JPM決算から伺われるコモディティ取引に対する影響

2022Q1の米銀決算発表の週が終わったが、トレーディング収益は市場予想に反して好調だったようだ。JPMの決算で気になった点をいくつか確認してみる。

$900mmのCredit Reserve積み増し、Credit Adjustmentsによる$500mmの損失というところが目を引く。$900mmのうち$300mmは主にロシアに関連した個人に関するものとのことだ。引き当てをこれだけ積むということは余裕があるということなのだろう。SA-CCRの適用に備える側面もあると言っているので、やはりSA-CCRによって資本賦課が上昇することを示唆している。

レバレッジ比率が5.2%というのは最低の5.0%に近いという意味で懸念に思ったのだが、質疑応答で、問題にならないと述べられている。あまりに分母が大きいので、5.2%というのは5%よりかなり離れていると述べられているが、JPMくらいのサイズになるとさもありなんということなのだろう。それにこれを引き上げるには簡単なツールがあるとまで述べているので、引き上げようと思えばすぐにコントロールできるという印象を受けた。SLRはもう米銀にとってはそれほど大きな問題ではなくなっているのかもしれない。やはりそれよりはストレステストが重要なのだろう。

各種報道でも強調されていたが、$524mmのCredit Adjustments and otherが主にコモディティ関連のCVAに該当するものと思われる。決算発表のQ&Aで、ニッケル生産者とつながりのある顧客のためのヘッジを行っていたが、極端な価格変動によりマージンコールが発生し、他行と強調して対応にあたったと述べられている。ここから$120mmの損失が発生したが、これはトレーディング損失ではなくカウンターパーティに関連するもので、与信調整およびその他の項目に表示されている。つまり、XVA損失が発生したということのようだが、各種報道にあるように中国のニッケル大手企業の巨額ポジションに関連するものだろう。市場リスクRWA増加分の約半分がここから発生しているということなので、かなりのインパクトだ。

これに関しては、Jamie Dimon氏は、顧客がこの状況を乗り切れるよう、手伝っている。今期は少し損失が出たが、事後検証を行って今後のことを考えるというニュアンスのことを言っている。ひょっとすると今後はコモディティ関連の取引には慎重な姿勢に転じるのかもしれない。LMEに対しても何か意見具申をしているという印象も受ける。

こうした市場ショックに対しては、様々なストレステストを行っているとのことだが、当然今後は無担保取引の制限、有担保だったとしてもポジションの制限等がかかってくるのではないか。そうなると、コモディティヘッジというのは非常にやりにくくなってくる。マージンコールのためのコミットメントライン、保険金支払いのような仕組みを考えていかないとコモディティ取引自体が難しくなってしまうのではないだろうか。

決算発表でここまでコモディティ取引についてコメントがあるのは珍しいが、大手のJPMがこれだけフォーカスしているということは、今後明らかに何らかの変化が起きてくるのではないだろうか。