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SLRとは

米系金融機関ではSLRという言葉で通っているが、日本語では補完的レバレッジ比率と訳される。金融危機時に、リスクベースの内部モデル方式のもとで、レバレッジを積み上げる金融機関が苦境に陥ったことから、バーゼルIIIでバックストップとしてレバレッジ比率規制が導入された。バーゼル基準では最低3%が求められていたが、米国SLRでは大手の銀行持株会社に対して5%、預金取扱銀行に対して6%の最低基準維持が求められている。

バックストップということなので、あくまでもリスクベースの自己資本比率がメインであり、モデルを変えることによって銀行がひそかにレバレッジを積み上げるのを防ぐために作られたはずなのだが、このSLRがビジネスを縛る最大の制約(Binding Constraints)になっていると批判する声が頻繁に聞かれた。リスクベースとは、簡単に言うと、国債のような低リスク資産とジャンク債のような高リスク資産の区別をするということである。レバレッジ比率はリスクに関係なく同じ扱いになるので、非リスクベースの指標とも言われる。

コロナショックを受けて2020年3月に、米国債と準備預金をレバレッジエクスポージャーから除外するという1年間の条件緩和が行われたが、この時限措置が延長されるるかどうかが、マーケットでかなりの注目を集めた。この時限措置は銀行の融資や国債保有に対するスタンスを変えたと評価されており、SLRがいかにビジネスの制約となっていたかということが証明された。結局この時限措置は延長されず終了したが、大手銀行はこれによってSLRが1%弱低下した。逆に言うと、ルールを若干変更することによって金融機関の行動や市場の流れを変えることができるということでもある。

日本においてもレバレッジ比率の計算から日銀準備預金が一時的に除外され、2021年3月には更に一年延長された。バーゼルの分析によると、日本と米国においては、この一時的条件緩和が銀行のレバレッジ比率を1%程度押し上げたとのことだ。バーゼルもレバレッジ比率規制が危機時にビジネス制約となることを認めており、一時的な条件緩和に一定の効果があったと評価している。

計算式はティア1資本をレバレッジエクスポージャー額で割ったものである。レバレッジエクスポージャーは、ローン、国債や社債、デリバティブやPFEのエクスポージャーから構成される。デリバティブやSFTに限って言うと、取引の時価がプラスであればそれがオンバランス項目に含まれるが、現金担保を受け取っていればその分がオフセットされる。ただし、JGBを担保に受け取っていたり、受け入れた担保を信託銀行等に分別管理しているとオフセットが認められない。将来的にプライスが悪くなることがあるので、これらの条件はCSA締結時に考慮しておかなければならない。プライシングと切り離して契約条件だけを有利なものにしようとすると後で不利になる。オフバランスのデリバティブPFEは想定元本に一定の掛け目を掛けたものとなる。

デリバティブのエクスポージャーはカレントエクスポージャーに倣って計算されるため、RC+PFEとなっているRCはReplacement Cost、つまり再構築コストとなり、取引の時価と同義になる。PFEはカレントエクスポージャー方式の計算と同様想定元本に一定の掛け目を掛けたものになる。掛け目はAdd-on Factorと呼ばれ、以下のように決められている。

IRSFX/GoldEquity金以外の貴金属その他コモディティ
1年未満0.0%1.0%6.0%7.0%10.0%
1年超5年未満0.5%5.0%8.0%7.0%12.0%
5年超1.5%7.5%10.0%8.0%15.0%

SLRの最低基準を満たすため、銀行は米国債の保有額を増やさないようにしていたが、コロナ禍の条件緩和後は一時的に米国債保有を増やした。しかし、一時的条件緩和の打ち切り後は、思ったほど米国債は売られず、逆に国債利回りは低下した。銀行サイドの準備ができていたことと、同時にアナウンスされたSLRのルール見直し着手に対する期待もあったようだ。

