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デリバティブ保証

ISDAマスターに対する保証

デリバティブ取引のカウンターパーティーリスク削減の一手法に保証がある。最も一般的なのは、ISDAマスター契約において、信用保証提供者(Credit Support Provider)として保証会社を指定し、保証状を提供して信用補完を行うものである。これにより、カウンターパーティーリスクが対子会社から対親会社へと移る。これは、Credit Substitutionと呼ばれることもあり、資本計算などにも影響を及ぼす。特に外資系金融機関が現地法人を通して取引をする場合などに使われてきた。

CVAの計算上も、その親会社のCDSスプレッドを使って行われることになる。しかし、近年のRRP(Recovery and Resolution Planning)などの規制環境変化により、現地法人単独で格付取得、資本増強等を行い、親会社保証なしに取引をするところも増えてきた。親会社の格付が子会社より下になることが多く、信用力に劣る親会社(持株会社)が保証提供するというのが意味をなさなくなってきたという事情もある。

他にも、例えば米国の親会社が保証を提供すると、日本法人との取引であっても米国規制の一部が適用されるため、親会社保証なしに取引をしたいというニーズもある。日本では、親会社というとグループで最も信用力が高いという印象が残っているためか、親会社保証を外すことに難色を示すところもあるが、各国規制が複雑に絡み合う状況を回避するために、保証を入れないケースも増え始めている。

CVAの計算上、以前は、親会社のスプレッドをタイトにすることもあったが、近年では、TLAC債の発行も進み、必ずしも親会社の方が信用スプレッドが低いとも言えなくなってきた。日本や米国では、持株会社発行のシニア債のみがTLAC債となるが、経営破綻時に元本毀損リスクがあるTLAC債は、格付けが低く設定されることが多いからだ。

親会社と子会社双方の信用スプレッドがマーケットで観測されればCVAの計算は容易だが、親会社のCDSしか取引されていない場合が多いので、子会社銀行との取引に係るCVAをどう計算するかという問題が発生する。ここでその信用力に差をつけ子会社単独の信用スプレッドを推定しCVAの計算を行うことになる。

もともとFSBが定めたTLACの仕組みは、公的資金注入がないことが前提になっているが、日本では、預金保険法の整備によって、予防的な公的資金注入が可能になっている。したがって、日本の場合は、実質的な政府保証があるため、持株会社と銀行子会社のスプレッドに差をつける必要がないのではないかという議論もある。

企業グループに対する与信枠

こうした保証とは異なるが、海外、特に米国では、連結決算に重きを置くのが通常であり、信用枠管理等もグループベースでみることが多い。Back to Back取引などでリスクを一定の法人に集中させ、グループとしての一体管理をするところが多いので、一法人だけのリスクを見ていても全体像がつかめないからだ。一方、日本や欧州の一部の銀行では、個別法人ごとに与信枠を設定している例も多い。当然資本効率やIM Thresholdの効率的利用から、取引をブックするBooking Entityを変えることはあるが、純粋に信用枠の観点から取引法人を指定する場合もある。

ただし、最近では同グループ間の取引であっても各法人間でCSAを提供し、日々担保授受を行うのが普通になった。当初証拠金まで入れているところは少ないが、少なくとも変動証拠金のやり取りは行っている。つまり、Back to Back取引でリスクを移転した上で、マージンコールをかけて変動証拠金のやり取りを行うため、完全ではないものの、ある程度他国法人の影響から遮断される。

日本における保証

日本においては、保証予約、経営指導念書など、保証の形態にもさまざまなものがあるが、デリバティブの契約においては、こうした保証に効力を認めて資本賦課を下げたり、CVAの削減効果を認めるケースは少ないものと思われる。

そのほか、担保の代わりにISDAマスター契約の債務を対象とした一定金額までの保証状を差し入れるケースもある。通常はその会社のメインバンク等がこのような保証を提供することが多いが、その効力に6カ月や1年といった期限を設けることが多いため、期日管理も重要になってくる。CVAやPFEの計算上こうした期限付きの保証をどのように扱うかが問題になるが、保証が毎回更新されるかどうかは明らかではないため、保証の期限までのエクスポージャーが保証されているという前提で計算する方法が最も保守的だろう。

