CCPの適格担保拡大の議論

コモディティ価格の急騰によってCCPに対する担保拠出が、歴史上例をみないほど急増している。このため、クリアリングブローカーがCCPに対して適格担保の拡大を要求していると報道されている。CCPとしては、変動証拠金拠出を求めるのは当然であり、この市場変動に対応した当初証拠金も上昇するのはある意味しかたない。しかし、天然ガス、小麦、ニッケルなど誰もが予想しなかった動きになっており、これがマーケットの安定性を脅かす事態に陥っている。

CMEでは、銀行保証状(LC)を適格担保としているが、これは欧州規制EMIR上担保として認められていないため、他のCCPでは広く使われていない。他にもゴールドや排出権などの扱いもCCPによって異なる。LMEなどでは、ゴールドの他ニッケルの支払証明であるLMEワラントも適格担保になっている。このように相場変動に応じて担保価値が変わるもの、しかもそれがRight Wayであれば、マージンコールが増えるにしたがって担保の価値も上がる。逆にマージンコールが増える時に担保価値が下がるのはWrong Wayなので、こういう担保を出すと最悪の結果になる。

CCPのマージンモデルは、過去データをもとにVaRや期待ショートフォール方式、または一定のシナリオを織り込んだものとなっている。したがって、今回の価格変動がインプットとして加わると、当初証拠金の増加も予想される。ただし、ここまでの変動になると、もはや証拠金を現金で拠出し続けるのは困難になってくる。

CDSの場合もJump to defaultに備えて、CDSの売りの一定の銘柄について想定元本に近い当初証拠金の拠出を求めたりするが、この多額の証拠金拠出コストが取引の障害になってくることもある。コモディティ取引についても、巨額の証拠金を拠出してまで取引することが難しくなり、取引所を通さない取引にシフトしてしまうと本末転倒である。取引所としては担保保全をしなければならいのは当然であるが、当初証拠金のバランスについては、更なる議論が必要である。

適格担保の対象拡大は確かに解決策の一つである。こうなるとLCを発行してくれる銀行とのつきあいが重要になる。通常銀行はコミットメントラインや信用枠を提供しているので、既存の仕組みとそう大きく変わるわけではないので、まずはこれが最も簡単な解決策だ。ただし、無制限にサポートできるわけではないので、エクスポージャーと連動する現物資産を適格担保にするやり方も検討すべきだ。

または、取引価格の乱高下を一定に抑える株式のサーキットブレーカーのような制度も重要なのだろう。価格が200%とか300%動くと、マージンコールによる市場の大混乱が起きてしまう。一日の価格変動幅が10%とか20%に制限されていれば、証拠金の急増にも歯止めがかかる。 マーケットはどうしても突然のニュースに過剰反応し、ショートスクィーズが起きると変動が激しくなる。これがマージンコールに結び付き、当初証拠金所要額が増えている現状では、ある程度マーケットの動き自体を抑える仕組みが以前にもまして必要になっているということなのだろう。