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CCPのCF/IM比率

参加者破綻によるシステミックリスクを避けるため、CCPは参加者から当初証拠金(IM)と清算基金の拠出を求める。清算基金は英語ではGuarantee FundまたはClearing Fundと呼ばれるものであり、参加者が皆でCCP破綻に備えて基金を積み立てておきましょうというものだ。

当初証拠金が増えれば必要証拠金が少なくなり、破綻者が自己責任で負担する部分が増えるので、モラルハザード防止につながる。参加者としては、自分が拠出する当初証拠金が少ない方が望ましいだろうが、その分相互負担分の清算基金が増え、他社が破綻した時の負担が増えてしまう。したがって、本来は各参加者とも、当初証拠金が高いと文句を言うよりは、全体的なリスク負担を考えたうえで、適切な当初証拠金と清算基金のバランスを保つ必要がある。

JSCCのホームページによると2021年6月末時点の清算基金は1,967億円、当初証拠金は11,007億円となっている。IMに占めるCFの割合は約18%ということになる。この比率はCCPの性質によって、また商品によっても変わってくる。CDSのようにテイルリスクが大きな商品になるとCFに頼らざるを得ない部分もあるので、CF/IM比率が高くなる。金利スワップの場合は10%前後が標準的ではないかと思われるのだが、円金利のように普段はほとんど動かないものの、突発的に急変する通貨の場合は若干高くなっても仕方ないのかもしれない。

なぜこのCF/IM比率が重要かというと、先述のモラルハザードの問題に加えて、クライアントクリアリングの手数料計算にも影響があるからである。IMは当然クライアントが自らの取るリスク量に応じて拠出する。しかし、通常クライアントは清算基金は拠出せず、クリアリングブローカーが出すことになる。

クリアリングブローカーとしては、クラインとのために追加資金拠出をしており、しかも他社破綻時にはそれが使われてしまう性質のものであるために、リスクとコストに見合ったリターンを求めるのが自然である。これがクリアリングブローカー契約の手数料に反映されてくるのだが、この手数料はそれほど頻繁に変更するわけにはいかない。したがって、例えばIMに対するCFの比率が18%程度と仮定して手数料水準を決めていた場合に、突然この比率が30%、40%と上昇してしまうと採算割れになってしまう。

これが変化するかどうかは当初証拠金モデル、清算基金モデルによって決まるのだが、マーケットが静かになって金利変動が少ない時期が長く続くと、ヒストリカルVaRが下がるため、当初証拠金が少なくなってしまうことが往々にしてある。これを避けるため、各CCPでは、当初証拠金や各種パラメーターにフロアを設けたり、過去の極端なストレスシナリオ、架空のシナリオ等を入れることによって、当初証拠金が大きく変化しないような仕組みを導入している。

最新のJSCCの当初証拠金はJSCCのホームページで開示されているが、想定元本に占めるIMの割合は、固定受けの30年で5.18%、固定払いで6.33%となっている。更なる金利低下より金利上昇幅の方が大きいというモデルになっているため、固定払いの方がIMが大きい。

JSCCでは過去5年間のヒストリカルデータに基づく、保有期間5日、信頼区間99%の期待ショートフォール方式を採っている。つまり損失分布上位1%の平均値が当初証拠金額となっており、これに直近の金利変動に重みをつけたり、過去の大きなストレスイベントを考慮したりして、若干の調整を行っている。クライアントのポジションに関しては、クローズアウトまでの日数がかかることから、保有期間を5日から7日に延ばすことにより、当初証拠金を増額している。

リーマン破綻時には、当初証拠金の約35%が費消され、清算基金に損失が食い込むことはなかった。しかし、その後韓国の取引所、NASDAQクリアリング等、清算基金が使われるデフォルトがいくつか発生し、このCF/IMのバランスについては、常に議論が行われている。モラルハザードを防ぎ、あくまでも自己責任原則を貫くためには、適切な当初証拠金の徴求が不可欠である。個々の参加者にとっては担保が増えるのは望ましくないのだが、全体を考えたバランスの取れた議論が必要だろう。

