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カウンターパーティーリスクとは

カウンターパーティーリスクとは何なのか、信用リスクとの違いは何なのかと聞かれることが良くある。カウンターパーティーリスクとは、デリバティブの取引相手が契約満期前に金融債務に対してデフォルトを起こし、契約上定められた支払が行われないリスクのことである。

カウンターパーティーとは取引相手ということなので、簡単に言うと取引先の破綻リスクということになるのが、それでは融資先が破綻した場合はカウンターパーティーリスクというのだろうか。

銀行員としての経験からすると、融資先のリスクをカウンターパーティーリスクと呼んだ記憶ははく、これは単なる融資先の信用リスクである。社債のトレーディングをした経験からすると、社債発行体のリスクをカウンターパーティーリスクと呼んだ記憶はなく、これも単なる発行体の信用リスクである。というより、以前はカウンターパーティーリスクという言葉自体が使われなかったのだろう。

これが一般的になったのは、やはりCDSの影響が大きい。例えば、トヨタのCDSを売るとトヨタの信用リスクを持つことになるが、トヨタのCDSを銀行から買うと、この銀行のデフォルト時に損失が出るので、銀行に対するリスクも持つことになる。これを信用リスクというのもしっくりこなかったので、カウンターパーティーリスクという言葉を使い始めた。そしてCVAトレーダーになってこのリスクをヘッジするようになると、リーマン破綻もあり、急速にカウンターパーティーリスクという言葉が一般的になった。

ローンや社債に対する信用リスクをヘッジするためにCDSを銀行から買うと、銀行に対するカウンターパーティーリスクが発生するので、これをヘッジするのがCVAデスクの役割であった。

伝統的な銀行業務においては、信用リスクは、取引先がデフォルトしてはじめて実現するものとして管理されてきた。一方カウンターパーティーリスクは、取引先が格下げされたり、信用力が悪化すると、CVAを通じて損失が発生するので、デフォルトしなくても実現するリスクである。

厳密にいうと、ローンの場合も、要管理先、破綻懸念先といった分類に区分された段階で引当金を積み増したので、損失がその時点で(あるいは決算時点で)発生した。しかし、デリバティブのカウンターパーティーリスクは、取引先の信用力のみならず、金利や為替の変動によっても増減する。極端な話、取引先が格上げされたにもかかわらず、急激な円高によって通貨スワップの含み益が増えれば、カウンターパーティーリスクが逆に増えるということもある。

また、引当金が決算期に積み増すものであるのに対し、CVA損益は日々変動する。したがって、ヘッジも日々行っていく必要がある。

稀に誤解される点ではあるが、カウンターパーティーリスクは自社が勝ちポジション、つまり含み益をもっているときに発生する。トレーダーの観点からみると、取引時価がプラスになり、勝ちポジションがふえていくことは望ましいことかもしれないが、カウンターパーティーリスクを管理する立場からみると、これはリスクが増えるので望ましくない。カウンターパーティーが破綻すればその勝ちポジションが消えてしまうからだ。

したがって、金利スワップを行ったとき、金利のトレーダーのヘッジとCVAトレーダーのヘッジとは逆方向になる。CVAトレーダーのヘッジを含めて考えると、10億円の金利スワップを行う場合、マーケットに出てヘッジしなければならないのは、10億円ではなく9億5千万円だったりする。

一方負けポジションを抱えているときにカウンターパーティーがデフォルトしても損失は発生しない。したがって、カウンターパーティーリスクの観点からみると、自社がデリバティブ取引から収益を出しているときがリスクであり、損失を抱えているときにはリスクがないのである。ローンの場合は銀行がいつも信用リスクの抱える側になるが、デリバティブ取引の場合は、取引相手が自分のリスクを持つことがあるのもカウンターパーティーリスクの特徴の一つである。ローンの信用リスクは一方向であるのに対し、デリバティブ取引のカウンターパーティーリスクは双方向性を持っているのである。

社債やCDSの取引時には、暗黙のうちに信用リスクが価格に織り込まれている。しかし、金利スワップの場合も、金利の交換と同時にカウンターパーティーの信用リスクを取引している。社債の発行体に信用不安が起これば社債価格が暴落し、CDSの時価が大きく変化するのと同様に、スワップカウンターパーティーの信用力が悪化すれば、スワップの価値も減価するのは当然のことである。

CDSを例に考えると、ある証券会社からプロテクションを買った場合、参照企業のデフォルト時に、その証券会社もデフォルトしていれば、プロテクションは無価値になってしまう。したがって、AAA格の銀行から購入したCDSは、B格の銀行から購入したCDSよりも価値が高い。この場合のカウンターパーティーリスクのプライシングは、参照企業とプロテクションの売手の信用リスクの相関を考慮して行うことになる。

