SPIREの発展

日本では、デリバティブ取引よりもファンドや債券の形での投資が好まれる。日々損失が発生するというのはサラリーマン的にはきついだろうから、満期保有で日々の時価ぶれは心配しないという方が文化的になじむのかもしれない。このためデリバティブを組み込んたリパッケージ債のシェアが大きい。

これは社債等のキャッシュフローをスワップによって異なるキャッシュフローに変換することを目的に組成される。まず投資家は購入するリパッケージ債の発行代わり金を支払い、これが担保債の購入にあてられる。そしてSPCは、スワップカウンターパーティーとの間で各種スワップを行うことにより、担保債のキャッシュフローを投資家の望むキャッシュフローへと変換することにより、担保債とは異なるキャッシュフローをもつリパッケージ債を発行する。期中はSPCが担保債の利息をスワップカウンターパーティーに支払う一方、リパッケージ債のクーポンを受け取り、これを投資家に支払う。

昨今では、無担保取引に対するファンディングコスト、資本コストが増加してきたので、こうしたリパッケージ債の組成コストが上がってきた。CVAやFVAを削減するため、SPCとの間にCSAを締結し、有担保取引とするケースも一般的になってきた。また、コスト削減のため、SPIREのような業界全体のプラットフォームも作られるようになった。SPIREは2016に複数のディーラーによってつくられた業界の共通プラットフォームで、Single Platform Investment Repackaging Entityの略である。

これにより、共通の契約書を使えるようになっただけでなく、共通のSPVを使って債券発行ができるようになった。共通プラットフォームを使っているため、リーマンのようにSPVのカウンターパーティーであるディーラーが破綻しても、その契約を直ちに他のディーラーに移すことができるようになった。これらの標準化は、Repack債の発行コストを下げ、セカンダリーマーケットにおける流動性向上に資することとなった。

基本的にSPCに入る資産は国債や当該社債に限定されることが多いので、エクスポージャーを常にカバーする通常のCSAとは異なり、スポンサーが追加拠出できる枠組みがない限り拠出額が参照社債の価値分に限定されるCSAとなってしまう。カウンターパーティーであるSPCの信用力は担保債券の信用力にリンクするため、誤方向リスクに注意する必要がある。担保社債が日本国債で、適格担保が日本国債であることも多いが、これは完全に誤方向リスクであるため、無担保取引と同様の扱いをするところも多いだろう。国債の場合はRehypoができればファンディングベネフィットは受けられるが、社債の場合はレポマーケットが発達していない日本ではメリットがない。

とはいえ、SPIREのようなMulti Dealerプラットフォームがマーケットに与えた影響は大きい。リパッケージ債のニーズが少ない米国ではそれほど注目されていないかもしれないが、欧州やアジア、特に日本では非常に重要なツールになっている。日本でも野村證券が2021年にこのPlatformに加わったと報道されており、日本の格付機関であるJCRもSpire債の格付を行っている。

こうした標準化によって金融危機以降下火になっていたリパッケージ債への投資が復活してきているように見える。一時期騒がれた証券化商品に比べ、費用対効果が高く、管理も容易だ。特に小規模なポートフォリオについては、リパッケージ債の方が格段にコストが安い。

投資家のニーズが多様化していく中、流動性の低いクレジット商品などをRepackすることによって、様々な商品を提供できるようになっている。ローンや貿易金融など、原資産に流動性がなくてもリパックを使えば債券の形に変換でき、資金調達も容易になる。NSFR等の規制資本向上にも資することになるので、今後もすそ野が広がっていくことが予想される。