CCPベーシスとは

数年前からLCH/CME、LCH/JSCCのような清算集中機関であるCCPの間の金利差であるCCPベーシスについては、このブログでも何度も取り上げてきたが、ここでまとめておさらいしておく。

LCH/CMEベーシス

ドル金利スワップマーケットはディーラー中心のLCHとバイサイド中心のCMEに分かれていた。当初はCMEの方が当初証拠金(IM)が低く、先物と金利スワップのリスクオフセットを認めるクロスマージンが可能といった理由から投資家に選好されたが、このインバランスからLCHの金利とCMEの金利が異なるようになった。その裁定機会を捉えるため、バイサイドがLCHに参加したり、ディーラーがリスクの偏りを減らすためにSwaptionや清算集中規制対象外の取引を利用することによってその偏りを減らす努力がなされてきた。一部ベンダーもSwitch Tradeと称してCCPベーシス削減の提案を行っている。

バイサイドクライアントの参加率が高いCMEにおいては、クライアントは固定クーポンの社債のヘッジのため、固定払いの金利スワップを取引することが多い。つまりCMEで固定を払うため、ディーラーサイドはCMEからの固定受けが増える。ディーラー間でのヘッジはLCHで行われることが多いため、CMEから固定受け、LCHに固定払いのスワップが多くなる。この取引が溜まるとLCHとCME両方に当初証拠金の拠出が増え、担保拠出コストが高まる。これを解消するためにCMEでなら高いレートを払ってでも固定払いをしたいし、LCHなら低いレートでも受けたくなる。そして、CMEの金利がLCH金利より高くなり、CCPベーシスが生まれる。

これが拡大するにはいくつかの要因があるが、CMEでの受けニーズ、LCHでの払いニーズの拡大の他、ディーラーのファンディングコストの上昇、CCPのマージンの変化なども影響する。

2020年、LCHのクライアント向け当初証拠金の変更があったが、同時期にCCPベーシスが縮小したことがある。米国の場合は顧客もLCHでクリアできるので、もしかしたら、このIM増加を受けて、一部のクライアントがCMEにシフトさせたことがCCPベーシスに影響を及ぼしたのではと言われた。

LCH-JSCCベーシス

同様のベーシスは日本円についても起きている。日本においては邦銀のALMの受けが多い。したがって、必然的にJSCCに対する払いが多くなり、そのヘッジとしてLCHからの受けが多くなる。そして、日本特有の問題として、日本の市場参加者がLCHで円スワップを清算できず、米国の参加者がJSCCに参加できないという制約が加わる。

LCH-CMEベーシスと同様、このポジションが溜まってくると当初証拠金が増えるので、JSCCに対して払いたくない、LCHから受けたくないというインセンティブが働く。そしてJSCCへの払いにチャージをかけるトレーダーが増え、本来より低い金利でクォートされる。そしてJSCCの金利が低下し、LCHの金利が上がる。そして2018年1月頃にLCH-JSCCベーシスが急上昇した。その後は、CFTCから米国顧客がJSCCに参加するのを許容するような発言が出るたびにベーシスが縮小した。また、米国以外のヘッジファンド等がJSCCにクライアントクリアリングを通じて参加し始めたのも大きい。

ただしLCH-JSCCベーシスの場合は、必ずしも国内の受け手が多いから動くのではなく、海外投資家が大きな取引をする際にLCHサイドの金利が動いてベーシスが変動することも多いように思う。近年は、一時のようなアンバランスが少なくなり、ベーシスはゼロ近辺で落ち着いている。

米国顧客のJSCC参加については、2020年に一旦見送られた形なったが、その後もCFTCは前向きな発言を続けている。以下の二つの方法のうち、JSCCの場合は米国への影響が限定的という条件のもと②を適用しようというものだ。