通常自己資本比率というと、銀行の財務部門等が集中的に管理することが多いが、このSLRは、現場のトレーダーですらある程度プライシング時に考慮を入れる指標になっており、それだけマーケットインパクトが大きい。SLRの見直しや条件緩和が大きな話題になることから、引き続き重要な指標の一つであり続けるだろう。

信用リスク管理の基礎

米国では、1980年代くらいに、各銀行がシェア拡大を重視したため、その後のデフォルト損失が拡大した。この頃から伝統的な与信枠管理に加えて、リスク分散とヘッジに注目が集まり、ポートフォリオのリスク管理、信用リスクの移転が始まった。

期待損失と最大損失

そこで期待損失最大損失を分けて管理するようになり、期待損失はできるだけヘッジし、最大損失は資本で賄うという考え方が一般的になった。デリバティブ取引でいうと、期待損失はCVA部分にあたるので、それは日々ヘッジを行い、最大損失は与信枠で管理をするようになった。ローンで言うと期待損失は引当金で賄い、最大損失は与信枠での管理ということになる。

デリバティブ取引のエクスポージャーは、通常VaRなどのシミュレーションにより将来の損失額を見積もるが、与信枠はPFE(Potential Future Exposure)でCVAは期待損失を使う。つまり同じシミュレーションで枠管理とCVA計算の双方ができることになる。会社によってはPFE計算とCVA計算を分けているところもある。同時に同じシミュレーションを使って資本計算もできる。

日本では、デリバティブ取引の与信枠管理というと、想定元本に何らかの掛け目を掛けて計算していたり、資本計算等に使うCEM(カレントエクスポージャー方式)によって枠を決めているところもある。ただし、これだとネッティングや相関を正しく信用判断に織り込むことが難しい。


能動的ポートフォリオ管理

当初は、業種や格付などの分類に従って、ポートフォリオをモニタリングし、必要あればそのエクスポージャーにリミットを設けてリスク集中を避けるというものであった。

しかし、CDSの登場やLoan Participationによってクレジットマーケットの流動性が高まったことにより、信用リスクの移転が可能になった。海外ではローンの売買も活発に行われるようになっていった。

古くは、一度ローンを出してしまったら、最後まで付き合わなければならないため、厳密に財務分析を行い、コベナンツ、担保等による信用保全を行い、常にモニタリングをするのが一般的だった。

今では、信用リスクの一部を証券化によって移転したり、CDSによってヘッジをしたり、債権の売買を行うことによって能動的にリスク管理をすることが可能になっている。低金利から、こうした一部のリスクを取りたいというファンドも現れ、リスクマネーの担い手も増えてきた。

デリバティブ取引の場合だとNovationによってカウンターパーティーを変更するのは日常茶飯事であり、CCPで清算すれば相手先のリスクからは解放される。CCPで清算しなくても、証拠金規制により当初証拠金まで取るようになれば、カウンターパーティーリスクは極限まで軽減される。

こうして相手方の信用リスクからは解放されるようになり、証券会社においては審査部の担当者数が少なくなり、信用リスク分析の中心は、ローンなどの信用リスクのオリジネーションをするところと、クレジット投資を行う部門へと移っていった。また、信用リスクよりは流動性リスクやオペレーションリスクなどの別のリスクの重要性が増したため、こうした部門への配置転換が行われている。規制により資本賦課が高まったため、資本の最適化を行う部門やヘッジを行うXVAデスク等への人員シフトも起きている。ヘッジを行うことによってエコノミックキャピタルの削減も可能になったので、こうした部門の重要性はますます高まっている。

従来型の信用リスク管理においては、取引先の財務状況に目を配ることがメインの業務だったが、今では、どういったリスクがどれくらいの価格で移転されているのか、CDSのスプレッドがどう動いているかというマーケットのセンスが要求されるようになってきた。そして、既存ポートフォリオやヘッジから生じる資本賦課を意識しながら管理をしていかなければならないため、資本規制や流動性規制などにも通じている必要が出てきたのである。