G-SIBスコアとは

以前にもG-SIBについて紹介したが、今年は特にG-SIBスコアが話題になることが多いのでおさらいをしてみたい。

まずは主要行のバーゼルG-SIBスコアを見てみる。

左から米系、欧州系、日系、中国系の過去数年10年のスコア推移を並べてみたが、国ごとの傾向が明らかに出ている。この辺りの数字はOFRのウェブサイトからダウンロードできる。

米系:順調に減少してきたがここ数年で再び上昇

欧州系:10年間順調に減少

日系:着実に上昇してきたが、ここ数年で減少に転じた

中国系:概ね一貫して上昇基調

以前のブログでは、コンプレッションやROEなどの収益率向上努力によって欧米ではスコアの削減努力が行われてきたが、日本と中国ではあまり削減努力がなされてこなかったと書いたが、最近では日系の削減努力の加速が目立つ。米系は削減努力を継続してはしているものの、ビジネスの成長によってスコアが上がっているようだ。

もう少し細かく見るためにG-SIBスコアの詳細をバーゼルのペーパーで確認してみる。

G-SIBスコアは以下の5つの構成要素からなるが、一見何が何だかよくわからないので少し詳しくバーゼルぺーパーを読んでみる。

  1. Size
  2. Interconnectedness
  3. Substitutability
  4. Complexity
  5. Cross-Jurisdictional Activities

Sizeは基本的にレバレッジ比率の計算に用いるTotal Exposureであり、銀行勘定、トレーディング勘定にかかわらず、すべてのエクスポージャーを合計したものである。デリバティブ資産と負債は別途計算しグロス計算しなければならないように読める。時価相当部分とデリバティブPFE(CEMなので、想定元本に掛け目をかけたもの)を計算に入れる。クライアントクリアリングで顧客のデフォルトリスクをCCPに保証している場合はこの計算に入れなければならない。

Interconnectednessは、金融機関同士のTotal Exposureである。銀行、証券のほかに保険、アセマネなどが含まれる。したがって、金融機関同士でデリバティブ取引を行っていると、SizeとこのInterconnectednessにカウントされてしまうようだ。さらに、CD、自ら発行した社債、自らの株式の市場価値、優先株などもここに加算される。

Complexityはレベル3アセット、OTCデリバティブ取引の想定元本が入る。つまりコンプレッションが重要になる。コンプレッションをするとSizeとInterconnectednessに含まれるDerivative PFEも減ることになるので非常に重要だ。

Substitutabilityにはカストディアンに預けてある資産、現金支払い額、株式及び社債のUnderwriting、各種取引量が入る。

Cross-Jurisdictional Activitiesは国際基準行のように海外との取引が多いところに課せられる。海外投資、海外向けローン、デリバティブ取引、外国債券、レポ、株券貸借取引などが該当する。

これは全世界共通のバーゼルルールだが、米国にはこれとは別のMethod2があり、Substitutabilityの代わりにShort Term Wholesale Fundingが使われている。これは銀行預金、担保付借入など1年未満の短期借り入れが中心になるので、預金を持たず短期資金に頼りがちな証券会社のスコアが大きくなる。もしかしたら野村證券がG-SIBから抜けたのは、バーゼルルールでこのShort Term Wholesale Fundingが入っていないからなのかもしれない。

ざっと見てみただけなのだが、かなり重複しているような印象があり、特に国際的に活発に取引を行い、金融機関との取引が多くなる大手金融機関にとってはかなり重複が激しくなる。Systematically Importantを図るのだから当然なのかもしれないが。

特にAssetとLiabilitiesをグロスで集計しているようだが、デリバティブ取引に関しては、時価のみならずPFE、想定元本まで加算されるので結構厳しい。コンプレッションが重要になる理由がよくわかる。

単に自社債や自社の株式が入っているところも興味深い。株価や社債価格が上がれば自動的にスコアが上がってしまう。その意味では米国大統領選後に米銀の株価が急上昇したことがG-SIBスコアの悪化を加速させたのかもしれない。となると、このQ4にさらなるバランスシート削減の圧力がかかったとしても不思議ではない。

米銀のMethod2のスコアを見ると、上のグラフのようにここ数年の上昇が目立つ。630点を超えると上のバケットに入り、資本賦課が高くなるので、630点の攻防が重要だが、GSなどはすでに696点に上がっており、2026年からの資本コスト上昇が避けられそうもないと3月頃に報道されていた。通常は年末に米銀がスコアをアグレッシブに削減するということが当局からも指摘されているが、今年もある程度こうしたバランスシート削減が行われそうだ。特に大統領選以降米銀の株価が急上昇しているため、スコアが予想外に大きくなってしまっている可能性が高い。

ただでさえ流動性にプレッシャーがかかる時期に、銀行が手持ちの債券や株式を売り、レポやデリバティブ取引残高を減らせば、マーケットにかなりのストレスがかかることが予想される。今年の年末は一波乱あるかもしれない。