CCPのポーティングは現実的か

CPMI/IOSCOからクライアントクリアリングのポジション移管についてのペーパーが出ている。クライアントクリアリングサービスを提供するCCSP(Client Clearing Service Provider)がデフォルトした場合、その下にぶらさがっている顧客は、別のCCSPにポジションを移すことになる。そうすれば顧客としてはCCSPである銀行のリスクにさらされることなく、ポジションを維持することができる。これはこの仕組みを作った当初からそう思っていたのだが、現実には若干無理のある仕組みである。参加者デフォルト時に、各ディーラーがトレーダーをCCPに派遣してポジションクローズをする仕組みもそうだが、いざというときに、それがうまく機能するのかは定かでない。

このレポートでは、顧客の同意なしにポジション移管ができれば、ポーティングと言われるポジション移管が成功する確率が高まると述べている。またマージンの取り方についてもGross Marginの方がポーティングが容易だとしている。Gross Marginとは、各顧客のマージンを別々に管理するもので、全体としての効率は下がるが、顧客ごとに十分なマージンが確保されることになる。これに対してNet Marginでは、CCSPの自己ポジションとその顧客ポジションのすべてをComingle、つまりまとめて管理する。

CCPはすべてのポジションが見えているので、破綻参加者の傘下のポジションを受け入れやすいCCSPを探すこともできるし、顧客の同意なしにすぐにそれが移せれば、マーケットの混乱を抑えることができるという理論である。

ここで一つ抜け落ちているのが、クライアントクリアリングサービスを提供する銀行の立場である。もしクライアントクリアリングが収益性の高いビジネスで、皆が喜んで顧客ポジションを受け入れたいというのなら、ここで提案されているプランは成り立つのかもしれない。ただ、現状の規制のもとでは、資本コストが大きくかかり、いざというときのContingent Liquidityを提供したり、清算基金を拠出したりしなければならないので、銀行としては、ごく一部の優良顧客だけに提供したいサービスとなっている節もあり、喜んでポジション移管を受け入れる銀行は少ないのではないだろうか。

特にCCSPがデフォルトするということは、そこそこの大手の銀行が破綻しているということであり、その破綻直後に大きなポジションを引き受けることは非常に困難だと思われる。CCPとしては、混乱を抑えるためにPortingについて2日以内(長くて5日)といった期限を設けていることが多い。移管するポジションのサイズにもよるが、資本や流動性に対するインパクトを計算して社内承認を取るには、そもそも2日では不可能に近い。なにしろ同じことが複数のCCPで起きていることが想定されるので、各CCPのポジション移管リクエストにてんやわんやになるだろう。

レバレッジ比率規制やポジションリミットの一部免除でもない限り、おそらくポーティングは単なる理想論に終わってしまう可能性が高い。実際は、破綻懸念が大きくなる前にポジション移管の交渉を行って徐々にポジションをシフトするというのが一般的だと思うが、これが一気にデフォルトに陥ってしまった場合は大混乱になる。

ここまで取引清算の重要性が増している以上、資本規制や流動性規制も見直す時期が来ているように思う。クリアリングブローカーも10年前はこれが一つのビジネスの柱になると思っていたのだが、蓋を開けてみるとあまりにコストがかかり、結局Payしないビジネスということが明らかになり、CCSPから撤退する金融機関も増えた。サービスの差別化も難しいので、常に手数料引き下げの圧力もかかる。結局顧客のリスクを取っているという整理で資本規制が作られており、アルケゴス以降こうした大きなポジションに対するリスク管理が厳しくなっていることが予想される。CCPを金融取引のメインに据えるのであれば、もう少し全体としてのインセンティブメカニズムを見直すべきではないかと思う。