米国のCCPであるOCC(Options Clearing Corporation)とNSCC(National Securities Clearing Corporation)が巨額のマージンコールが起きた場合に備えて情報共有をするというニュースが出ている。OCCは株式オプションなどの満期に伴う決済がどのくらいあるかという情報を持っており、NSCCは株式取引に関する決済の情報を持っている。これまでは、双方でオフセットする取引があったとしても、その情報が共有されていないため、流動性に難をきたすことがあった。今回はそれを改善しようと様々な議論が行われているようである。ただし、マージンのオフセットまでの話にはなっていないようで、ディーラーやユーザーからは失望感も出ている。
これ自体は米国の小型株で起きたショックを受けての改善であり、日本における取引に大きな影響を及ぼすことではないが、こうしたCCP間の協力が更に進むことが期待される。世界中の取引所やCCPは、皆独自のルールブックに基づいて運営されており、相互接続などが進む機運があまり見られない。特に国が違うとほぼ交渉が不可能に近い。
とは言え、現在の仕組みで将来的に大規模参加者デフォルトがあった場合に、それがスムーズに処理できるとは考えにくい。例えば、日本で大手銀行が破綻した場合、金利スワップ、現物の株式や債券、レポ、CDSなど様々なCCPで破綻処理が行われる。これは日本のCCPのみならずLCHやCMEといった他国のCCPを交えたプロセスになる。本来であれば、メンバーデフォルトが起きた場合には、各銀行がトレーダーを派遣してCCPのために破綻処理を行うというルールになっているが、破綻が起きた際にすべての銀行がトップトレーダーを破綻できるかどうかは定かではない。自らのポジションクローズに必死だろうから、ジュニアトレーダーを派遣しようというところが出てきてもおかしくない。トップトレーダーを派遣するようにというルールにはなっていないのでなおさらである。しかも、JSCCに一人、LCHに一人、CMEに一人といった具合に複数のトレーダーを派遣しなければならなくなるところもあるだろう。
当然各CCP間である程度オフセットできる取引があるだろうから、まずはCCP同士でポジションをスクエアにするのが最も効率的だと思われるが、おそらくこのような仕組みを持つところは少ない。日本では、JSCCに参加できるプレーヤーとLCHやCMEに参加できるプレーヤーが分断されているため、更に複雑になることが予想される。
LMEのニッケルショックに対する報告書には、このようなCCPのポジションに加え、CCPで清算されない相対取引もモニタリングすべきというコメントがみられたが、本当は市場全体のリスクをみる際には、各CCPのポジションと相対取引のポジションを加えた市場の全体像が把握できないと、適切な処理が行えない。現状こうしたすべての情報を持っているのは当局のみということになるのだろうが、急な金融危機に際して当局がすべて音頭を取って処理をするのは困難だろうし、それに頼った仕組みにするのも適切ではない。他に可能性があるとすれば、清算取引と非清算取引の両方を手掛けるコンプレッションベンダーや、ポストトレード処理を行う会社が適切なポジション解消を提案するということは可能かもしれない。
CCP同士で相手方のリスクを引き受けるような合意はおそらく極めて懇案だろうが、今後は少なくとも情報共有や危機時に対応についてCCP同士で議論をすることが必要になってくるだろう。