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DVAとFBAの二重計上問題

DVAとFBAの二重計上についてよく質問される。FBAはFVAのうちFunding上のBenefitとなる部分であり、FCAがCostに当たる。

FVA = FBA + FCA

金融危機の頃までは、CVAとDVAしかチャージしておらず、その後にFVAをプライシングに含めたあたりから個人的にも混乱したのを覚えている。当然日本で取引をしている以上突然FVAを入れたころは、外資はほぼ無担保取引から撤退という雰囲気だった。特に信用スプレッドがワイドな銀行にとっては、一つのビジネスの終わりを示しているようにさえ思えた。

ただし、CVAとDVAだけだった頃からも、DVAの大きな取引についてかなり業界でも議論があった。DVAの大きなPayable取引を行うとそれだけで会計上の利益が出るため、それによって利益を計上したCVAデスクも多かった。ただし、自分のCDSを売ることができない以上DVAの利益を実現させることはできず(外資ではこれをマネタイズすると言っていた)、その利益を積み重ねるのが本当に企業価値を上げるかどうかという議論だ。

DVAが大きくなるとそのSensitivityも大きくなり、金利や為替のヘッジも頻繁に必要になる。おそらくどんなカウンターパーティーのCVAよりも、最も大きいリスクは自社のスプレッドということになってしまう。実はCVAトレーダーとして最もヘッジをしていたのはDVAに関するヘッジだったのかもしれない。

そうこうしているうちにFVAが登場し、DVAの代わりにFBAをチャージすると、こうしたPayable取引をため込むことがなくなった。FCAの大きな取引はほとんど不可能になったが、FBAの大きな取引のみは取引可能ということで、外資系が細々と取引を継続していた。

クレジットファンディング
デリバティブ資産CVAFCA
デリバティブ負債DVAFBA

当初はDVAをチャージせず、CVA+FBA+FCAをプライシングに入れるところが多かったと思う。そのうちFVAの最適なスプレッドは何かという議論につながっていった。また、FAS157/IFRS13によってDVAの会計計上が必要とされたため、DVAをFBAに置き換えることの是非も議論された。

DVAについては、自社のデフォルトリスクに関するものなので、CVAと同様CDSのスプレッドからカーブを構築するところが多い。FBAはクレジットではなくファンディングなので、自社の資金調達コストをベースにカーブを作る。しかし、会計上の出口価格という議論になると、業界平均のようなマーケット標準のスプレッドでFVAを計上するというところも増えてきた。

FVAについては、銀行がどのような手法によってプライシングをしているかが競合他社に漏れてしまうと、コンペにおいて不利になる。したがって、自らその手法を広く知らしめることはしないため、統一した手法がある訳でなく、今後も統一されるとは思えない。また、CVAトレーダーの現場のプライシングと、会計上のCVA、FVAの計上が異なる銀行も多い。管理会計と財務会計の乖離である。

一般的に主流になっている議論としては、FBA、クレジット部分(DVA)と純粋なマーケットレベルのファンディング部分(FBA*)からなるとするものがある。FBA*の計算に使われるスプレッドはLIBORだったり、先述の業界平均スプレッドだったりする。

FBAは全社レベルでFCAとオフセットすることができ、会社全体のファンディングに加えることもできる。通常デリバティブの含み益がある時は、それに社内の仕切りレートを掛けて日々トレーディングデスクからコストを徴求しているところもある。こうした銀行では、トレーダーとしてもFBAの大きな取引を増やすインセンティブが生まれ、FCAの大きい取引はその分をチャージしたくなる。XVAデスクで集中管理をしている場合は、この部分も含めて管理を行っており、トレーダーはこうしたコストを気にしなくてよくなる。

本来はこうしたファンディングを集中的に管理し、自社のバランスシートの最適化を図るのが望ましい。しかし、今度はこれに資本コストが加わってくる。FCAの大きな取引はバランスシートに乗るため、資本コストも高くなる。FBAの大きな取引が入ってくればFCAを減らすことができるので、この効果は大きい。したがって、CVA、FVA、資本コストをすべて管理する部門が必要であり、その部門が日々の取引に関与することによって適切なリソース管理を行う必要がある。

