市場取引を継続するためには

木曜に米財務長官からは市場を開け続けるという強いメッセージが出ている。取引所の停止の噂が出る中、それを明確に火消しした格好だ。たとえ、困難になったとしても数時間でも市場を開けるとも言っている。ただ、ほとんどの取引所、ブローカー、ディーラーがほぼ100%在宅でも何とか市場を開け続けることが証明された今では、確かにこれはそんなに難しくないことのように思える。FEDも矢継ぎ早に市場安定策を打ち出しており、2兆ドルの財政支援策も 急ピッチでまとめられた 。官民一丸となって今回の危機を乗り越えようという意気込みが感じられる。

これまでNYの会議室と電話で繋いで電話会議をしていたのだが、全員電話になると結構アジアにとってはやりやすい。会議室で同時に皆が話しているところに電話で、しかも母国語以外で割り込むというのはかなり難儀なのだが、全員が電話になるとかなり楽になる。以前時差は問題だが、在宅勤務になり、移動の負担がなくなると夕食の後に少し電話に乗るくらい訳ない。しかも会社支給の在宅勤務用電話は、携帯とは全く異なり、時間差も少なく音声も非常にクリアである。Zoom Meetingも驚くくらい早く快適だ。おそらくこんな感じで金融はきっと誰もオフィスに行かなくても仕事ができるようになるのだろう、というよりはほぼ実現しているといって良い。

ただし、同じ話を日本ですると様相が少し異なる。日本ではWork from Home (WFH)というよりはStay at Home(SAT)であり、在宅勤務というよりは自宅待機に近い印象を受ける。業界の友人と在宅勤務の話をしていると、在宅勤務をすると規制上望ましくないという感覚があるようだ。確かに、トレーダーの管理監督、情報管理、守秘義務等様々なハードルはあるが、海外ではそれを一つ一つクリアしてきており、当局からも録音義務の一時免除等のアナウンスが矢継ぎ早に出ており、市場の継続に力点が置かれている。日本の場合も当局もそんなに理不尽ではないと思うが、日本のコンプライアンスは、在宅勤務に関しては世界一厳しい。日本のBCP対応はこれまで在宅を意識しておらず、何があっても誰かが出勤するという前提だったのだと思う。

確かに海外の同僚が日本に来たときに、フロアが昔の米国のように騒がしいと驚いていた。まいん!ごしあま!などと怒号が飛び交うのは彼らにとっては懐かしい時代に移るようだ。いつも外人の新人に、一毛五指強の発音を教えているのが非常に滑稽だ。1.5bp Downで良いのに。今回のコロナショックを経てこうした慣行ももしかしたら下火になっていくのかもしれない。

金融機関サイドで、規制を気にするあまり何があっても出勤するというのは日本の文化のせいかもしれない。これを変えるには、海外のように明確な指針を広く公開していく必要があるのだろう。ここで、なぜ、海外のように明確な指針を出さないのか考えてみた。阿吽の呼吸、言外の意図をくみ取るという文化もあるだろうが、おそらくマーケットの専門性と特殊性の問題なのではないだろうか。海外ではトレーダーが当局に転職したりといった人材交流があり、担当者も市場経験が長いため、何となく雰囲気が掴めている。一方日本では、業界との癒着を嫌うためか当局担当者の異動の頻度が多く、嘱託で短期間勤めている金融機関出身者を除くと専門家は少ない。この状況であやふやな知識のまま、全世界に大々的に指針を出すというのは誰でも躊躇する。

したがって、金融機関にヒアリングをしたり、個別に連絡をすることにより、何とか対応しているという感じなのではないだろうか。まあ米国でも財務長官が4大銀トップとの会談などをやっているのである程度似たようなものなのだろうが、トップ以外の会話の頻度は海外ではそれほど多くないように思う。開かれた市場との対話ということなのかもしれないが、非公式の対話から市場が動てしまっても不公平なので、水面下の対話から、広く市場に向けたメッセージへという欧米の流れも参考にできると思う。

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