているところで、顧客の資金引き出しの要求があって、取引を解約しようにも、極端な取引コストをかけて解約せざるを得なくなる。ここ一週間のBid offerは世界中で拡大しており、銀行も大きなリスクは取れない。金融危機を防ぐため銀行規制を極端なところまで厳格化させたおかげで、銀行の安全性は高まったものの、金融サービスを受けるファンド、年金基金や一般事業法人にそのリスクが移っただけになっている。

一般事業会社も 一定期間内に借入、返済、再借入れができるrevolving credit facilitiesを使うケースが増えてきているが、こうした流動性確保に努める必要がある。ここまでのマーケットになってくると銀行が MAC条項( material adverse change clauses 、万が一の非常事態に契約通りの約束を実行しなくて良いとする条項)を使って資金供与を提供する前に資金確保を行おうという動きが出てきても不思議ではない。

こんな状況の中、今年の1月から米国で導入された新規制が更にこの状況の悪化に拍車をかけている。これは、今までのように顧客が実際に返済不能に陥る前に、早めに引当金を積み増すという内容であり、欧州でも似たような規制が導入される予定になっている。この影響で銀行アナリストは銀行の決算見通しを引き下げている。確かに今後は航空会社、旅行業界等様々な業界で信用リスクが高まり、銀行の貸出損失が増えるという連想からから銀行株が売られている。

こうした、損失を早めに決算に反映させるという手法は、デリバティブのCVAと同じような考え方で、特に問題がある訳ではないのだが、銀行ローンの場合は、社債やCDSでヘッジのできるケースが多いCVAと異なり、ヘッジ手段に制限がかかり、銀行収益の変動が激しくなる。

米国では中銀による更なる流動性供給、ECBもストレステストの延期等を決めているが、そもそも行き過ぎた金融規制は、市場の流動性を損ねるだけという事実により多くの政治家が気づいてくれることが切に望まれる。今後ヘッジファンドやバイサイドの流動性危機が起きないことを願うばかりである。

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