XVA Deskの役割ーCS/アルケゴスの教訓から

CSのレポートで、アルケゴス関連損失から学んだ教訓として、XVAについての言及が複数見られた。まずは、以下の部分に注目すると、RWAを減らすヘッジ取引を行うためにチャージをしているとある。これはKVAをチャージしているということを意味している。VMとIMを徴求しているのでCVAは少ないだろうが、資本コストを取引に乗せているということである。

We note that CS’s XVA group charges the businesses to hedge risk to counterparties in order to reduce the business’s RWA.

次に以下のコメントを見ていくと、CSはアルケゴスを参照するCDSを買っていたようだ。

CS also had an XVA group—a hybrid market and credit risk function that had purchased credit protection on Archegos (as well as a large number of other derivatives counterparties)—but its remit was limited.

そして、以下のように、2017年以降、KVAが四半期ごとにレビューされ、ヘッジされていたとある。

These hedges are put on and reviewed quarterly, and Archegos was part of this hedging exercise since 2017.

しかし、RWAヘッジのためのCDSは一銘柄約$20mmだったとある。2つのプログラムで$43mmのヘッジとなっている。

However, there was a limit (generally around $20 million) on the amount of credit default protection for any single counterparty involved in any one hedging program. During the relevant period, XVA had put in place hedges related to Archegos in two different hedging programs for a total of approximately $43 million in notional value.

つまり、変動証拠金と一定程度の当初証拠金を取っていたため、CVAの観点からはチャージをする必要がなかったが、RWAが膨らんだため、取引コストをチャージした上で、何らかの形でCDSを買ったようだ。アルケゴス社のCDSが市場でActiveに取引されていたとは思えないが、おそらく別の市場参加者と何らかのカスタマイズされたProtectionを組成したのだろう。

そしてこのヘッジコストを賄うため、取引価格に一定のチャージをしていたと思われるが、通常このようなチャージをすれば、プライスが悪いと文句を言われる可能性が高い。それでも最終的にCSに取引が集中していたということは、他社も同じようなチャージを掛けていたか、あまりにもCSの求める担保が少なかったため、ある程度のプライスの悪さには目を瞑ったということなのだろう。

XVAトレーダーの感覚からすると、通常チャージを増やしても取引が行われるというのは一つの危険信号である。そして相手の破綻確率を上げてチャージを徐々に増やしてみると、何となく他社対比のリスクがつかめる。このチャージからMarket Impliedのデフォルト確率を逆算することもできる。いずれにしても、従来の審査部、フロントリスクによる2線管理よりは、XVAデスクのスキルを利用すれば、更に危険信号を早めにキャッチすることが可能になる。

これに関しては、CSの調査委員会は以下のようにまとめており、XVAデスクの機能拡充と更なる関与が求められている。

Given the counterparty management expertise in CS’s existing XVA group, CS should increase the role that function plays to improve CS’s overall counterparty risk management.

各銀行ともこのCSのレポートを分析して、自分の組織に活かせないか詳細なレビューをしているものと思われる。おそらく今後のカウンターパーティーリスク管理においてはXVAデスクの役割が強調されていくことになるだろう。

CVAとは

信用評価調整などと訳されると何が何だか分かりにくくなるのだが、よく質問を頂くので実務家の観点からCVA(Credit Valuation Adjustments)の説明を。

今まで15年以上様々な説明を試みてきたが、日本ではローンの引当金のデリバティブ版というと、あーなるほどという反応が返ってくることが多い。

CVAはデリバティブの引当金?