あとは更新の確率に応じて、適宜調整を入れるという方法も考えられる。通常は会社全体の債務をカバーする保証が多いが、一部の債務に限定した保証も存在する。これはつまるところCDSと同じようなものである。海外であれば時価評価を逃れるためにCDSを保証形態にするというのは、規制の関係でむずかしいだろうが、時価評価を嫌う市場参加者が多い日本では、比較的広範囲に使われているようだ。Risk Participationという形で、CDSではなく、保証類似形態にして日々の時価評価を避けるというものも、一部では行われている。

LCによる保証

その他、特にコモディティ取引で多くみられるものに信用状がある。LC、L/C、LOC(Letter of Credit)と呼ばれる信用状を銀行が発行し、それを現金担保や国債担保の代わりに入れるというものである。通常はCSAの適格担保にLCを追加し、掛け目(Valuation Percentage)や適格LCの条件(格付、銀行の格付、期間)等を規定しておく。こうすることにより、たとえLCに期限が設定されていたとしても、期限後は更新されるか、現金等他の適格担保を提供してくるという前提でCVAやPFEの計算ができる。

問題は、LCの場合実際に現金が受領されないので、カウンターパーティーリスクやCVAの削減はできても、ファンディングコストやFVAは減らせない。資本規制上も現金でなければ時価と相殺することができないことが多いので、KVAの削減も限定的となる。2000年初めまでは、LCはカウンターパーティーリスクを減らせるためメリットが大きかったが、規制強化によってファンディング、資本賦課が重要になってくると、現金担保ほどのメリットが得られないということで敬遠されるようになってきた。それでも、豊富な現金を持たない事業会社等に対する取引においては、カウンターパーティーリスク削減は可能なため、今でも一部の取引で使われている。

DVAとFBAの二重計上問題

DVAとFBAの二重計上についてよく質問される。FBAはFVAのうちFunding上のBenefitとなる部分であり、FCAがCostに当たる。

FVA = FBA + FCA

金融危機の頃までは、CVAとDVAしかチャージしておらず、その後にFVAをプライシングに含めたあたりから個人的にも混乱したのを覚えている。当然日本で取引をしている以上突然FVAを入れたころは、外資はほぼ無担保取引から撤退という雰囲気だった。特に信用スプレッドがワイドな銀行にとっては、一つのビジネスの終わりを示しているようにさえ思えた。

ただし、CVAとDVAだけだった頃からも、DVAの大きな取引についてかなり業界でも議論があった。DVAの大きなPayable取引を行うとそれだけで会計上の利益が出るため、それによって利益を計上したCVAデスクも多かった。ただし、自分のCDSを売ることができない以上DVAの利益を実現させることはできず(外資ではこれをマネタイズすると言っていた)、その利益を積み重ねるのが本当に企業価値を上げるかどうかという議論だ。

DVAが大きくなるとそのSensitivityも大きくなり、金利や為替のヘッジも頻繁に必要になる。おそらくどんなカウンターパーティーのCVAよりも、最も大きいリスクは自社のスプレッドということになってしまう。実はCVAトレーダーとして最もヘッジをしていたのはDVAに関するヘッジだったのかもしれない。

そうこうしているうちにFVAが登場し、DVAの代わりにFBAをチャージすると、こうしたPayable取引をため込むことがなくなった。FCAの大きな取引はほとんど不可能になったが、FBAの大きな取引のみは取引可能ということで、外資系が細々と取引を継続していた。

クレジットファンディング
デリバティブ資産CVAFCA
デリバティブ負債DVAFBA

当初はDVAをチャージせず、CVA+FBA+FCAをプライシングに入れるところが多かったと思う。そのうちFVAの最適なスプレッドは何かという議論につながっていった。また、FAS157/IFRS13によってDVAの会計計上が必要とされたため、DVAをFBAに置き換えることの是非も議論された。

DVAについては、自社のデフォルトリスクに関するものなので、CVAと同様CDSのスプレッドからカーブを構築するところが多い。FBAはクレジットではなくファンディングなので、自社の資金調達コストをベースにカーブを作る。しかし、会計上の出口価格という議論になると、業界平均のようなマーケット標準のスプレッドでFVAを計上するというところも増えてきた。

FVAについては、銀行がどのような手法によってプライシングをしているかが競合他社に漏れてしまうと、コンペにおいて不利になる。したがって、自らその手法を広く知らしめることはしないため、統一した手法がある訳でなく、今後も統一されるとは思えない。また、CVAトレーダーの現場のプライシングと、会計上のCVA、FVAの計上が異なる銀行も多い。管理会計と財務会計の乖離である。

