Dirty CSAは主流になるか

先週も書いたが、英国債の価格変動を受けてDirty CSAがにわかにマーケットで話題になり始めた。FTなど各種メディアで報道されているからか、問い合わせも増えてきている。適格担保に現金以外の社債等を含めるDirty CSAを使うと、CTDVA等の評価調整が必要となり、取引の時価に影響を与えることから、通常であれば望ましくない。ただ、今回の財政支出に端を発する市場変動に備えるため、適格担保を広げたいというニーズが急速に高まった。

ただし、既存の契約を完全に変更してしまうというよりは、緊急避難的に英国債や社債を一時的に適格とするといった、時限措置を取るところが多そうだ。ニッケルや天然ガスでも見られたことだが、コモディティの世界では、あまりDirty CSAを気にせず、適格担保を広げたり、CCPから相対に移したり、無担保取引を増やしたりという動きがみられたのだが、金利の世界では、極力プライシングをSharpにするために、あくまでも一時的措置という位置づけになっているのが興味深い。それでも1年から5年の時限措置と報じているところもあり、思ったより長い期間にわたる措置といった印象だ。おそらくこの期間に応じてかなりの手数料を支払っているのだろう。銀行にとってもこれを簡単に受け入れてしまうと、ROE低下につながるので対価が必要んになる。

今回は、急速な金利上昇により年金基金が苦境に陥り、何とかしてほしいという声を受けて国債買い入れに踏み切った印象だが、これを永遠に続けることはできない。結局金利変動が激しくなってしまっている。問題は担保にある訳だから、本来であれば、中銀がレポファシリティを設けるといった措置を取ることはできなかったのだろうか。あるいは、レバレッジ比率規制やNSFRといったバランスシート規制を緩めて、銀行がCollateral Transformation Serivceをやりやすくするといった方法も考えられる。そうすれば、Dirty CSAなどを使わなくても、手持ちの債券を現金に変換することができる。

また、そもそもDirty CSAであってもレバレッジ比率やNSFRといった指標に影響しないので、銀行もDirty CSAを受け入れやすくなる。あとは、前回も提案したマージンコール向け融資(またはLC)を銀行が提供するという方法もある。

やはり、金利やインフレーションが変動するたびに、マージンコールに応えるために資産売却が起きると、市場変動をさらに加速させてしまう。そもそもマージンコールはカウンターパーティーリスクを減らすためのものなので、何らかの解決策が求められる。

例えばこうした年金ファンドが銀行やCCPに固定金利を払って、Dirty CSAのカウンターパーティーから固定を受けるBack to Back取引を行っておけば、金利上昇時には銀行やCCPから現金担保を受け取れる。そして反対再度のDirty CSAのカウンターパーティーに債券を担保として拠出すればよい。こうしておけば、金利上昇時に現金を得るというオプション取引が完成する。もちろん金利低下時には逆のことが起きるが、逆に金利低下時には所要担保は減っているはずなので問題ないはずである。または単純に銀行と金利キャップやスワップションの取引を行っておき、金利上昇時に現金担保を受け取れるようにしても良い。

いずれにしても、考えれば色々なことができると思う。こうした動きが出てこないのは、トレーディング部門と担保管理部門が完全に分断されてしまっているからなのだろうか。それともカウンターパーティーリスクやバランスシート規制の制約なのかもしれない。しかし、一時的Dirty CSAを使って多額のFeeを払うよりは、ましな取引もあるように思う。