為替決済リスクの高まりに当局が注目し始めた

3月の市場変動を受けて為替決済リスクを意識する声が高まった。CLSの調査を受けてグローバル外為市場委員会が先月公表したレポートによると、現在CLS経由の取引は全為替決済の1/3に留まるとのことである。確かリーマンショック時には半分くらいのシェアだったと思うので、他の資産がCCPや取引所に移行していく中、若干逆行する流れとなっている。CLSが主要18通貨しか扱っていないことは以前から問題になっていたが、人民元やルーブルなどの通貨の取扱高の増加に伴い、グローバルベースの決済リスクが高まったためとのことである。

余談になるが、最近はCCPのルールにみられるように、先物とOTCの共通点が増え、証拠金規制、資本規制等により商品間の垣根が低くなってきたように思う。ただし、各商品に関わる人はやはり結構分かれており、為替の人、コモディティの人、先物の人はキャラが立っていると思うのは私だけだろうか。特にコモディティ先物に関わる人は比較的強面な人が多く、為替もちょっとそれに近いような感覚がある。いずれも自分の商品に誇りを持っており、業界の活動にも強い思い入れがあるように思う。

話を元に戻すと、CLSでは当然新興国通貨とドルやユーロなどのペアの取引の取り扱い開始を検討しているが、最近のCLSのシェア低下を受けてこれが急務になりそうだ。CLSは元々FRBの支援のもとで設立され、グローバル外為市場委員会等とも連携しており、官製というイメージもあるが、実際は、かなり独占的地位を確保しているようにも見える。

今回も、CLSが規制当局や中央銀行と、新興通貨の取り扱いについて議論を進めていると報じられている。確かに金融安定を目指す当局に対して、金融決済リスクを減らすための業務拡大は非常に刺さりやすいトピックだろう。とは言え、清算集中規制などがあるわけではなく、マージン規制も現金決済為替取引は当初証拠金の対象外である。CLSを使わないで決済することも十分可能で、特に日本では大手も含めて決済リスクに対する意識は海外ほど高くない。だが、最近では、金融庁の平成28事務年度金融行政方針外為決済リスクに係るラウンドテーブルの成果もあり、信託銀行を含めたCLS加入が加速しつつあり、急速にキャッチアップを図っている。生保最大手のCLS加入のニュースも記憶に新しい。

一方で、独占企業でもあることからかCLSのサービスやフィー水準が妥当なのかという議論があるのも事実である。CLSのCCP向けサービス等も、フィーが下がればもう少し普及が進むのかもしれない。当局のサポートは別として、決済分野などは、フィンテックの出番が結構あると思うのだが、この分野でも健全な競争が必要だ。その意味ではIHS Markitが昨年株式取得したCobaltなどの新興企業の動向に注目したい。CitiやStandard Charteredなどもサポートしていることから、サービス内容を高めていけばCLSに匹敵するサービスを提供することは可能だろう。

特に日本においては、ドル調達ニーズが高いこともあり、為替市場の安定化は非常に重要である。日本では大手企業の決済リスクは低いと思われているからか、CLSの利用は海外より遅れているうえ、日本時間にドルを決済したいというところもあったり、第三者送金等、外為行為規範で推奨されないような慣行も多い。しかし、いざという時のために、グローバル基準に合わせていった方が危機時のリスクを低減できると思う。

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