ローンを出した後に会社が潰れそうになると、会計上引当金を積まなければならないので、そのローン自体の価値が下がる。これと同じことがデリバティブでも起きているだけだ。

同じ会社に10億円のローンと10億円のスワップの勝ちポジションがあった場合、ローンの方は50%の引当金を積んでいるので5億円の価値なのに、スワップは10億円の価値があると報告するのはおかしいでしょうという話だ。

CVAを計上していれば、CVAが5億円なのでスワップの価値は5億円に減るが、CVAがなければこの価値は10億円だ。

ならば、このスワップを5億円で買って来れば良い。引当50%の危ない会社の債権だったら相手も喜んで売って(Novation)してくれるだろう。そして10億円の価値のスワップを5億円で買ったということで、自分は会計上5億円の利益を計上できる。

CVAによる逆選択問題

変な話だが、こんなことはずっと行われてきたし、今も多かれ少なかれ起きている話だと思う。こうして危ない会社向けのスワップを買いまくれば、巨額の利益が上げられるという寸法だ。いわゆる逆選択の典型例である。このからくりを知っているトレーダーがこの方法で利益を上げたという話は海外でも報じられていた。そのトレーダーが退職した後、当該銀行にはデリバティブの不良債権が溜まってしまい、後年CVAを導入した際に巨額の損失を計上していた。

CVAヘッジ

ローンの引当金は決算期毎に更新すれば良いかもしれないが、CVAの場合は基本的には毎日計算してヘッジもするのが海外では一般的だ。ローンのように元本が固定されている訳ではなく、スワップの勝ち負けは、金利や為替などの市場の変化によって日々変動するため、CDSだけでなく金利ヘッジなども必要となる。

もう一つ引当金と異なるのは、会社の信用力を測る際にCDSなどの市場で観測されるスプレッドを使うという点だ。自社で計算する想定デフォルト率ではなく、市場で取引されている信用スプレッドを使うというのが引当金との違いとなる。

DVAとは

難しいのは、いつも銀行がリスクを取っているローンとは異なり、デリバティブ取引はエンドユーザーが銀行のリスクを取ることもあるということだ。この場合はCVAを減らす効果を持つが、これをDVA(Debt Valuation Adjustments)という。

ただし、カウンターパーティーの信用スプレッドが拡大した時にCVAが増加するのと同様に、銀行自身の信用スプレッドが拡大した時にDVAも増加する。つまり引当金が減る=利益が出るということになる。銀行が破綻しそうになるとDVAから利益が上がるという不思議なことになるので、一部DVAは入れるべきでないという批判もあった。

DVAを入れないCVAを一方向CVA、DVAを入れるものを双方向CVAという。

CVAの計算方法

エクスポージャーの計算

まずは既存ポートフォリオが将来どのようなエクスポージャーになるかを計算する。これは同じISDAマスター契約の下で存在しているすべての取引についてポートフォリオベースで行い、担保条件等も反映させる。

CVAの計算にあたっては、あらかじめ決められた将来の時点ごとに、リスクファクターのシミュレーションが必要になる。将来の期待エクスポージャーを求める際には、あらゆる取引、あらゆるプライシング手法に対しても柔軟に対応できるため、モンテカルロシミュレーションを行うのが一般的である。

そして、時点ごとに、ポートフォリオの中の全取引を評価する。そしてその値が正(つまり銀行にとって勝ちポジション、つまり相手方のリスクを負っているとき)の値の平均を取ってこれをEPE(Expected Positive Expsoure)とする。負の値についても同様に平均を取り、これをENE(Expected Negative Expsoure)とする。

デフォルト確率の計算

カウンターパーティーのCDSスプレッドから将来のデフォルト確率を計算する。CDSがない場合は社債のスプレッドや同業種や信用力の近い会社の信用スプレッドから市場の信用スプレッドを推定する。過去のデフォルト確率から計算してはならない。回収率は40%とか35%といったCDSの回収率に合わせるのが一般的である。

そして、EPEに相手方のデフォルト確率を掛け合わせCVA(一方向CVA)を計算し、ENEに自行のデフォルト確率を掛けてDVAを計算し、差額が双方向CVAとなる。

CVAの会計

海外では、デリバティブ取引の時価評価にはカウンターパーティーリスクを反映させなければならないことになっているので、もはやCVAは必須と言っても良い。

日本の会計規則上も似たような記述があるものの、その手法については決まったやり方はなく、若干の引当金を積むだけでも問題ないとされてしまうケースも多い。それでも海外大手会計事務所を中心にCVA導入の機運は高まっている。