一般的に主流になっている議論としては、FBA、クレジット部分(DVA)と純粋なマーケットレベルのファンディング部分(FBA*)からなるとするものがある。FBA*の計算に使われるスプレッドはLIBORだったり、先述の業界平均スプレッドだったりする。

FBAは全社レベルでFCAとオフセットすることができ、会社全体のファンディングに加えることもできる。通常デリバティブの含み益がある時は、それに社内の仕切りレートを掛けて日々トレーディングデスクからコストを徴求しているところもある。こうした銀行では、トレーダーとしてもFBAの大きな取引を増やすインセンティブが生まれ、FCAの大きい取引はその分をチャージしたくなる。XVAデスクで集中管理をしている場合は、この部分も含めて管理を行っており、トレーダーはこうしたコストを気にしなくてよくなる。

本来はこうしたファンディングを集中的に管理し、自社のバランスシートの最適化を図るのが望ましい。しかし、今度はこれに資本コストが加わってくる。FCAの大きな取引はバランスシートに乗るため、資本コストも高くなる。FBAの大きな取引が入ってくればFCAを減らすことができるので、この効果は大きい。したがって、CVA、FVA、資本コストをすべて管理する部門が必要であり、その部門が日々の取引に関与することによって適切なリソース管理を行う必要がある。

XVA Deskの役割ーCS/アルケゴスの教訓から

CSのレポートで、アルケゴス関連損失から学んだ教訓として、XVAについての言及が複数見られた。まずは、以下の部分に注目すると、RWAを減らすヘッジ取引を行うためにチャージをしているとある。これはKVAをチャージしているということを意味している。VMとIMを徴求しているのでCVAは少ないだろうが、資本コストを取引に乗せているということである。

We note that CS’s XVA group charges the businesses to hedge risk to counterparties in order to reduce the business’s RWA.

次に以下のコメントを見ていくと、CSはアルケゴスを参照するCDSを買っていたようだ。

CS also had an XVA group—a hybrid market and credit risk function that had purchased credit protection on Archegos (as well as a large number of other derivatives counterparties)—but its remit was limited.

そして、以下のように、2017年以降、KVAが四半期ごとにレビューされ、ヘッジされていたとある。

These hedges are put on and reviewed quarterly, and Archegos was part of this hedging exercise since 2017.

しかし、RWAヘッジのためのCDSは一銘柄約$20mmだったとある。2つのプログラムで$43mmのヘッジとなっている。

However, there was a limit (generally around $20 million) on the amount of credit default protection for any single counterparty involved in any one hedging program. During the relevant period, XVA had put in place hedges related to Archegos in two different hedging programs for a total of approximately $43 million in notional value.

つまり、変動証拠金と一定程度の当初証拠金を取っていたため、CVAの観点からはチャージをする必要がなかったが、RWAが膨らんだため、取引コストをチャージした上で、何らかの形でCDSを買ったようだ。アルケゴス社のCDSが市場でActiveに取引されていたとは思えないが、おそらく別の市場参加者と何らかのカスタマイズされたProtectionを組成したのだろう。

そしてこのヘッジコストを賄うため、取引価格に一定のチャージをしていたと思われるが、通常このようなチャージをすれば、プライスが悪いと文句を言われる可能性が高い。それでも最終的にCSに取引が集中していたということは、他社も同じようなチャージを掛けていたか、あまりにもCSの求める担保が少なかったため、ある程度のプライスの悪さには目を瞑ったということなのだろう。

XVAトレーダーの感覚からすると、通常チャージを増やしても取引が行われるというのは一つの危険信号である。そして相手の破綻確率を上げてチャージを徐々に増やしてみると、何となく他社対比のリスクがつかめる。このチャージからMarket Impliedのデフォルト確率を逆算することもできる。いずれにしても、従来の審査部、フロントリスクによる2線管理よりは、XVAデスクのスキルを利用すれば、更に危険信号を早めにキャッチすることが可能になる。

これに関しては、CSの調査委員会は以下のようにまとめており、XVAデスクの機能拡充と更なる関与が求められている。

Given the counterparty management expertise in CS’s existing XVA group, CS should increase the role that function plays to improve CS’s overall counterparty risk management.

