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STM(settled-to-marketとCTM( collateralised-to-market )

スワップの時価分である変動証拠金を担保としてみる方法をCTM、決済としてみる方法をSTMという。

通常スワップなどのデリバティブ取引は、日々値洗いされ、その勝ち負けが変動証拠金によってやり取りされる。つまり時価が変わるたびに担保を授受することによって、カウンターパーティーリスクが最小化される。これが一般的なマージンコールのやり方であり、CTMと呼ばれる。というよりは、STMが生まれる前はCTMという言葉が使われることもなく、極めて標準的な方法だった。

日々相手方のリスクを取らないようになっているという意味では、スワップの時価がゼロになるように調整しているのと経済的には同義になる。実際、スワップの時価が大きく変動した時にクーポンを変更して時価をゼロにするリクーポニングは以前から行われていた。通貨スワップの時価を四半期ごとにゼロにするNotional Resetも似たようなコンセプトに基づくものだ。

このようなスワップの場合、たとえそれが30年スワップだったとしても、満期が1日のスワップを行っているようなものであり、30年のリスクを取っているわけではない。つまり、日々証拠金をやり取りするスワップというのは、日々クーポンをリセットしてスワップの時価をゼロにしているのと同じことになるので、リスクに応じた所要資本も少なくて良いのではないかということである。

実務的にはCTMと全く変わらず、日々時価の変動分について担保授受をしているだけなのだが、会計的にその担保を担保ではなく、スワップの時価を調整するための決済として扱うのがSTMである。

オペレーション的にやっていることは何も変わらないが、30年スワップを1日のスワップとして扱うことが可能になり、所要資本が削減されるというマジックのようなものだ(厳密には、1日まで短縮することはできず、取引タイプごとにフロアが定めれらている)。

LCHやCMEなどの海外CCPで採用が始まり、日本のJSCCでも使われている。強制適用か選択制かはCCPによって異なる。適用対象も、CCPへの直接参加者のみか、クライアントクリアリングの顧客ポジションも含むかはCCPによって異なる。

レバレッジ比率を計算するときに、例えば30年金利スワップであれば掛け目は1.5%だが、STMにした瞬間にこれを短期に適用される0.5%にまで下げられる。実際は1年以下の0%を適用してもよさそうなものだが、フロアによって0.5%までの引き下げとなる。ここだけでもリスク量が1/3になるので相応の変化になる。2016年くらいには欧米の銀行各社がSTMの適用によって、かなりの資本削減を達成したことをアナウンスしていた。

最近では、LCHのSwapAgentでもこれが適用にできるようになるとか、相対取引でも適用できる可能性があるのではないかという議論も出ている。そしてこれがSA-CCR適用によってどうなるかといった議論も盛んに行われている。

最近も、OCC(米国通貨監督庁)が、SA-CCRのもとでは、CTMのポートフォリオとSTMのポートフォリオのネッティングを認めないというニュースが市場関係者を驚かせた。これまでバーゼルやFEDからのコメントから得られていた印象とは全く異なる立場を示したからだ。

クライアントクリアリングによって清算された取引は”Cleared Transaction”ではないという趣旨のコメントがあったようなのだが、極めて不思議なコメントである。CCPに顧客から拠出された当初証拠金の資本規制上の扱いにしても同様だが、一部の米国当局は、クリアリングの仕組みを本当に理解していないのかとさえ思えてしまう。

一方でCCPへの清算集中を義務付けておいて、いざ清算すると、それはリスクがあるので資本賦課が必要と言われると、何が何だかわからなくなる。米国当局間で意見が割れているのも混乱を増幅している。

資本コスト増から、顧客向けのクライアントクリアリングサービスから撤退する銀行が相次いだのは記憶に新しいが、サービスプロバイダーがあまりにも減ってしまうと、それが新たなシステミックリスクを作り出す。ここまで清算取引が増えてくると、参加者破綻時に、ポジションを他のディーラーに移すことも困難になり、金融ショックを引き起こしかねない。金融安定化にCCPが果たす役割が大きいのは十分証明されているので、CCPへの移行を促進させ、使い勝手を向上させることは金融の安定化には不可欠だと思う。