HVAとは

2020年のコロナショック時にXVAデスクのヘッジコストが上昇したときに、HVA(Heading Valuation Adjustment)というものがマーケットで一時期話題になった。当然デリバティブ取引を行うと、それを満期または解約されるまで、継続的にヘッジしていかなければならない。マーケットの変動が大きく、ビッドオファーが広がった時にヘッジをすると、そのヘッジコストが想定を超えてしまうことがある。CVAの初期の頃から認識されていたコストであり、おそらく何らかの形でプライシングに含める銀行が多かったものと思われる。XVAトレーダーの間ではFriction Costとも呼ばれ、CVAの数パーセントを追加するといった簡単な方法を使っていたところもあっただろう。

基本的には将来かかってくるであろうヘッジコストを見積もるものであるが、参照デリバティブ取引の価格変動が大きかったり、クロスガンマが大きい場合にはそれなりのコストになり得る。計算手法については、Burnett(2021)[1]などがあるが、本書執筆時点ではCVAと別途にHVAの詳細なモデルを持っているところは少ないものと思われる。また、バランスの取れたポートフォリオを持っていて、内部でリスク相殺をすることができればHVAは少なくなるかもしれない。また、XVAトレーダーとしても、リスクが発生すれば直ちにヘッジを調整しているわけではなく、取引コストを見ながらある程度タイミングをはかってヘッジをしている。したがって、銀行の規模、トレーディングポートフォリオの質、ヘッジポリシーによってHVAが変わってくる。

XVAチャージにはヘッジコストを織り込む必要があるのは間違いないが、CVAのように標準的な手法で計算されるようになるかは今のところ不明である。また、会計上リザーブとして計上するにもハードルが高い。ただし、トレーディングデスクで解約時に備えてビッドオファーVAを取っていたり、ポジションが集中してる場合にConcentration VAを取ったりするケースもあるだろうから、特に目新しいコンセプトというわけではない。IFRSなどの会計上こうしたリザーブが認められるにはまだ時間がかかるだろうから、HVAがCVAやFVAのように確立された価格調整となっていくかどうかは、現時点ではわからない。ただし、コストが存在しているのは確かなので、プライシング上、何らかの形で考慮され続けるのだろう。


[1] Benedict Burnett, “Hedging valuation adjustment: fact and friction”, Risk.net, Feb 2021