①代替的コンプライアンスを利用したDCO登録:米国DCO登録は行うが、自国規制に従いつつ、米国FCMを通して米国人にクリアリングサービスを提供

②Exempt DCO:DCO登録をせずに、米国FCMではなく、国内のディーラーを通じて、自国の規制のもとで米国人にクリアリングサービスを提供

CCPベーシスが完全に消滅するとは思えないが、昨今の流れを見ていると2018年1月のようにベーシスが10bpを超えて拡大するようなことは起きにくくなるだろう。ベンダーが提供し始めた当初証拠金最適化サービスもベーシスの縮小に寄与するかもしれない。市場の流動性向上のためには、こうしたベーシスによる市場分断は極力存在しない方が望ましいので、昨今の動きは大いに歓迎したい。

XVA Deskの役割ーCS/アルケゴスの教訓から

CSのレポートで、アルケゴス関連損失から学んだ教訓として、XVAについての言及が複数見られた。まずは、以下の部分に注目すると、RWAを減らすヘッジ取引を行うためにチャージをしているとある。これはKVAをチャージしているということを意味している。VMとIMを徴求しているのでCVAは少ないだろうが、資本コストを取引に乗せているということである。

We note that CS’s XVA group charges the businesses to hedge risk to counterparties in order to reduce the business’s RWA.

次に以下のコメントを見ていくと、CSはアルケゴスを参照するCDSを買っていたようだ。

CS also had an XVA group—a hybrid market and credit risk function that had purchased credit protection on Archegos (as well as a large number of other derivatives counterparties)—but its remit was limited.

そして、以下のように、2017年以降、KVAが四半期ごとにレビューされ、ヘッジされていたとある。

These hedges are put on and reviewed quarterly, and Archegos was part of this hedging exercise since 2017.

しかし、RWAヘッジのためのCDSは一銘柄約$20mmだったとある。2つのプログラムで$43mmのヘッジとなっている。

However, there was a limit (generally around $20 million) on the amount of credit default protection for any single counterparty involved in any one hedging program. During the relevant period, XVA had put in place hedges related to Archegos in two different hedging programs for a total of approximately $43 million in notional value.

つまり、変動証拠金と一定程度の当初証拠金を取っていたため、CVAの観点からはチャージをする必要がなかったが、RWAが膨らんだため、取引コストをチャージした上で、何らかの形でCDSを買ったようだ。アルケゴス社のCDSが市場でActiveに取引されていたとは思えないが、おそらく別の市場参加者と何らかのカスタマイズされたProtectionを組成したのだろう。

そしてこのヘッジコストを賄うため、取引価格に一定のチャージをしていたと思われるが、通常このようなチャージをすれば、プライスが悪いと文句を言われる可能性が高い。それでも最終的にCSに取引が集中していたということは、他社も同じようなチャージを掛けていたか、あまりにもCSの求める担保が少なかったため、ある程度のプライスの悪さには目を瞑ったということなのだろう。

XVAトレーダーの感覚からすると、通常チャージを増やしても取引が行われるというのは一つの危険信号である。そして相手の破綻確率を上げてチャージを徐々に増やしてみると、何となく他社対比のリスクがつかめる。このチャージからMarket Impliedのデフォルト確率を逆算することもできる。いずれにしても、従来の審査部、フロントリスクによる2線管理よりは、XVAデスクのスキルを利用すれば、更に危険信号を早めにキャッチすることが可能になる。

これに関しては、CSの調査委員会は以下のようにまとめており、XVAデスクの機能拡充と更なる関与が求められている。

Given the counterparty management expertise in CS’s existing XVA group, CS should increase the role that function plays to improve CS’s overall counterparty risk management.

各銀行ともこのCSのレポートを分析して、自分の組織に活かせないか詳細なレビューをしているものと思われる。おそらく今後のカウンターパーティーリスク管理においてはXVAデスクの役割が強調されていくことになるだろう。

アルケゴス破綻に学ぶリスク管理

Static Margin(固定された当初証拠金)

通常プライムブローカー顧客とは、リスク、ボラティリティ、集中リスク等を加味して柔軟に当初証拠金を変動させるDynamic Marginingが行われるのが一般的だが、Archegosに対しては、想定元本の20%のように、取引開始時に決められた固定金額を使っていた。OTCデリバティブでは、このような当初証拠金の設定方法はそれほど珍しい訳ではない。証拠金規制上はEquity Swapに関しては15%のマージンが標準となっているが、これもある意味Staticである。SIMMはある程度Dynamicと言えるが、現物株と一緒に担保管理をするプライムブローカーリスクには向かない。

