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CCARとは

Comprehensive Capital Analysis and Reviewの略で、日本語では包括的資本分析およびレビューと訳される。通常シーカーと発音する。米国の大手銀行を対象としたストレステスト制度で、金融機関が深刻な経済ショックに対処するのに十分な資本を持っているか、資本計画に実効性があるかをレビューする。

連結総資産 500 億ドル以上の 銀行持ち株会社(BHC) を対象に、年 1 回実施されている。これで資本が不十分と評価されると、資本の積み増しが要求されるほか、資本計画が承認されないと、配当の支払いや自社株買いなどが制限されるので、各金融機関ともかなりのコストをかけて準備をしている。

CCARでは、規制当局が設定した3つのシナリオに基づいて、自己資本の充分性を検証することが求められる。シナリオは、毎年FRBが公表するBaseline、Adverse、Severely Adverseの3種である。これらのシナリオに加え、各銀行が独自に作成したシナリオに基づく収益、損失、引当金、自己資本比率の予測を含む分析結果をFRBに提出し、その結果は6月末までに公表される。

デリバティブポートフォリオの場合、極端にストレスのかかったSeverely Adverseシナリオと言うと、株価が大幅に下落し、金利、為替が急変動し、ボラティリティが急上昇するようなシナリオが想定されることが多い。しかし、このようなシナリオ下で本当に損失が出るのだろうか。特にマーケットメイクを主体とする証券会社では、リスクを一方向に傾けることは少なく、単にいつも株式や国債を抱えているわけではない。当然マーケットが急変すればヘッジ取引もする。通常オプションの買いポジションを持つことが多いオプショントレーダーなどは、市場変動が激しくなれば巨額の利益を出すことも多い。

デリバティブポジションのCCARの計算は、一定の基準日時点のポートフォリオをベースに行われる。通常10月とか11月に基準日が決められることが多いので、その基準日時点ではあまり大きなリスクを持ちたくないというインセンティブも働く。

そして、実際の取引に最も影響のあるのがカウンターパーティーデフォルトシナリオだろう。デリバティブポジションにレポや証券貸借のポジションを加え、最大の損失を発生させるカウンターパーティーの潜在的なデフォルト損失を報告しなければならない。この最大損失を発生させるカウンターパーティーは、ネッティング、担保を考慮した上で、基準日時点のマーケットショックを適用した場合の損失額によって決められる。

したがって、例えば10月18日に基準日が設定された場合は、10月18日にカウンターパーティーがデフォルトしたという前提で、10月18日のポジションにストレスをかけて損失額を計算する。当然一方向にポジションが偏ったカウンターパーティーが最大損失を発生させることが多く、生保などのリアルマネーやポジションの大きな銀行が入ってくる可能性が高い。一方向という意味では日本のカウンターパーティーが入る可能性もゼロとは言えない。

このシナリオは毎年変わる上、方向すら変わることがある。つまり、ある年は為替が円高方向に10%動くというシナリオだったものが、次の年には円安方向に20%動くというシナリオに変わることだってある。また、シナリオも金融機関で独自に設定するものもあるため、単にFRBのシナリオだけに対応すればよいという訳ではない。

したがって、金融危機時には円高になることが多いからと、円高時にエクスポージャーが大きくなるようなポジションを減らせばよいかというとそうでもなく、極力バランスの取れたポートフォリオを持っておく必要がある。おそらくアルケゴスのような偏ったポジションを持っている場合は、ここで最大のエクスポージャー先になる可能性が高く、その意味では、リスクの集中を避ける一つの規制上のツールということもできる。いくら有担保取引とは言え、あまりに偏ったポジションを一社に対して持つ抑止力になるということである。

ストレステストは単なる規制対策というよりは、このように日々のトレーディング業務に大きな影響を与え始めている。CCARを計算する専門部隊だけではなく、現場のトレーダーですら、CCARを気にしながら取引をする必要がある。