米国では、1980年代くらいに、各銀行がシェア拡大を重視したため、その後のデフォルト損失が拡大した。この頃から伝統的な与信枠管理に加えて、リスク分散とヘッジに注目が集まり、ポートフォリオのリスク管理、信用リスクの移転が始まった。
期待損失と最大損失
そこで期待損失と最大損失を分けて管理するようになり、期待損失はできるだけヘッジし、最大損失は資本で賄うという考え方が一般的になった。デリバティブ取引でいうと、期待損失はCVA部分にあたるので、それは日々ヘッジを行い、最大損失は与信枠で管理をするようになった。ローンで言うと期待損失は引当金で賄い、最大損失は与信枠での管理ということになる。
デリバティブ取引のエクスポージャーは、通常VaRなどのシミュレーションにより将来の損失額を見積もるが、与信枠はPFE(Potential Future Exposure)でCVAは期待損失を使う。つまり同じシミュレーションで枠管理とCVA計算の双方ができることになる。会社によってはPFE計算とCVA計算を分けているところもある。同時に同じシミュレーションを使って資本計算もできる。
日本では、デリバティブ取引の与信枠管理というと、想定元本に何らかの掛け目を掛けて計算していたり、資本計算等に使うCEM(カレントエクスポージャー方式)によって枠を決めているところもある。ただし、これだとネッティングや相関を正しく信用判断に織り込むことが難しい。
能動的ポートフォリオ管理
当初は、業種や格付などの分類に従って、ポートフォリオをモニタリングし、必要あればそのエクスポージャーにリミットを設けてリスク集中を避けるというものであった。
しかし、CDSの登場やLoan Participationによってクレジットマーケットの流動性が高まったことにより、信用リスクの移転が可能になった。海外ではローンの売買も活発に行われるようになっていった。
古くは、一度ローンを出してしまったら、最後まで付き合わなければならないため、厳密に財務分析を行い、コベナンツ、担保等による信用保全を行い、常にモニタリングをするのが一般的だった。
今では、信用リスクの一部を証券化によって移転したり、CDSによってヘッジをしたり、債権の売買を行うことによって能動的にリスク管理をすることが可能になっている。低金利から、こうした一部のリスクを取りたいというファンドも現れ、リスクマネーの担い手も増えてきた。
デリバティブ取引の場合だとNovationによってカウンターパーティーを変更するのは日常茶飯事であり、CCPで清算すれば相手先のリスクからは解放される。CCPで清算しなくても、証拠金規制により当初証拠金まで取るようになれば、カウンターパーティーリスクは極限まで軽減される。
こうして相手方の信用リスクからは解放されるようになり、証券会社においては審査部の担当者数が少なくなり、信用リスク分析の中心は、ローンなどの信用リスクのオリジネーションをするところと、クレジット投資を行う部門へと移っていった。また、信用リスクよりは流動性リスクやオペレーションリスクなどの別のリスクの重要性が増したため、こうした部門への配置転換が行われている。規制により資本賦課が高まったため、資本の最適化を行う部門やヘッジを行うXVAデスク等への人員シフトも起きている。ヘッジを行うことによってエコノミックキャピタルの削減も可能になったので、こうした部門の重要性はますます高まっている。
従来型の信用リスク管理においては、取引先の財務状況に目を配ることがメインの業務だったが、今では、どういったリスクがどれくらいの価格で移転されているのか、CDSのスプレッドがどう動いているかというマーケットのセンスが要求されるようになってきた。そして、既存ポートフォリオやヘッジから生じる資本賦課を意識しながら管理をしていかなければならないため、資本規制や流動性規制などにも通じている必要が出てきたのである。