2019年までは、デリバティブが中心と思われるSwap中心のPrime Financing Portfolioに対して15-25%、現物株中心のPrime Brokerage Portfilioに対しては15-18%の当初証拠金を取っていたということなので、極端に担保が少ないという訳ではなかった。ここでArchegosから、他の銀行は少ない担保で現物とデリバのオフセットを認めていると主張され7.5%への引き下げを認めてしまった。こうなるとStatic Marginは妥当ではないので、その段階でDynamic Marginに変えるべきだったのだろう。個人的にも経験があるが、ヘッジファンドというのは往々にして一つの銀行のマージン引き下げに成功すると、それを突破口にすべての担保を引き下げにくる。また、実際に引き下げていない段階でも、他社はもっと担保が少ないと虚偽の申告をするところすらある。

往々にしてこういう時は、後発組だったり、立場の弱い銀行が条件緩和に応じてしまい、Race to Bottomと言われる現象が起きる。一定の水準を超えた時にはこのマージンを引き上げる権利を契約上入れたとのことだが、顧客関係を考慮しがちなので、こうした契約は意味がない。逆にいつでもマージンの引き上げができるから安心といって、条件緩和を受け入れてしまう危険性があるので、実効性のないセーフティーネットは百害あって一利なしだと思う。そして所要担保の少ないCSにデリバティブ取引が集中してしまった。現物とヘッジがオフセットしなくなる時期でも、当初証拠金の水準が見直されることはなかった。Archegosサイドにも再三ミーティングを依頼してはいたようだが、いつも直前でキャンセルされたとある。いかにもありがちと言った感じだ。

与信枠問題

PEリミットやストレスロスリミットを超えていたにも拘らず、それに対処せず、リミットを上げ続けたのも大きな失敗だ。PEリミットが$2mmから$8mm、そして$20mmと上げられたが、2020年8月にはPEが$530mmになったと書かれており、こうなるともうリミットの意味はない。2021年1月に内部格付をBB-からB+に下げたにもかかわらず、PEリミットが$50mmに増やされている。2021年は年間$40mm程度の収益が見込まれたということなので、収益と顧客関係を重視してしすぎてしまったのだろうか。

ストレスエクスポージャーも$250mmの枠に対して、2020年7月には$828mmになったというから驚きだ。2021年1月の格下げ後にはこちらもなぜか$500mmにリミットが増えている。しかしストレスエクスポージャーが週に一回しか更新されないというのもお粗末だ。

ArchegosもオフセットするIndex Shortを加えたとあるが、ここまで少数の個別株をスーパーロングにして、QQQなどのETFをショートするのが完全にオフセットとは言えない。しかも2年スワップで7.5%の当初証拠金で新規取引を続けている。

通常ここまでの枠超過が許容されることはないはずだが、なるほどと思ったのがPEモデルの変更である。モデルが変更されPEが多めに出るため、信ぴょう性がないということでリミット超過が許容されてしまった。複雑なモデルを開発するのは良いが、それが簡単に説明できないと数字自体が信頼できなくなる。このような環境下では、リミット超過が許容されやすくなるので、直ちにモデルの改善が必要である。また複雑すぎて説明ができないモデルよりは、単純明快なモデルの方がリスク管理には適していると思う。

リスク管理の役割分担

現在のリスク管理はFirst Line of Difenceから始まりSecond、Thirdと階層を分けるが一般的になっている。まずはフロントのFirst Line、そして審査部、市場リスク管理部というSecond Lineがあるが、First Lineが最も難しい(ちなみにThird Lineは監査部門)。First Lineはフロントに位置しているので顧客ポジションをリアルタイムに把握でき、トレーディングにも近いので、経験のあるリスクマネージャーが担当すればかなりの効果を発揮する。