各銀行ともこのCSのレポートを分析して、自分の組織に活かせないか詳細なレビューをしているものと思われる。おそらく今後のカウンターパーティーリスク管理においてはXVAデスクの役割が強調されていくことになるだろう。

デリバティブKVAの計算方法

なぜレバレッジという用語が使われるのか

レバレッジ比率規制とは、リスクを取るなら一定の資本を積みなさいという規制の中の最も単純なものである。リスクを表すにはレバレッジエクスポージャー、資本を表すにはティア1資本が使われ、この比率が概ね3%を超えなければならない(国によって若干異なる)。3の資本で100のリスクを取れるので、33.3倍(100/3)のレバレッジがかけられるという意味で、レバレッジ比率という言い方になっている。

リスク量とリンクしないレバレッジエクスポージャー

レバレッジエクスポージャーは保有している債券の価値などのバランスシート金額とデリバティブPFEに分かれる。単純なバランスシートなので、安全な国債だろうと危険なジャンク債だろうと同じ金額として扱われる。

そしてデリバティブPFEは想定元本に、5年超の通貨スワップだったら7.5%、1年から5年までの金利スワップなら0.5%のような掛け目をかけて計算される。当然SA-CCRに変更されれば計算方法が変わるが、CEM(カレントエクスポージャー方式)の下ではこのような単純な計算になる。

ここで重要なのはCEMでは担保を加味していないということである。そして、+100の勝ちポジションと-100の負けポジションがあれば相殺してリスクゼロなのだが、このネッティングも完全には加味されない。完全にはといったのは、一応NGR(Net-to-Gross Ratio)によって0.4*AGross + 0.6*NGR*AGrossのように部分的には考慮される。ここでAGrossは、各取引の勝ち負けの絶対値を足しあげたものである。NGRはANet/AGrossで計算されるが、ANetは各取引の勝ち負けをそのまま合計したものである。

なぜデリバティブPFEというかというと、これはPotential Future Exposureと似たような概念を使っているからだと思われる。有担保の場合マージンコールの合間の2週間のVaR等を見ることになるが、金利スワップの2週間VaRは年限によって0.5%から1.5%程度、通貨スワップの2週間VaRが5%とか7.5%というとだいたい感覚に合うからである。

レバレッジ比率からのKVA計算

前置きが長くなったが、この辺りの詳細は検索すればいくらでも出てくるだろう。重要なのはこれが実取引に対してどういう影響を与えるかという点だ。

まずは、レバレッジ比率が最大の制約になっているような場合は、ここから簡単にKVAが計算できるという点だ。バーゼル3の先進的手法、標準的手法等ほかの資本規制の制約が大きい金融機関は別の計算が必要だが、それでもレバレッジ比率のKVAはある程度の目安にはなる。

例えば$500mmの10年通貨スワップを行った場合、適宜最低レバレッジ比率(3%とか5%)、NGR、ROEターゲット等の前提を置いて架空の試算をしてみる。

PFE資本コスト
ディーラーA銀 (NGR 0%)$15mm$467k
大手B銀行 (NGR13%)$18mm$558k
C生保(NGR97%)$31mm$978k
地銀D行(NGR62%)$29mm$902k
アセマネE社(NGR45%)$25mm$782k

NGRはポートフォリオが大きくなると0%に近づいていき、一方向の取引が多いと100%に近くなっていくので、適当にNGRの前提を上のように置いてみた。資本コストは税引後のROEを10%に保つべく14%程度、割引率も14%としたが、税金やその他コストを考えるともう少し高くすべきかもしれない。当然各金融機関ではもう少し高度な計算をしているだろうが、ここでは単なるコンセプトの説明に重点を置く。

結果を見ると、$500mmの取引をポジションが一方向に偏った地銀D行と行うには、$902kくらいの利益がないとROE10%が達成できないということになる。さらに、無担保または担保が現金ではない場合は、これに将来のデリバティブの時価(これはオンバランスになる)がレバレッジ比率の分母に加わるので、さらにバッファが必要となる

また、この計算は10年間解約がないという前提になっているが、数年後に解約される可能性があればこの計算は全く異なるものになる。例えば、アセマネE社の$782kを基準にすると、1年後に解約されるなら$142k、5年後に解約されるなら$597kとKVAが減少する。また、金利スワップであれば、コンプレッション等により想定元本が減る可能性があればそれも考慮する必要がある。

すべての取引についてこのような分析をするのは難しいだろうが、大きな取引については、それがROEハードルを満たしているかを計算する必要がある。また、システム化によってこのような計算を簡単にできるツールを作ることも可能だろう。

資本規制が強化され、収益性が重要になってくる金融業界においては、こうした資本コスト対比の収益性分析はますます重要になっていくだろう。