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TLAC(総損失吸収力 Total Loss Absorbing Capacity)とは

TLACはTotal Loss-Absorbing Capacityの略で、銀行デフォルト時の損失をカバーするための原資の合計という意味合いがある。最近は細かい説明がWebにもかなり上がっているので、別の観点から話を進める。

銀行が破綻すると預けた預金が返ってこなくなり影響が大きいので、何とか銀行だけは存続させて、国民の税金を使わない形で、経済に支障がないようにしようと言うのが趣旨である。

このために持株会社の下に傘下の銀行を置いて、何かあったら持株会社をつぶしても銀行を存続させるという仕組みになっている。国によっても若干制度が違うが、一般的にTLAC債が持株会社から発行されることが多いのはこれが理由で、持株会社が発行した社債を持っている人が損をしても、傘下の銀行の預金や債券は守られることになる。

そうなると、当然〇〇ホールディングスという持株会社が発行した社債の方が、〇〇銀行の社債よりもリスクが高いことになる。したがって、持株会社の方が格付も低いし、社債のクーポンも高くなる。したがって、社債投資を行う際は、どの銀行の社債かということのほかに、どこのエンティティが発行しているか、またその発行した国の法制では、どの順番で債務が毀損していくのかを分析する必要がある。

ただし、いくら分析したといっても、本当に大型破綻が起きる段になると、政治的に社債権者が損をするベイルインができるかは定かではない。海外では、個人投資家の債券だけは守るとか、その場になってから想定もしていなかった処理がなされるという事例もあった。

元英国中銀副総裁のポールタッカー氏が述べていたように、社債投資家は銀行の破綻リスクを織り込んでおらず、未だに救済されると思っている人が多いように思う。感染拡大を受けてここまで資金投入が増えているため、銀行も救済されるという連想が働いてしまっているのかもしれない。

おそらく投資家のうち25%程度しか本当のTLACの意味を分かっていないというコメントをした人もいたが、実際にベイルインのプロセスはその場になってみないと確定しないことも多く、そのリスクを正しく見積もるのは極めて困難である。現に、イタリアやドイツの銀行が救済される例が散見されており、ベイルインの可能性を低く見積もる投資家が増えたとしても不思議ではない。

劣後債のようにある程度リスクが見積もれ、スプレッド差についても何らかの感覚がある場合は良いが、これがTLAC債になると、あらゆる角度からの分析を加えないと、それが本当に割安なのか割高なのかはよく分からないのではないかと思う。