カウンターパーティーリスクについてはXVAデスクが管理をすることが多い。今回のようにセールスヘッドがRisk Headになるというのは極端な例だが、本当にリスクマネージャーにふさわしい人材がFirst Lineを担当しているかは疑わしいケースが散見される。ある程度シニアでなければならないし、リスクのみならず契約、資本規制、ポジション清算、担保管理などに精通していなければならない。やはり一番この分野で専門性を持っているのはCSのレポートにもあるようにXVAなのだろう。ちなみにXVAデスクは$43mmのヘッジ取引を行っていたようである。全体の損失に比べれば微々たるヘッジ効果しかなかったが、一応有担保取引ではありながらリスクは認識してヘッジ取引を行っていたようである。

さすがにここまでポジションが大きくなってくると、当然資本賦課にも跳ね返ってくる。ただし、RWA削減のためにポジションを減らすより、Entityの付け替えによってその場を凌いだのみであった。XVAデスクがKVAも含めてチャージをしていれば、もう少しリスクを抑えられたのではないだろうか。セールスも取引を抑えると言われれば抵抗するが、リスクが大きく資本コストがかかるので、チャージが必要と言われれば、断りにくくなる。

リスク文化

収益重視の文化というのはいつの時代でも問題になる。今回もPSRと言われるフロントのリスク部門は収益重視のあおりを受けて人員削減を余儀なくされており、経験のないリスク管理者ばかりとなっていた。そして、一部のシニアマネジメントがダブルハットといって複数の業務を掛け持ちしており、とてもリスク管理に集中できる環境にはなかったようだ。

やはりリスク感覚を持ったに人間がフロントのシニアなポジションにいるのは重要である。特に組織の上に行くのは、トレーディングで名を上げた人やセールスだったりする。外資系ではリスクの人がフロントのトップになることは少ない。トレーダーがトップになる場合はまだリスク感覚があるが、セールスが組織のヘッドになる場合は顧客関係を重視しがちになる。最近ではフロントにリスク部門を置くことが多いが、時節柄リーガルリスクがメインになることが多く、法的リスクにフォーカスが充てられていることが多い。フロントにリスク文化を根付かせるのは極めて重要であり、XVAデスクの役割も大きい。

Compliance Risk

レポートの中にはArchegosが過去に当局から制裁を受けていた点も詳述しているが、このリスクに対してはどこまでチェックをすべきだったのかは正直疑問である。過去に疑わしい取引をしたのは確かにRed Flagだが、一度問題があったら一生終わりというのも難しいし、結局数多くのディーラーとも取引を継続していた。当然一定の精査は必要だが、結局はそのリスクをどう管理するかが重要で、本件の場合は、ポジション集中に応じてきちんと担保を取っていくプロセスだったと思う。

STM(settled-to-marketとCTM( collateralised-to-market )

スワップの時価分である変動証拠金を担保としてみる方法をCTM、決済としてみる方法をSTMという。

通常スワップなどのデリバティブ取引は、日々値洗いされ、その勝ち負けが変動証拠金によってやり取りされる。つまり時価が変わるたびに担保を授受することによって、カウンターパーティーリスクが最小化される。これが一般的なマージンコールのやり方であり、CTMと呼ばれる。というよりは、STMが生まれる前はCTMという言葉が使われることもなく、極めて標準的な方法だった。

日々相手方のリスクを取らないようになっているという意味では、スワップの時価がゼロになるように調整しているのと経済的には同義になる。実際、スワップの時価が大きく変動した時にクーポンを変更して時価をゼロにするリクーポニングは以前から行われていた。通貨スワップの時価を四半期ごとにゼロにするNotional Resetも似たようなコンセプトに基づくものだ。

このようなスワップの場合、たとえそれが30年スワップだったとしても、満期が1日のスワップを行っているようなものであり、30年のリスクを取っているわけではない。つまり、日々証拠金をやり取りするスワップというのは、日々クーポンをリセットしてスワップの時価をゼロにしているのと同じことになるので、リスクに応じた所要資本も少なくて良いのではないかということである。

実務的にはCTMと全く変わらず、日々時価の変動分について担保授受をしているだけなのだが、会計的にその担保を担保ではなく、スワップの時価を調整するための決済として扱うのがSTMである。