たとえば、自分がある証券会社とスワップ取引を行うということは、その証券会社にデフォルトするオプションを与えている、つまりスワップの時価を元本としたクレジットプロテクションを売っているのと同じと解釈することもできる。同時に自分がデフォルトするオプションも買っているともいえる。

したがって、厳密な意味ではプレーンバニラスワップというものは存在せず、理論的にはすべてのスワップがデフォルトオプション付のスワップといえる。特に信用力に劣るカウンターパーティーとの取引においては、カウンターパーティーリスクの時価は取引のビッドオファーを大きく上回る。こうした取引は単なるスワップではなく、信用リスクを内包したクレジットハイブリッド商品ともいえる。

スワップのノベーションはどのように行われるか

通常ヘッジファンドや海外の年金ファンド等は、いくつかの金融機関と取引を行うが、取引解約時にはNovationが行われることが多い。デリバティブの世界のNovationは簡単に言うとカウンターパーティーの交替である。自分の契約をだれか別の人に譲渡するということだが、結局その際に取引相手が変わることになるからだ。

日本ではこうしたファンドは少ないのだが、世界のデリバティブ市場においては、全体の取引量のかなりの部分はヘッジファンドやアセマネがマネージするファンド経由になっており、流動性に大きな影響を与えている。本気でスワップをやろうというのならこうしたファンドとの取引は避けて通ることはできない。これは円スワップでも同様である。

取引頻度が多いため、ノベーションやアロケーション、担保決済、電子取引、取引報告等の事務が煩雑になり、それをサポートするシステムやオペレーションフローが必要になる。こうしたシステムやオペレーションがネックになっているのか、言語の問題なのかよくわからないが、ファンドとの取引先は外資系がメインになっている気がする。

通常ファンドは複数の銀行にクォートを求めるので、複数の金融機関と取引をすることが多い。例えば以下のようにA、B、C、Dとそれぞれ1、2、3、4件のスワップを持っている例を想定する。

この場合、真ん中のヘッジファンド(HF)が利益確定のため全部の取引を解約しようとした場合、AからDの各銀行にそれぞれの取引解約を依頼するようなことはせず、すべての取引を示した上で全部を引き受けてくれる銀行を探すことになる。ここでAが提示したすべてのパッケージのプライスが良くコンペに勝ったとすると、ノベーションが行われ、以下のような関係に変わる。AはHFとの取引一つを解約し、残りの取引はHFが抜ける形(Step out)になる。例えばBから見るとカウンターパーティーがHFからAに変わったという形だ。HFがStep out、AがStep inし、BがRemaining Partyとなる。

レバレッジ比率規制や証拠金規制やOISディスカウントがなかった頃は簡単で、こうしたノベーションが即座に行われていた。現在では、AにとってはB、C、Dと取引を持つことになるため、レバレッジ比率の計算に入れなければならなくなり、証拠金規制対象のファンドであれば証拠金が増えるかどうかのチェックもしなければならない。また、ディスカウントの差などをチェックするために、それぞれとの担保契約(CSA)の確認も必要である。金融危機直後は、こうしたチェックのために回答が遅れてトラブルになることもあったかもしれないが、最近は理解が進んでいるようである。

ただし、CCPによる清算集中が進んでからはこれが楽になった。こうした手間を省くため、清算集中規制の対象になっていないヘッジファンドサイドも自主的にクリアリングをするようになっている。CCPを通じたフローの場合、ノベーションが行われた後すぐにCCPで清算されるため、当初の図のHFがCCPに変わったような形になる。

そしてこの後、ABCDそれぞれがCCPに持っている他のポジションと合わせてコンプレッションが行われ、これらポジションが削減されていくため、レバレッジ比率への影響も少なくなり、ポジションが極端に偏らない限りCCPに対する当初証拠金への影響も軽微となる。ディスカウントはCCPがしてする標準的なディスカウントになる。

CCPでの清算ができな通貨スワップやスワップションについては引き続き従来の問題は残るが、取引の大部分を占めるスワップについては、かなりフローが確立してきた。

ヘッジファンドというと何か日本ではハゲタカ的なイメージがあるが、こうしたファンド勢は市場の流動性向上には不可欠な存在になっている。日本でも資産運用の機運が高まり、ファンドが増えてくれば、こうした取引形態を行うところが増えてくるかもしれない。本邦でもノベーションなどの事務フローを海外並み高度化していかないと、世界に後れを取ってしまうだろう。