G-SIBSのインパクトとCCPのエージェントモデル

今年もG-SIBsの発表があった。海外ではかなりの注目を集めており、今後バランスシート削減の動きが活発化し、市場にインパクトを与えるのではないかと懸念されている。これまでスコアの削減を進めてきたJPMが2.5%のカテゴリ4に上がり、他にもBNPがカテゴリ3に、GSがカテゴリ2に上がった。最近スコアが上昇してきた日中銀行にカテゴリの変化はなかった。邦銀ではMUFGがカテゴリ2、SMBCとMizuhoがカテゴリ1となっている。

G-SIBsというとグローバルなシステム上重要な銀行ということで、何やら名誉なことのように勘違いする人もいるが、単に破綻した時の影響が大きいので資本を多く積み増さなければならないというものであり、欧米行は必死でスコアの削減努力をしている。ここ数年のスコアを見る限り日中の銀行はこの辺りに無頓着なのか、スコアが上がってきている。カテゴリが一つ上がると最低自己資本比率が0.5%上昇するので、本来は全力で削減努力をした方が経営効率が高まる。

また、G-SIBsスコアを下げるために、CCP向け取引の取り扱いを巡って業界を上げたロビー活動が行われている。通常CCPの清算方法にはPrincipalモデルとAgencyモデルの二種類がある。LCHなど欧州、英国ではPrincipalモデルが使われることが多いが、CMEなど米国ではAgencyモデルが使われている。

Principalモデルでは、CCPと顧客の間にクリアリングブローカーが入ることになるが、Agencyモデルでは、取引自体はCCPと顧客の間に立ち、クリアリングブローカーはその取引をAgentとして保証するだけである。

先ほどのG-SIBsスコアの計算上は、規模に関する指標を計算する際に、Principalモデルの場合は対CCP、対顧客で2つの取引が存在するとして計算が行われる。一方Agentモデルでは、このような二重計算はなくなる。このため、業界団体は、欧州のCCPに対して、米国と同じようなAgentモデルを使えるようルール変更ができないか模索している。どうやらPrincipalモデルからAgencyモデルへの変更が行われるのではなく、両モデルが並行して使えるような方向性が検討されているようだ。

いずれにしてもG-SIBsを理由にこのようなロビー活動が行われているということは、いかに銀行がG-SIBsスコアの削減を重視しているかということを示している。日本ではあまりこのような話は聞かれないが、欧州がAgencyモデルを使えるようになると、ますます日本の銀行がG-SIBs上不利になってしまうのではないか。

日本のCCPがどちらのモデルを使っているかはよく話題になるが、日本ではPrincipalモデルとAgencyモデルの中間のようなモデルになっている。日本語では、「代理」、「仲介」、「媒介」、「取次」といった形態があるのだが、Agencyモデルに当たる「代理」ではなく、「取次」の形が取られている。

解釈が分かれるところなのかもしれないが、「取次」の場合はAgencyモデルととらえることができず、二重計上の問題が発生すると考えるのが自然かと思われる。つまり、欧州CCPがAgencyモデルを採用すると、世界の主要CCPで取引が二重計上される手法を使うのは日本だけとなってしまうかもしれない。

いくら今は日本の銀行がこの辺のことを気にしないとはいっても、所要資本が上がればROEが下がり、経営効率が下がる。海外でロビー活動が進んでいるのであれば日本も何かしないと、世界からまた後れを取ってしまうのではないだろうか。