CDS Basisがネガティブになってきた

コロナ初期にも話題になったが、欧州でCDSのネガティブベーシスが再度注目を集めている。CDSのスプレッドから社債のスプレッドを引いたものをCDS Basisというが、これがマイナスになるのがネガティブベーシスである。このネガティブベーシスの状況において、社債を買ってそれと同年限のCDSでヘッジをすれば、大きなリスクを取ることなくポジティブキャリーを稼ぐことができる。

最近ドル債を発行した楽天なども、クーポンが11.25%で、ASW Spreadが450bpを超えでいるが、3年のCDSスプレッドは300bpを下回っていることからネガティブベーシスになっている。楽天の社債を買って3年のCDSを買ってヘッジすれば1.5%以上のキャリーを得られる。

通常はCDSの方が機動的に取引可能で流動性も高い。一方社債の方は何らかのショックが発生した時に慌てて売る投資家もいるので、価格が急落することがある。例えばコロナウィルス拡大の初期には、市場の不透明性を嫌気する投資家の売りが誘発され、社債が大きく売られた。一方CDSの方は、底値を拾うもあり、社債価格ほどの急落が見られずネガティブベーシスとなった。

通常は、リストラクチャリングをクレジットイベントに入れるCDSの方がトリガーされやすいので、CDS Basisはポジティブになることが多い。またCDSの場合はした取引相手のカウンターパーティーリスクもあるので、理論的にはCDSスプレッドの方がワイドであるべきだ。また、100億円の社債を購入する場合には100億円の現金を払う必要があるが、CDSを100億円売る(つまりクレジットリスクを取る)場合には、当初証拠金のみで良いとうい利点もある。

CDSマーケットがなかった頃は、社債を買ったら何があってもそれを持っておくしかなかった。海外では社債のショートができる場合はあるが、日本では社債のレポ市場がないためショートができない。したがって、これをCDSでヘッジできるようになったのは、リスク管理にとっては重要な進歩である。

本来このような裁定機会がある場合は、それを活かした取引をする投資家のフローが、こうしたひずみを解消させる。しかし、バランスシートや資本規制、証拠金規制など様々な制約がかかることにより、こうしたマーケットのひずみが放置されることが多くなってきた。

特に、日本においては、こうした裁定機会をとらえようとするヘッジファンドも少ないので、ひずみがそのまま残ることも多い。どうもヘッジファンドというとハゲタカのイメージがつきまとうのか、あまり良い顔をされないことが日本では多いが、市場に流動性を提供するという重要な役割を持っているというのも事実である。

例えば、日本で不良債権などを処理しようと思ったときに、海外のヘッジファンドがこれを買ってくれることが多い。これをハゲタカが日本の資産を買いあさるという表現をする向きもあるが、売りたい側にとっては、買い手があるというのはありがたいことなのである。

日本においても、株式のみならず社債ファンドが増え、こうした収益機会をとらえようとするArbitragerが増え、市場に厚みが増すことが望まれる。