CVAの計算上はMarket Implied、つまりCDSのスプレッドをベースにしたCVA計算がグローバルスタンダードである。銀行の独自デフォルトデータに基づいて計算すると、金利減免、元本猶予等の行われてきた日本におけるデフォルト率は極めて低いため、CVA自体が形骸化してしまう恐れもある。

とは言え、CDSの流動性に難のある日本のマーケットでは、どうやってCVAの時価評価をするかという問題はいつもつきまとう。現実的には、同じ業種、格付等でマトリクスを作って、iTraxx Japanに連動させるようなProxy Spreadを作成して時価評価するのが一般的ではないかと思われる。

CVAの税務


CVAを導入すると、その分利益が少なくなり、引当金が増える。つまり収める税金が少なくなるため、税務当局の注目度も高い。以前米国で銀行がCVAを導入したところ、米国内国歳入庁(IRS)がこれを利益の繰延べに当たるとして否認し、裁判になったこともある。当然銀行側が勝利し、これからCVAの発展が進むことになるが、日本でもこうした評価調整が税金控除になるかどうかという議論が続いてきた。

不良債権化したデリバティブ取引を売買しようとしたとき、引当金に相当するCVA部分を利益として納税するということになると、こうした債権の流動化は全く進まない。

全銀協主導で行われた「デリバティブの CVA 管理のあり方に関する研究会」の報告書が公開されているが、ここでもCVAの損金算入について検討が進める重要性について触れられている。

これを受けて平成31年度税制改正に関する要望の3(5)に、「デリバティブ取引に係るCVA等の税務上の取扱いの明確化」が含まれた。こうして、日本でも着々と海外のように正しくCVAを認識するインセンティブが高まっている。

デリバティブ取引のDVAとは

CVAについて書いた以上はDVA(Debt Valuation Adjustments)についても触れざるを得ない。例によって正式な定義というよりは直感的な理解に重点を置く。

企業が銀行にお金を借りると、銀行が企業のリスクを取ることになる。逆に企業が銀行に預金をすると逆になる(預金保険とか細かい点は省略する)。

じゃあその時のローンの金利が3%だったとして、お金を預けてくれたら2%に下げても良いという提案があったとする。その時の値引き分の1%がDVAみたいなものである(預金相殺の実効性などの細かい点は無視)。

カウンターパーティーリスクを考える時、ローンとデリバティブの最大の違いはデリバティブの双方向性、つまりデリバティブの価値がプラスにもマイナスにもなるという点である。ローンの場合は、1億円の借りたのに、いつのまにか市場変動によって1億円貸していたことになってしまったということは通常起きない。

しかしデリバティブの取引の場合は、マーケットが動けばこれが普通に発生する。銀行が潰れないという前提の下ではあまり意味のない議論だが、リーマン破綻によって銀行リスクに注目が集まり、それと同時にCVAの議論が高まったのも興味深い。

あるSwap取引の企業のデフォルト時の期待損失が10で銀行のデフォルト時の期待損失が5だったとすると、

銀行から見た双方向CVA= -10(CVA)+5(DVA)=-5
企業から見た双方向CVA= -5 (CVA) +10 (DVA)=5

となり双方向CVAの価値が符号を逆にして一致する。一物一価の法則が成り立つので理論的にも美しい(一般的にDVAを含まないものを一方向CVA、DVAを含むものを双方向CVAと呼んでいる)。

つまり、自分の企業のデフォルト確率が上がると、DVAが大きくなり、その分が利益として計上できる。自分が潰れそうになると利益が上がるということで、これを計上することに嫌悪感を示す人もいるが、単純にデリバティブの価値は双方の信用力に応じて変化するものなので、理論的には全く問題はない。

自身の信用リスクをデリバティブの時価に反映させるための信用調整、自身がデフォルトすることにより、負担を免れることとなる含み損の期待値、自分がデフォルトするというオプションの価値などと、色々な説明の仕方はあるだろうが、要は当事者双方がリスクを取っているのだから、それをきちんと時価に反映させましょうというものである。