オペレーション的にやっていることは何も変わらないが、30年スワップを1日のスワップとして扱うことが可能になり、所要資本が削減されるというマジックのようなものだ(厳密には、1日まで短縮することはできず、取引タイプごとにフロアが定めれらている)。

LCHやCMEなどの海外CCPで採用が始まり、日本のJSCCでも使われている。強制適用か選択制かはCCPによって異なる。適用対象も、CCPへの直接参加者のみか、クライアントクリアリングの顧客ポジションも含むかはCCPによって異なる。

レバレッジ比率を計算するときに、例えば30年金利スワップであれば掛け目は1.5%だが、STMにした瞬間にこれを短期に適用される0.5%にまで下げられる。実際は1年以下の0%を適用してもよさそうなものだが、フロアによって0.5%までの引き下げとなる。ここだけでもリスク量が1/3になるので相応の変化になる。2016年くらいには欧米の銀行各社がSTMの適用によって、かなりの資本削減を達成したことをアナウンスしていた。

最近では、LCHのSwapAgentでもこれが適用にできるようになるとか、相対取引でも適用できる可能性があるのではないかという議論も出ている。そしてこれがSA-CCR適用によってどうなるかといった議論も盛んに行われている。

最近も、OCC(米国通貨監督庁)が、SA-CCRのもとでは、CTMのポートフォリオとSTMのポートフォリオのネッティングを認めないというニュースが市場関係者を驚かせた。これまでバーゼルやFEDからのコメントから得られていた印象とは全く異なる立場を示したからだ。

クライアントクリアリングによって清算された取引は”Cleared Transaction”ではないという趣旨のコメントがあったようなのだが、極めて不思議なコメントである。CCPに顧客から拠出された当初証拠金の資本規制上の扱いにしても同様だが、一部の米国当局は、クリアリングの仕組みを本当に理解していないのかとさえ思えてしまう。

一方でCCPへの清算集中を義務付けておいて、いざ清算すると、それはリスクがあるので資本賦課が必要と言われると、何が何だかわからなくなる。米国当局間で意見が割れているのも混乱を増幅している。

資本コスト増から、顧客向けのクライアントクリアリングサービスから撤退する銀行が相次いだのは記憶に新しいが、サービスプロバイダーがあまりにも減ってしまうと、それが新たなシステミックリスクを作り出す。ここまで清算取引が増えてくると、参加者破綻時に、ポジションを他のディーラーに移すことも困難になり、金融ショックを引き起こしかねない。金融安定化にCCPが果たす役割が大きいのは十分証明されているので、CCPへの移行を促進させ、使い勝手を向上させることは金融の安定化には不可欠だと思う。

デリバティブ取引の当初証拠金計算にはSIMMと標準法のどちらを使うべきか

2022年9月に延期されたIMビックバンまで後2年を切った。これによって、当初証拠金の拠出義務が、地銀や生保などに広がることになる。大手行を対象にした2016年9月のフェーズ1から毎年適用会社が拡大されてきたが、これがコロナによって延期され、2021年9月にデリバティブ想定元本残高80億ユーロ超のフェーズ5、2022年9月に80億ユーロ超のフェーズ6が予定されている。これを受けて以前あった標準法かSIMMかということが話題になっているようだ。

標準法はグリッド方式とも呼ばれ、想定元本に以下のような一定の掛け目をかけた簡便法で、誰でも簡単に導入できる。

この簡単さが受けるのか、デリバティブのエンドユーザーが最初に考えるのは、システムやモデル開発等は面倒だからこれを使ってしまおうという方法のようだ。ただし、売り買い双方の取引があるときそれを相殺させることが「完全には」できないので、計算される金額は多くなる。完全にはと言ったのは、以下のようなNGRによって最大6割オフセットまでは可能だからだ。

ここで計算された当初証拠金額は自分が拠出する担保額というよりは相手方に徴求する金額なので、自分のコストにはならないと思う人もいるかもしれないが、実際は相手方の銀行やディーラーがその担保拠出コストを織り込んでプライシングしてくるため、自分の取引コストが高くなることに注意が必要である。標準法を使っているというだけで敬遠されてしまう可能性も否定できない。

そうなると、ほとんどの市場参加者はISDAのSIMMを使うことになる。ISDAのペーパーを見ると難しそうに思えるかもしれないが、この計算はそれほど難しくない。結局は2週間99%のVaRを計算するようなものだ。相手方も同じ考え方を用いているので、毎日答え合わせもできる。

プロシクリカリティに注意するため、2週間VaRは2008年などのストレス期間を含めての計算になるだろうから、例えば10年金利で20bpくらいの金利の動きとする。10年なので10をかけてだいたい2%くらいが当初証拠金となる。先ほどの標準法の掛け目だと4%だからやはりSIMMの方が低くなる。イールドカーブコントロールで10年の変動が抑えられているということもあるだろうが、一方これが30年金利になるとSIMMの方が高くなるだろう(5年超をすべて同じ掛け目にしているのもどうかとは思うが)。

資本計算のカレントエクスポージャー方式が簡便にリスクを表す指標として使われたためか、日本ではグリッド志向が強いような気がする。取引先リスクのリミットを決める時も想定元本に掛け目をかけて決めているところもあるのではないだろうか。SIMMの導入を良い機会ととらえて、モデルによって簡単なリスク量把握ができるような環境ができると金融の発展につながるかもしれない。

デリバティブ取引の当初証拠金とは

証拠金規制で一躍有名になった当初証拠金(Initial Margin、IM)だが、これはOTCデリバティブの世界では昔からISDAの用語に従って、独立担保額(Independent Amount、IA)と呼ばれており、ヘッジファンド等との取引では一般的に使われてきた方法である。

通常デリバティブ取引で勝ちポジションがあるときに相手方が破綻すると、その勝ち分が返ってこないので、その分の担保をもらっておく。これが変動証拠金(Variation Margin、VM)である。

しかし破綻した瞬間からポジションクローズまでに、為替が動いたりして勝ちポジションが大きくなると、その分は取り返せない。この部分のリスクをカバーするのが当初証拠金である。

以前からこの金額の計算方法には様々なやり方があったが、最近は2週間99%のVaR(または期待ショートフォール)に収斂してきているように思う。通常ISDAの下でデフォルトが起きると、普通に催促した後にPotential Event of Defaultの通知を出し、一定の猶予期間を経てようやくEvent of Default通知が出せ、最終的にクローズアウトに至る。

この期間はISDAのバージョンや相対で定めた条項によって異なるが、概ね2週間あれば十分だというのが一般的な考え方である。マージンコールが日次ではなく一週間に一回だったり、担保の受け渡し期限が翌日ではなく3日後だったりすると、その分の調整が必要になる。リスク計算や資本計算も本来はこれらの日数を加味して計算するのが望ましい。

日本では、証拠金規制導入前は日次のマージンコールに抵抗感を持つ市場参加者がいたり、担保の受渡しに3日欲しいというところが多く、決済期間の長さがグローバルでは問題になることが多かった。

昨今ではJGBの決済期間短縮化も進み、以前のように3日必要という人も少なくなり、翌日決済の割合が増えつつある。とは言え、送金に時間のかかる日本のシステムは、いつも海外から不思議に思われる。

実際は可能なのだが、期限に違反するのを恐れるために、極力長めに期間を取っておきたいという文化的な要素と、システムで対応するよりは人海戦術で対応する方がコスト安という要素もあるのかもしれない。また、契約上決められた支払いなのに、上席の承認がいるなどということもあるやに聞く。

この期間は、クローズアウトまでの期間が短い取引所取引や、CCPにおける取引では、2週間が2日とか1週間に短縮化される。即時決済が進めば、本来はIMの金額を減らすことも可能になるのではないかと思っている。

特にこのIMは、通貨スワップ、オプション取引、CDS等、まともにVaRを計算すると想定元本の半分近くになってしまうこともあり、円滑な取引の妨げになっている。このIMのファンディングコストをプライシングに入れるMVAの登場もあり、デリバティブがコスト高になる一因になっている。

将来的には決済期間の即時化、短縮化等によってIMの水準を落とせるよう、技術革新が起きることが期待される。